***短編*** <続>通り雨 ***

『なんて素敵にジャパネスク〜二次小説』






注)このお話は「通り雨」の続きものです。
               
        






***短編*** <続>通り雨 ***







「瑠璃さん、じゃあ、もう行くから」

「うん・・」

朝まだ明けきらぬ寝所には、それでも格子から薄明るい光が入ってきている。

単衣姿でうつぶせのままの瑠璃さんの髪を耳に掛けてやり、そっと耳元で言うと、瑠璃さんは目を閉じたままコクンと頷いた。

「雨・・・、まだ降ってるの?」

確かに昨夜、床に就いた時には屋根に当たる雨の音がしていて、その雨音と瑠璃さんの切なげな吐息が絡まりあってぼくの耳に届いていた。

「どうかな。今は雨の音は聞こえないけど、でも、少しは降っているかも知れないね」

「雨が上がってから行けばいいのに・・」

「今日は少し早くにいかなければならないんだ」

「・・そう」

「じゃあ、行ってくるよ」

最後に額に接吻をして立ち上がり、妻戸を開けると、心得顔の小萩が控えていた。

「早くに済まないね」

「いいえ」

小萩は笑顔を浮かべ頭を横に振ると、静かに渡殿を歩き始めた。

細い糸のような雨がまだ降っている。

昨夜来の雨が花散らしの雨になってしまったのか、地面には桜の花びらが落ちており、水溜りはさながら<花びら溜り>の様相を呈している。

庭に目をやりながら歩いていたぼくは(あれ)と首を捻った。

大きな桜の木の下に、ずいぶんと小さい桜の木がある。

小さいながらもいくつか桜の花を咲かせており、それがなかったら桜の木だなんて気付かないくらいの小さくて背の低い木だった。

「あんなところに、あんなに小さな桜なんて前からあったかな」

不思議に思って前を歩く小萩に聞くと、小萩は歩を止めぼくの指さす方に顔を向けた。

しばらく目を凝らすと

「あぁ、あれは・・、いつだったか、姫さまがお植えになった桜ですわ」

「瑠璃さんが?」

「はい。まだ少将さまとご結婚なさる前ですわ。姫さまが満開の桜の枝を、水差しに入れてお部屋に飾っていたことがあったのです」

「・・・」

「花も枯れたのでお捨てになるかと思っていたら『植えて見る』と仰られて・・」

「・・・」

「数日前に庭師が灌木の剪定に入ったので、きっとそれであの桜の木が少将さまのお目に留まったのだと思いますわ。今まではここからだとちょうど隠れて見えておりませんでしたもの。あ、少将さま・・・どちらへ・・・」

「悪いが出発が遅れると、従者たちに伝えてくれないか」

「少将さま・・」

瑠璃さんの部屋へと引き返すため歩き出しながら、背中越しに小萩に言う。

妻戸を開け部屋に入って行くと、さっきと同じ格好で瑠璃さんは眠っていた。

「瑠璃さん」

耳元で囁くと

「高彬・・・、どしたの、忘れ物?」

瑠璃さんは(うぅ・・ん)と寝返りを打つと、寝ぼけ眼で言ってきた。

「桜の木」

「・・・え。桜・・?桜が忘れ物?」

「いつかの桜の枝、植えてくれてたんだね。咲いてたよ」

「・・・」

何の話をしているのかようやく分かったのか、瑠璃さんの目の焦点が段々と合ってきた。

ゆっくりと起き上がり、ぼくと向かい合うと

「庭師に聞いたら、枝を土に差しておけば根が付くこともあるって言われたの。だから、一応、植えて見たの」

「・・・」

「ずぶ濡れになって届けたくれた桜だったから、何だか捨てられなかったのよ。大切な桜なのかな、なんて思って」

「・・うん」

「それにね、今だから言うけど・・・」

いったん言葉を切ると、瑠璃さんは恥ずかしそうに笑い

「あたし、あの桜をもらった時、一瞬、ドキッとしたの。もしかしたら、これってプロポーズ?なんて思って」

「え・・」

「ほら、あたし、童の頃、菫の花をもらったでしょ、吉野君に。だから花をもらう、イコール、プロポーズって勝手にイメージが出来ちゃってたみたいなの」

「・・・・」

「でも、あんたはずぶ濡れだし、しかもぶっきらぼうに差しだすだけだし、あぁ、これは違うなってすぐに思ったけど。こんな素っ気ないプロポーズなんてあるわけないわよね、って」

「・・・結婚の約束忘れてたくせに、よく言うよ」

言い返してやると

「ほんと、そうよね」

ふふふ、と瑠璃さんは小さく笑った。

だけど、こそばゆいような気持ちになる。

何だ、あの日のぼくの気持ちはちゃんと瑠璃さんに届いていたんだ・・・

「だけど、今、高彬に言われるまで、正直、桜を植えたことなんか忘れてたわ」

「うん、ぼくもあげたこと忘れてた」

目が合って、声を出さずに、2人で笑い合う。

思ってることは、瑠璃さんもぼくもきっと同じだ。

───それはきっと今が幸せだから・・・

抱き寄せると、瑠璃さんはすっぽりとぼくの胸に収まり、そうして背中に腕を回してきた。

「気を付けて行ってきてね・・」

「雨が上がってから行くことにしたよ」

「え」

「だから、もう少し時間がある」

「・・・」

そう。

雨はいつか上がる。

雨なんて全部、通り雨だ。

願わくば、今日のこの通り雨が少しでも長く降り続いてくれることを───

ぼくはそっと瑠璃さんを横たえたのだった。






<終>


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***短編*** 通り雨 ***

『なんて素敵にジャパネスク〜二次小説』






注)このお話は一話完結です。
               
        






***短編*** 通り雨 ***







「またおいでよね、高彬」

融に見送られながら三条邸の車寄せに向かう途中で、ふと足を止めた。

庭の桜が満開だったのだ。

春の空に向かい大ぶりの枝を伸ばし、折からのそよ風に花弁を揺らしている。

「綺麗だね」

「うん」

手を振る融に、軽く合図を返して牛車に乗り込むと

───ふぅ・・

知らずにため息が出た。

今日も瑠璃さんと喧嘩をしてしまった。

最初は融と3人で楽しく遊んでたはずなのに、また瑠璃さんが吉野君のお名を持ち出して───

そこからはいつものお決まりのパターンだった。

売り言葉に買い言葉、留めは「あんたと吉野君じゃ比べものにならないわ」だ。

はぁ・・

いつからこんな風になってしまったんだろう。

昔は良かった。

瑠璃さんはぼくの婚約者だと、信じて疑いもしなかった。

大納言さまの勧める結婚を片っぱしから断るのも、結婚する気なんかないと断言するのも、全部、ぼくの官位が上がるまでの時間稼ぎをしてくれているんだと単純に思っていた。

だけど、どうやらそうではないと分かったのはいつ頃だったろうか。

本当に瑠璃さんはぼくとの結婚の約束を忘れているみたいだし、それどころかこの頃では会えば喧嘩ばかりしている。

自室に戻っても気分は晴れなかった。

狩衣のまま行儀悪くゴロンと横になり、頭の後ろで手を組む。

外に目をやれば春の空はどこまでも晴れやかで、白い雲が浮かんでいる。

雲を見てるうち、ふと

───久し振りに疾風と遠乗りでもしようか。

と思い付いた。

まだ日も高いし、部屋でクサクサしてるよりはずっといいように思える。

よし、行こう。

弾みを付け起き上がると女房に出掛けることを告げ、厩舎に行くと、政文が立っていた。

「政文・・・」

「若君をお一人で行かせるわけにはいきません。お供致します」

「わかった」

門衛に見送られ出発する。

「どちらに向かわれますか」

「そうだな、南に行こうか」

羅生門を抜けた辺りから速度を上げ本格的に駆け出す。

走るに連れ徐々に回りから邸や家屋が減り、川を超えると鄙びた風景になって行った。

京中よりも草木も多くて、気のせいか空も高く見え、その中を疾風と走るのはいい気分だった。

父上がぼくのためにと特別に武蔵の方から取り寄せた疾風は名馬の誉れ高く、まるで心が通じ合っているかのようにぼくの指示通りに走ってくれる。

───もっと速く。

走れ、走れ、走れ───!

蹄と風の音しか聞こえなくなった頃、さっきまでの好天に翳りが出てきた。

黒い雲が湧き、これは一雨来るな、と思っていたら、案の定、ぽつりぽつりと落ちてきた。

ぽつりぽつりは、すぐにしっかりとした雨脚になり、あっという間に本降りになった。

「若君!あそこで雨宿りしましょう!」

後ろから政文が声を張り上げ、見ると行く手に小さな小屋があり、近づいて見るとそれなりにしっかりとした作りの小屋で、ありがたいことに軒がある。

疾風を降り、政文と二人で軒下に走り込むと、待っていたかのようにどしゃ降りになった。

「すごい雨ですねぇ」

「うん」

ザーザーと言う雨音に負けないよう大声で言い合う。

「女心と春の空とはよく言ったもんですよ。さっきまであんな良い天気だったのに」

見るとはなしに雨にけぶる風景をぼんやりと見ていると、向こうに人影が見え、だんだん近づいて来ると里の者だとわかった。

この雨の中、傘も差さずに歩いている。

くすんだ着物に、どうやら何かを背負っているみたいで、籠の形状から収穫した農作物だと思われた。

ぬかるんだ道を俯き加減に黙々と歩いており、足は泥だらけだった。

「少し・・、休んでいったらどうだい」

ぼくの前を通り過ぎる時、たまらず声を掛けていた。

驚いたように政文がぼくを振り返り、だけど、もっと驚いたのは声を掛けられた里の者のようだった。

ハッとしたように顔を上げ、ぼくを見て、疾風を見て、またぼくを見ると

「そんなとこで雨宿りしてる暇はないよ。歩いてたら雨は上がる」

と強い口調で言い放った。

思ってたより若くて・・・

若いなんてもんじゃない、ぼくと同い年くらいの女の子で、勝ち気そうな目がどことなく瑠璃さんを思わせた。

髪を雑にひとつにまとめ、顔にも泥が付いている。

女の子はそれだけ言うと、また俯き加減に黙々と歩き出し、雨の中に後姿がどんどん小さくなって行った。

この雨の中、どこまで歩くのだろう・・・

完全に姿が見えなくなり

「政文、行こう」

ぼくは声を上げていた。

「行こうって、若君。この雨の中・・」

「行こう」

軒下を飛び出し、疾風に飛び乗る。

慌てふためく政文を尻目に、疾風の腹を蹴ると、疾風は嘶きを上げ力強く走り始めた。

雨の中、走っちゃいけないなんて誰が決めた。

そんな決まりもなければ理由もないじゃないか。

走れ、走れ、走れ───!

疾風の躍動が直に身体に伝わってくる。

大粒の雨が顔に当たり目も開けていられないくらいで、袖口と言わず襟足と言わず、雨が身体に流れ込んでくるのがいっそ気持ちいいくらいだった。

───歩いていたら雨は上がる。

そうだ、雨はいつか上がる。

そう思えば、雨なんて全部、通り雨だ。

瑠璃さんと喧嘩して、クサクサしてた自分が馬鹿みたいに思えてくる。

約束を忘れられてるくらいなんだと言うんだ。

ぼくが覚えてるんだからいいじゃないか───



*****



川を超える頃には雨は小降りになっていた。

京に入る少し手前で、ちょうど目の高さに咲く桜の木があり、今の雨にも負けずに満開のままだった。

疾風を停め、馬上のまま枝を折り、手綱と一緒に握る。

「ちょっと寄りたいところがあるんだけどいいかな」

政文に断りを入れ、三条邸に寄った。

門の前で疾風を降り、徒歩で土間に入って行くと、融付きの見慣れた女房が驚いた顔でぼくを出迎え

「瑠璃姫を」

そう言うと、慌てふためいた様に瑠璃さんを呼びに行ってくれた。

瑠璃さんはすぐに現れた。

そうしてぼくを見ると、目をまん丸に見開いて

「・・・ちょっと、あんた、どうしたのよ、その恰好。ずぶ濡れじゃない。池にでも落ちたの?」

さっき喧嘩したことなんか丸きり忘れたように駆け寄って来た。

「雨の中を馬で走ってたんだ」

「雨の中を?なんでそんな・・」

「あげるよ」

瑠璃さんの言葉を遮り、桜の枝を差しだす。

「・・・」

「満開だよ」

「・・う、うん・・」

相変わらず、丸い目のまま、それでも瑠璃さんは受け取り、ぼくはちょっとだけ笑って踵を返した。

門を出て、疾風に跨る。

心底、心配してくれてる瑠璃さんの口調がこそばゆかった。

何より、瑠璃さんをあそこまで驚かせたと言うのが、たまらなくいい気分だった。

訳のわからないまま受け取った桜の枝を見て、瑠璃さんはぼくのことを考えてくれるだろうか。

例え一晩でもいい。

いや、数刻でも、半刻でもいい。

ずぶ濡れのまま現れて、桜を差し出したぼくのことを考えてくれたなら───

雨はすっかり上がっている。

見上げた空には、雲間から春の青空が広がっていた。






<終>


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*** 筒井筒のお約束をもう一度 <again and again -3/3->

『なんて素敵にジャパネスク〜二次小説』

 

※このお話は初夜編(完結済み)のパラレルです。3話完結。
                        







***  筒井筒のお約束をもう一度<again and again -3/3-> ***  







「高彬・・・」

突然の高彬の登場にびっくりして立ち尽くしていると

「夜分に申し訳ない───」

少し掠れ気味の声で言い、そうして頭を下げた。

「無体なことをするつもりはないから」

あたしの驚きを別の意味に捉えたのか

「帰れと言うなら帰るから、そう言ってもらえたら・・・」

続けてそう言うので、あたしは慌てて

「帰れなんて言わないわ。急に現れたからびっくりしただけよ。とにかく・・・、中に入って」

妻戸の前に立ったままの高彬を部屋に招き入れた。

向かい合って座ると、高彬は幾分緊張したような面持ちで居住まいをただし、何かを言い掛けて唇を引き結び、その動作を何度か繰り返している。

何から言おうか思いあぐねているみたいだった。

「今日は二の姫との婚礼の日ではなかったの?」

あたしから切り出すと、高彬ははっとしたように顔を上げ小さく頷いた。

「大丈夫なの?こんなところにいて──」

「あの日から」

あたしの言葉を遮り、唐突に高彬は話し始めた。

「あの日から、どうしてだかあなたのことばかりを考えていた」

「・・・」

「全ての記憶を失くしてしまったから、ぼくにとっては全員が初対面の人なんだけど、でも、あなただけはそうは思わなかったんだ」

「・・・」

「初めて会ったようにはどうしても思えなくて・・・。婚約者だと言うし、もちろん初めて会ったわけじゃないのはわかってはいるんだけど」

「・・・」

「でも、いつの間にか兵部卿宮家の二の姫との結婚が決まっていて、それがぼくにとって最良の結婚であると母上に言われた。記憶を失くしたぼくに判断なんて出来なかったけど、でもずっと迷いがあったんだ」

「・・・」

「今夜、もうじき兵部卿宮家に出発すると言うギリギリの時も、ぼくは迷っていた。そうしたら家の者が『心に迷いがあるのなら、瑠璃姫のところに行かれて見たらいかがですか』と言ってきたんだ。ぼくは一言だってあなたのことは口にしてないのに、まるでぼくの心の中を見透かしてるかのようにね」

「・・・」

「『若君の思うとおりになさればいい』と」

「・・・」

「だから、こうして来た。どうしても、もう一度、あなたに会いたくて」

「・・・」

「・・どうして、泣いているの?何か失礼なことを言ったのなら・・・」

「ううん」

あたしは慌てて頭を横に振った。

「失礼なことなんか言ってないわ」

「記憶を失くしたぼくに向かい<自信を持っていい><笑って過ごせばいいことがある>なんて言ってくれたのは、あなただけだった」

「・・・・」

「もう少し、こうして・・・話をしていてもいいだろうか」

「・・・もちろんよ」

笑顔で答えたかったのに、涙で声が震える。

あたしたちは少しの間、見つめ合っていた。

「ぼくたちは童の頃から遊んでいたと言うけれど・・・」

高彬が口を開いたその時だった。

遠くから人の足音が聞こえ、どうやらこちらに近づいてくる。

ハッと目が合い

「こっちへ」

几帳を指さすと高彬は素早く几帳の後ろに回り込んだ。

誰かしら、こんな時間に・・。

足音はどんどん近づいてきたかと思ったら、バタン、とドアが開き、ズカズカと男が入って来て

(あ!)

と思った時には、男はあたしの目の前にいた。

「瑠璃姫」

男は憎々しげにあたしを睨み

「あなたは・・・、権少将!」

「右近少将が記憶喪失になったのなら怖いものはない。いつぞやの恨み、晴らしてやる・・!」

権少将があたしに飛びかかってきたのと、几帳の裏から高彬が飛び出してきたのが同時だった。

2人は揉みあいながら一発二発と殴り合って、吹き飛ばされた権少将が几帳にぶつかり、ものすごい音を立てて几帳が倒れた。

起き上がりしな高灯台をむんずと掴むと、怒り狂ったように権少将は高彬に突進し

「やめて!」

とっさに権少将の足にしがみつくと、権少将はたたらを踏む形で前のめりになり、あたし諸共、一緒に倒れ込んだ。

何かが倒れる大きな音と、呻き声が聞こえ、気が付いたら

「覚えてろよ!」

捨て台詞を残して権少将は妻戸を開け退散していくところだった。

ゆっくりと身体を起こし、辺りを見回すと───

部屋の隅に高彬が座り込み、こめかみの辺りを押さえている。

「高彬!大丈夫?!」

慌てて駆け寄ると

「あぁ・・、大丈夫だよ。───瑠璃さん」

「良かった・・」

何ともなくて・・・

──え?

瑠璃さん?

え?

えぇぇ?!

「高彬!」

「瑠璃さん!」

同時に目を見開いて叫んでしまった。

「思い出したよ!ぼくは藤原高彬で・・・、瑠璃さんだ。瑠璃さんだ!」

あたしの両手を取るとグッと握りしめ、そのまま自分の胸に引き寄せギュウギュウと絞めつけてくる。

「く、苦しい・・。高彬」

「あ、ごめん」

取りあえず手は緩めてくれたけど、高彬は感極まった感じであたしの背を撫ぜたり叩いたりした。

「良かった・・・、記憶が戻って」

少しすると、しみじみと言い、あたしも黙って大きく頷いた。

もし、あのまま記憶が戻らなかったら・・・

2人して夢から醒めたみたいに、しばらくはぼぅっとそのままでいたのだけど

「あれ」

ふいに高彬が声を上げた。

「瑠璃さん。今って何月だっけ」

「今?えぇと・・、卯月よ」

「卯月の何日?」

「朔日よ」

「卯月の朔日と言う事は・・・」

「4月1日よ」

「・・・」

「・・・」

え?

えぇぇ?

まさか!

「あんた、まさか今日が卯月の朔日だと知って、あたしを担いだんじゃ・・」

「とんでもないよ、瑠璃さん」

高彬は大きく頭を振った。

「こんな、タチの悪い嘘なんかつかないよ」

「・・そうよね」

「ただ・・」

「ただ?」

「ぼくはもう少しで自分で自分に嘘をつくところだったんだなと思って」

「・・・」

「記憶を失くしたとは言え、瑠璃さん以外の人と結婚するなんて、これ以上の嘘はないよ。そんなのに騙されるなんて馬鹿も馬鹿、大馬鹿者だよ」

「・・・」

「あのまま結婚してたら、ぼくは歴史に残る『4月馬鹿』になっていたんだな」

そう言って笑い、そんな高彬を見てるうち、ふつふつと笑いがこみあげてくる。

「ほんとよ、自分で自分の嘘に騙されるなんて」

「おかしいよな」

「そっか、今日は嘘ついて良い日だったわよね」

あたしは笑いながら高彬の手を取った。

「あたし、高彬のことが大嫌いよ」

「ぼくもだ。ぼくも瑠璃さんのことなんか大嫌いだ」

「顔も見たくないわ」

「あぁ、一生ね」

「もう二度と・・・会いたくない」

笑って言ってるはずが、だんだんと涙声になっていく。

「高彬のことなんか、本当に大嫌いよ・・・」

頬を伝った涙を高彬の指が拭い、あたしはまた高彬に抱きしめられたのだった。




~終~


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*** 筒井筒のお約束をもう一度 <again and again -2/3->

『なんて素敵にジャパネスク〜二次小説』

 

※このお話は初夜編(完結済み)のパラレルです。3話完結。
                        







***  筒井筒のお約束をもう一度<again and again -2/3-> ***  







春まだ浅いと言うのに、じっとりと背中が汗ばんでいる。

右大臣邸へと向かう牛車の中、もう何度目かわからないため息をついた。

今日ばかりは、牛車のこの緩やかな進みが恨めしいわ。

高彬が記憶を失ったと聞いたのが2日前。

取るものも取りあえず急ぎ帰京してみたら、三条邸は混乱の極み、と言う様相を呈していた。

父さまに取って高彬は大切な婿君だったし、融に至っては童の頃からの大の親友。

2人はあたしの顔を見るや否や

「瑠璃や!」

「姉さん!」

と飛びついてきた。

「高彬どのが、高彬どのが・・」

「姉さん、何か詳しいこと聞いてないの?」

口々に言われ

「吉野から今帰ってきたばかりのあたしが、何か知ってるわけないでしょう。あたしが聞きたいくらいなんだから」

「そ、そうか・・・」

父さまも融もシュンとし、どうやら2人の元にも詳細は届いていないみたいだった。

右大臣家でのあたしの評判は悪いみたいだし、そもそも結婚に難色を示していたことを思えば、詳しいことをわざわざあっちから教えてくれるなんてことはないのかも知れない。

「このまま破談にでもなったら・・」

父さまはブツブツ言い、あたしもそこが気にならないと言えばウソになるけど、でも、それよりもやっぱり高彬のことが心配だった。

記憶を失ったなんて・・・

高彬、どうしているんだろう。

「姉さん、高彬のとこに行こうよ」

「え、どうやって」

「ぼくがお見舞いに行くからさ、姉さんも牛車に同乗すればいんだよ。なんだかんだ理由を付けて庭先まで車を付けてもらうようにするから」

「融・・・」

融はすぐに先触れを出し、こうして二人で右大臣邸に向かっていると言うわけなんだけど・・・

仮にも内大臣家の子息と言う事で、融の申し出はすんなりと聞き入れられ、車は高彬の部屋の庭先に横付けされた。

「ぼくはここで待ってるよ」

姉思いの融の言葉に後押しされ、簾を巻き上げて簀子縁に下り立つと

「瑠璃姫さま・・」

大江が出迎えてくれ、そのままヒシっとあたしの腕を掴んできて、あたしたちは黙って見つめ合った。

言葉がなくても、気持ちはお互い手に取るように分かる。

「こちらへ・・・」

大江に招かれ部屋に入って行くと、部屋の中央に脇息に寄りかかるようにして高彬がいた。

「・・・・」

本当に見た目は普段通りで、入ってきたあたしを見ると姿勢をただし、でも黙ったままだった。

そうして静かな目であたしを見ている。

前に座り、しばらく沈黙が流れ、最初に口を開いたのは高彬だった。

「失礼ですが・・、お名前をお聞かせいただけないでしょうか」

「・・・・」

ぐっと奥歯を噛みしめる。

───仕方ないじゃない。みんな忘れてしまってるんだから。

分かってるんだけど、やっぱり涙が出そうになった。

慌てて目を瞬かせ涙を引っ込めると、あたしはにっこりと笑った。

「瑠璃、よ。藤原瑠璃」

「瑠璃姫・・」

「弟の融はあなたの親友で、あたしたちは童の頃からよく遊んでいたの」

「童の頃から・・」

「そう。それでね」

いったん言葉を切ると、あたしは息を吸った。

「それで・・・、あたしたち、婚約者なの」

「・・・」

じっと高彬の目を見ても大きな変化はなく、ふっと目を逸らすと

「申し訳ない。本当に何も思い出せなくて・・・」

申し訳なさそうに言葉を濁した。

「うん。そうよね・・・」

また涙が出そうになったけど、目の前の高彬を見てるうち気が変わった。

一番、辛いのは高彬なんだもん。

あたしがメソメソしてる場合じゃないわ。

にっこりと笑うとあたしは明るい口調で

「とにかく大きな怪我がなくて良かったわ。命に別状がなかっただけでめっけもんよ」

「・・・」

「きっと、そのうち記憶も戻るわ」

「・・そうだろうか・・」

「そうよ。あんまり焦っちゃだめよ。あんた・・、あなたは真面目で何でも自分で抱え込んじゃうところがあるから、辛い気持ちは誰かに聞いてもらわなきゃだめよ」

「・・・」

「たくさん食べて、良く寝て。そうすればきっと、いいことがあるわ」

「・・・」

言いながら、何だか最後の伝言みたいだわ、なんて自嘲気味に考える。

まるで、もうこれっきり、高彬と会えないみたいなことばかり言ってる・・・

「深刻な顔してたって記憶が戻るわけじゃないんだし、なるべく明るくしているのよ」

言いながら言葉が震えてきてしまい、慌てて笑顔を作った。

「あなたは回りからの信頼も篤いし、すごく良い人なの。仕事も出来るし。だから自信を持っていいわ」

「・・・」

「じゃあ、あたし、もう行くわ」

立ち上がり、部屋を出るところで立ち止まり、少し迷って振り返った。

「・・元気でね」

高彬が小さく頷いたようにも見え、あたしはそのまま妻戸を開けて外に出た。



*******



少しして、高彬が兵部卿宮家の二の姫と結婚をすると言う噂が耳に入って来た。

その話を聞いても、案外とあたしの心は静かだった。

どこかで、そういうことになるだろうな、と思っていたからかも知れない。

通い婚の現代、殿方の方にその気持ちがなければ結婚が成立するわけもなく、高彬があたしのことを忘れてることを思えば、高彬があたしのところに通ってくることなんかあるはずもなかった。

右大臣家は最初から二の姫との婚姻を希望してたんだし・・・

いくらあたしがはねっ返りとは言え、高彬を攫いに行くことは出来ないし、また、そうすることが高彬の幸せだとも思えなかった。

高彬が二の姫と結婚をすると言う夜、あたしは静かに灯台の火を見ながら過ごしていた。

考えるのは高彬のことばかりで

(わがままばかり言ってたなぁ)

とか

(高彬はいつも優しくしてくれてたっけ・・)

とか、そんなことばかりを思っていた。

でもやっぱり一番に思うのは、高彬には幸せになって欲しい、と言うことで───

カタン。

ふいに妻戸の開く音がして、同時に灯台の火が揺れた。

ハッとして顔をあげると───

高彬が立っていた。






~<again and again -3/3->へ続く~


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*** 筒井筒のお約束をもう一度 <again and again -1/3->

『なんて素敵にジャパネスク〜二次小説』

 

※このお話は初夜編(完結済み)のパラレルです。3話完結。
                        







***  筒井筒のお約束をもう一度<again and again -1/3-> ***  







春はすぐそこまで───

あたしが吉野に来た3日前に比べても、日に日に空気は緩み、目に見えて桜の蕾が綻び始めている。

薄い水色の空には刷毛で描いたような雲が流れ、山際はぼぅっと霞みかかっている。

長く寒い冬が終わり雪解けが進むと、吉野にはいっぺんに春がやってくる。

山荘の簀子縁に立ち、あたしは(うーん)と両手を伸ばし、早春の爽やかな空気を胸いっぱいに吸い込んだ。

───7年ぶりの吉野。

幼い頃、お祖母さまとここで過ごしたあたしは、吉野君と言う男の子と出会いプロポーズをされた。

なのに、どういう運命の巡りあわせか、吉野君は流行り病で死んでしまった。

母上もお祖母さまも相次いで亡くなり、京に戻ったあたしは泣いてばかりで・・・

そんな時、高彬が一生懸命なぐさめてくれて、あたしたちは結婚のお約束をした。

あたしが約束を忘れてしまうと言うハプニングはあったけど、高彬はずっと覚えててくれて、そうして来月───卯月の望月(満月)の日にいよいよ結婚の運びとなったのだけど、あたしはふいに吉野に行きたくなってしまったのである。

何がしたいとか、そういうはっきりした目的はなくて、ただ、結婚前に幼い日を過ごした思い出の地に来てみたかった。

吉野君があんまりふいに死んでしまったから、何て言うか自分の中で現実味がなくて、だからはっきりと胸に刻み付けたかったのかも知れない。

心の中で思い出の吉野君にサヨナラをして、そうして、高彬との結婚を迎えたい───

うん、そんな感じなのよ。

結婚を控えて、多少、センチメンタルに浸っちゃってるって言うのもあるし。

高彬は気持ち良く吉野に送り出してくれたし、数日、ここで過ごして、あたしはまた高彬の待つ京に戻るの。

「小萩、ちょっと散歩してくるわね」

部屋の隅でお衣裳の手入れをしていた小萩に声を掛ける。

「まぁ、姫さま、お一人で大丈夫でいらっしゃいますの?」

「大丈夫よ。この辺りは庭みたいなもんだもの。少し散歩してすぐに戻るわ」

小萩に手伝ってもらい、小袿をはしょって壺装束の格好になり外に出る。

小柴垣を抜けてだらだらとした下りの山道を歩いて少し行くと、ふいに景色が開け、広い空間が広がった。

一面の野原。

草が生い茂り、野の花が咲き競い、吹く風は優しくて、空はどこまでも澄んだ水色をしている。

ここであたしは、毎日のように吉野君と遊んだのよ。

懐かしいなぁ・・

もっともっと広い場所のように見えていたのは、きっとあたしが小さかったからに違いないわ。

小枝を拾い、野原の中を気の向くままに歩いていると

「・・さま~」

風に乗り、途切れ途切れの声が聞こえた気がして、立ち止まり耳を澄ませる。

「・・めさま~」

「・・・るり・・ひ・・さま~」

どうやら複数の人が、あたしの名前を呼びながらこっちに近づいてくるみたいだった。

やがて人の姿が現れ、どうやら小萩のようで

「ここよ~」

あたしは大きく手を振った。

小走りに近づいてきた小萩は、あたしの前に来ると胸に手を当て大きく息を整えると

「姫さま、すぐに山荘にお戻りくださいませ」

「なぜよ。まだ来たばかりだし、陽も高いわ」

「たった今、京より早馬が到着致しました」

「京から?」

「はい」

小萩はごくり、と唾を飲み込むと

「姫さま、心を落ち着かせてお聞きくださいませ」

「何よ」

「少将さまが行幸のお供の最中に落馬されたとの由・・・」

「落馬?!高彬が?!」

ギョッとして持っていた小枝を取り落とす。

「・・・はい」

「で、怪我はどうなの?高彬は大丈夫なの?!」

「上手く受け身を取られたとかで、お身体の方はさしたる怪我もなかったようなのでございますが・・」

「何よ・・・、その言い方、何かあるの?!」

歯切れ悪い小萩の口吻に不安ばかりが募ってくる。

「怪我はなかったんでしょ?ならいいじゃない。他に何かあるって言うの?受け身を取れたのなら・・」

「それが、落ちた時に頭を強くぶつけてしまったらしく、それが原因で記憶を失くしてしまったと言う事でございまして・・・」

「・・・・」

ガクガクと足の方から震えが上がってくる。

嘘でしょう?

そんな───

高彬が記憶を失ってしまっただなんて!







~<again and again -2/3->へ続く~


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