***新婚編***第十三話 高彬の告白 ***

『なんて素敵にジャパネスク~二次小説*新婚編』







***新婚編***第十三話 高彬の告白 ***









あたしはじれじれしながら、高彬の到着を待っていた。

紅のことを考えただけで、かぁ~と頭に血が上ってしまい、夕の御膳もろくすっぽ食べなかったので、お腹がすいてるはずなんだけど、それさえも感じない。

今は戌の刻(午後八時ごろ)じゃないかしら。

あたしは手の中にある直衣を握り締めた。

この直衣こそ、何あろう、昼間、右大臣邸に急使をやり、なんのかんのと理由をつけて大江から届けさせた紅付きの直衣なのだ。

今の時代、貴族は衣裳を洗濯すると言う習慣がなくて、何回か着回して、それを従者や女房にお下がりとして着させるのよ。

だから、紅付きの直衣もおそらくは捨てられずにとってあるだろうと踏んだのだけど(何しろ高価なものだから)その読みはずばり当たったみたいね。

確かにこの直衣は、あの日、高彬が着ていたものだわ。

品は極上のものだし、ほのかに高彬の匂いも残っている。

ちょっと見ただけではわからないけれど、背中のあたりに紅がついているのが見て取れる。

あの日、高彬がやってきたのは夜中だったし、翌朝にはすぐに帰ってしまったから、気が付かなかったのかもしれない。

月の障りだというあたしに向かって、あいつは

「瑠璃さんの顔が見たくて来たんだ」

とかなんとか、言ったのよ。

背中に紅を付けた状態でそんなこと言うなんて、上等じゃないの!

またも新たな怒りに身を震わせていると、やがてざわざわと人が渡ってくる気配がして、先導の女房たちとともに高彬がやってきた。










            ****************************************










「瑠璃さん、どうしたんだい。文を見て驚いたよ。何かあったの」

円座に腰を下ろしながら、心配そうに言う。

「何かあったのよ」

にこりともせずに言い、小萩に退がるように目配せをする。

さやさやという衣擦れの音とともに女房らが退出していき、部屋にはあたしと高彬のふたりきりになった。

「高彬、ちょっと、聞きたいことがあるんだけど」

あたしはあらたまって、高彬にむきなおった。

「うん、なんだい」

「この直衣は、何かしら」

後ろ手に隠し持っていた直衣を突き出す。

「え・・・」

高彬はぼんやりと直衣を受け取り

「これはぼくの直衣だけど・・・」

そう言ったかと思うと、うっとうめいて、見る見る顔色を変えた。

「背中に紅が付いているわね。どういうことかしら」

はったと高彬の目を見据えながら、たたみかけるように言うと、高彬は動揺しながらも

「ど、どうして、これが三条邸に・・・瑠璃さんのとこにあるんだよ」

と、それなりに頭が回っているところが、憎たらしいったらありゃしない。

「そんなことはどうでもいいでしょ!あたしが聞いてるのは紅のことよ、紅。これはどなたの紅かしら」

膝を進めると、高彬はごくりと息を飲んだ。

「高彬。あんた・・・浮気したわねっ」

ずばり言ってやると、高彬はみっともないくらいに狼狽した。

「い、いや、そんな・・・」

「とぼける気?!この紅が動かぬ証拠じゃない!、どうせ、あんたも父さまや他の公達と同じ、しょせん、女好きなただの男なのよ。あんたなんかを信じて結婚したあたしが馬鹿だったわ。この浮気者!」

あたしは近くにあった文箱を、高彬めがけて投げつけた。

高彬がうまくかわしたので、文箱は後ろの几帳にあたり、几帳がものすごい音をたてて倒れた。

「る、瑠璃さん、危ないじゃないか」

「あんたが浮気なんかするからでしょ!」

あたしはこらえきれずに、わぁぁと泣き伏してしまった。

「瑠璃さん、落ち着いて」

高彬が慣れた風にあたしの肩を抱くのを、あたしは思いっきり振りほどいた。

「妻は生涯、あたし一人だと約束したくせに!うそつき!あの日、訪ねてきたのは、やましいことがあったからなんでしょ!」

なおも泣き続けると、高彬はおろおろしながらもあたしの背をなぜながら

「瑠璃さん、お願いだから落ち着いて。ぼくは浮気なんかしてないよ。それは信じて。ぼくの話を聞いてよ」

と、言い募ってくる。

あたしは顔をあげ、涙をぬぐった。

「聞くわよ。いいなさいよ」

座り直し、くすんくすんと鼻をすすっている間、高彬は腕を組み、天井を見上げて何事かを思案しているようだった。

どう言い逃れしようか考えてるのかもしれない。

騙されるもんですか。

やがて、思い切ったように口を開いた。

「あの紅は・・・・後宮の女房に付けられたものなんだ」

「やっぱり・・・!やっぱり浮気したのねっ。これだから男なんて・・」

「待って、瑠璃さん。違うんだ。浮気じゃないんだ。確かに女房に付けられたものだけど、瑠璃さんが思ってるようなことは何もなかったんだ」

「どういうこと。適当なこと言ってごまかそうとしたって無駄よ。あたしはいつでも鴨川に飛び込む用意ができてるんだからね」

「・・・どういう用意だよ」

高彬はつぶやき、小さく吐息したかと思ったら

「多分、瑠璃さんに知れたら、鴨川に飛び込むと言いだすんじゃないかと思っていたんだ。だから耳に入れたくなかったんだけど・・・でも、こうなったら全部、話すよ。誤解されたままじゃ、ぼくも辛いからね」

改めてあたしに向き直り、言葉を選ぶように慎重に話し始めた。

「あの日、ぼくが瑠璃さんのとこに急に立ち寄った日は、宿直の日だったんだ。普段、宿直は正直、気が重いけど、でも忌み月で瑠璃さんに会えるわけじゃないし、家でぼんやりしてるくらいなら宿直してるほうが気が紛れていいと思って、ぼくは定刻ぴったりに宿直の詰め所に向かおうとしていたんだ。そしたら、ふいに今上からお召しがあってね」

「帝から?」

「うん。びっくりして伺候すると、ぼくに相談したいことがあると仰せられるんだ」

「帝が高彬に相談?まさか、冗談でしょ」

「ぼくもそう思ってさ。実際、相談したいというのは、今上ではなく女房だったんだ。それで今上が、この女房の相談に乗ってやれ、とおっしゃって。それで、ぼくはその女房の局に・・・」

「行ったの?!」

「・・うん」

情けなさそうに頷く。

「それで」

先を促すと

「それで、その・・・局でふたりっきりになってさ」

「ふたりっきりっ?!」

「うん。それで・・・言い寄られて、さ・・・」

「言い寄られたっ?!」

「うん・・・。一夜の仮初めでもいいから、その・・・情けをかけてくれないかと言われて・・・」

「一夜の仮初めっ?!」

「瑠璃さん。頼むからそうやっていちいち強調して反復しないでくれよ。話しづらいよ」

もごもごと言う。

「あぁ、悪かったわね。先を続けて」

「もちろん、ぼくは断ったよ。断ったんだ。でも、どうしてもとしつこく言ってきて、最後には抱きつかれて・・・さ」

「だだだだだ、抱きつかれたっ?!」

「うん。紅はそのときに付いたものだと思う」

「思うって・・」

あたしは呆然として高彬を見つめ、大きくため息をついた。

まったく、呆れた話じゃないの。

「女が男に相談事があるだなんて、古来から、男を誘う常套手段じゃないの。それに気が付かずに、のこのこ局に行っちゃうなんて、あんたってどういうの。しっかりしてるようで、どこか抜けてるんだから!」

「・・・ごめん・・・。畏れ多くも今上のお声掛かりだったから、断れなくてさ。ほんとにごめん」

肩を落とし、俯いて言う。

「で、抱きつかれて、最後はどうなったのよ」

「女御付きの女房が、ほら、瑠璃さんも吉野で会ったことのある伊勢だよ、覚えてるだろ。伊勢が機転をきかせて局の外から声をかけてくれてさ。それで助かったんだ」

「ふうん」

嘘を言っているようには見えないけど、でも、待って。ひっかかることがあるわ。

「だいたいの経緯はわかったけど、どうして背中に紅が付いたの。いったい、どういうシチュエィションで抱きつかれたのよ」

女ってこういうことが気になるものなのよ。ディティールが知りたいというかさ。

そう聞くと、高彬は少し目を開いて、考える風な顔をしたかと思ったら

「どういう風だったかなぁ。もう忘れたよ」

首筋をなぜながら、目をそらした。

「ふうん・・・。何だか怪しいの」

「え、なんだよ、それ」

「だって、高彬が忘れるなんて変だもの。記憶力が抜群にいいくせに」

「それは時と場合によるさ。なんでも覚えてるわけじゃない。ぼくがなんでも忘れずに覚えているのは・・・・瑠璃さんのことだけだよ」

少し恥ずかしそうに言いながら、さりげなくあたしの手を取ってくる。

何さ、うまいこと言っちゃってさ・・・・と思いつつも、気持ちが和んで行くのが自分でもわかる。

あたしが手を払わずにいると、ここを先途と

「もう、誤解は解いてくれた?」

顔をのぞきこみ、ぽんぽんと手を軽く叩きながら言う。

ふうむ。

どうやら浮気はしてないみたいだし、許してやってもいいかな。

黙っていると、高彬はさらに近付き、そっと唇を合わせてきた・・・・。







<第十四話に続く>



~あとがき~

こんにちは!瑞月です。

高彬、何とか危機を脱したみたいですね。

瑠璃みたいにぽんぽん言ってくれる方が、じと~っとされるよりも男としては楽だと思います。

そういうところも、高彬は好きなんでしょうね。

瑠璃の場合は、口と同時に物も飛んできますが。

高彬は反射神経がいいし、ほんと、お似合いの夫婦ですね(笑)

読んでいただき、ありがとうございました。



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