作品について

瑞月です。

いつもご訪問ありがとうございます。

ひとつ下の記事にアップしたお話は「瑠璃が懐妊して出産する」話です。

(懐妊中の話を読みたいとリクエストして下さった方、ありがとうございました)

皆さんの中には、新婚3ヶ月の頃の瑠璃のように

「まだまだ、うれしたのしの新婚生活をやっていたいのよっ。ぜっーたい、ややなんか欲しくない!」

と思っていらっしゃる方。

もしくは高彬のように

「せっかく天下晴れて結婚できたのだから、もう少しゆっくりと・・・」

と思う方もいらっしゃるかと思います。

ですので、今回の記事には鍵をかけました。

パスワードは「hakubaiin」です。(半角英数字で「白梅院」)

内容が内容だけに、多少は性的な、と言いますか、下ネタ的なことが書いてあります。

苦手な方は閲覧、ご注意ください。

そして、通常の短編と混ざらないようにカテゴリも追加しました。「御やや編」です。

一話完結ですので、これからアップして行く話が御ややのいる設定になるわけではありませんが、もし皆さんからの評判が良い時は「御ややカテゴリ」の話も書いていこうかなと思っています。

それでは、お読みいただける方はスクロールして下の記事にお進みください。

また、別館のパスワードは、ご連絡のつく方には全て返信しております。

申請したのに、今現在メールが届いていないという方は「更新情報」をご覧になってみてください。

(9/19~22まで出掛けてしまうので、その間にいただいたメールの返信はそれ以降になってしまいますがすみません)


(←お礼画像&SS付きです)

***短編***  ジャパネスク・エモーション *** 

『なんて素敵にジャパネスク〜二次小説』






             注)このお話は一話完結です。

               瑠璃の懐妊・出産についてのお話です。
               そういう設定が苦手な方は閲覧ご注意ください。
               
              






***短編*** ジャパネスク・エモーション ***










6月も半ばの昼下がり───

庭の木々は勢いよく枝を伸ばし、強い日差しが照りつける葉が、地面一面に濃い影を作っている。

そんな中、小萩が扇いでくれる風を受けながら、あたしは大きなため息をついた。

「ねぇ、小萩。この腹帯(はらおび)取ってもいいかしら。こう暑くっちゃたまんないわ」

「んまぁ!何をおっしゃいますの、姫さま」

扇いでいた手を止め、小萩がずずいと膝を進めてきた。

「霊験あらたかな神社で安産祈願のご祈祷を受けた、それはそれはありがたい腹帯なのですわ。外すだなんてもってのほかです。お殿さまや少将さまがどんなにお嘆きになりますか」

「・・・・・」

お嘆きねぇ。

腹帯を取っていくらかでも涼しくなるのなら、父上や高彬がお嘆きになることくらいどうってことないんだけど、でも、確かにこの帯は、五ヵ月に入った戌の日に行なわれた「着帯の儀」で身に着けた、ありがたい帯なわけなのよね。

これを外して、万が一何かあったら(あー、外さなければよかった)とか思いそうだしねぇ・・・。

あたしは迷信なんか信じないけど、やっぱりお腹の御ややのこととなると、自分だけのことじゃないって気にもなるし。

───そう。

何を隠そう、あたしは今、懐妊中なのだ。

結婚して1年を過ぎたあたりから、あたしも高彬もそろそろ御ややが欲しいよねぇ、なんて思い始めてきて、まぁ、何と言うかめでたく的中と言うか命中と言うか、懐妊したわけなのだけど。

あたしが懐妊したと判った時の、三条邸の喧騒ったらなかった。

小萩は泣き出すし、父上は喜びの余り飛び上がったとかで腰を痛めるし、母上は声も高らかに

「これもわたくしが日夜、神仏に懐妊祈願をしたお陰ですわ!」

なんて叫びだすしで、いやもう、上を下への大騒ぎだったのである。

母上が日々、そんな祈願をしてるなんてこれっぽちも知らなかったあたしは、そのことに驚いたりしたんだけどさ。

当事者の一人である高彬はそんなに驚かなかった・・・と言いたいところなんだけど、かなり変わった反応を示した。

日中、お医師の診断で懐妊の太鼓判をもらっていたあたしは、早く伝えたくて高彬が帰ってくるのを今か今かと待ちわびていたんだけど、実際、高彬の顔を見たら、恥ずかしさやら照れくささやらがどっと押し寄せてきて、思わず口少なに、と言うかムスッとしてしまった。

「どうしたのさ、瑠璃さん」

あたしの前にゆったりと座りながら言い、首元を緩めたりして、そのしぐさには結婚して一年たったと言う余裕みたいなものがあったように思う。

「出来たみたいなの・・・」

「そうか」

白湯を飲みながら半分上の空で頷き、一呼吸おいてから

「何が?」

と聞き返してきた。

「何がって・・・だから・・・」

「うん」

「その・・・御ややよ」

「・・・・!」

『驚愕』って言葉はこういう時に使うんだ───と、つくづく思ったわね。

御やや欲しいねって話してたわけだし、イロイロ励んでたわけだし、何もそこまで驚かなくても・・・ってくらいの驚きようだったのだ。

「あー」だか「うー」だか呻いたかと思ったら、ぱぱぱっと顔を赤らめ、じっとあたしのお腹の辺りを凝視し、そうして慌てたように

「る、瑠璃さん、横になってなきゃ」

なんて言い、腰を浮かして今にも寝所の準備でも始めそうな勢いで、あたしは慌てて押しとどめたりした。

「大丈夫よ、別に何ともないんだから。病気じゃないんだし」

「そうか・・」

そう言ったきり、またしてもあたしのお腹をじっと見だして、あんまり長いこと黙ってるもんだから居心地が悪くなってしまい

「何よ」

ムスッと言うと、ようやく視線をあたしの顔に戻し

「いや、こういう時は何て言ったらいいんだろうと思ってさ。ありがとう、じゃおかしいし、おめでとう、じゃ他人事みたいだし・・」

ぶつぶつと言い、悩ましげにため息なんかついている。

「・・・・・」

あたしはあたしで密かに心の中でため息をついてしまった。

素直に「そうか!」と手を叩けばいいだけのものを、こんな風に理屈っぽく言ってみたり、難しく考えてみたり。

ほんと、お堅いと言うか真面目と言うか・・・・、まぁ、こういうところがいかにも高彬らしいと言えば言えるんだけど。

それに、こういう時の高彬は、実は本当は喜んでる時だってことは、あたしはちゃんと見抜いてるしね。

だから「何よぉ、嬉しくないわけ?」とか、そういう文句は言ったりしないの。ふふふ。

そのあとも高彬は、突然立ち上がって部屋の中を歩き回ったり、急に妻戸を開けて外に出て月を眺めたり、かと思うと、物も言わずにあたしを抱きしめてきたり・・・と、かなり落ち着かない様子だった。

その抱きしめ方がまた、壊れ物を扱うようにぎこちなくて、高彬には悪いけど、あたしは腕の中でこっそりと笑ってしまった。

おかしな高彬。昨日だって一昨日だって、御ややはあたしのお腹の中にいたと言うのに。

それからの高彬は、参内しても頻繁に文を寄越しては「変わりはないか」と聞いてきて、最初のうちこそ律儀に返事を書いていたあたしも、そのあまりの頻繁さにしまいには放っておくようになってしまった。

一刻や二刻で御ややがむくむくと大きくなるわけじゃあるまいし、そうそう特筆すべき変わったことなんかないんだから。

タイミングが合わなくて、一日、返事が出来ずにいた日なんて、夕刻には騎馬で高彬がやってきて、その時ばかりはさすがに叱り付けてしまった。

「何かあったら、こっちから連絡するから。仕事に戻りなさいよ」

宿直の前に抜け出してきたと言う高彬を宮中に追い返し、それでもしっかり

「一日一回でもいいから、必ず返事は寄越すように」

なんて釘を刺されてしまった。

まぁ、心配してくれてるのはわかるし、嬉しいんだけど・・・・・

「姫さまに申し上げます。本日、右近少将さまがお越しになると言う先触れがありました」

ふと気付くと年若い女房が廂に控えており、手を付いて口上を述べた。

その口調がまだまだ物慣れぬ感じで

「ご苦労さま」

小萩に声を掛けられると、ぺこんと頭を下げ、足早に退出していく。

「さぁさぁ姫さま。夜には少将さまがお見えになるのですから、少し御髪でも整えなければ」

連チャンの宿直が入っていて、高彬が来るのは実に4日振りで、どことなく小萩も嬉しそうにしている。

元から高彬と小萩は気心知れた仲と言う感じだったのだけど、あたしが懐妊したことによってさらにグッと仲が近づいたようなところがあるのだ。

共同目標が出来たと言うか、目指す着地点が一緒と言うか。

2人してあたしがとんでもないことやらかさないか見張ってるって言うのが一番近い感じなのかも知れないけど。

あたしって、ほら、各方面に信用がないからさ。

小萩に髪を梳いてもらいながら、あたしは密かにある決意を固めていた。

実は今日は、高彬に大切な話があるのよ。




********************************************************************




高彬がやってきたのは、陽は沈んだけれどまだまだ西の空には明るさが残っている酉の刻を過ぎたあたりだった。

空が茜色から濃い紫へと徐々に変わっていき、東の空には良く見ると星が瞬き始めている。

夕刻から吹き出した風が几帳を揺らし、日中とは比べ物にならないくらい涼しくなっている。

あたしは、この夏の夕暮れ時がわりと好きだったりする。

「ずいぶん早かったのね」

「うん。思いがけずに早くに仕事が終わってね」

楽な狩衣に着替えた高彬は、いったん円座にゆっくりと腰を下ろし、回りの女房が皆下がったことを確認すると、じりじりとあたしの横にやってきた。

着膨れた衣裳の上からでもふっくらと丸みの見て取れるお腹にそっと手を当て、そのまま目が合ってにっこりと笑い合う。

本当はここで

「父上ですよ」

なんてお腹の御ややに言いたいのかもしれないけれど、照れ屋な高彬が臆面もなく言えるはずもなく───

だからあたしが代わりにお腹に向かって

「帰ってきたわよ、父上が」

なんて言ってあげたりするわけ。

そんな時、高彬ははにかむように笑って目を細めたりする。

宮中での出来事やあたしの身体のことなんかを話しているうちに、ゆるゆると夜が来て、女房が寝所の用意をして下がっていった。

早や横になっている高彬の隣に座り、あたしはどう切り出そうかと思案していた。

「どうしたの、瑠璃さん。早く横になりなよ」

「あ・・・、うん・・・」

うーむ、いざ話そうと思うと、言葉に困るわね・・・。

話が飛ぶようだけど、少し前から母上付きの女房が1人、臨時であたし付きになった。

讃岐と言う古参の女房で、5人ものお子を産んだらしくて、言うなれば懐妊のスペシャリストってわけ。

母上が言うには、そばにそういう女房がいた方が何かといいだろうってことで、出産までの期間限定であたし付きになったのだ。

確かに小萩や早苗じゃ、出産はおろか結婚もしてないわけだし、あたしとしてもその方が心強いし、まぁそれ自体には何の問題もないのよ。

ないんだけれど、なんと言うかこの讃岐、母上付きの女房だけあって押しが強いと言うか、ヘンな方面にこだわるというか・・・

ありていに言うと、ソッチ方面の話題が多いのよ。

女房なんて寄ると触るとそんな話ししてる人も多いし、どっちかって言ったら、あたし付きの女房たちが珍しいのかも知れないんだけどね。

それで、その讃岐が自信たっぷりに言うには、殿方の浮気が一番多いのが、妻が懐妊中と言う状況らしいのよ。

世間一般の殿方ならともかく、高彬に限ってまさか・・・と言い返したら、讃岐は鼻で笑って

「切羽詰まれば、殿方は人格が変わります」

きっぱりと断言したのだった。

高彬が切羽詰まってるかどうかは知らないけど、確かに懐妊が判ってからは、そのぅ・・・ない、わけなのよねぇ・・・。

何がって、つまりは夫婦の営みが、よ。

悪阻で気持ち悪かったり、ひたすら眠かったりで、正直、自分のことに手一杯で高彬のことまで気が回らなかったって言うのが本当のとこなんだけど、だけどこうして身体も安定してくると、確かに妻として気にはなってくるのよ。

以前は、会えばほぼ必ずのようにそういう流れになっていたわけだし。

そんなこんなでストレスがたまって浮気、なんてことになっても困るし・・・。

だから今日、と言うか今晩は───

高彬に色々と聞いてみたいのだけど、だけど、いくらあたしだって

「高彬、アッチの方は大丈夫なの?」

なんてロコツに聞けないじゃない。

「ほら、横になって」

再度、高彬に促され横になると、すかさず高彬が腕枕をしてくれて、あたしは(今よ!)とばかりに口を開いた。

「えーと、ね。高彬。その・・・困ってることとか、ない?」

いざとなると、こんな遠回しの言い方しか出来ないなんて、あたしって本当に慎ましい人間なのね・・・。

「困ってること?いや、特にはないよ」

「・・・・」

あっけらかんと言われ、心の中で盛大にため息をつく。これじゃあ話が終っちゃうじゃない。

でも、ここで引き下がるわけにはいかないのよ。

「そのぅ、例えば夜、とか・・・」

「夜?夜に困ってることって意味?」

身じろぎする気配があり、どうやらあたしの言葉の真意を測りかねているようだった。

「夜って・・・」

「あのね、高彬。ズバリ言うけど、してないじゃない、ずっと。だから、大丈夫なのかなって」

まどろっこしい会話が面倒になり、きっぱりはっきりと言ってしまう。

あーあ、高彬が鈍くさいばっかりに、結局言うはめになっちゃった。

少しはピンと来なさいよ。馬鹿。

高彬が全身で息を飲む気配が伝わってきて、あたしは気持ち、高彬にすり寄った。

「その筋のスペシャリストにちょっと聞いたんだけどね。少しは・・・その・・・しても平気なんですって。・・・だから、もし高彬が・・・」

───そう。実は讃岐に耳打ちされてしまったのよ。

身体が安定してくれば、少しは大丈夫らしいと言うこと。ひいてはそれが夫の夜離れや浮気を防ぐ最善策であること。

<少し>の基準がわからないんだけど、まぁこの際、そんなことはどうでもいいわ。

だから、あたしとしてはそれなりの心積もりがあって、この話を持ちかけたのだけど───

なのに高彬ときたら、ぎょっとしたように上体を起こし、文字通り、夜具から飛び出した。

「そ、そんな、瑠璃さん。とんでもないよ。今のこの状態で・・・その・・・する、だなんて・・・」

みっともないくらいに目を見開き

「頼むからそんなこと言わないでおくれよ」

動転したように言った。

今にもガバとひれ伏すんじゃないかと思うほどの慌てぶりだった。

「・・・・・」

なんだかねー。

あたしがいいって言ってんのに、頭下げて辞退されるって言うのは女として複雑な心境だわよ。

「でも・・・だって、ほら、高彬だって色々大変なんじゃないかと思って・・・」

「い、いや、ほんと。だ、大丈夫だから。・・・自分のことは自分でするしさ。瑠璃さんが気にするよことはないんだよ、うん」

アアフタと言い「ほんと、大丈夫だから・・」なんて上ずった声で繰り返している。

何か今、高彬はとんでもないことを口走った気がするけど、高彬の舞い上がり振りに、あたしまで気がそぞろになってしまう。

そんなにおかしなこと言ったかしら?

讃岐からの受け売りとはいえ、妻として当然気になるところだと思うんだけど。

でも、ここまで言ったからには、話の本質を伝えるべく、あたしは小さく息を整え

「・・・浮気とかされたらイヤなのよ。浮気って妻の懐妊中が多いって聞くし・・・」

低い声で言うと

「え」

少しは冷静さを取り戻したのか、高彬はまじまじとあたしの顔を見返してきた。

「浮気・・・?」

ぽかんと口を開けて呟いている様は

(そういえば世の中にはそういう言葉があったよね)

と初めて気付いた人のようなマヌケ面で、その顔を見ていたら、讃岐には悪いけど、やっぱり何にでも例外ってあるんだ、高彬は絶対に浮気なんかしない、としみじみと確信してしまった。

果たして高彬はずりずりと近づいてきたかと思ったら、あたしの手を取り、そうして

「後にも先にも、ぼくは瑠璃さん、ただ一人だよ」

とぎゅうぎゅうと手を握り締めてくる。

「浮気だなんて・・・そんな誤解をされたら、クタクタになるまで武術の鍛錬をしたり、夜中にふと目が覚めて剣の素振りをしたりして、どうにか堪えてるぼくの努力が報われないよ」

「う、うん・・・」

あまりに熱心に言い募られ、その迫力にコクコクと頷いてしまったのだけど、頷きつつも

(やっぱり高彬、大変なんだなー、苦労してるんだなー)

なんて思っちゃった。

高彬はふっと息を吐いたかと思うと居住まいを正した。

「この際だから正直に言うけどさ、そりゃあオトコとしては色々辛いよ。ずっと・・・その・・・出来ないわけだし。だけど、一時の感情でコトに及んで、もしそれで御ややに何かあったりしたら、ぼくは一生、あの時のあれが・・って後悔することになると思うんだ」

「・・・うん」

あたしの腹帯と同じね。

「だから、今はぼくは我慢するよ。来たるべき時が来たら、その・・・再開の運びと言うか、その・・また・・」

「・・・・・・」

再開の運び、ね。

まったく、どこまでお堅いんだか。

だけど、あたしは色々と納得してしまった。高彬の言いたいこと、よくわかるもの。

世間一般がどうかは知らないけど、あたしたちはこれでいいのよ。うん。

「瑠璃さんは、今はお腹の御ややのことだけ考えてくれればいいから」

迷いのない顔でそう言われ、こくんと頷くと、高彬はにっこりと笑った。




*****************************************




庭の葉がすっかり色付き、天高く空気が澄みわたる頃、とうとうその日がやってきた。

早朝にお産の兆しがあり、三条邸はにわかに慌ただしくなる。

白のお衣裳に着替えさせられたあたしは、これまた白一色の産室に移された。

室内には白い布が張られ、几帳も屏風も白、控える女房たちも揃って白の衣をまとい、お産の雰囲気をいやがうえにも盛り上げている。

母上なんか、あたしのお産が近づくにつれ、異様に力(リキ)が入ってきちゃって

「お産は体力勝負です!精のつくものをどんどんお作りなさい!」

なんて台盤所で叫んでる声が、邸のどこにいても聞こえてきて、その精のつくものを母上も一緒に食べてるらしく、顔はますますテラテラと輝き、気力体力が充実してるのが傍目にも判るほどで、ほんと、あたしの代わりに産んでもらえないかしら、なんて思うほどだった。

小萩は小萩で、どうやら密かに願掛けをしてるらしくて、ある時からいつ見ても同じ袿を羽織るようになった。

幸運の袿なのかしら?小萩もそういうの好きだよなー、なんて最初は心の中で笑っていたあたしも、どんなに裾が汚れようがほつれてこようが、頑として同じ袿を着続ける小萩の姿に胸を打たれてしまい、内緒で手を合わせたりもした。

無事、お産が終わったら、新しい袿をあげるからね。

あたしはと言えば、もうここまで来たら「来るなら来い」って気分だった。

後戻り出来ないなら、前進あるのみよ。

ここが正念場だってわかってたし、ここで踏ん張れなきゃ、数々の修羅場をくぐりぬけて来た瑠璃姫の名がすたるわよ。

ま、あたしの名なんか、すたれてもいいんだけどさ。

それに比べて、こういう時の男どもって本当にどうしようもないと思っちゃった。

揃って部屋にやってきて思い思いの言葉をかけてくるのはいいんだけど、その顔は

(もしかしたら元気な顔を見るのはこれが最後になるかも知れないけど、でも、そんな不吉なことを思ってるなんてことはおくびにも出さないようにしよう)

って思ってることがありありとわかるような顔付きなんだもの。

そんな中で融は

「姉さん、何か思い残すことなんてないの?」

なんてあたしに向かって言い、高彬に頭をはたかれたりしている。

そうこうするうちに、痛みの感覚が近くなってきて、あたしは男どもを追っ払ってやった。

こっちは色々、集中しなきゃいけないんだし、辛気臭い顔見てたら、出る力も出ないもの。

部屋の外からは、父さまが張り切って集めた僧侶たちの加持祈祷の大音声と、随身たちが邪気払いのために、手に手に持つ弓の弦を引き、そのブンブンとうなる音が鳴り、室内には産婆や女房たちの悲鳴にも似た掛け声が響き渡り───

次の瞬間、急に身体が楽になり、一拍ののち部屋中に歓声がわき上がった。

「姫さま。女のやや子ですわ。姫ややですわ!」

汗と涙で顔をぐしゃぐしゃにした小萩が言い、あたしに見えるように御ややを近くで掲げてくれた。

御ややを見た第一印象は「あらー」だった。大感動とかよりも、不思議な感じ。

初めて会うような、でもすごく懐かしいような、「今まで、どこにいたの?どうしてたの?」と聞きたくなる感じって言うか。

そりゃ、あたしのお腹にいたのは判ってるんだけど、それよりももっと広い意味で「どこにいたの?」って言うかさ。

とにかく大仕事をやり遂げた安堵感で、あたしはふぅと息を付いた。

「ねぇ、小萩。あの加持祈祷の声、もう少しボリュームを下げてもらえないかしら。うるさくっておちおち寝られないわ」

隣でかいがいしくあたしの世話を焼く小萩にぼやくと

「まぁ、姫さまったら」

呆れたように言い、次いで泣き笑いみたいな顔になった。

ようやく産後の色々な処置が終わり、ウトウトとまどろんでいると、枕元に人が座る気配があった。

うっすらと目を開けると、予想通り、高彬の顔があった。

頬のあたりが上気したように赤く、何かを言いたげで、そのくせ万感胸に迫って言葉にならない・・・と言う風情にも見える。

目が合って、しばらくの間、黙って見つめ合っていた。

「・・・御やや、見た?」

高彬は言葉もなく頷き

「抱っこした?」

また黙って大きく頷いた。

「どうだった?」

「・・・・小さくて、・・・どうしていいか判らなかった・・・」

呻くように言い、その言い方にあたしは小さく笑ってしまった。

小さいやや子を手渡されて、固まっている高彬の様子が目に浮かぶようだわ。

でも、最初から慣れてる人なんていないもの。少しずつ2人で親になっていけば・・・

そう言おうと口を開きかけたところで

「こうして御ややが無事産まれて・・・・本当に良かったけど・・・」

「えぇ、そうね・・・あたしもようやくこれで一安心・・」

あたしの言葉なんか聞いちゃいないのか、高彬は悩ましげなため息をついた。

「きっと瑠璃さんはしばらくは、ややに掛かりきりになってしまうんだろうな・・・。瑠璃さんて案外、子育てに熱中するタイプに見えるし・・・」

ぶつぶつと言い、黙りこんでいる。

「・・・・・」

あたしは気付かれないように吐息した。

御ややが無事に産まれた今となって、懐妊中とはまた違う新たな心配事が出て来た、ということのようだった。

まったく───

身体が疲れてないなら、起き上って背中でもどやしつけてやりたいくらいよ。

高彬は、なーんにも判っちゃいないんだから。

「高彬。あんたは別格なのよ。この先、何人御ややが出来ようが、誰もあんたの代わりにはならないの」

「・・・・」

自信なさそうな、どこか疑わしそうな目をした高彬の顔がある。

あたしは高彬の手を取り、大きく息を吸うと、一言一言、ゆっくりと言った。

「あんたとの子だから、あたしは、こんなに、嬉しいの」

わかる?と目で聞くと、高彬の目が一瞬、見開らかれ、次いで目の淵がみるみる赤くなっていった。

言葉もなく何度も頷き、ごまかすように目を瞬かせている。

その顔を見届けたところで、あたしはゆっくりと目を閉じた。

少し───休まなきゃ。

目が覚めたら、きっと忙しい日々が待っている。

相変わらず心配性でヤキモチ焼きな夫と、元気過ぎるくらい元気でお転婆な姫ややに囲まれて、おちおち寝てられないような毎日を送ることになるのよ。

バタバタと騒がしくて、いつもあたしは2人に振り回されて、そうしてそれは、泣きたくなるくらい幸せな毎日に違いなくて───

だから今はぐっすりと寝て、英気を養わなきゃ・・・

額に高彬の手が置かれたようだった。

ほどよい重みと温かさが心地よい。

やがて高彬の手があたしの髪を撫ぜ始めた。何度も何度も繰り返し───

これからの日々に思いを馳せながら、あたしは安心して眠りに落ちたのだった。






<終>


(←お礼画像&SS付きです)
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