社会人・恋人編<83>

「リーフレット、取りに来ました」

「あ、はい。こちらです」

リーフレットを受け取りつつ、何かが気になっていると、果たしてそれが顔に出たのか「阿野」と言う名札を付けた女性社員は

「何か・・?」

不思議そうな顔でぼくの顔を見て───






─Up to you !Ⅱ─<第83話>






「あ、いえ。すみません。何だか・・・どこかで見かけた気がしたもので」

言ってから、まるでナンパのセリフみたいだったな、と後悔した。

だけど、曽茅野氏が見つめていた女性だと言う事がどうにも引っ掛かり

「最近、東京支店に赴任されてきたんですか?」

そう聞いてみた。

あまり見たことのない顔だったから、中途入社か、もしくは異動なのかと思ったのだ。

「いいえ」

その女性は首を横に振り、薄っすらと笑みを浮かべた。

「かなり前からいますわ。ここに来て、来月で1年になります」

「え。あ・・、すみません。失礼なこと言って・・」

謝ると

「いいえ。私、影が薄いみたいなんです。ずっとそこにいても、よく『いつからいたの?』って聞かれます」

女性は笑い、案外、その笑顔が屈託なくてホッとしてしまう。

確かに見た目はどちらかと言うと目立つタイプには見えないけど、根は明るい人なのかも知れない。

「藤原さん、ですよね?」

「はい」

「どこかで見た、と言うのは当たってると思います。私も藤原さんを前に見てますから」

「え・・、どこで」

「シンガポール支店でです。藤原さん、出張でお見えになったことあるでしょう?1年くらい前に」

「はい」

「支店にお寄りになった時、私、いたんです。受付兼、事務職として」

「・・・」

「だから、その時に藤原さんをお見かけしてますし、藤原さんも私を見たんだと思いますわ」

「じゃあ、その後に、東京支店に異動してきたんですか」

「はい、そうです。広報の仕事がしたくて、ずっと希望出してたら、それが通りました」

「・・・なるほど」

その後は適当な話をして、広報課を後にした。

階段の踊り場で、立ち止まるとすばやく情報を整理する。

曽茅野氏が思わせぶりな視線で見ていた女性は、以前にシンガポール支店に勤務していた。

当然、曽茅野氏とは面識があるはずだ。

その女性が、1年近く前に東京支店にやってきて・・・

「・・・気を付けなさいよ」

突然、声を掛けられ、ギョッとして振り返ると、水無瀬が立っていた。

「水無瀬・・・。驚かすなよ」

「どうして、ああ言う目立つことするの。上手くやんなさいよって忠告してあげたばかりじゃない」

「は?何が目立つことなんだよ」

「だから、阿野さんと今みたいに親しげに話すことよ」

「阿野さんって今の広報の人か?」

「そうよ、阿野妃芽さん」

「あや、ひめ。すごい名前なんだな」

「まぁね、あの儚げな容貌もあってか、一部の男性社員の間では『姫君』なんて言われてるらしいわよ」

「へぇ、ぼくは聞いたことないけど」

「一部では、よ。はっきりいって既婚のオジさまたち。そそられるんじゃない?」

「・・ふぅん。で、どうしてぼくが阿野さんと話すことが、目立つことなんだよ」

「呆れた。本当に何も知らないのね」

水無瀬はバカにしたような目でぼくをみると

「藤原くんを取り合って揉めたと言う噂の広報の女性って、阿野さんよ」

「え」

「秘書課の子は、もう辞めちゃったけど」

「・・・」

「それに、ほら、前に言ってた、藤原くんがとっかえひっかえマンションに引っ張り込んでるって人の中にも、阿野さんの名前も挙がってたわよ」

「・・・」

「いや。ぼくは取り合いされた覚えも、もちろんマンションに連れ込んだ覚えもないけど・・」

「だから、噂だってば」

そこまで言った水無瀬は、ふと考える顔になり

「ねぇ、今、ふと思ったんだけど、曽茅野氏がずっと思い続けてる人って阿野さんじゃないしら」

「曽茅野氏にそんな人がいたのか」

「瑠璃から聞いてない?いたのよ。自分でそう言ったもの」

「・・・」

「それで、自分の好きな人が藤原くんを好きになっちゃったから、藤原くんを逆恨みして・・・」

「・・・」

些末を取り除いて考えれば、それはいかにもあり得そうなことだけど・・

だけど、当のぼくに全く身に覚えがないのに、そんな噂レベルで、そこまでぼくを恨むだろうか?

まぁ、逆恨みなんてそんなものかも知れないけど。

「またね、席に戻るわ」

「あ、あぁ」

水無瀬が立ち去った後も、何かが繋がりそうで、ぼくは黙ったまま、しばらくその場に立ち尽くしていたのだった。






…To be continued…


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社会人・恋人編<82>

翌朝、ベッドの中でウトウトしていると、ふいに枕元の携帯が振動し、画面を見てみると守弥の名前が表示されている。

「何だ」

横になったまま通話ボタンを押すと

「おはようございます、若君」

ヤケに礼儀正しい守弥の声が聞こえ───






─Up to you !Ⅱ─<第82話>






「朝早くから申し訳ございません。起こしてしまいましたか?」

時計を見ると5時20分で、確かに早いと言えば早いけど、目くじら立てる程の早さでもない。

「いや、もうそろそろ起きようと思ってたとこだ。それより何か分かったのか?」

「実は春日さまのことで面白いことが分かりました」

「何だ」

ベッドから身体を起こし、シャツを羽織りながらリビングに入っていくと、リビングには朝の白い光が溢れている。

「春日さまは、かなり前から曽茅野氏と交流を持たれているようです」

「兄貴と曽茅野氏が?」

冷蔵庫からペットボトルを取り出し、肩で携帯を押さえながらキャップを開けると水を飲む。

冷たい水が喉を通り、一気に目が覚めるようだった。

「はい。どうやら1年程前から会っているようで、最初のきっかけは高校のラグビー部OB会のようです。それからは割りとコンスタントに会っていますね」

「ふぅん・・」

1年も前から兄貴と曽茅野氏が、かぁ。

まぁ、高校が同じなら意気投合して友人として会う可能性もなくはないけど、だけど、だったら2人とも何かしらぼくに言ってくるはずだしな。

1年前と言うと、もちろん瑠璃さんはまだNY支店にいたし、ちょうどぼくがシンガポール支店に出張に行った頃だ。

「・・・・」

何かが引っ掛かるな・・・

「引き続き、春日さまの身辺を洗います」

「うん、頼む。ところで、守弥。この情報はまた睡眠薬か?あまり危ないことは・・」

「いえ。春日さまのご自宅にお使い物を届ける振りをして上がり込み、隙を付いて日記を読んできました」

「日記。へぇ、兄貴、日記なんて付けてるんだ・・」

「はい。10年ダイアリーでした。でも、殆どが誰と会っただの何を食べただのと言う、読むに値しないような備忘録でした」

「・・・」

「しかも、美味しければ丸、普通なら三角、マズければバツ、と言う幼児かと思うような採点方式で。さすがアナログな方の感性は違いますね」

「おまえ、人の日記読んどいて、よくそんなことが言えるな」

さすがに呆れて言うと

「若君の御ためですから」

澄まして守弥が言い、ぼくは目を瞑り眉間を揉んだ。

頼む人間、間違えたかな・・・



*******



支度を済ませ、いつものカフェに行っても瑠璃さんの姿はなく、もう出ないと遅刻をしてしまうという時間まで待ってみても、瑠璃さんは来なかった。

どうしたんだろう・・。

もしかしたら会社に直行したのかも知れないと思い、急いで出社してもやっぱり瑠璃さんの姿はなく、気を揉んでいると、瑠璃さんからメールが入って来た。

【病院寄ってから行くので、ちょっと遅れます。ごめんなさい】

病院?

瑠璃さん、どこか具合でも悪いのか?

昨日は特にそんな様子なかったけど・・・

と、そこまで考えて、ぼくは危うくイスを蹴倒し立ち上がりそうになってしまった。

まさか、瑠璃さん・・!

いつかのアレが、もしかして、本当のことになって・・・

「どうしたんだ、藤原」

斜め前の席から声を掛けられ

「いや、何でも」

慌てて返事をする。

何食わぬ顔をしてパソコンを立ち上げ、キーボードを叩きながらも、動悸が収まらなかった。

もし、そうだとしたら、すぐにでも入籍をして、そうして出来れば瑠璃さんの身体のことを考えたら仕事は辞めてもらった方がいいんだけど、でも、瑠璃さんは何て言うだろうか・・・

案外、瑠璃さんって仕事に燃えてるタイプにも見えるし。

あれこれ考えていると内線が鳴り、出てみると広報課からだった。

先日、依頼しておいた販促物のリーフレットのサンプルが出来上がったと言う。

「すぐ伺います」

電話を切り、ワンフロア上がり広報課の島に近づいて行き、ぼくは(あれ)と足を止めた。

この間、曽茅野氏が見つめていた女性がいる。

広報課の人だったのか。

「藤原です」

ぼくの言葉に、その女性は顔を上げると、軽く会釈をしてきた。

名札には「阿野」とある。

阿野さん、か。

あれ、この人、どこかで・・・






…To be continued…


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社会人・恋人編<81>

「ここよ」

店に入ると、窓際の席から水無瀬が手を振って来た。

注文したコーヒーをカウンターで受け取り、水無瀬の前に座る。

「悪いな。時間、作らせちゃって」

そう言うと、水無瀬は(ふふん)と笑い───





─Up to you !Ⅱ─<第81話>






「いいわよ、別に。今日は暇だったし、それにまた藤原くんに貸し作れるし」

ぼくが「モテる」ことが、この一連の出来事に関係があるのなら、きちんとその辺りの事情を知っておかなければならない───

そう考えたぼくは、水無瀬に情報提供を求めたのだ。

長いことNY支店だった瑠璃さんより、ずっと東京支店勤務の水無瀬の方が詳しいだろうし、それにやっぱり、内容が内容だけに瑠璃さんにあれこれ聞くのはぼくとしてもやりにくい。

「さっそくだけど、水無瀬・・」

「藤原くん。私、ロールケーキ食べたいんだけど」

「・・・」

買って来い、と言う事だろうか。

座ったばかりのイスから黙って立ち上がり、ロールケーキを買ってテーブルに置くと、水無瀬はにっこりと笑い

「悪いわね、催促したみたいで」

「・・・」

しただろうが、思いっきり。

ロールケーキを一口食べると

「甘過ぎるわ、藤原くん」

と顔をしかめた。

「・・・」

知らないよ、と言いたいのをぐっと堪える。

ここで機嫌を損ねられたら、聞ける話も聞けなくなる。

「まぁ、コーヒー飲みながら食べれば、ちょうどいいんじゃないかな」

適当な返事をして

「ちょっと聞かせてもらえるかな。ぼくが『モテる』とやらの、その辺りの話を」

改めて話を切り出すと

「いいわよ」

水無瀬はフォークを置いて、長い髪を払った。

「謙遜とかじゃなく、ぼくは全然、自分がモテるとか、そんな風に感じたことがないんだ。なのにどうして、そんな噂が一人歩きするんだろうか」

「藤原くんが鈍いだけなんじゃないの」

「いや、実際、食事に行こうとか、付き合って欲しいとかのアプローチを受けたことなんか一度もないんだ」

「それはあれよ。むしろ真剣に好きだから、簡単にアプローチ出来ないのよ。そう言う心理って解らない?」

「解らなくはないけど・・。でも瑠璃さんの話によると、秘書課と広報の女性がぼくを挟んで揉めただの、ぼくがとっかえひっかえ女性をマンションに連れ込んでるだのと、かなり具体的な噂が流れているらしいんだ。おかしいと思わないか?」

「まぁ、確かにね」

少し考える風だった水無瀬は

「そう言えば、ある時期を境にそう言う噂が増えて行ったような気はするわ」

「ある時期?ある時期っていつだよ」

「はっきりとは覚えてないわ。本当に『ある時期』よ。気付いたらヤケに藤原くんの恋愛絡みの話を良く聞くなぁ、って感じで」

「・・・」

「ちょうどその頃、社内で結婚やら不倫やら離婚やらする人が多かったから、余計に噂が流れやすかったのかも知れないわ」

「それにしても、全く身に覚えのないことだし、ぼくの耳にはひとっつも入ってきてないんだぞ」

「バカね、藤原くん。噂ってそんなもんよ」

瑠璃さんと同じことを言われ、渋々、頷く。

「いい機会だから耳に入れておいてあげるけど、藤原くんのことを真剣に好きな人は、私が知ってるだけでも5人いるわよ」

「・・・」

「瑠璃と結婚するんなら、上手くやんなさいよ」

「上手くって何だよ」

「変なところで恨みを買わないようにしなさいってこと」

「・・・」

「まぁ、いいわ。この件に関しては私も少し当たってみるわ」

思いがけない水無瀬の言葉に、びっくりして顔を見ると

「早く解決して、瑠璃にも貸しを作っておくためよ」

ツンと顎を上げて言い、だけど、良く見ると少し顔が赤くて、水無瀬が瑠璃さんの身を案じているのはアリアリだった。

「ふぅん。水無瀬も案外、友情に篤いんだな」

ニヤリと言ってやると

「うるさいわね。はい、次はシナモンロール買ってきなさい!」

ぼくにそう命じたのだった。



*****



水無瀬と店の前で別れ、駅までの道を歩きながら考える。

ある時期から急にぼくの恋愛絡みの噂が広まった。

NYにいる瑠璃さんの耳にも届いていたと言う事は、当然、瑠璃さんと付き合う以前の噂と言う事になる。

その噂を流したのが、ぼくのことを気に入らない人物の仕業だとしたら目的は何だろう。

ぼくの評判が落ちたら、得をする人間。

いや、そもそも「評判を落とす」のが目的かどうかも分からない。

もし評判を落としたいのなら、そんな恋愛絡みの噂を流すより、もっと直接的な方法を取るような気がする。

仕事で大きなヘマをさせるとか、横領とか不正取引とか、会社にいられないような状況を作るんじゃないだろうか。

確かに、とっかえひっかえ自分のマンションに女子社員を引きづり込むとか、妊娠させた女性を堕胎させて捨てるなんて言うのは、人格を疑われるようなことだけど、でも、そんな噂が陰で流れていたとしても、現にこうしてぼくは会社にいるわけで、それが致命的な一撃になるとは考えづらい。

あれこれ考え歩いていると、突然たくさんの花が目の前に現れた。

花屋の店先に並べられているバケツに入った花々で、この中で名前が分かるのは、ぼくにはせいぜい薔薇くらいで───

「・・・」

その瞬間、ふいにある疑問が湧いてきた。

いつだったか、鷹男チーフは瑠璃さんに「お近づきのしるし」として薔薇の花束を送ったことがあった。

朝、出社したら、会社の瑠璃さんのデスクに飾ってあったのだ。

どうして───

どうして鷹男チーフは、瑠璃さんの会社のデスクに薔薇の花を置いたんだろう。

もしもサプライズを狙うなら、自宅に送り届けると言う方法だってあったはずだし、その方がインパクトは強いはずだ。

なぜ住所を知ってるのかと聞かれたら、それこそ藤宮先輩の名前を出せばいいわけで・・・

あれほど、あからさまに瑠璃さんにちょっかいを出してる鷹男チーフだけど、瑠璃さんの口から、例えばマンションの前で待ち伏せされたとか、そう言う話を聞いたことがない。

「・・・」

パスワードを知ってるはずの鷹男チーフが、瑠璃さんの住所を知らない・・?

いや、待てよ。

鷹男チーフは、いつ、どのタイミングで曽茅野氏にパスワードを教えたんだろうか・・・






…To be continued…


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社会人・恋人編<80>

振り返った曽茅野氏が、こちらに向かい歩き出す。

数歩、歩いたところでぼくに気付いたのか立ち止まり、その顔にほんの少し驚きの色が浮かんた。

だけど、それは一瞬のことで、すぐに微笑みに変えると、また歩き出し近づいてくる。

出方を決めかねていたぼくの方が、ふいを突かれた感じでその場を動けなくなってしまい───





─Up to you !Ⅱ─<第80話>






「失礼」

目の前に来たところで曽茅野氏に言われ、反射的に身体をずらすと、曽茅野氏は軽く会釈をして前を通り過ぎて行く。

しばらくその後ろ姿を見ていたぼくは、ドアの向こうに背中が消えたところで、慌てて後を追った。

「曽茅野さん」

呼びかけに曽茅野氏は止まり、ゆっくりと振り返る。

「何でしょう、藤原くん」

「・・・瑠璃さんから聞きました」

曽茅野氏の目がわずかに細まった。

「ほぅ、何をですか?」

「曽茅野氏から電話があり、会おうと言われた、と」

しばらくの間、じっとぼくを見ていた曽茅野氏は、ふっと表情を和らげると

「知らなかったのですよ。藤原くんとあのお嬢さんがお付き合いをしていると言う事を。後から鷹男くんに聞いて驚きました。まぁ、どちらにしろ直ぐに振られてしまいましたがね」

「・・・」

「それにしても、あのお嬢さんも人が悪い。最初から断るつもりなら、わざわざ出向いて来なければいいものを。お陰で変な望みを抱いてしまった」

「瑠璃さんが言ってましたよ。あなたは、とてものこと自分を好いているようには見えなかったと」

そう言うと、曽茅野氏はふいに笑いだした。

「・・それは藤原くん。普段、君があまりに、あのお嬢さんに対して好きだと言う感情を露わにしているからではないですか?人により愛情表現はさまざまですからね。私のように、表に出ないような男もいるのですよ」

「・・・」

「では、これで失礼しますよ」

踵を返し歩き始めた曽茅野氏に向かい

「いつまで日本にいらっしゃるのですか」

そう聞くと

「直にシンガポールに帰りますよ。仕事が終わったら」

振り返ることなく曽茅野氏は言い、そのまま角を曲がり見えなくなった。



******



「あ、藤原くん」

経理での用を済ませたところで、隣の総務課の方から声を掛けられ、見ると水無瀬だった。

「ちょうど良かった。この書類、マーケティング部に配りに行こうかと思ってたのよ。悪いけど、持って行ってくれない?」

机の上にはA4サイズの茶封筒が積み重ねられており、表には社員の名前の判が押されている。

「一応、50音順に並んでるから」

「わかった」

「藤原くんと瑠璃のは、は行だから多分、この辺りよ」

指で真ん中辺りを指し、回りに人がいないことを確認すると

「苗字が同じって何かと便利そうね。・・・結婚とか」

ニヤニヤと言ってきた。

「何だよ、それ」

「人事部にいるから良く分かるんだけど、結婚して苗字が変わるってほんと大変なのよ。ハンコも作り直さなきゃいけないし、色んな書類を直さなくちゃならないんだから。その点、瑠璃は楽でいいわ」

「そりゃ、どうも」

「まぁ、今どきは女の人に限らないけどね。婿養子に入る人だって増えてるしね」

「まぁね」

「うちの会社にもいたのよ、お婿さんだった人が離婚して苗字が変わったって人。書類の申請とか本当に大変だったんだから。その点、藤原くんは安心ね。もし婿養子に入って瑠璃に捨てられてもテマがないわ。はい、これ、よろしく」

言いたいことだけズケズケ言うと、水無瀬は封筒をぼくの両手に乗せ、そのまま仕事に戻ろうとするので

「水無瀬、ちょっといいかな」

「何よ」

「いつか水無瀬が言ってた、ぼくがモテるってことなんだけどさ」

「・・・」

「ちょっと、その話を具体的に教えてもらえないかな?時間のある時でいいから」

水無瀬が驚いたような顔でぼくを見返してきた。

瑠璃さんもぼくに向かい「自分で思ってるよりモテている」と言った。

もしも、この一連の出来事が本当にそのことに関係があるのなら、きちんと知っておかなければならない───

それがぼくの考えた「次の一手」だった。






…To be continued…


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社会人・恋人編<79>

『今、よろしいですか?』

携帯越しの守弥の声は、心なしくぐもっているようにも聞こえ、もしかしたらかなり重要な話しかも知れないとピンとくる。

「ちょっと待て」

守弥を待たせたまま靴を脱ぎリビングに向かい、スーツの上着を脱ぐとソファに腰を下ろした。

聞く体勢を整えたところで

「いいぞ」

促すと

「若君」

低音の守弥の声が聞こえ───





─Up to you !Ⅱ─<第79話>






「今日、こちらに戻りましたら、折よく春日さまがいらっしゃいましてね。お言い付け通り探ってみたところ、面白いことが判りました」

守弥の声がくぐもっているのは、同じ屋根の下に兄貴がいるためだと合点が行く。

「何だ」

「頻繁に曽茅野氏と連絡を取り合っているようです。電話でもメールでも」

「頻繁ってどれくらいだ」

「電話に関して言えば直近一週間では、ほぼ毎日、ですね」

毎日・・・。

『メールは電話に比べたらそれほどの頻度ではないようです。足が付くとでも思っているのか、ただ単に打つのが億劫なのかは分かりませんが。春日さまは電子機器全般に、本当にお弱くていらっしゃる。何しろキーボード入力を人差し指一本で行うような方ですからね』

隙あらば兄貴をこき下ろす守弥には慣れているから、ここは聞き流す。

「2人が何を話してるのか、少しは掴んだのか?」

『分かるのは通話履歴だけですから、さすがにそこまでは。メールの内容も「手配済みだ」「了解した」など、ごく短いものばかりです』

「そうか」

『春日さまはともかく、曽茅野氏は相当にキレ者と言う印象ですね』

「まぁ、それは当たってるだろうな。仕事も出来ると評判だよ」

『若君ほどではないでしょう』

「・・・」

守弥と話してると、いちいちテンポが狂わされるんだよなぁ・・

ぼくを思ってくれてるからこそ、とは思うもののやりにくくってしょうがない。

「ところで、どうやってそれを探ったんだ。得意のハッキングでもしたのか?」

『いえ、これしきのことでしたらハッキングするまでもないこと。昼寝されてる春日さまの枕元で携帯を拝見したまでです』

「へぇ、随分、都合良く昼寝してくれたもんだな。でも気を付けろよ、いつ目を覚ますか・・・」

『ぐっすり眠っていただくため、お出ししたプリンに数滴、睡眠薬を垂らしておきましたから』

「・・・」

『スーパーで買ったプッチンプリンをガラスの器に移し代えてお出ししたら『やはり専門店のプリンはうまい』などとおっしゃられて。さすがは春日さま、素晴らしい馬鹿舌をお持ちだ』

「・・・」

ほんの少し、兄貴が気の毒になる。

「デートクラブの方はどうだ?何かわかったか?」

『当たっております。しばしお時間を』

「うん、頼む」

通話を終え、携帯をテーブルに放ると、ゴロンとソファに横になった。

毎日、連絡を取り合っていたとなると、これは2人とも、ほぼ「クロ」で確定だろうな。

仮にたまたま、曽茅野氏と兄貴が、毎日、連絡を取り合うほどの親友だったとしたら、弟のぼくが同じ会社にいるとこくらい、両人ともに伝わっているはずで、でもどっちもそのことにぼくに触れてこないと言うのは、いかにもおかしい。

ぼくのことを良く思ってない兄貴と、瑠璃さんのことを敵対視してる曽茅野氏が手を組んだと考えるのが妥当だけど、でも、いかんせん、色んなところで決め手に欠けている。

動機もそうだし、動画を2人がアップしたと言う物証も何もない。

もうしばらく、当たれるだけ当たって見るしかないか・・・

天井を見上げながら、次の一手を考える。



******



翌日、10時からのミーティングを終え、ついでに経理課に寄って行こうとフロアを歩いていると、向こうに曽茅野氏の姿が見えた。

渋谷でのことや兄貴とのことが頭にあったから、どう言う態度で接しようかと素早く考えながら近づいて行ったぼくは、ふと足を止めた。

曽茅野氏はぼくには気が付いていない。

どこか一点を凝視しているようで───

その視線が職場には不釣り合いなほど熱を帯びているように見え、声を掛けるのが憚れるほどだったのだ。

何を見ているんだ?

曽茅野氏の視線の先を辿って行くと・・・

そこには一人の女性の姿があった。





…To be continued…


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