***第二十三話 桜咲く、み吉野で***
『なんて素敵にジャパネスク〜二次小説』
注)このお話は連続ものです。
カテゴリー「二次小説」よりお入りいただき
第一話からお読みくださいませ。
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*** 第二十三話 桜咲く、み吉野で ***
高彬は唇を離すと、あたしを抱きしめてきたんだけど、あたしは照れくさいやら恥ずかしいやらで真っ赤になってしまった。
だって、あたしにとっては接吻も抱擁も、初めてのことなんだもん。
そりゃあ、赤くもなるわよ。
でも、抱きしめられていると、妙に落ち着くと言うか懐かしいと言うか、すっぽりと収まる感じがして、それが頭では覚えてなくても、身体が覚えていると言うか、い、いえ、変な意味じゃないのよ、その・・・肌が覚えているというか・・・・なんだか安心できる。
どんな風に出会ったとしても、あたしはこの人を好きになるのかもしれないなぁ〜なんて思っちゃった。うまく言えないんだけどさ。
そういう気配が伝わったのか、高彬はそっと身体を離すと、あたしの髪をなぜ、にっこりと笑った。
「瑠璃さん」
「・・・はい」
「はい、なんて返事、瑠璃さんらしくないな」
「じゃあ、どんなのがあたしらしいの」
「そうだなぁ。『なぁに』とか『なによ』とか。怒ってる時は『なにさ』だったかな」
あたしの声色を真似て言うのがおかしくて笑っちゃった。
「あたしのこと『瑠璃さん』って呼ぶのね。あたしは『高彬』なのに」
「そう。それで、ぼくは『高彬』って呼ばれたら『はい』って従順に返事をしてた」
「うそよ」
「うそじゃないさ。投げ飛ばされたらいやだからね。条件反射だ」
「じゃあ・・・・・、高彬」
「はい」
「ほんとだわ」
「だろ」
ふたりして笑い合う。
「瑠璃さん」
「なぁに」
「うん、その調子だ」
ふたりしてまた笑い合う。
時折り吹く春風に、桜の花びらがはらはらと舞っている。
ひとひらの花びらが高彬の髪にとまった。
花びらを取ろうと伸ばした手を、ふいに高彬につかまれてしまい、そのままそっと抱き寄せられてしまった。
そうして何度も何度もあたしの髪をなぜては、時おり満足そうに吐息をもらす。
「瑠璃さん」
そう言って小さく接吻をする。
「なぁに」
それには答えずに
「瑠璃さん」
また接吻をしてきた。
「だから、なぁに」
「・・・誰より好きだよ」
「・・・・・・」
うつむくあたしのあごに、高彬の手がかかり、優しく唇が合わさった。
今度の接吻は長くて、目を閉じてうっとりとしていると、気が付くと、高彬の・・・し、舌があたしの唇を割って入ってこようとしているではないの!
びっくりして唇を離すと
「あ、ごめん・・。そうだった、瑠璃さんは覚えてないんだよね・・・」
高彬は慌てたように言い、うっすらと赤くなった。
お、覚えてないってことは、つまり、記憶を失くす前は、あたしと高彬はそういうことをしていたって・・わけ・・・よね。
「お、覚えてないわ。そんなこと・・・してたの?」
負けず劣らず真っ赤になってつぶやくと
「そりゃ、恋人同士だから、さ。他にもいろいろと・・・」
「いろいろっ?何を?」
ぎょっとして聞き返すと
「い、いや。何を、と言われると・・・困るんだけど・・」
高彬は動揺したように口ごもったかと思うと、ふと、いたずらっ子のような顔になり
「知りたい?口で説明するより、手っ取り早い方法があるんだけど」
なんて顔を覗き込むようにして言う。
記憶を失っているとはいえ、そこは女。
好奇心より羞恥心が上回って
「い、いいわよ、まだ知らなくって・・・」
ボソボソと言うと
「まだ?・・・ってことは、いつかは知りたいってことだよね」
なんて身を乗り出してきた。
第一印象は落ち着いた公達だと思っていたんだけど、なんだか可愛ゆい一面もある人なのね。
高彬の様子が童のようなので堪え切れずにふきだすと、つられたように高彬も笑い出した。
あぁ、あたし、この人のこと好きだわ。
記憶を失っているから、その人についての知識とか先入観とか全然ないわけで、でも、だからこそ、感覚だけでわかることってある。
記憶を失くす前のあたしは、高彬が好きだったんだろうって確信できるし、記憶を失くした今も・・・好きよ。
きっと、あたしは初恋の人が忘れられなかったんじゃなくて、自分の気持ちの中で区切りをつけたかったんじゃないかしら。
まっさらな気持ちで、高彬と結婚するためにさ。
「えぇっと・・・その・・・そうね。いつかは、知りたい・・わ」
恥ずかしくて口ごもりながら言うと、高彬はそっと指をからめてきた。
しばらくはあたしの指の感覚を確かめるようにしていたんだけど
「うん」
小さい声で、嬉しそうに返事をした。
*************************************
山荘に戻ったあたしたちがすっかり打ち解けた様子だったので、小萩は目を丸くして驚いた。
「姫さまのご記憶がお戻りになったのかと思いましたわ」
驚きつつも嬉しそうで、高彬に向かい
「いったい少将さまには、どんな秘策がございましたの?」
不躾とは知りながらも、聞かずにはいられなかったらしい。
「秘策なんてないさ。一緒に桜を見てきただけだよ」
すまして答える高彬を見るのも楽しく、あたしはくすくすと笑ってしまった。
「そうそう、小萩。瑠璃さんに結婚のお許しをいただいたよ。おまえもそのつもりでいておくれね」
「まぁ!少将さま。やっぱり何か秘策がございましたのね。桜を見てきただけでご結婚のお約束をなさるなど、いくら小萩が独り者とはいえ、とうてい信じられませんわ」
小萩が目を見開くと
「困ったな。そう問い詰めないでくれよ」
高彬が頭をかいたので、あたしたちは声をあげて笑った。
部屋に明るい笑い声が溢れ
「こうしていると、まるで以前のままのようですわ。高彬さまのお陰ですわ・・・」
小萩が笑いながら、袖で涙をぬぐった。
******************************************
小萩がおやつに持ってきた団喜を食べていると、高彬はふと思い出したように笑った。
「瑠璃さんは童の頃、団喜を食べ過ぎて動けなくなったことがあるんだ」
「うそだわ」
「うそじゃないさ。それで加持だ祈祷だと大騒ぎになったんだよ」
「絶対にうそよ。あたしはそんなに食いしん坊じゃないもの」
睨みながら言うと
「じゃあ、もらうよ」
と、あたしの団喜に手を伸ばしたので
「あ、だめ!」
思わずムキになって言っちゃって、高彬に笑われてしまった。
「なによ」
いつまでも笑っているので、ふくれっつらで言うと
「いや、やっぱり瑠璃さんだなぁと思ってさ」
「食いしん坊で悪かったわね」
ぷいっと横をむくと、高彬がずりずりと寄ってきた。
「・・・・・」
そのまま顔が近付いて・・・・
と、その時、ぱたぱたと簀子縁を駆けてくる音が聞こえ、あたしたちは慌てて離れた。
どうしたのだろう、と思っていると、小萩があわをくって部屋に飛び込んできた。
「どうしたの、小萩」
小萩は胸に手を当てて息を整えると
「申し訳ありません。たった今、宮中からのお使者が参られました」
手をついて口上を述べた。
「宮中から?」
高彬とあたしの声が重なった。
「わかった。案内してくれ」
高彬が腰を浮かしかけると、小萩は頭を振った。
「それが・・・姫さまにと言うことなのですわ」
「あたしに?」
「瑠璃さんに?」
またもや、声が重なり、あたしと高彬は目を合わせた。
右近少将である高彬に宮中からのお使者が来るのならわかるけれど、どうしてあたしなんかに?
ましてやあたしは今、京から遠く離れた吉野にいるし、記憶を失っている。
いったい、なんだって言うの・・・。
<第二十四話に続く>
〜あとがき〜
こんにちは!瑞月です。
接吻の大安売りでスミマセン(笑)
高彬にスイッチが入ってしまったようです(笑)
読んでいただきありがとうございました。
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高彬は唇を離すと、あたしを抱きしめてきたんだけど、あたしは照れくさいやら恥ずかしいやらで真っ赤になってしまった。
だって、あたしにとっては接吻も抱擁も、初めてのことなんだもん。
そりゃあ、赤くもなるわよ。
でも、抱きしめられていると、妙に落ち着くと言うか懐かしいと言うか、すっぽりと収まる感じがして、それが頭では覚えてなくても、身体が覚えていると言うか、い、いえ、変な意味じゃないのよ、その・・・肌が覚えているというか・・・・なんだか安心できる。
どんな風に出会ったとしても、あたしはこの人を好きになるのかもしれないなぁ〜なんて思っちゃった。うまく言えないんだけどさ。
そういう気配が伝わったのか、高彬はそっと身体を離すと、あたしの髪をなぜ、にっこりと笑った。
「瑠璃さん」
「・・・はい」
「はい、なんて返事、瑠璃さんらしくないな」
「じゃあ、どんなのがあたしらしいの」
「そうだなぁ。『なぁに』とか『なによ』とか。怒ってる時は『なにさ』だったかな」
あたしの声色を真似て言うのがおかしくて笑っちゃった。
「あたしのこと『瑠璃さん』って呼ぶのね。あたしは『高彬』なのに」
「そう。それで、ぼくは『高彬』って呼ばれたら『はい』って従順に返事をしてた」
「うそよ」
「うそじゃないさ。投げ飛ばされたらいやだからね。条件反射だ」
「じゃあ・・・・・、高彬」
「はい」
「ほんとだわ」
「だろ」
ふたりして笑い合う。
「瑠璃さん」
「なぁに」
「うん、その調子だ」
ふたりしてまた笑い合う。
時折り吹く春風に、桜の花びらがはらはらと舞っている。
ひとひらの花びらが高彬の髪にとまった。
花びらを取ろうと伸ばした手を、ふいに高彬につかまれてしまい、そのままそっと抱き寄せられてしまった。
そうして何度も何度もあたしの髪をなぜては、時おり満足そうに吐息をもらす。
「瑠璃さん」
そう言って小さく接吻をする。
「なぁに」
それには答えずに
「瑠璃さん」
また接吻をしてきた。
「だから、なぁに」
「・・・誰より好きだよ」
「・・・・・・」
うつむくあたしのあごに、高彬の手がかかり、優しく唇が合わさった。
今度の接吻は長くて、目を閉じてうっとりとしていると、気が付くと、高彬の・・・し、舌があたしの唇を割って入ってこようとしているではないの!
びっくりして唇を離すと
「あ、ごめん・・。そうだった、瑠璃さんは覚えてないんだよね・・・」
高彬は慌てたように言い、うっすらと赤くなった。
お、覚えてないってことは、つまり、記憶を失くす前は、あたしと高彬はそういうことをしていたって・・わけ・・・よね。
「お、覚えてないわ。そんなこと・・・してたの?」
負けず劣らず真っ赤になってつぶやくと
「そりゃ、恋人同士だから、さ。他にもいろいろと・・・」
「いろいろっ?何を?」
ぎょっとして聞き返すと
「い、いや。何を、と言われると・・・困るんだけど・・」
高彬は動揺したように口ごもったかと思うと、ふと、いたずらっ子のような顔になり
「知りたい?口で説明するより、手っ取り早い方法があるんだけど」
なんて顔を覗き込むようにして言う。
記憶を失っているとはいえ、そこは女。
好奇心より羞恥心が上回って
「い、いいわよ、まだ知らなくって・・・」
ボソボソと言うと
「まだ?・・・ってことは、いつかは知りたいってことだよね」
なんて身を乗り出してきた。
第一印象は落ち着いた公達だと思っていたんだけど、なんだか可愛ゆい一面もある人なのね。
高彬の様子が童のようなので堪え切れずにふきだすと、つられたように高彬も笑い出した。
あぁ、あたし、この人のこと好きだわ。
記憶を失っているから、その人についての知識とか先入観とか全然ないわけで、でも、だからこそ、感覚だけでわかることってある。
記憶を失くす前のあたしは、高彬が好きだったんだろうって確信できるし、記憶を失くした今も・・・好きよ。
きっと、あたしは初恋の人が忘れられなかったんじゃなくて、自分の気持ちの中で区切りをつけたかったんじゃないかしら。
まっさらな気持ちで、高彬と結婚するためにさ。
「えぇっと・・・その・・・そうね。いつかは、知りたい・・わ」
恥ずかしくて口ごもりながら言うと、高彬はそっと指をからめてきた。
しばらくはあたしの指の感覚を確かめるようにしていたんだけど
「うん」
小さい声で、嬉しそうに返事をした。
*************************************
山荘に戻ったあたしたちがすっかり打ち解けた様子だったので、小萩は目を丸くして驚いた。
「姫さまのご記憶がお戻りになったのかと思いましたわ」
驚きつつも嬉しそうで、高彬に向かい
「いったい少将さまには、どんな秘策がございましたの?」
不躾とは知りながらも、聞かずにはいられなかったらしい。
「秘策なんてないさ。一緒に桜を見てきただけだよ」
すまして答える高彬を見るのも楽しく、あたしはくすくすと笑ってしまった。
「そうそう、小萩。瑠璃さんに結婚のお許しをいただいたよ。おまえもそのつもりでいておくれね」
「まぁ!少将さま。やっぱり何か秘策がございましたのね。桜を見てきただけでご結婚のお約束をなさるなど、いくら小萩が独り者とはいえ、とうてい信じられませんわ」
小萩が目を見開くと
「困ったな。そう問い詰めないでくれよ」
高彬が頭をかいたので、あたしたちは声をあげて笑った。
部屋に明るい笑い声が溢れ
「こうしていると、まるで以前のままのようですわ。高彬さまのお陰ですわ・・・」
小萩が笑いながら、袖で涙をぬぐった。
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小萩がおやつに持ってきた団喜を食べていると、高彬はふと思い出したように笑った。
「瑠璃さんは童の頃、団喜を食べ過ぎて動けなくなったことがあるんだ」
「うそだわ」
「うそじゃないさ。それで加持だ祈祷だと大騒ぎになったんだよ」
「絶対にうそよ。あたしはそんなに食いしん坊じゃないもの」
睨みながら言うと
「じゃあ、もらうよ」
と、あたしの団喜に手を伸ばしたので
「あ、だめ!」
思わずムキになって言っちゃって、高彬に笑われてしまった。
「なによ」
いつまでも笑っているので、ふくれっつらで言うと
「いや、やっぱり瑠璃さんだなぁと思ってさ」
「食いしん坊で悪かったわね」
ぷいっと横をむくと、高彬がずりずりと寄ってきた。
「・・・・・」
そのまま顔が近付いて・・・・
と、その時、ぱたぱたと簀子縁を駆けてくる音が聞こえ、あたしたちは慌てて離れた。
どうしたのだろう、と思っていると、小萩があわをくって部屋に飛び込んできた。
「どうしたの、小萩」
小萩は胸に手を当てて息を整えると
「申し訳ありません。たった今、宮中からのお使者が参られました」
手をついて口上を述べた。
「宮中から?」
高彬とあたしの声が重なった。
「わかった。案内してくれ」
高彬が腰を浮かしかけると、小萩は頭を振った。
「それが・・・姫さまにと言うことなのですわ」
「あたしに?」
「瑠璃さんに?」
またもや、声が重なり、あたしと高彬は目を合わせた。
右近少将である高彬に宮中からのお使者が来るのならわかるけれど、どうしてあたしなんかに?
ましてやあたしは今、京から遠く離れた吉野にいるし、記憶を失っている。
いったい、なんだって言うの・・・。
<第二十四話に続く>
〜あとがき〜
こんにちは!瑞月です。
接吻の大安売りでスミマセン(笑)
高彬にスイッチが入ってしまったようです(笑)
読んでいただきありがとうございました。
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