***短編*** White plum blossoms~しらうめの咲く頃~ ***

『なんて素敵にジャパネスク〜二次小説』






             注)このお話は一話完結です。
               
        






***短編*** White plum blossoms~しらうめの咲く頃~ ***








「大江ちゃん、これ、高彬さまにお渡ししてね」

「はぁい」

古参女房の近江さんから手渡された文を、あたしはしっかり受け取り歩き出しました。

ちらりと見えた手蹟で、このお文が瑠璃姫さまからのものだとわかる。

あたしは、高彬さまに瑠璃姫さまからのお文をお渡しするのが大好き。

自然と足取りも軽くなってしまうわ。

・・・でも、いつだったか、それはそれは足取りも重く、高彬さまのお部屋に向かったことがあったわねぇ。

あれはかれこれ、二年も前、お庭の白梅が見事に咲いていた頃のこと───────







****************************************************







────────高彬さまは、きっとまだひどくお怒りよね。

あたしはゆっくりと渡殿を歩きながら、大きなため息をついてしまったわ。

あぁ、もう、いくら兄に言われたからって、高彬さまのお文を兄になど渡すのではなかった。

ううん、兄にだからこそ渡しちゃいけなかったのよ。

今更、気付くなんて、本当にあたしって馬鹿。

ある日、兄はあたしの局にやってきて

「大江。今後、若君が書かれた文や、若君宛てに届いた文は全て私に渡すように」

と言ったの。

その言い方がまるで

「若君が白湯をご所望だ。お持ちしろ」

とでも言うように、あまりに普通のことのようだったから、あたしは深く考えずに

「わかったわ」

と返事してしまったのよ。

兄はもともと無口で偏屈な人だし、高彬さまのこととなると、偏屈を通り越して見境がなくなる人だから、理由なんて聞いたってムダだと思ってしまったこともいけなかったのね。

まさか、まさか、兄が瑠璃姫さまのお文を握りつぶしてるなんて、本当に思いもしなかったんですもの。

それをたまたま知った時の驚きと言ったらなかったわ。

兄に進言しようにも、あたしの話なんか取り合ってもくれないし・・・。

ゆっくり歩いたはずなのに、あっと言う間に高彬さまの部屋に着いてしまい、そっとお部屋をのぞいてみると高彬さまは物思う風情で脇息によりかかっていました。

「あの・・・高彬さま・・・」

簀子縁に膝をつき声を掛けると

「大江か。なんだ」

高彬さまはあたしの顔を見ておっしゃり、そのお声が普段通りの声だったから、あたしは心底ホッとしてしまったわ。

だって、瑠璃姫さまからのお文を兄が握りつぶしていると知ったときの高彬さまは、それはそれは怖かったんですもの。

「お文を・・・源重行さまからのお文をお預かりして参りました」

おずおずと差し出すと、高彬さまは受け取りさっと一読され、そのまま無造作に文机に置くと、また物憂げに脇息に寄りかかられ、ふぅ・・・と大きなため息をつくのでした。

「あの、高彬さま・・・」

あたしは意を決して、高彬さまの前に手をつき大きく息を吸って

「本当に申し訳ありませんでした。文を・・・高彬さまの書かれたお文や、高彬さまに届いたお文を・・兄に渡してしまって・・・」

深々と頭を下げると、少しの沈黙があり

「いいさ、大江を怒ったって仕方ない。どうせ守弥に言われたんだろ」

高彬さまのお声がしました。

顔を上げ小さく頷くと、高彬さまは肩をすくめたかと思うと、すぐに表情を変えられ

「まったく、あいつは・・・」

と苦々しげに言いました。

<あいつ>と言うのは、もちろん兄のことで、あたしもこの時とばかり大きく頷き同意してしまったわ。

ほんと、妹ながら兄は性格が悪いと思うもの。やりすぎなのよ。

お文を握りつぶすなんて、人としてやっちゃいけないことよ。

まったく兄ときたら、勝手に世を拗ねちゃって、拗ねるならそのまま閉じこもってくれればいいものを、あーだこーだと御託ばかり並べて、女房部屋でどれだけ評判悪いかわかってるのかしら。

お陰であたしは肩身が狭いし・・・

「大江は・・・瑠璃さんをどう思う?」

心の中で兄への憤まんをぶちまけていたら、急に高彬さまが話しかけてきました。

「瑠璃姫さま・・ですか?」

「うん」

「どう、と申されますと・・・?」

聞き返すと

「皆、家の者は瑠璃さんを嫌ってるだろ。守弥しかり、母上しかり」

「はぁ・・・」

あたしは曖昧に返事をしました。

兄の洗脳のせいで、うちは門衛までもが瑠璃姫さまを嫌っているのよね。

まぁ、そんなことは高彬さまには言えないけれど。

「あたくしは・・・瑠璃姫さまを拝見してみたいですわ。だって都でもとっても噂の姫さまですもの」

そう言うと、高彬さまが一瞬、微妙に嫌な顔をしたので、あたしは内心、首をすくめてしまったわ。

あぁ、あたしったらまた考えナシに思っていたことを言ってしまったみたいね。

ほんと、あたしの悪い癖だわ。

せっかく高彬さまのお怒りも解けたのに、またしても・・・。

どうフォローしようかと思い巡らせていると

「大江の言ってることは、多分正しいよ」

高彬さまは呟くようにおっしゃり、どこかうんざりしたような声で

「皆、見たことも会ったこともないのに瑠璃さんを一方的に嫌ってるんだ。そのくせ、見ようとも会おうともしない。一度でも見てみたいと思う大江の考えは正しいよ、たとえそれが興味本位だとしてもね」

脇息に肘をつくと、ふぅと大きなため息をつき、あたしはと言えば・・・・ものすごーく感動して胸がいっぱいになってしまったの。

今の高彬さまの言葉には、まごうことなき瑠璃姫さまへの深い愛があったわ。

本当に瑠璃姫さまを好きなんだわ・・・って思えたもの。

世間の悪評をものともせずに、一途に一人の姫を想う・・・・

素敵ねぇ。まるで物語の世界じゃない。

なんだかあたしが<想われ人>になったような気がしてウキウキしてきちゃう。

「高彬さま。瑠璃姫さまってどんなお方ですの?」

ウキウキした気分のまま聞いてしまったら、高彬さまはちょっと困った顔をして

「どんなって言われてもなぁ・・・」

と考え込まれるのもおかしくて

「たとえば、お顔などですわ」

またしても思ったことをつけつけと聞いてしまいました。

ついつい乳兄弟の気安さが出てしまうのよねぇ・・・。兄にはいつも叱られるのだけれど。

でも、あたしのウキウキした気分が移ったのか、それとも瑠璃姫さまの話をしているのが楽しいのか、はたまた乳兄弟の気安さを高彬さまも感じているのか、先ほどとは打って変わって高彬さまもどこか楽しそうだし、まぁいいわよね。

「可愛らしい方ですの?」

ずばり聞くと、高彬さまは、まるで瑠璃姫さまのお顔を思い浮かべるかのように一瞬、天井を見上げ、また視線を元に戻すと

「ぼくにとっては充分にね」

とおっしゃり、そうしてご自分の言葉に照れるかのようにうっすらと頬を染めるのでした。

高彬さまったら・・・。

あたし、高彬さまのこういうところが大好きだわ。

乳兄弟だから言うわけではないけれど、こんなに純粋な殿方ってなかなかいないと思うもの。

そして高彬さまの純粋さって、強さから来ている気がするの。

難しいことはわからないし、あたしの知ってる<殿方>って言ったら兄くらいなものだけどね。

ま、兄が純粋さから、ほど遠いだけかも知れないけれど。

高彬さまはふと声をひそめ

「守弥には言うなよ。あいつ、ぼくが瑠璃さんのこと誉めると片っ端からけなすんだから」

憎々しげに言うのもおかしく、あたしは笑いながら

「わかっておりますわ。あんなひねくれ者に言うものですか」

請合いますと

「おまえも兄を捕まえてよく言うな」

高彬さまも笑いながらおっしゃるのでした。

「あたくし、断然、高彬さまと瑠璃姫さまの応援しちゃいますわ」

力こぶを作って見せると、高彬さまは更に笑われたのでした────────






*********************************************************







「高彬さま、瑠璃姫さまからお文が届きましたわ」

お部屋に入りながら言いますと、高彬さまは読んでいた書物から顔を上げ嬉しそうに文を受け取られました。

そうしてすぐに文机を押しやり、お文をはらりと開かれるのでした。

ご結婚から一年が過ぎても、やはり瑠璃姫さまからのお文は格別らしくて、高彬さまは多くの世の殿方がなさるように、本当は今すぐにも読みたいのにウソぶいて

『後で読むから置いておいて』

などとは決しておっしゃらないのです。

高彬さまは、ご結婚されてもやはり<可愛い殿方>で、それはどうやら瑠璃姫さまに関してのことに、より発揮される、と言うようなことがあたしにもわかってきたの。

読みながらくすりと笑われるので

「何か楽しいことでも書いてありましたの?」

ついつい聞いてしまうのも、あたしの相変わらずの悪い癖ね。

「瑠璃さんはね、庭先にやってくる雀の仔が気になって仕方ないようでね。先日からずっと捕まえようと躍起になってるんだ」

「まぁ、雀の仔を」

「うん。それでね、今日と言う今日は捕まえようと米粒をしかけておいたらしいんだけど、あと少しと言うところで女房がやってきて、その気配で雀の仔が逃げてしまった・・・とえらく怒ってる」

そういうとおかしそうに笑われるのでした。

「本当にいつまでも童のような人で・・・」

目はお文を繰り返し読まれながらそう呟き、そのお顔もお声も、そんな瑠璃姫さまが可愛くて仕方がない・・・と言った風情なのでした。

高彬さまはもともとお優しい方だったけど、ご結婚されて、ますます優しさに磨きがかかったと言うか、結婚前にはしなかった表情をされたりして、だからあたしは瑠璃姫さまのお文をお渡しするのが好きなのかも知れないわ。

幸せな人って、見ているだけで幸せな気分になれるもの。

「高彬さま。明日はお早いんでしたっけ?」

「うん、早くに会議があってね。頼む」

お文を文箱にしまわれながら、そうおっしゃる高彬さまに一礼をし、あたしは部屋を後にしたのでした。







*******************************************************







翌朝、お部屋に行って見ますと、高彬さまはまだぐっすりと眠られていました。

室内を整え、普段でしたらその気配でお起きになるのに、今朝は起きてきません。

「高彬さま。そろそろお起きくださいませ」

几帳のこちらから声を掛けますと、寝返りを打つような音がして、続いて

「・・・う、うん・・・瑠璃さん・・・もう少し・・」

と言う寝ぼけたような高彬さまの声がしました。

立ち上がりかけたあたしは、思わず動きをとめてしまい、室内にはしばらく妙な静けさが訪れ・・・・・

次の瞬間、ガバと高彬さまは起き上がり

「起きるぞ。大江。支度だ」

きびきびと言われました。

「はぁ・・・」

ぼんやりと返事をしながらも、あたしの頭の中ではさっきの言葉がリフレインしてしまっていたの。

あれはきっと、寝ぼけてここを三条邸と間違われて・・・・。

奇妙な沈黙の中、すっかりお支度を整えた高彬さまに一礼をして部屋を下がろうとすると

「大江」

呼び止められました。

「はい、何でしょうか」

「さっき・・・ぼく、何か・・・言ったかな」

つとめて冷静に、見ようによってはものすごく動揺しているようにも見えるお顔で高彬さまがおっしゃりました。

「いいえ、何も」

頭を振ると、高彬さまはホッとしたような安堵の表情を浮かべました。

「ただ・・・」

「ただ?」

「・・・瑠璃さん、もう少し、と」

高彬さまのお顔をちらりと見ながら言うと、高彬さまは深く目を閉じ、そのまま脇息につっぷしてしまわれました。

少しして、ようやくある衝撃から立ち直ったのか、高彬さまは、それでもうめくようなお声で

「大江。今のことは・・・」

「わかっております。兄には言いませんわ」

請合いますと、高彬さまは小さく何度も頷かれ

「・・頼む」

とおっしゃるのでした。

一礼をして、今度こそお部屋を後にして渡殿を歩きながら、あたしは笑いがこみ上げてくるのを押さえることが出来ませんでした。

───瑠璃さん、もう少し

──────瑠璃さん、もう少し

やだ、高彬さまったら。

普段、あんなお声で瑠璃姫さまに甘えてらっしゃるんだわ。

このこと、越後さんや信濃さん、ううん、女房仲間全員に言ったら、皆、なんと言うかしら?

そうよねぇ、高彬さまは<兄>には言うな、と言ったけど、誰にも言うなとはおっしゃらなかったもの。

足取りも軽く、女房部屋を目指して渡殿を歩き

「ねぇねぇ、皆、聞いて。高彬さまったらねぇ・・」

あたしは引き戸を思いきりよく開けたのでした。






  
               <終>




「登場して欲しい人は誰ですか?」の投票に、1票も(?)入っていた大江の登場です!

お陰さまで妄想が広がり、あっと言う間に書きあがりました。

投票してくださった方、ありがとうございました。



(←お礼画像&SS付きです)
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