コラボ作品(あさぎ様×瑞月)*** 日和待つ、早春の頃 ***

<前書き>

このお話は「らぶらぶ万歳サークル」でいつも素敵な作品を発表なさっているあさぎ様と、私・瑞月のコラボ作品です。

昨年、コラボの告知をした時、『テーマは「瑠璃の○○に○○する高彬」です』と書いたのですが、ズバリ、その答えとは・・・


「瑠璃の胸にドキドキする高彬!」なのでした。


なぜこのテーマになったのか・・・などは<後書き>で述べることにして、まずはお読みいただければと思います。

あさぎさんとメールのやり取りをしながらリレー形式で繋げて行ったのですが、あさぎさんがどんな風に続きを書いてくれるのかとても楽しみでした。

その楽しさも丸ごと皆さんにお届けできたら・・・と思います。

瑞月→あさぎ様→瑞月→あさぎ様、の4部構成となっています。

   





『なんて素敵にジャパネスク〜二次小説』





***コラボ作品*** 日和待つ、早春の頃 ***


<瑞月・著>





「高彬さま、また今日は一段と楽しそうですこと。何か良いことでもございまして?」

時間潰しにと琵琶を爪弾いていたぼくは、ふいに按察使に声を掛けられぎょっとして顔を上げた。

「な、何もないよ、いいことなんて。べ、別に・・・」

慌てて言い繕ってみたものの、手元が狂い、琵琶が間抜けな音をたてる。

「そう言ってるそばから、ほら・・・またお笑いになって」

今度は慌てて頬を引き締め、それだけじゃ心配で片手で頬を押さえた。

含み笑いの按察使が部屋を出ていったのを確認してから、ぼくは腕を組んだ。

うーん。そんなに顔に出ていたか・・・

やっぱりぼくはまだまだ修行が足りないんだろうな。

昨日、宮中の車宿りで融に声を掛けられてからこっち、確かにぼくはちょっとおかしい。

気持ちが上ずっていると言うか、心が定まらないと言うか、まぁ一言で言うと嬉しくてたまらないのだ。

なぜなら融に

「明日、うちに遊びに来ない?」

と言われたからだ。

もちろん三条邸には童の頃からよく遊びに行ってるし、何もそう特別嬉しく思うほどのことではない。

だけど、続けて融はこう言ったのだ。

「父上は行幸のお供で数日留守だし、母上は風邪気味だとかで床に着いててさ、そうしたら姉さん、急に張り切っちゃって『久しぶりに思いっきり遊ぶから高彬を誘っておいて』なんて言われちゃってさ」

高彬を誘って、と言う言葉にドキっとする。

「だから、明日来てよね。高彬が来なかったらぼくが殴られるんだから、絶対だよ」

必要なことはもう伝えたとばかりにあたふたと車を乗り込む融を見送りながら、ぼくは心の中で小さくガッツポーズを作った。

やった!久しぶりに瑠璃さんと遊べるんだ。

昔はよく遊んだものだけど、一年ほど前、瑠璃さんが裳着を終えた頃から、さすがに外で大っぴらに遊ぶということはなくなっていた。

ぼくも元服を済ませ出仕していたし、三条邸に行っても、せいぜいが瑠璃さんの部屋で話をするくらいだった。

瑠璃さんはぼくの婚約者だし、いずれは結婚するとは言え、やっぱり御簾越しに話しをしたりすると瑠璃さんと距離が出来てしまったみたいで淋しくて、味気ない思いを味わったりもしていたのだ。

そんな時は、本当に瑠璃さんと結婚出来るのだろうかと、ふと心配になったりする。

だけど今日は───。

そろそろ約束の時刻になる。

従者を呼び、ぼくは車へと向かった。


*****************************


「遅い!」

三条邸に着いて車を降りると、仁王立ちした瑠璃さんに出迎えられた。

<思いっきり遊ぶ>の言葉にウソはないようで、すでに裾はからげて髪も一つに括られている。

瑠璃さんの意気込みの程をみるようで小さく笑ってしまった。

降り立ったぼくを見るとふと怪訝な顔をして

「あんた、また背が伸びたんじゃない?」

つかつかと寄ってくるとぼくの横に並んだ。

そうして視線の高さを確かめている。

「そ、そうかな・・・」

突然の至近距離にドギマギしているぼくをよそに、しげしげとまるで検分するかのように頭のてっぺんから爪先まで眺めると「ふぅん」と呟き、スタスタと庭に向かい歩き出した。

「さぁ、何して遊ぶ?」

そう問いかけてきたものの、ぼくや融の意見を聞く気はないようで、更にはすぐには遊ぶ気もなさそうで

「あー、いい気持ち。やっぱり外はいいわねぇ」

目を閉じ腕を伸ばし、深呼吸したりしている。

確かに今日は抜けるような青空の好天で、少し冷たさを残す早春の風が庭の木々の間を通り抜けていく。

目を閉じる瑠璃さんの顔に見惚れていると、ふいに目を開けた瑠璃さんと目が会った。

「い、石蹴りでも・・・する?」

見ていたことがバレた気まずさをごまかすために口からでまかせな提案をすると

「石蹴りでも木上りでも受けて立つわよ。どうせあたしにかないっこないんだから」

瑠璃さんは「ふふん」と鼻を鳴らした。

その挑発的な言い方に、にわかに闘争心が沸いてくる。

まったく。いつだって瑠璃さんはぼくを年下扱いするんだから。

ぼくはもう出仕もしているし、背だって瑠璃さんより高いんだぞ。

「いいよ、ぼくは何でも。瑠璃さんのやりたいことで。きっとぼくが勝つだろうけどね」

「ふーん、そう?じゃあ・・・」

瑠璃さんは庭をぐるりと見回すと

「この池の周りをあたしをおんぶして一周してみて」

「え」

「え、じゃないわよ。何でもいいんでしょ。昔は半分も歩けなかったものねぇ。どこまで歩けるかお手並み拝見といきましょ」

「・・・・・」

そりゃあ、まぁ、童の頃ならともかく、今のぼくなら瑠璃さんをおぶって歩くくらいなんてことはないけれど・・・

「えいっ」

ぼくの返事なんか聞かずに瑠璃さんはぼくの背に飛びついてきた。

「高彬、頑張れよ」

融の声援を受け歩き出す。

一歩、一歩と歩きながら、ぼくは一年と言う長さを感じずにはいられなかった。

一年前より瑠璃さんは重くなっていたし、昔はしなかったいい匂いがしている。

それに───

背中に当たる柔らかなこの感触はもしかしたら・・・・・

歩くたび、瑠璃さんが揺れてぼくの背に触れ、その感触にしか意識がいかなくなってしまう。

一年前、瑠璃さんをおぶった時、こんな感触はなかったはずで───

ぼくはごくりと唾を飲み込んだ。

「る、瑠璃さん。もう降りて」

たまらず言うと

「何よぉ、もう降参?もう少しがんばってよ」

瑠璃さんは不服そうな声をあげた。




※ と言うわけで、ここであさぎさんにバトンタッチします~。あさぎさん、よろしく!です。
  さぁ、高彬。どうする?──どうする?!


----------------------------------

<あさぎ様・著>




「い、いや、もう無理だよ」

「えー、何でよー。昔より短くなってるじゃないの」

「何でって」

そんな、ほんとの事だなんて・・・!

と思った途端、あらぬ方に視線が向かってしまい、慌てて目を逸らす。

「その、だから・・・」

「だから?」

「だから・・・瑠璃さんが重いからだよ!」

「なんですってー!」

困った挙げ句にこぼれ落ちた言葉が、一瞬で跳ね返ってきた。

「深窓の乙女に向かって、なんて事言うのよあんたは!失礼しちゃうわね!」

「・・・・・」

ちっとも”深窓”なんかにいないじゃないか・・・という言葉は、心の奥に閉じ込める。

瑠璃さんは大仰に溜め息をつくと、

「あんた、そんなんじゃ、絶っ対モテないわよ!」

ぼくの顔をゆび指して、高らかに宣言した。

「売れ残ったって、知らないんだからね~!」

なんて言いながら、くるりと背を向け走り出し、

「融、姉さん重くなんかないわよねぇ」

何も言えずにいるぼくをおいて、次の標的となったらしい融を追いかけていく。

一人取り残されたままぼんやりとその様子を追うと、逃げ回る融の周りで、色鮮やかな衣が宙を舞っていた。

まるで名前も知らない異国の蝶みたいに、どこまでも軽やかに、ひらひらとひらひらと。




─── 高彬も誘っておいてって言葉。知らなかった甘い匂い。耳に触れた微かな吐息。そして背中に感じたあの・・・。

こじれた思考と鋭くなった五感が、ぐるぐると身体中を巡って、軽やかな衣の上を何度も浮かんでは消えていく。




─── べつに、誰かにモテたい訳じゃないよ・・・。

ぼくはまた一つ、口に出せない言葉を胸の奥にしまった。




それからまたしばらくは、童の頃に戻ったみたいに遊び転げて、すっかり遊び疲れたところで、揃って簀子縁になだれ込む。

「あー疲れたー」

「何言ってんのよ。あんた、休んでばっかりだったじゃないの」

「そんな事ないよー。姉さんが、ばかみたいに元気過ぎるんだよ」

「なんですってー」

いつもの言い争いを聞きながら、二人の会話越しに見上げた空は、すっかり夕焼け雲につつまれていた。

一面に広がる茜色が、今日の終わりを告げている。

早春の日暮れはあっという間だ。

ぼくらの時間もこんな風に、瞬く間に流れていくんだろうか・・・。

などと感傷に浸っていたその時、

「そうだ!あんた、今日、うちに泊まっていきなさいよ」

瑠璃さんが、いい事でも思いついたというようにポンと手を打った。

「え」

「うるさい父さまもいないしさ、ちょうどいいじゃない」

「でも・・・」

いいんだろうか・・・。

いくらぼくが瑠璃さんの婚約者だって言っても、まだ父君にきちんと挨拶もしていない。

童の頃ならまだしも、裳着も元服も済ませた、れっきとしたオトナ同士のぼくらが、だ。

「父さまには内緒よ」

瑠璃さんは、人差し指を唇に重ねてそっと囁く。

『内緒』という魅惑的な言葉に、心の臓がトクンと鳴った。

それを合図のように、さっきの感覚がまた蘇ってきて、ぼくはあわてて頭を振った。




※どうするの、どうなるのー!?
 てところでバトンをお渡ししたいと思いま~すv


------------------------------------------------

<瑞月・著>




瑠璃さんの部屋で3人揃って夕餉を終えた頃には陽も落ち、辺りはすっかり暗くなっていた。

しばらくはそのまま談笑していたのだけど、瑠璃さんが小さなあくびをしたのを合図にぼくたちは寝ることにした。

ぼくの泊る部屋は別に設えられていたことに安堵のため息をつく。

瑠璃さんのことだから

『せっかくだから、前みたいに皆で寝ましょうよ』

なんて言いだすんじゃないかと内心、ヒヤヒヤしていて・・・・だけど、あっさり別の部屋が用意されていたとなると、それはそれでどこかがっかりしている気持ちもあったりで、我ながら複雑な思いがする。

綺麗に整えられた夜具に横になり目を閉じると、邸内の遠くに人の気配を感じ、大納言さまご不在と言うことでとりわけ警護を強化しているのだろう。

それはそのまま瑠璃さんが大切に守られていると言うことに思えて、嬉しくなってくる。

嬉しいと言うか、満足と言うか。

なぜなら瑠璃さんはぼくの婚約者なわけで───

そこまで考えて、ぼくはパチリと目を開けた。

そういえば瑠璃さん、さっき変なこと言ってなかったっけ・・?

『売れ残ったって、知らないんだから』とか何とか。

「売れ残る」って、ぼくは瑠璃さんと結婚することが決まっているのだから、ぼくが売れ残るわけないじゃないか。

バカだなぁ、瑠璃さんは・・・・

「・・・・」

目を瞑り眠ろうと試みるも何とはなしに心がざわついてしまい、ぼくは思い切って起き出した。

遠く、警護の侍たちが点検でもしているのか、何事かを言い合う声がする。

脱いだままになっていた衣装を肩にひっかけ、そっと部屋を出ると、やはり自然と足は瑠璃さんの部屋に向かってしまう。

角を曲がったタイミングで妻戸が開き、ぼくは「あ」と声をあげてしまった。

中から出て来たのは誰あろう瑠璃さんで───

「高彬・・・」

瑠璃さんにもぼくの登場は思いがけなかったのか、目を見開き肩に掛けただけになっている袿をかき合わせたりしている。

「どうしたのよ、こんなところで。迷子?」

それでもすぐにいつもの調子に戻り、テキパキと聞いてきた。

「迷子なんかじゃないよ。・・・瑠璃さんこそどうしたのさ」

聞き返すと

「何となく眠れなくてね、ちょっと庭にでも降りてみようと思ったのよ」

肩をすくめて言い、どうやらその様子からして常習犯のようにも思えて、ぼくは密かにため息をついた。

まったく、無鉄砲と言うか無防備と言うか・・・・

いくら警護されている庭とは言え、夜に出歩くなんて。

瑠璃さんはと見ると、早や興味はぼくから庭に移っているようで、今にも階に足を掛けそうになっている。

釣灯籠に、少し俯き加減の横顔と、羽織っただけの袿の下からのぞく身体のラインが浮かび上がり───

慌てて目を逸らしてみたものの、やけに残像がチラついてしまいぼくはごくりと唾を飲み込んだ。

部屋に戻ろう。

このままここにいるのはマズい。

何だか判らないけど、マズい。

「じゃあ、ぼくは部屋に戻るから」

2、3歩、歩き出したところで、ドタドタという音と「きゃぁ」とか「あぁぁ」とか言う声が聞こえてきた。

どうやら瑠璃さんが足を踏み外して階から落ちてしまったらしい。

「大丈夫?!瑠璃さん」

慌てて駆け寄ると、瑠璃さんは「痛い・・」と足首の辺りを押さえ動けないでいる。

変に捩ってしまったのかも知れない。

腫れてくる前に早く冷やさなければ。

とりあえず母屋に行って、誰か女房を起して───

瑠璃さんを抱き上げたところで、ぎょっとして動きが止まってしまった。

掌に当たるこの柔らかい感触は───

そっと下に目をやると、瑠璃さんは痛そうに顔を歪めていて、いや、今重要なのはそこではなくて、ぼくの右掌はまごうことなく瑠璃さんの胸元に当たっていて・・・・

慌てて手を離そう──にも、そんなことをしたら瑠璃さんを落としてしまうわけで、ぼくは意を決して、そのまま走りだした。

瑠璃さんを抱いたまま渡殿を走り、いくつかの角を曲がり、もう少しで母屋につくと思ったその時

「ねぇ、高彬。止まって」

瑠璃さんに言われ、ぼくは立ち止まった。

早くに走り過ぎて、痛みがひどくなってしまったのだろうか?

「ごめん。痛む?」

「ううん」

瑠璃さんは首を振り、ふいにぼくとまっすぐに視線を合わせてきた。

「昼間のこと、ウソでしょ」

「え」

「あたしが重いから、歩けないって言ったこと」

「・・・・」

「だって、こんなに走ってるじゃない。なんであんなウソついたのよ」

「・・・・」

ぼくはまたしてもごくり、と唾を飲み込んだ。



※ ほんと、何であんなウソついたの?高彬。  
  いざとなったらお姫様抱っこして走れちゃう人が、おんぶごときで「重い」から歩けない、はないでしょう──。
  ・・・と言うわけで、あさぎさん。 高彬、ピンチです!(ピンチに追いやったのは私ですが(笑))
  どうか窮地の高彬を救ってあげてくださ~い(平伏) 


----------------------------------------

<あさぎ様・著>



「・・・・」

ぼくを見上げる大きな瞳に、心の底まで見透かされているようで、思わずドキリとする。

嫌でも昼間の感覚がよみがえると、さっき追い払った意識までもが呆気なく戻ってくる。

その途端、今度こそ危うく瑠璃さんを取り落としそうになった。

「きゃあっ!」

「ご、ごめん・・・」

腕の位置に最大限の注意を払いつつ、もう一度しっかり抱え上げる。

「・・・大丈夫?」

いつものように、文句の一つも返ってこない事が不思議で思わず尋ねると、

「大丈夫よ。だから、降ろしてくれていいわ」

そう言って小さく頷いた。

「ほんとに、大丈夫?」

「うん」

本当はまだ心配だったけど、言われるままにそっと簀子縁に降ろすと、瑠璃さんは足の感覚を確かめるように何度か足踏みしてから、ゆっくりと近くの階に腰かけた。

釣り灯籠に照らされた小さな背中が、いつも以上に小さく見える。

どうしようか少し迷ったけれど、そのまま戻るのも気が引けて、ぼくも隣に座った。

「ほんとはね。今日だって久しぶりに、3人でお泊まり会もいいかなあって思ってたのよ」

「え」

「でも、今日のあんた、ちょっとヘンだったし、一人にした方がいいのかもって思ってさ。それでも気になって見に行こうとしたら、迷子になってるし。やっぱり、何かヘンよ」

「べつに迷子って訳じゃ・・・」

「ねぇ、嘘ついたりして、何かあったの?」

俯きがちのぼくの横顔に、真剣な声が届いた。

その声音には、御簾越しには伝わらない、確かな何かが込められている。

───やっぱりダメだ。適当にはぐらかす訳にはいかない。

とうとうぼくは観念した。

そうやって心底ぼくを気遣ってくれるのは、幼なじみだからじゃなくて、婚約者の親愛の証なんだよね?

瑠璃さんには、ちゃんとほんとの事を伝えなきゃ。

「あのさ、『重い』って思ったのはほんとなんだ」

「・・・・・」

「元服してから、御簾越しくらいにしかあんまり会えなくなってさ。今日久しぶりに瑠璃さんを背負ってみて、ほんとにびっくりしたんだ」

「なに、それ」

「だって、一年前とは全然違っていたんだよ。ぼくは何にも変わってないのに、この重さの分だけ、時間は過ぎてるんだって思い知らされたみたいでさ」

一息に告げると、瑠璃さんは驚いたように目を見開いた。

「そんなこと・・・。あたしだって何にも変わってないわよ。あんたの方こそ、急に背は伸びてるし、頬の辺りもすっきりしちゃって、おまけにあたしを平気で抱え上げてるしさ。まるで別人じゃないの」

「そ、そうかな」

「そうよ。それに、あんたはもう出仕も始めて、いっぱしの公達ってことになるんだし。今までとはもう、完全に違う人なのよ」

「そんな、どこが違うって・・・」

ぼくの言葉のさなか、瑠璃さんはふと顔を逸らすと、

「ほんと、時間ってあっという間に過ぎていくのね。裳着も元服も済ませたあたし達は、もうオトナなんだってことかしら」

遠くを追うような目で呟いた。

「・・・・・」

どこか淋しげな横顔に吸い寄せられつつ、声にならない言葉を飲みこむ。

これは、絶好のチャンスかもしれない。

瑠璃さんを疑う訳ではないけれど、筒井筒の約束と言っても何年も昔の事なんだ。

今、もう一度、気持ちを確かめてみてもいいのかな。

それに、瑠璃さんのこの様子。

二人が大人の仲間入りして、ぼくが別人みたいな一人前の公達になっただなんて、まさに、『筒井筒 ゐづつにかけしまろがたけ』ってやつじゃないか。

最近は少し不安にもなっていたけど、もしかすると、瑠璃さんも同じ気持ちでいてくれてたって事なんだろうか。

大人になってあまり会えなくなったのを、淋しく思ってくれていたんだろうか・・・。

ぼくは、心を決めた。

姿勢を正して拳を握りしめ、ぐっと腹に力を込めた途端、

「あ、そうだ!これだけは言っとかなきゃ!」

いつの間にか、すっかりいつもの顔に戻った瑠璃さんが、ポンと手を打ち、こちらに向き直った。

「高彬、あんたねぇ、いくらなんでも『重い』はないわよ。あたしだからまだいいけど、フツーの女性に対して口にする言葉じゃないんだからね」

「・・・ごめん」

「それとね、何かあっても一人で抱え込んじゃダメよ。あんたは昔から、そういうとこがあるんだから」

「そうかな」

「そうよ。いくら時間は過ぎていっても、あたしは変わらず、ずっとここにいるわ。いつでも話くらい聞くわよ」

「うん・・・」

そうか、確かにぼくは、“一人で抱え込んで”いたのかもしれない。

色々考え込まずに、ちゃんと言葉にすればよかったんだ。

自分で解決できる事にも、限度はあるのかもしれないよな。

などと思いを巡らせていたその時、

「それにさ、あんたが結婚したって、どうせうちに来るんでしょ?」

「ええーっ」

突然投げ下ろされた爆弾発言に、思わず大声をあげていた。

それって、それって。

いきなり本題を突いてくる瑠璃さんを前に、どうにも混乱が抑えられない。

──瑠璃さんがずっと三条邸にいて、ぼくが結婚してもここに通うってことは、それは、やっぱり、ぼくらが結ばれてるってこと、だよなあ・・・。

もちろんぼくだってそれを望んでいる訳で、何の異論もないけれど、いきなり本人の口からこうもはっきり言い切られると、何とも落ち着かない気持ちになる。

とは言え、ぼくもオトコとしてちゃんと言うべき事は伝えなきゃ。

「あの、瑠璃さん」

「なに、そんなに驚いてるのよ。だって、うちには融がいるんだからさ。あんた達のくされ縁が、そうそう切れる訳ないじゃないの」

───そうか、そういうことか。

言わずもがなの原理を論ずるような、あっけらかんとした様子に、一気に肩の力が抜けた。

昨日からの心弾みや、今日の出来事、さらには遠い昔のことまでが、フラッシュバックのようによみがえる。

ダメだ。この状況で、これ以上話を続けることなんて、できる訳がない。

ぼくは今、激しく精神を消耗した気がする・・・。

「あんたもさ、色々あるんだろうけど」

瑠璃さんは、何も言わないぼくを不思議そうに眺めると、

「また、一緒に遊びましょうね」

童の頃と、おんなじ顔で笑った。

「・・・うん」

そうだね。ぼくらはまだ、このままでいいのかもしれない。

答えを導き出すのは少し先の話で、それぞれが道の途中にいる。

見上げると、生まれたばかりの月が、やわやわと淡い光を放っていた。

深い夜空に浮かぶ、この三日月みたいに未完成なぼくらだけれど、少しづつ大きくなって、いつかはきっと、明るい望月になる。

そういう、巡り合わせなんだから。

「あ、流れ星!」

───とにもかくにもぼくは、春まだ浅い一夜、無邪気にはしゃぐ瑠璃さんの隣で過ごすという、この上ない僥倖を得たのではあった。





<終>





<あさぎ様・後書き>


皆さま、こんにちは。

瑞月さんの策略により、思いがけなく「チームF」1号・リーダーを仰せつかったあさぎと申します。

この度は、瑞月さん並びに3号・Rさんのご提案で、コラボ作品を創作させて頂く事になりました。

宴会部長程度の軽いノリでリーダーをお引き受けしたあの頃は、まさかこんな事態になるとはつゆ知らず(笑)

ではありましたが、読む楽しみを味わいながら書くという体験は、とっても新鮮かつ楽しさ倍増の時間になりました。

いつもたくさんの素敵作品で、(元?)乙女心を癒して来られた瑞月さんと、一つの作品を手がける事ができてほんとに幸せです~♪

改めて、ありがとうございました!

今回は少し、高彬が不憫な感じになってしまったので、もしまた機会がありましたら、次はもう少し糖度アップな感じもいいかもですね~v

秋の企画の予定がまさかの早春になるという、不甲斐ない前科持ちではありますが、これからも細々と(?)、「チームF」の活動を広めて参りましょうね~!


あさぎ





以前、あさぎさんに「風の声をきかせて」と言うタイトルのお話を贈っていただいたことがありました。

その中に高彬が瑠璃を抱き上げて馬に乗せるシーンがあるのですが、読者の「チームF」3号のRさん(仮名)に

「こういう場面、高彬に瑠璃の胸が当たったりしてるのでしょうか?高彬はどんな風に思ってるのでしょうね」

と言うような非常に興味深い(?)コメントをいただき、あさぎさんと2人、メール上で「胸ネタ」で密かに盛り上がっておりました。

そうしましたら、またRさんに

「『胸ネタ』を読んでみたい。出来ればお二人の合作で!」

と言うコメントをいただき、それをあさぎさんにお伝えしたところ、快諾していただき、今回のコラボ作品となったのです。

書き始めるに当たってあさぎさんと決めたことは、「瑠璃の胸にドキドキする高彬」がテーマであること。

高彬目線の話にすること。

そして、結婚前の2人にすること。

この3点でした。

なぜ結婚前にしたかと言いますと、テーマがテーマだけに、結婚後にしてしまうと、限りなく際どく、かつ生々しい話になってしまうのではないか・・という危惧があったからです。

危惧と言いますか・・・、ここだけの話ですが、実は私は密かにそれでもいいかなと思っていたのですよ。

ですので、高彬に側室を勧める守弥のごとく、あさぎさんの耳元で

「(際どくなったら)別館に掲載すると言うテもありますよ・・ふっふっふ」

と囁いてみたのですが、あさぎさんは、側室なんかにてんで興味がない高彬ばりのさわやかさで

「本館掲載を目指しましょう」

と、にこやかにおっしゃられたのでした・・・。

そこを無理に押すのも大人気ない気がして、結婚前設定の話と相成りました。

そんな紆余曲折を経て(いえ、紆余曲折してたのは私一人ですけど)出来上がった本作品。

思春期真っ只中、「ざ・青春」な感じの高彬、お楽しみいただけましたでしょうか?

タイトルもあさぎさんにつけていただきました。

あさぎさんのタイトルはいつも素敵で、あさぎさんの今までのタイトル、例えば──「想いかさねて」に「星灯り」、そして「誰そ彼(たそかれ)に霧立ちわたり」など、本当に素敵だと思います。

今回の「日和待つ、早春の頃」も「ざ・青春」な感じとジャパネスクらしい雅な感じがほどよくブレンドされていて本当に素敵なタイトルです。

あさぎさんの後書きに寄りますと「次はもう少し糖度アップな感じもいいかもですね~v」とのこと。

あさぎさん、その言葉、まさか社交辞令ではないですよね?!

私はすっかり本気にしてしまいましたよ。

ちなみに「チームF」については、あさぎさんへの返話として書いた拙作「風の声をきかせて~after」のコメント欄をお読みいただければ、大体の発足過程や概要がお判りいただけるかと思いますが、簡単に言いますと「チーム不健全」の略なのです。

残念ながら「チーム藤原」ではありません。

その時に決めたことが

名称:「チームF」
リーダー:あさぎさん
サブリーダー:瑞月
活動内容:ひたすら妄想
会員:随時募集
会員特典:なにもナシ

と言うものでした。

永遠にあさぎさんと私、2人きりのチームだろうと思いきや、すでに会員は6名になりました。

次に入会してくれた方は7号となります。ラッキーセブンです。

繰り返しになりますが、入会しても特典は何もありませんし、毎日の生活に何の役にも立ちませんが、随時、絶賛受け付け中ですので、お気軽にご入会ください。会員番号を進呈いたします。

コラボは初めてだったのですが、楽しくて楽しくて終わってしまうのが寂しいくらいでした。

あさぎさん、この度はお相手をして下さり本当にありがとうございました。

楽しい企画をリクエストして下さったRさん、ありがとうございました。

お二方のお陰でとても楽しい時間を過ごすことが出来ました。

また、お読み下さった皆さまも、ここまでお付き合いいただきありがとうございました。



瑞月

(←お礼画像&SS付きです)
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瑞月

Author:瑞月
瑞月(みずき)です。

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