***短編*** 冬の夜 ***

『なんて素敵にジャパネスク〜二次小説』



           注)このお話は一話完結です。
            
          

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***短編***冬の夜***






瑠璃さんは元気でいるだろうか。

三日目の宿直のために参内したぼくは、車から降りた瞬間に吹き付けた風の冷たさに身をすくめ、と同時にふいに瑠璃さんの顔が浮かんできた。

風の強さのためなのか、空気は冴え渡り、月が煌々とあたりを照らしている。

秋から冬へと向かうこの時期、特にこんな風に急に冷え込むような日に、瑠璃さんはふいにふさぎ込むことがある。

小さい頃からそうだった。

いつもは元気いっぱいの瑠璃さんが、誰にも会いたがらずに遊びに行っても断られることがあった。

理由がわからない頃は、心配しつつもさほど気にせずに、融と遊んだりしていた。

だってしばらくすると、またいつもの瑠璃さんに戻ったから。

ある年の冬の初めの寒い日、やっぱり瑠璃さんがふさぎ込んでいる日があった。

瑠璃さんに相手にしてもらえなかったぼくは融の部屋へと向かい、不貞腐れた気分のまま融と話をしていたら、亡くなった融の母上さまの話になった。

「母さまが亡くなったのも、こんな寒い日だったよ」

融の言葉にぼくは「あっ」と声をあげそうになった。

そうか、この時期、瑠璃さんがふさぎ込むのは母上さまが亡くなったことを思い出してるからなんだ・・・。

ぼくはその頃にはすっかり瑠璃さんのことが好きだったから、なんだかいてもたってもいられなくなって、不思議そうな顔をした融を残して東の対屋へと足早に向かった。

瑠璃さんの部屋の近くで古参の女房がこちらにやってくるのが見えたので、瑠璃さんの様子を聞いてみると

「姫さまはお休みになられましたわ。姫さまはこの時期はいつも・・・」

瑠璃さんの部屋を振り返り、ため息をついた。

「そういえば、お前は吉野にもいたことがあると言っていたね」

「はい。少しの間ですが・・・ちょうど母上さまが亡くなられた時に・・・」

その時を思い出したのか、女房は言葉を濁した。

「瑠璃さんは・・・・。瑠璃さんは、どんな風だった?」

今、思い出すと、良く聞けたと思うが、その時のぼくは今より幼かったし、やはり一番聞きたいことだったからストレートに聞けたんだと思う。

「姫さまはひどくふさぎ込まれてしまって、十日ほども口をお聞きになりませんでしたわ。ある日、ふいにお姿が見えなくなって、家中の者で姫さまが行かれそうな場所を探し回りました。皆、口には出さないまでも、悪いことばかりが浮かんできて、その時のことを思い出すと今でも心がざわつくほどですわ」

「瑠璃さんはどこにいたんだい?」

「姫さまは川原におりました。黙って手元の小石を川に投げ込んでおりました。拾っては投げ、拾っては投げ・・・。声をお掛けしても決して振り返ってはいただけませんでしたわ。半刻もした頃でしょうか、やっと姫さまが振り向かれて」

「瑠璃さんは泣いていた?」

「いいえ。泣いてはおりませんでした」

女房はかぶりをふった。

「口を一文字に結んで、まるで怒った様なお顔で。寒さのせいか頬が赤く、何度も小石を投げたお手は汚れ、身体は冷え切っていました。そのままわたくしなどお目に入っていないそぶりで、ずんずんと歩かれていきました。わたくし・・・・本当に小さな姫さまがお可哀想で・・・」

目頭を押さえた女房に軽く合図をして、ぼくは部屋に近づき、でも休んでいるという瑠璃さんを起こすわけにもいかず、たとえ起こしたところで追い返されることはわかっていたから、結局、ぼくのしたことと言ったら、妻戸にたたずむだけだったのだ。

だけど。

今のぼくは、あの頃のぼくと違う。

「すまないが、今日はこのまま三条邸へ向かう。このまま待っていてくれ」

従者に告げると、ぼくは急いで詰め所へ向かい適当な理由をつけて、宿直の交代を頼んだ。


怒ったような顔をしていたと言う瑠璃さん。

多分、瑠璃さんは本当に怒っていたんだと思う。

母上さまがいなくなったことに。命の儚さに。どこにもぶつけられない心の痛みに。

黙って小石を投げていた瑠璃さんを思うと、ぼくはたまらない気持ちになる。

三条邸へと向かう車の中、ぼくは何度となく思ったことをまた思っていた。

もしぼくが時間を操ることができたなら、川原にたたずむ十歳の瑠璃さんを抱きしめてあげたい。

誰とも口を聞かず、黙って石を投げていた瑠璃さんの身体を温めてあげたい。

何もしてあげられないけど・・・でも、そばにいてあげたい。


ぼくの到着を知った小萩が慌てて出迎えるのを制して、ぼくは一人で東の対屋に向かった。

渡殿を通る風は相変わらず冷たい。

冴えざえとした月が揺れる葉を浮かび上がらせる。

勝手知ったる瑠璃さんの部屋、ぼくは妻戸を開け中に入った。

差し込むわずかな月明かりの中、几帳の向こうに夜具に横たわりあちらを向いている瑠璃さんの姿が見える。

肩や背中の硬さで、瑠璃さんが眠っていないのはすぐにわかった。

ぼくは直衣を几帳にかけると、夜具にもぐりこみ、そのままそっと瑠璃さんを後ろから抱きしめた。

しばらくすると

「今日は宿直じゃなかったの?」

ため息のような瑠璃さんの声が聞こえた。

その声が湿っているように聞こえたのは、気のせいじゃないだろう。

「瑠璃さん、こうして入って来たのがぼくじゃなかったらどうするんだ。確認しなきゃだめだろう」

耳元あたりに頬を寄せながら小声で言うと

「馬鹿ね・・・足音でわかるもの。あと匂いでね」

相変わらず向こうを向いたままの瑠璃さんが答えた。

涙をぬぐったのだろうか、手で頬をなぜている。

涙のわけをぼくは聞かないし、瑠璃さんも言わない。

「宿直は他の方に替わってもらったんだ。瑠璃さんに・・・会いたくなってさ」

抱きしめる腕をさらに強めて、瑠璃さんの頬にぼくの頬を寄せる。

「冷たいわ、高彬」

「ぼくは温かい」

「人の身体で暖を取らないでよね」

「外は寒かったんだ。最近、急に寒くなっただろ。そのせいかな、無性に瑠璃さんに会いたくなってね」

「あたしはあんたの温石じゃないんですからね」

「はは・・・瑠璃さんが温石か。それはいいね。そしたらいつでも懐に入れて持っていける」

「・・・・・・」

ふいに黙り込んだ瑠璃さんは、しばらくするとそっと身体をぼくに預けてきた。

「あんたってやっぱり寂しがり屋の甘えん坊なのね。小さい頃とちっとも変わってない」

くすくすと笑う。

「うん。瑠璃さんに会えないと寂しいし、会えばこうして甘えたくなる」

だから。

だからさ、瑠璃さん。瑠璃さんも甘えていいんだよ。

ぼくは身体ごと瑠璃さんを抱きしめた。

「瑠璃さんは・・・やっぱり温かいな」

「・・・あたしも・・・温かい」

瑠璃さんの手がぼくの腕を抱きしめてきた。

そのままぼくたちは黙って互いの体温を確かめ合い、やがて瑠璃さんの身体から力が抜け、ぼくにすべてを預けるようにもたれかかってきた時

「高彬・・・ありが・・と・・」

小さな瑠璃さんの声が聞こえてきた。

規則正しい寝息が聞こえ、そっと顔をのぞきこむと見慣れた無防備な瑠璃さんの寝顔があった。

小さい頃から変わってないのは、瑠璃さんの方だよ。

明日になれば、きっと元気いっぱいの瑠璃さんになるだろう。

小萩相手に冗談を言ったり、ぼくをからかったり。

独りでひっそりと泣く瑠璃さんも、元気いっぱいの瑠璃さんも、どっちも瑠璃さんなんだ。

十歳の瑠璃さんを抱きしめられなかったぼくは、妻となった瑠璃さんを抱きしめる。

瑠璃さんの身体を、心を、抱きしめる・・・・。





                     <終>




~あとがき~

瑞月です。

久しぶりの小説をアップすることができました。

別人のように瑠璃がおとなしいのは、きっと寒さのせいだと思います。

一気に冬が来たような寒さが続きますが、皆様もお身体に気をつけて。

読んでいただきありがとうございました。


(←お礼画像&SS付きです)
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