***古典シリーズ*** 《続》今は昔。<新釈・竹取物語>最終話

『なんて素敵にジャパネスク〜二次小説』






注)原作の設定を大きく逸脱した部分を含むお話です。閲覧は自己責任でお願いいたします。
               
        






***古典シリーズ*** 《続》今は昔。<新釈・竹取物語>最終話 ***






「秋篠中将どの・・」

突然の貴人の来訪に慌てふためく女房らに向かい、秋篠中将は

「お気遣いは無用です。先触れもなく訪問したのは私ですからね」

笑って見せ

「代わりと言ってはなんですが、少しの間、右近・・いや、高彬どのと2人きりにしてはいただけないでしょうか」

そう言うと、波が引くように女房らは退がっていき、部屋には秋篠中将とぼくの2人きりになった。

当然のこと、瑠璃さんも同席はしていない。

「どうだ、こっちでの暮らしは」

「はい。問題なく過ごしております」

「そうか」

秋篠中将は外に目をやり、しばらく景色を眺めると

「良いところだな、ここは」

独り言ちるように言った。

「はい」

「実は、おまえに見てもらいたいものがあってやって来た」

「見てもらいたいもの、ですか・・」

秋篠中将は袂をまさぐると、料紙の束を取りだし、ばくの前に置いた。

「これは・・」

「まぁ、見てみろ」

促され、手に取ると、束と思っていたものは片側で閉じられ草子の体を成している。

何も書かれていない一枚目をめくると、次の頁にはぎっしりと何かが書き込まれており、パラパラとめくって行くとそれが最後まで続いている。

全て人名や官職名で、何かの名簿か帳簿のようだけど・・・

「署名だよ」

「・・・」

秋篠中将の言葉に、顔を上げた。

「おまえを宮中に戻して欲しいとの嘆願書が提出されてな。それに集まった署名だ」

「・・・」

「一枚目の最初の名前を見てみろ」

草子を元に戻し、言われたところを見てみると

承香殿女御───

姉上の名があった。

その先にも右大臣、内大臣はもちろんのこと、名だたる重鎮の名が並び、従八位上の近衛少志の名まである。

「宮廷に携わる者は、門衛に至るまで、皆、軒並み、署名したらしいぞ。舎人に地下人、いわゆる下級官人もな」

「・・・」

「どうだ、戻って来ないか」

「ですが・・」

「そう言えば、嘆願書は誰が書いたんだろうかともっぱらの噂でな」

「・・・」

「夜中のうちに中務省に置かれていたらしく、朝早くに出廷した少丞が見つけたものらしい」

「・・・」

「嘆願書はそれは見事な手蹟でしたためられていたらしく、手に取った瞬間、何ともやんごとなき香りが立ち込めたと言う事だ。まぁ、従六位上の少丞では、殿上したこともないだろうし、あるいは、見つけたのがおまえや私だったら、その手蹟がどなたのもので、その香りがどなたのものかもすぐに判ったのかも知れないがな」

「・・・」

秋篠中将は、じっとぼくの顔を見ると、ふっと笑って見せた。

「今上は激しやすい一面をお持ちの御方だ。だが今回のことは後悔されている。これだけの署名が集まれば、今上だってその声を無視することは出来ない。高彬、私の顔を立てると思って、誰が嘆願書を書いたかは不問のままに、近衛府に戻って来てはくれまいか」

「・・・」

「無理か?宮廷はもうコリゴリか?」

「いえ」

ぼくは小さく頭を振った。

「ただ・・・、ちょっと確認したい人がおりまして。ぼくの一存では」

「わかった。少し、待たせてもらっても良いか。吉報を持って帰京したい。少しばかり、今上の憔悴が大きくてな」

「はい」

頷き、立ち上がったぼくに

「そう言えば」

秋篠中将がふと、思い出したような声を上げた。

「たった一人、署名をしなかった官人がいてな」

「・・どなたですか?」

別に聞き出すつもりはなかったけど、何となく流れで聞いてみると

「大夫の君だよ」

「融、ですか」

「そうだ。何でもな、吉野で見たおまえが幸せそうに見えたから署名はしないと言う事だったよ」

「・・・」

秋篠中将は小さく笑い、ぼくは一礼をするとそのまま部屋を出た。

「高彬」

瑠璃さんのいる部屋に向かおうと角を曲がると、声を掛けられた。

「瑠璃さん・・」

「立ち聞きしちゃった」

秋篠中将と会っていた隣の部屋から、瑠璃さんがゆっくりと出てきた。

「・・・」

「あたしは大賛成よ」

「・・・」

「帰りましょ。京に」

瑠璃さんはぼくの前に立つと、まっすぐにぼくの目を見てくる。

「でも」

「高彬。あたし、あなたがあたしのために官位も捨ててくれるって判っただけで、もう、大満足なのよ」

「・・・」

「でも、きっと、まだこの生活はあたしたちには早いわ」

「・・・」

「高彬が仕事に打ち込んでるの分かってるし」

「・・・」

「だから。今すぐ、返事してらっしゃいよ。すぐに京に戻りますって」

「でも・・、瑠璃さんはそれでいいの?」

「もちろん、いいわよ」

「・・・」

「仕事してる高彬も好きだもの。あたし・・、どんな高彬も好きよ」

「瑠璃さん・・」

瑠璃さんはふいに視線を外して

「もう、恥ずかしいったら・・」

ぶつぶつと呟いたかと思ったら

「あ、でも、闕腋袍を縫うとかは無理よ。京に戻ってもそれは言わないでね」

慌てたように言い

「そんなこと言われたら、本当に月に帰るわよ。何たって、あたしは『かぐや姫』なんですからね」

「・・うん。言わないよ」

笑って頷きながらも、鼻の奥がツンと痛くなり、気付かれないようにさりげなく目を逸らした。

署名をしてくれた皆の気持ちも、しなかった融の気持ちも、こんな風に笑いに紛らわせてくれる瑠璃さんの気持ちも、どれもありがたかった。

その2週間後、ぼくはまた近衛府にいた。

ぼくが不在中に、てっきり、もう右近衛府の少将の座の後任が決まっているかと思ったのに、ずっと空白のままで、秋篠中将いわく

「おまえ以外に、誰が右近少将が務まるんだ」

との事で、ぼくは変わらず『右近少将』と呼ばれる身になった。

都中の公達の憧れの『かぐや姫もかくやあらん』と言われる瑠璃姫を妻に持ち、花形ポストの近衛少将に就き、ぼくは皆から羨望の眼差しを向けられるようになり、実際、充実した毎日を送っていた。

だけど、世の中、そう全てが上手くは行かないもので、守弥は顔も見れば

「私のせっかくの秘策が不発に・・」

と恨みがましい目で見てくるし、瑠璃さんは瑠璃さんで、望月を見ると「かぐや姫ごっこ」をしたがったりと、色々と頭を悩ますこともあったけど、だけど、やはり総じては楽しい日々なのだった。

月夜に照らされる瑠璃さんの寝顔を見たりすると、お互いに片思いしてすれ違っていた頃のことが思い出され、懐かしさとももどかしさとも言えない感情が湧き起こったりして、だけど、今のぼくたちに取ってそんな日々は、まったくもって

今は昔。───

の物語なのではあった。






<終>

《続》今は昔。<新釈・竹取物語>、これにて完結です。長らくのお付き合いありがとうございました。
『今は昔。』楽しんでいただけましたらクリックで応援をお願いいたします。
↓↓




(←お礼画像&SS付きです)

***古典シリーズ*** 《続》今は昔。<新釈・竹取物語>14

『なんて素敵にジャパネスク〜二次小説』






注)原作の設定を大きく逸脱した部分を含むお話です。閲覧は自己責任でお願いいたします。
               
        






***古典シリーズ*** 《続》今は昔。<新釈・竹取物語>14 ***






「融、いつこっちに来たの?」

「本当にたった今だよ。京を出たのは一昨日だったかな」

山荘の一室に融を遠し、ぼくと瑠璃さん二人並んで、融と対面で座る。

「来るなら来るって、文の一通でも送ってくれたら良かったのに。ねぇ」

瑠璃さんに相槌を求められ

「そうだよ。こんな急に来るなんて」

頷くと

「え?送ったよ。一週間前に早馬でさ」

融に切り返され、瑠璃さんと顔を見合わせた。

「おまえたち、知ってた?」

瑠璃さんは廂に控える小萩や大江、他の女房らに聞き、だけど、皆、一様に首を横に振り、お互いの顔を見合ったりしている。

そんな中、小萩が

「あ。そう言えば・・。少し前にお文があったような、なかったような・・」

首を傾げだし

「姫さまにお渡しいたしませんでしたっけ?」

膝を進め、瑠璃さんに聞いてきた。

「文?うーん・・」

天井を仰ぎながら、考えることしばし。

「あぁ!そう言えば!」

瑠璃さんはポンと手を打った。

「そういや、小萩に渡されたことがあったわね。高彬と散歩に出る前だったから、後で読もうって思って、それっきりに・・・。あれが融からの文だったのね」

「ひどいや、姉さん」

「ま、こうして無事、来れたんだからいいじゃない」

瑠璃さんは、さっさと話を終わらせ

「今、高彬と川に行こうと思ってたのよ。おまえも行かない?前に遊んだ、あの小川よ」

「川か。・・・うん。久しぶりだし行こうかな」

融は快諾し、3人で山荘を出た。

陽はまだ高い所にある。



*******



「懐かしいわよね、こうして三人で吉野を歩くの。何年ぶりかしら」

「8年・・・、いや、もっとかな」

緑溢れる鄙びた小道を下り、時々、立ち止まっては花の匂いを嗅ぎ、少し行くと川に出た。

幅六尺足らずの小川で、川縁ぎりぎりまで野草が生い茂っている。

所々にある大きな石を足場に、瑠璃さんは器用に向こう岸に渡り、さっそく鮒を見つけようと目を凝らしている。

「元気そうで安心したよ」

少し小川から離れたところにある手頃な岩に腰掛けると、融は前を向いたまま言った。

「うん、ぼくも瑠璃さんも元気だよ」

同じく、視線は瑠璃さんに向けたまま答える。

「2人、どうしてるかなって思ってたけど」

「うん」

「あのさ、高彬。姉さんとは、そのぅ、ちゃんと結婚したんだよね」

心配そうに聞かれ

「したよ。三日夜餅も食べた」

笑って言うと

「うん」

融は安心したように頷き、聞こえるか聞こえないかくらいの小さな声で

「ありがと」

と呟いた。

それには返事をせず、黙って瑠璃さんを見てると

「これから、高彬はどうするの?」

「・・・」

「ぼくが聞くことじゃないかも知れないけど、大内裏に出入り禁止みたいになっちゃったし、それに、その・・・無位無官になっちゃったし」

「だな」

「もちろん、父さまが全面的にバックアップするから、困るようなことはないだろうけどさ。でも、高彬、どうするのかなぁと思って。ほんと、ぼくが聞くことじゃないかも知れないけど。姉さんのためにしてくれたことだし・・」

「大丈夫だよ。自分で決めたことだし。まぁ、追い追い考えていくさ。瑠璃さんとも相談してね。少なくとも融が気に病むことじゃない」

笑って言い、融の肩を叩くと

「うん。そっか」

融は嬉しそうに笑い、また前を向いた。

「鮒は見えるんだけど、捕まらないー」

向こうで瑠璃さんが大きな声を上げ、それに手を振り返しながら、ぼくは気付かれないように小さく唇を引き結んだ。

融に言った言葉は嘘じゃない。

自分で決めたことだし、微塵も後悔などはしていなかった。

だけど、後悔とかとは全く違うところで、宮廷を懐かしく思う自分がいることにも気付いていた。

出世とか、官位とか、そんなのとは無縁のところで、ただただ職場が懐かしかった。

きびきびとした同僚の所作、上司の叱責する声、凛と張りつめた空気───

一通の文が紛れてもそれが大したことにならない今とは対極にあるような、緊張感のある毎日・・・

きっと、ぼくは毎日、仕事に明け暮れし過ぎていたのだろう。

だから、この、のんびりとした毎日に身体が馴染めていないんだと思う。

だけど、ぼくはこの生活を選んだ。

瑠璃さんの入内を阻止するには、これが最善の選択だった。

後悔など本当に微塵もしていないし、もし、今、もう一度、決めていいと言われても、同じ選択をすると言い切れる。

まぁ、慣れの問題かも知れないな。

毎日、仕事に行ってたのが、急に行かなくなったんだから。

ちょっと、それで、里心じゃないけど、仕事や職場を懐かしく思ってしまうのかも知れないな・・・

「2人ともー!手伝ってー」

瑠璃さんに言われ、融と2人、立ち上がって小川に向かう。


*********


三日間滞在して、融は帰っていった。

久しぶりに2人きりになった夕刻、部屋で寛いでいると

「ねぇ、高彬。あたし、京で暮らすのでもいいのよ」

唐突に瑠璃さんが言ってきた。

「え」

「高彬、毎日、退屈してるんじゃなくて?ほら、あたしは毎日、こんな生活送ってたけど、高彬は今までと、全然、違うから」

「退屈、なんてことはないよ」

ぼくは瑠璃さんの手を取ると、優しくポンポンと叩いた。

「・・・」

「ぼくが決めたことだからね。瑠璃さんとこうして結婚出来て、それだけで満足だ」

「・・でも」

「大丈夫だよ。そんなことを言いだすなんて、もしかしたら瑠璃さんの方こそ、もう退屈しちゃったんじゃないのかい?」

「そんなことはないわよ」

「なら、いいじゃないか」

「だけど・・」

「さ、もうこの話はおしまいだ。・・・ほら、瑠璃さん、見てごらん。山際が燃えるような夕焼けだ」

2人、並んで夕焼けを眺め、どちらからともなく寄り添い、どちらからともなく接吻をする。

夜には、たっぷりと抱き合った。

その二週間後───

思ってもみない人の訪問があった。





<続>

次回で最終回(予定)です。『今は昔。』楽しんでいただけましたらクリックで応援をお願いいたします。
↓↓




(←お礼画像&SS付きです)

***古典シリーズ*** 《続》今は昔。<新釈・竹取物語>13

『なんて素敵にジャパネスク〜二次小説』






注)原作の設定を大きく逸脱した部分を含むお話です。閲覧は自己責任でお願いいたします。
               
        






***古典シリーズ*** 《続》今は昔。<新釈・竹取物語>13 ***






ここ吉野には、春と初夏が一辺に来ると言うことを知った。

ついこの間まで朝晩はひんやりと涼しいくらいだったのに、ある朝、目が覚めたら空の色が違っていた。

今までより一段濃くなった空には悠々と鳶が旋回し、その回りをしっかりとした輪郭を描く白い雲が浮かんでいる。

「高彬ー」

名前を呼ばれたのに、瑠璃さんの姿が見えず、キョロキョロと辺りを見回していると、思ってもみない方角からピョンと瑠璃さんが現れた。

どうやら背の高い草むらにしゃがみこんでいたみたいだった。

さっきから瑠璃さんは野の花を摘むのに夢中なのである。

「ほら、もうこんなに集まっちゃった」

ぼくの隣に腰を下ろすと、瑠璃さんは手の中にある色とりどりの花を差し出して見せた。

「きれいだね」

「早く水に入れてあげないと。山荘に戻りましょ」

「うん」

二人揃って立ち上がり、どちらからともなく手を繋いで歩き出す。

吉野に来て、三週間が経っていた。

あの夜───

大婚の儀の夜、あの後、帝は怒りを露わにし、宮廷内は文字通り、嵐のように荒れ狂う夜となったらしい。

帝の口から「全ての官位、位階を剥奪する」の言葉が発せられると、辺りは不気味なまでの静けさに包まれ、そんな中、どこかから「どさり」と何かの倒れる音がし、後になってそれは守弥が倒れた音だと知った。

だけど、その時のぼくにそんなことは分からないから、帝に一礼をすると、すぐに檳榔毛車に向かった。

簾を巻き上げると車内の奥の方に瑠璃さんは立っていて、ぼくの顔を見るとはじかれたように動き出し、ぼくの胸に飛び込んできた。

しっかりと瑠璃さんを受け止め抱き上げる。

ぼくたち以外、動く者は誰一人としていなかった。

呆けたように立ち尽くす近衛武官から手綱を取り上げ、瑠璃さんもろともに騎馬すると馬の腹を蹴る。

一声、嘶きを上げた馬は走り出し、そのまま建礼門をくぐり、一気に大内裏も走り抜ける。

朱雀大路を南下し鴛鴦殿に着くまで、ぼくたちは何も話さず、ただ蹄の音だけが響いていた。

ぼくが行くことを予め知っていた田嶋は、ぼくたちが到着すると、すかさず門を厳重に閉ざした。

通され、二人きりになった部屋で、ぼくたちは言葉もないままにひしと抱き合い、不慣れなままに激しく求め合った。

何度も求め合い、二人して気を失うように眠りに就き、東の空が白々と明るくなる頃、ぼくはふと目を覚ました。

何かの物音が聞こえた気がして、瑠璃さんに単衣を着せかけてやり部屋を出る。

角を曲がると、守弥が立っていた。

額に傷があり

「どうした」

思わず聞くと

「お気になさらず。ちょっと倒れただけです」

守弥はにこりともせずに言い、何かが倒れたような物音は、守弥だったのかと合点が行った。

何も言わずに、じっとぼくを見たまま守弥は立っており

「おまえには悪いことをしたと思ってるよ」

気まずさが先だって目を逸らしながら言うと、守弥がわずかに頷く気配があり

「はい。若君は私にひどいことをなさいました。私は腹を立てております」

静かな声で言った。

「・・・分かってるよ。おまえが今まで、どれだけぼくの出世に尽力してくれてたかは。おまえが望むなら、どこか権門を紹介するぞ。内大臣さまならあるいは・・」

「若君は、せっかくの私の『秘策』を台無しになさいました」

「・・え」

「私が一月掛けて、練りに練った、水も漏らさぬ秘策を」

「・・・」

「皆の前で披露する機会を若君はお奪いになられた。だから私は腹を立てております」

「・・・」

守弥の口の端がほんの少し上がった気がして、だけど、すぐに元の顔に戻った。

「当面はどうされるおつもりですか」

「まずは早めに京を離れるつもりでいる。しばらくは騒がれるだろうからな」

「とりわけ北の方さまが黙ってはおられますまい」

「気が重いな」

守弥の表情が動き

「そうおっしゃるわりには、若君のお顔色はお宜しいようだ」

「どうしてだろうな」

少しの間、目が合い

「今後のことはお任せ下さい。しばしお時間を」

頭を下げると、守弥は下がって行った。

そのすぐ後に内大臣さまから、「瑠璃を頼む」「しばらくは表立っては何も出来ないが、ぜひ吉野山荘を好きに使って欲しい」と書かれた、心の籠った文が届いた。

その日のうちに守弥が手配した目立たない車で、ぼくたちは吉野に向かった。

後から来た者も合わせたら、結局はぼくの従者や、ぼく付きの女房、小萩や他の馴染みの女房も、ごっそりと吉野に来たので、まるで京にいるかのような賑やかさになってしまい、今に至っている。

「一旦、戻ったら、今度は川の方に行ってみましょうよ」

山荘が近づいてきたところで、瑠璃さんが言い

「うん、そうだね。また鮒がいるかも知れないね」

「今日こそは捕まえるわ」

「いくらんなんでも素手じゃ無理だよ。せめて釣竿が・・」

「おーい」

ふいに遠くから声が聞こえ、瑠璃さんと2人で顔を向けると

「高彬ー、姉さーん」

山荘の前で、融が手を振っていた。





<続>

次回か次々回で最終回です。『今は昔。』楽しんでいただけましたらクリックで応援をお願いいたします。
↓↓




(←お礼画像&SS付きです)

***古典シリーズ*** 《続》今は昔。<新釈・竹取物語>12

『なんて素敵にジャパネスク〜二次小説』






注)原作の設定を大きく逸脱した部分を含むお話です。閲覧は自己責任でお願いいたします。
               
        






***古典シリーズ*** 《続》今は昔。<新釈・竹取物語>12 ***






望月が夜空の半ばに差し掛かった頃、大内裏の門をくぐった。

通常は許されていない大内裏内を車で行き、内裏に向かう。

ただし、建礼門を車で通れるのは、新女御のみ。

内裏の外で車を下りたぼくは徒歩で門をくぐると、忍びやかに右近衛府の列に加わった。

紫宸殿の南庭は、随所に焚かれた篝火により昼と見紛うほどの明るさを保っており、正装をした文武百官が一分の狂いもなく整列し控えている。

庭の両脇には、左右近衛武官が引く、毛並みの良い栗色の馬が数頭、火を恐れることなく静かに列を成す。

母屋中央には玉座である高御座が置かれ、その中には言うまでもなく礼服を着用した帝が、大婚の儀のために着座されており、今は薄衣に覆われている。

白い玉砂利を踏みしだきながら瑠璃さんを乗せた檳榔毛車はゆっくりと進み、やがて右近の橘の横で止まった。

榻が置かれた車の脇には、女房装束に身を包んだ女官数人が恭しく控え、車から下りた瑠璃さんが紫宸殿中央にある南階から上って行く、と言う段取りだった。

控える文武百官、誰一人声を上げる者はなく、篝火が出すパチパチと木片の爆ぜる音だけが聞こえてくる。

中天に掛かった月は煌々と輝き、その光をあまねく照り渡らせている。

厳粛な雰囲気の中に、大婚の儀の始まりを告げる鉦鼓を打つ音が響き渡り、やがて夜空に吸い込まれて行った。

───いよいよ、だ。

ぼくは回りに気付かれないように、ぐっと腹に力を入れた。

守弥もどこかに潜んでいるはずである。

秘策、決行の刻───。

檳榔毛車を取り囲んでいた女官の一人が緩やかな所作で動き、今まさに蘇芳簾を巻き上げようとした瞬間───

右近衛府の列を離れ、ぼくは南階の前に立った。

段取りと違うぼくの動きに、言葉にならないどよめきが走るのを背中に感じ、高御座の中でわずかに帝の動く気配がある。

「畏れながら申し上げます」

ぼくの声が夜空に吸い込まれて行く。

「本日の大婚の儀、異議を申し立てます」

今度は明らかな「おぉ」と言う声が上がった。

(守弥、ごめん)

恐らくは今、腰を抜かさんばかりに驚いているであろう守弥に、心の中で詫びを入れる。

守弥とは別に、ぼくが考えていた「秘策」。

いや、秘策とは言わないのかも知れない。

正々堂々と正面から瑠璃さんを攫う。

それが、ぼくが考えた、最善で最良の、なおかつ確実な入内を阻止する方法だった。

守弥の秘策を聞いた時から、瑠璃さんを「いわくつきの姫」にすると言う事がどうにも気に掛かっていた。

それに、果たして、乗り移っていたかぐや姫だけが月に帰ったなんて話がうまく行くかどうかも不安だった。

よしんばそれがまかり通ったとしても、次に本物の瑠璃さんに興味を持たれたらおしまいなわけで、帝や他の公達に瑠璃さんを諦めてもらう手立てとしては、詰めが甘いような気がしていた。

吉野でのあの晩、小萩を下がらせた部屋で、ぼくは瑠璃さんに

「ぼくが右近少将でなくなっても構わないか」

と尋ねた。

瑠璃さんは笑って

「おかしなことを聞くのね。あたしは、あんたが無位無官の時から好きだったのよ、どうして今さら、官位を気にすると思うの」

そう言い、その時にぼくの心は決まったのだ。

ぼくはすべてを投げ捨て、瑠璃さんを妻にする。

瑠璃さんに、不本意な入内などさせない。ぼくが瑠璃さんを守る。

「瑠璃姫は私が妻とする姫です。入内させるわけには参りません」

水を打ったような静けさの後、ものすごいどよめきが波のように起こり、高御座から帝その人が姿を現すと、またシンと静まり返った。

「右近少将、それが何を意味することか判っているのか」

「はい。良く判っております。どんなお咎めも覚悟しております」

「咎め、とな。良く考えろ、右近少将。おまえは年若い公達の中では指折りの出世頭で、いずれは位人臣を極めるであろう。今、一時の感情で一生を棒に振るようなことを・・・」

「共に喜んでくれる人がいなければ、たとえ位を極めても虚しいだけです」

「・・・」

「すでに入内が決まっている姫を我が妻にすることが、どれだけの不敬に当たるかは判っています。覚悟は出来ております」

守弥はぼくが幼い頃から、一途にぼくの出世を願ってきた奴だ。

その守弥に言えば、絶対に反対されることは分かっていた。

「覚悟か。良い心掛けだ、右近少将。わかった、おまえに瑠璃姫はくれてやろう。ただし・・」

「はい」

ぼくはまっすぐに帝の目を見返した。

守弥がぼくに秘策の詳細を教えなかったのも、万が一にもコトが露見した時、ぼくが首謀者になり、それが出世の妨げになることを防ぐためだと言うことも分かっている。

だけど、ぼくが望むものは、出世ではなく───

瑠璃さんだ。

「右近少将。たった今、全ての官位、位階を剥奪する。よって、今後、官衙への一切の出入りを禁ずる」

帝の玉声が、夜空に響き渡る。





<続>

いよいよ大詰め。『今は昔。』楽しんでいただけましたらクリックで応援をお願いいたします。
↓↓




(←お礼画像&SS付きです)

***古典シリーズ*** 《続》今は昔。<新釈・竹取物語>11

『なんて素敵にジャパネスク〜二次小説』






注)原作の設定を大きく逸脱した部分を含むお話です。閲覧は自己責任でお願いいたします。
               
        






***古典シリーズ*** 《続》今は昔。<新釈・竹取物語>11 ***






「若君」

出仕の準備をしているぼくに向かい、緊張した面持ちで守弥が声を掛けてきた。

普段は水干姿の守弥だが、今日は参内すると言う事で文官用の束帯姿である。

だけど、守弥が緊張しているのは、着慣れない束帯装束のせいではないだろう。

今日───

と言うか、今夜これから、いよいよ<秘策>が決行されるからなのだ。

「それでは、どうか打ち合わせ通りに」

瞬きもせず、ぼくの目を真正面から見ながら言う守弥に、黙って頷くと、車宿りに向かう。

今日のぼくのいでたちはと言うと、浅緋色の礼服である。

礼服はいわば貴族の正装で、なぜ礼服を着用しているかと言うと、これから宮中にて大婚の儀が執り行われるからだ。

大婚の儀とは、帝の婚儀のことであり、すなわち新しく後宮に妃が誕生すると言う事である。

そう。

今日は瑠璃さんが女御として入内する日なのだ。

宮廷から回された、ハレの日のための特別な御所車に乗り込み、簾が下ろされたところで、ぼくは目を瞑った。

背筋を正し、軽く息を吸い込む。

長いような、短いような、一月だった。

あの日────

吉野に帝から瑠璃さん宛てに文が届いた日、ぼくはあの後、夜明けを待って馬を駆り、すぐに京に戻って来た。

思っていた通り、三日後の次の十五夜に宣旨が下ろされた。

宣下された日、帝からお召があり、伺候すると

「近衛少将として、大婚の儀の新女御の警護を命ずる」

とのお達しがあた。

警護、つまりは輿入れする瑠璃さんの道程に付き従え、と言う命である。

黙って平伏し、御前を後にした。

瑠璃さんたち一行が帰京したのは、その日の夜のことだった。

帰京した瑠璃さんを、ひとまずは右大臣邸に匿うと、そこで守弥から<秘策>の詳細が語られた。

実は、ぼくはこの場には居合わせていない。

守弥が

「これは私の一存で行うことですから、若君のお耳にお入れする必要はありません」

と言って譲らず、どうしても立ち合わせてくれず、また、瑠璃さんも守弥の意見を支持し、ぼくはすっかり蚊帳の外に追いやられてしまったのだ。

守弥は

「大婚の儀の最中に、瑠璃姫が月からやってきた使者に攫われて行くので、ただ若君は驚いていてくれればよろしいのです」

と繰り返すばかりで、ぼくには<秘策>の手順などは一切知らされていない。

ただ、ぼくの従者や、他にも守弥の手足となって動ける人材を集めたらしく、それらの人物は、すでに宮廷に潜り込んでいるようである。

御所車はカラカラと音を立てながら、夕闇迫る都大路を三条邸へと向かう。

宣下からちょうど一月、今日も望月で、欠けることのない見事な月が東の空のまだ低い位置に上り初めている。

時間の共に、じき望月は中天にかかるだろう。

ふと、人のざわめきを感じ、物見窓を開けると、三条邸の前には、輿入れする姫君を一目見ようと人だかりが出来ていた。

普段、使われることのない勅使門が開かれており、早いうちから篝火が焚かれている。

宮中からの護衛と言う事で正門から通され、客間で待っていると、やがて瑠璃さんが現れた。

髪は金銀珠玉の髪飾りを刺した宝髻とし、正装をしている。

ぼくの後ろに控える女官以下、皆で平伏し瑠璃さんが座位するのを待つ。

入内し「女御宣下」が下されると、瑠璃さんには従三位が与えられることになり、今はまだその位階は与えられていないとはいえ、帝の妃と言う事で、不敬があってはならないのだ。

瑠璃さんが座る気配があり

「ご苦労さまに存じます」

やがて少し強ばった口調の瑠璃さんの声が聞こえた。

ほんの少し顔をあげたところで、瑠璃さんと目が合い、お互い、さりげなく視線を外す。

回りに何も悟らせてはいけない。

ぼくと瑠璃さんは、警護する者と、警護される者の関係───

月の位置が少し高くなる頃、瑠璃姫の輿入れ一行は、ゆるゆると内裏を目指して行く。






<続>

いよいよクライマックス。<秘策>の行方は───?楽しんでいただけましたらクリックで応援をお願いいたします。
↓↓




(←お礼画像&SS付きです)
プロフィール

瑞月

Author:瑞月
瑞月(みずき)です。

ランキングバナー

にほんブログ村

ランキングに参加しています。
楽しんでいただけましたら
クリックで応援をお願い致します。
1日1クリック有効です。
初めにお読みください
**当ブログの簡単な説明です**
当ブログは「なんて素敵にジャパネスク」の二次小説を掲載しております。 二次小説と言う言葉を知らない方や苦手な方は閲覧ご注意ください。 また読後のクレームはお受けできません。 「ごあいさつ<最初にお読みください>」も合わせてご一読下さい。
カテゴリ
別館
乳姉妹ブログ
日記ブログ
掲示板
なんて素敵にサイト様 
最新記事
ご訪問ありがとう(H23.11.28-)
**オンラインカウンター**
現在の閲覧者数:
コメントありがとうございます
お礼SSや「他己紹介」があります。
web拍手 by FC2
** あれこれ投票所 **
お好きなジャンルをお選びください。 投票は何度でも可能です。
*** あれこれ投票所2 ***
メールフォーム(ご用の方はこちらから)

名前:
メール:
件名:
本文:

カレンダー
09 | 2017/10 | 11
1 2 3 4 5 6 7
8 9 10 11 12 13 14
15 16 17 18 19 20 21
22 23 24 25 26 27 28
29 30 31 - - - -
月別アーカイブ