***現代編*** <続>Summertime Blues! ***

この記事はブロとものみ閲覧できます

(←お礼画像&SS付きです)

***現代編*** Summertime Blues! ***

『なんて素敵にジャパネスク~二次小説*現代編』




注)このお話は現代編です。

時は現代、二人は大学生!
「妄想もここに極まれり」のスペシャル・バージョンです。
どんな妄想もウェルカム!な方は、スクロールしてどうぞご覧ください。  
             




          ***********************************************








Summertime Blues!







「ねぇ、高彬。今度の日曜日って何か予定ある?」

うだるような暑さが続く8月のある日、帰宅した瑠璃さんは靴を脱ぐなり、そう言いながらリビングに入って来た。

手には、最近、駅前に出来たと言うケーキ屋の名前が印刷された紙袋を持っている。

「日曜日?特にはないけど」

「亜実がね、皆で海に行かないかって」

「名関が?」

「そう。高校の同窓会を兼ねて、ですって」

瑠璃さんと名関は同じ大学で、夏休みの今日も名関に誘われて一緒にランチをしてきたところだった。

同窓会は卒業後、1回やったきりなので、もう1年以上は皆に会っていないことになる。

だから、同窓会を兼ねて皆で海に行くのは構わないのだけど・・・

「皆って誰」

思わず聞いてしまうと、瑠璃さんは意味ありげな目でじっとぼくを見たかと思うと

「代田くんは来ないんですって。今、ハワイに行ってるらしいわよ」

イジワルそうにも、からかうようにも聞こえる口調で言った。

心なし目が笑っている。

瑠璃さんは、代田のこととなると目の色を変えるぼくを、最近では面白がるようになってきているのだ。

確かに以前のぼくの振る舞いを思えば致し方ない面もあるのかも知れないけど、やはり、夫としては面白くない。

いや、何よりも、結婚して2年以上は経つと言うのに、いまだに懲りずに瑠璃さんにちょっかいを出してくる代田が気に喰わない。

瑠璃さんに言わせれば、そんなのは放っておけばいい、ムキになるぼくが悪いと言うことなのだけど、放っておいたら何をされるかわかったもんじゃない、と言うのがぼくの考えなのだった。

一度は「薫くん」と名前で呼んでいたのも「代田くん」と苗字に戻してくれたし、ぼくだって何も瑠璃さんを疑ってるわけじゃなく、要は代田を疑っているのだ。

高校生の頃から、ウソかホントか知らないけど、人妻だのOLだのに手を出していた代田に取って、瑠璃さんにコナを掛けることくらい、なんてことないはずなのだった。

「ねぇ、どうする?海。せっかくだし、行きましょうよ」

「うん。そうだね」

我ながらゲンキンだと思うけど、代田が来ないんなら断る理由などあるわけもなく、ぼくはふたつ返事で頷いた。



*******



行き先は2年前と同じ葉山になった。

あの時は、幹事である代田がマイクロバスをチャーターしたけれど、今回は現地集合となり、ぼくと瑠璃さんはクルマで行くことにして、途中で名関を拾った。

「何だか悪いわねぇ、邪魔しちゃうみたいで」

少しもそう思ってない風に名関は言い、後部座席に乗り込む。

助手席の瑠璃さんは振り向きながら名関と話す格好になり、次の信号で後ろに行こうとすると

「あー、いいの、いいの、そのままで」

名関は瑠璃さんを押しとどめた。

「こうして後ろから、瑠璃と藤原くんを見てるのもなかなかオツなものだわ」

「何だよ、それ」

「感慨深いのよ。紆余曲折を経て、結ばれた2人なんだもの。ねぇ、藤原くん」

意味ありげな口調でぼくに向かって言う。

「・・・」

「藤原くんが瑠璃を好きなことは、学園で知らない人はいないくらいだったのに、あなたたち、なかなかくっつかないし」

「・・・」

「藤原くんの苦労を思うと泣けてきちゃう」

泣けてくる、と言う割りには、名関はケラケラと笑った。

くっそー、バカにしやがって。

隣の瑠璃さんはと見ると、うっすらと赤い顔で黙り込み、ぼくの視線を感じたのか、ちらりと視線を寄越してきた。

「ねぇねぇ、あなたたちがなかなかくっつかなかったのって、瑠璃が鈍すぎるからなの?それとも藤原くんのアプローチが下手だったからなの?原因はどっちにあるの」

「高彬」

「瑠璃さん」

奇しくも言葉が重なり、名関は吹きだした。

「ウソよ!あたし、鈍くなんかないもの」

「何言ってるんだよ、瑠璃さん。ぼくが何回、気持ちを伝えたと・・・」

言い掛けて、慌てて口をつぐんだ。

後ろから名関が身を乗り出すようにして聞いてる気配がある。

「何よ、藤原くん。その先は」

「言わない」

「気になるじゃない。やっぱり、何度も告白してたの?」

「ノーコメントだ」

「ふぅん、そうなの、何度も告白をねぇ・・」

ノーコメントだと言うのに名関は頷き、バックミラー越しに目が合うとにやにやと笑っていやがる。

名関なんか乗せるんじゃなかった・・・。



*******



途中、渋滞にハマってしまったせいで、着いたのは最後になってしまい、皆はもう着替えも済ませ、ビーチで思い思いに楽しんでいた。

取りあえず、まずは顔を出そうと皆のことろに近寄って行くと

「きゃー、瑠璃ー」

「よぅ、藤原!」

「久しぶりー」

色んなところから声が掛かった。

少し話しをして、ビーチハウスに着替えに行く。

名関は今日は海に入らないということで、瑠璃さんと2人で向かうと、2年前と同じビーチハウスがあった。

よしずも風鈴も、あの日のままだった。

「あ・・」

瑠璃さんの視線の先には、あの日、瑠璃さんを寝かした縁側がある。

2人で黙って見て

「・・・懐かしいね」

「うん・・」

言葉少なに頷き合う。

「覚えてる?」

「もちろん」

「うん・・」

瑠璃さんは縁側に腰を下ろすと、手で縁側をさすり「ふふ・・」なんて笑っている。

「ほんと、懐かしい。皆が帰った後、海で遊んで、サンダル流されて・・」

「瑠璃さんをおぶって駅まで歩いて」

「ご飯を食べて」

「千葉まで行って」

「寝過ごした高彬のせいでね」

2人で笑い合う。

「夜のコンビニに買い物行って」

「泊めてもらって」

「次の日、ディズニーランド行って」

「迷子になって」

へへ、と決まり悪そうに瑠璃さんは肩をすくめ

「プール行って」

「お祭り行って」

「うん」

瑠璃さんも鮮明に覚えていてくれてることが嬉しかった。

遠くにビーチではしゃぐ人の声とカモメの鳴き声が聞こえ、潮風に風鈴がチリンチリンと音をたてる。

「着替えようか」

「そうね」

それぞれの更衣室に別れて、着替えを済ませ皆のところに行く。

瑠璃さんは白とエメラルドグリーンのワンピースで、その上にパーカーを羽織っている。

瑠璃さんいわく

「二十歳を過ぎたら紫外線が気になってきた」

そうで、あの日の勘違いを思うと何だか笑ってしまう。

ジリジリと照り付ける真夏の太陽の下、1日中遊び、あっという間に夕方になっていた。

再会を約束して皆と別れ、名関は他の人のクルマに乗ると言うことで、瑠璃さんと2人で帰路に付く。

1日の疲れと車内のエアコンのせいか、走って少しすると、段々と瑠璃さんの口数が減り、気付いたらぐっすりと眠り込んでいた。

信号待ちで上着を掛けてやり、顔を覗き込む。

そう言えば、電車の中で眠り込んだ瑠璃さんに凭れかけられてドキドキしたっけ。

あれから、まだ2年なのか、もう2年なのか、不思議な気がする。

届きそうで、届かなかった瑠璃さんへの思い。

きっと、ぼくも瑠璃さんも、不器用で怖がりだったのかも知れない。

答え合わせをしたら、こんなに簡単なことだったのに。

マンションに着き、瑠璃さんを起こし部屋に入る。

「あたしばっかり寝ちゃってごめんね」

気まずそうに瑠璃さんは言い

「いいよ、そんなこと。ところでさ、瑠璃さん」

ぼくは瑠璃さんに向き直った。

「まだ、あのビキニ持ってる?」

「え」

驚いたように瑠璃さんの目が大きくなった。

「持ってたら着てもらえないかな」

「・・・」

ぼくの顔を見ながら少し考える風だった瑠璃さんは、やがて自室に入って行き、戻って来た時には、あの日の黒いビキニを身に付けていた。

「着替えたけど・・・」

恥ずかしそうに瑠璃さんは言い、ぼくは小さく笑うと瑠璃さんを抱きしめ、そうして胸の膨らみと谷間にキスをしたのだった。







*** fin ***


2年越しの思いが叶いそうな高彬に、クリックで応援をお願いいたします。
↓↓



(←お礼画像&SS付きです)

***現代編***  Sweet, Sweet Smile!  ***

『なんて素敵にジャパネスク~二次小説*現代編』




注)このお話は現代編です。

時は現代、二人は大学生!
「妄想もここに極まれり」のスペシャル・バージョンです。
どんな妄想もウェルカム!な方は、スクロールしてどうぞご覧ください。  
             




          ***********************************************








Sweet, Sweet Smile!







煌めく光が溢れるリビング───

朝の水やりを終えたあたしは、大きな窓ガラス越しに広がるベランダを見ながらぼんやりとミルクティーを飲んでいた。

実家から株分けして持ってきたツルニチニチソウはどんどん増殖してるし、前に高彬が買ってきたルリマツリの鉢植えは、夏が終わったと言うのにまだ頑張って花を咲かせてくれている。

花が終わったら、一回り大きな植木鉢に植え替えた方がいいのかしら?

今度、志乃さんに聞いてみよう───

「ただいま」

「・・・きゃっ」

考え事をしてる最中に突然声を掛けられ、ミルクティーをこぼしてしまう。

振り向くと高彬がリビングに入って来たところだった。

「びっくりさせないでよ。誰かと思っちゃったじゃない」

テーブルに飛び散ったミルクティーを拭きながら文句を言うと

「この家に『ただいま』と言って入ってくるのは、ぼくだけだろ」

高彬はてんで悪いと思っていないようで、あたしのところまで来ると

「おはよう」

とすばやくキスをしてきた。

そうしてカウンターを回ってキッチンに入ると、冷蔵庫から取り出したペットボトルに入った水を美味しそうに飲んでいる。

よっぽど喉が渇いていたのか、一気に飲み干している。

「・・・・・」

ほんと、何ていうか・・・

ため息まじりに高彬を見ていると

「なに?」

あたしの視線を感じたのか、高彬が顔を上げた。

「ねぇ、高彬。何もそう、毎朝毎朝、決死の覚悟でおはようのキスをしなくてもいいのよ。喉が渇いてるなら、そっちを優先すればいいじゃないの。こうして結婚した以上、長い付き合いになるんだし、今から無理してると後が続かないわよ」

そう言うと、高彬は空になったペットボトルをぐしゃりと捻じ曲げゴミ箱に放りながら

「別に無理なんかしてないよ。好きだからしてるだけ」

「好きって・・・キスが?あたしが?」

言ってから慌てて口をつぐむ。

高彬の言葉があやふやだったもんだから、『売り言葉に買い言葉』的に聞いてしまっただけなのよ。

ぼんくらでトロい融は、いつでも主語がはっきりしないから何を言ってるんだか良く判らなくて、そのたびに

「5W1H!」

と散々叱ってきたもんだから、ついついその時の癖が出てしまったのかも知れないわ。

ほら、あたしって何でもすっきりはっきりが好みだから。

そういう理由で聞き返しただけなんだけど、だけど今の言葉って、聞きようによっては何だかひどく甘えてるように聞こえたんじゃないかしら・・・

ちらりと高彬を見ると、コーヒーでも淹れようと思っているのか、戸棚を開け閉めしたりしている。

良かった・・・

聞こえなかったのかも知れない。

「瑠璃さん。良い天気だしどこかに出掛けようよ。暑くも寒くもなく、外は快適だったよ」

やっぱり聞こえてなかったと見え、まったく違う話題を振って来た。

高彬も、融に負けず劣らずドンくさいとこあるものね。

高彬は休みの日は朝早くからバイクを走らせに行くことが多くて、今朝もあたしがまだ寝ているうちに起き出して、2、3時間走らせてきたのだ。

「どこかって、例えばどこに?家でのんびり過ごすのもいいかなぁ・・なんて思ってたんだけど」

「うーん、そうかぁ・・・。じゃあ、紅葉には少し早いけど温泉なんてどう。のんびり出来るよ」

温泉ねぇ。

確かにのんびり出来そうだし、言われてみればこんないい天気なのに家にいるのはもったいないものね。

悪くないかも知れない。

「うん、いいわよ」

頷くと

「よし、決まりだ。宿を取れたら泊まるから、瑠璃さん、そのつもりで準備して」

高彬に言われ、あたしは急いで荷造りをした。



**********



連休初日と言う事もあり、道路はそれなりに混んでいたけれど、それでも高彬の言う通り、快晴の空が広がる絶好の行楽日和だった。

窓から入ってくる風が心地よく、知らずに鼻歌でも出そうな感じ。

「両方だよ」

「え」

ハンドルを握っていた高彬が唐突に言うので

「両方って何が」

聞き返すと

「瑠璃さんのさっきの質問の答え」

「・・・・・」

何だ、聞こえてたんだ・・・

何となく言葉に詰まっていると、高彬の手が伸びて指を絡ませてきた。

「危ないわよ」

「直線だから大丈夫。危なくなったら離すから」

そう言うと、高彬はあたしの手で遊び出した。

一本一本の指をなぞったり指先を摘んだり、手の平を撫ぜたり、完全におもちゃにしていて

「柔らかいな」

なんて言って笑ったりしている。

そうして遊んでいるうち、段々と高彬が無口になってきて、あたしはここが車の中であることに心底、安堵してしまった。

もしこれが家の中だったら、あたしはきっとベッドに引きずり込まれていたに違いないもの。

高彬と入籍したのは春で、その後、色々あって名実ともに夫婦になったのは8月のあたしの誕生日だった。

だから、まだまだ日は浅いんだけど、でも、少しずつ判ってきたことがある。

高彬は、そういう時、ふいに無口になる。

そう言う時って言うのは、つまり───

男として盛り上がってる時ってことなんだけどさ。

最初は機嫌でも悪いのかと思ったんだけど、そうではなかった。

その、高彬の「男スイッチ」とあたしが密かに呼んでいるものが、どのタイミングでオンになるかは全く予測不可能で、寝ぼけ眼で入って行った朝のリビングだったこともあったし、友だちと食事を終えて遅めの帰宅をした玄関だったこともあった。

あたしも高彬のこと好きだし、こうして夫婦になったんだから、決して嫌なわけではないんだけど・・・

ただ、まだ慣れないと言うのか、高彬の激しさに戸惑う気持ちもあったりで、何となく構えてしまうと言うか、羞恥心の方が勝ると言うか・・・

「少し休憩しようか」

気が付いたら車はサービスエリアに停まっていた。

身体を伸ばし、飲み物を買って車に戻ると

「宿、取れたよ」

と言われ、どうやら今の時間で手配をしてくれたみたいだった。

その後は休憩を取らず、一路、お宿を目指した。



*********



高彬が取ったと言うお宿は、和洋折衷と言えるような格式あるところだったのだけど、部屋に案内されて障子を開けたあたしはのけぞりそうになってしまった。

庭に小さな露天風呂があるではないの!

まさか、まさか、一緒に入ろうとか言いだすんじゃないでしょうね・・・

恐る恐る高彬を見ると

「この部屋しか空いてなかったらしいよ」

なんてシレっとした顔で言うので、あたしは睨みつけてやった。

見たところ駐車場は満車じゃなかったもの。

<この部屋しか空いてなかった>なんて怪しいもんだわよ。

もちろん、お宿の人が、じゃなく、高彬がね。

「ねぇ、瑠璃さん・・」

「駅の方まで歩いてみない?お土産物屋さんも覗きたいし」

高彬がよからぬ提案を口にする前に、早口で言う。

嫁入り前、ではないけれど、あ、あたしはまだ花も恥じらう乙女なのよ。

こんな陽の高いうちに混浴なんて、無理!

不満げな高彬を無理やり納得させて外に出ると、さすがに日本有数の温泉街、すごい人で賑わっていた。

お土産屋さんを見ながらそぞろ歩くうち、高彬の機嫌も直ってきたようで

「亜実だったら、お饅頭が喜びそうよね。何たって花より団子の人だから」

「名関だったら、花も団子も、だろ」

なんて言って笑い合うのも楽しかった。

「ケンちゃんたちにも何か買っていこうかしら。また皆で遊びに来るって言ってたから」

「うん」

ケンちゃんと言うのは近所の小学生で、時々、数人の友だちを引き連れてうちに遊びに来るのだ。

ケンちゃんは、バイクを触らせてもらったり剣道を教えてもらったりして、今ではすっかり高彬になついている。

結局、亜実にはお饅頭を、ケンちゃんたちにはカスタード入りのお菓子を買った。

アンティーク調の喫茶店でお茶したりして、お宿に戻った時にはずいぶんと陽は西に傾いていた。

部屋に戻り、高彬が外の景色を見ている時、何の気なしに隣の部屋の襖を開けたあたしは、またしてものけぞってしまった。

もう布団が敷かれているではないの!しかも二組!

慌てて襖を閉める。

ここに泊まるんだから当たり前と言えば当たり前なんだけど、何と言うか、並べて敷かれる二組の布団と言うのは、普段、家で使っているベッドよりも遥かに「秘め事感」が漂っていて、一言で言うと

(ロコツよー)

と叫びたくなる感じなのだった。

さっきの露天風呂と言い、この布団と言い、何だか高彬の陰謀を感じるわ。

なーにが「温泉でのんびりしよう」よ。

全然、のんびり出来なさそうじゃないのさ。

「瑠璃さん、そろそろ温泉に・・・」

「お、屋上の大浴場に行ってこようかしら。あたし、広ーいお風呂が大好きなの。やっぱり日本人よねぇ」

「・・・・ぼくも日本人だけど、ぼくは案外、狭いお風呂も好きだけどね」

高彬が眉をあげながら意味ありげに笑い、それでも

「じゃあ、ぼくも入ってこようかな」

と一緒に部屋を出る。

温泉の入り口で高彬と別れ脱衣場に向かうと、中途半端な時間のせいか、誰もいなかった。

もしかしたらお湯を独り占めできるかも知れない。

急いで服を脱ぎ浴室の引き戸を引くと、思っていた通り、人っ子一人いなくて、あたしは小さな歓声を上げながら露天風呂に身を沈めた。

無色透明のお湯はさらさらと身体に纏わりつき、思わずため息がでるほどの気持ち良さだった。

秋の日は釣瓶落とし───

さっきまで夕焼けで眩しいほどだったのに、もう空は藍色に変わり始めている。

ユラユラと揺れるお湯越しに自分の身体を見たあたしは、ほんの少しの間、考えこんでしまった。

明かりとりのための仄かな外灯に照らされたあたしの身体は真っ白で、ところどころ柔らかな丸みを帯びている。

あたしの身体ってこんなに綺麗だったかしら?

「・・・・」

ひょっとして高彬の・・・せい?

ふと、塀の向こうの男湯の気配が気になってしまう。

静かで、だけど、誰かがいるような確実な気配が伝わってくる。

高彬かしら?

高彬、と呼びかけようとして止めた。

代わりにいつも高彬にされてるみたいに、そっと両手で胸の膨らみを包んでみる。

もしかしたら、あたしにも───

「女スイッチ」があるのかも知れない。

隣からお湯を掬うような音が聞こえ、あたしはそっと目を閉じた。



********



部屋に戻ると、すでに高彬は戻っており、窓際のイスに座ってぼんやりと暮れなずむ景色を眺めている。

浴衣姿に、ドキっとしてしまう。

「あ、瑠璃さん・・」

気が付いた高彬が振り返り、あたしを見るとほんの少し目を見開いた。

「ごめんね、お待たせしちゃって・・・」

じっと見られているのが恥ずかしくて、何となく照れ笑いを受かべてイスに座ると、高彬は無言のままに立ち上がり、あたしの前に来ると身を屈めてキスをしてきた。

挨拶のキスじゃないことは明らかだった。

舌を入れられ、肩を強く掴まれる。

そのまま布団にいざなわれ、抵抗しなかったのは、あたしもさっきちらりと思った「スイッチ」のことが頭にあったからだった。

布団の上に横たえられ、高彬は何の躊躇もなくあたしの浴衣を剥ぎ取ると、自分も脱いだ。

痛いほどのキスをされながら、身体を触りまくられ、まるで本当にスイッチを探してるみたいだった。

高彬のことだから、きっとあたしのスイッチを探し当てる。

有能な人だもの、あたし自身だって気付かないようなスイッチまで探し出すに決まっている。

「高彬・・・」

高彬が身体を沈めて来た時、あたしは知らずにしがみついていた。

何だか泣きたくなってくる。

もしかしたらあたしも動いていたかも知れなくて、いつもだったら絶対に恥ずかしいことなのに、だけど、恥ずかしさや困惑よりも、高彬が好きと言う気持ちの方が勝っていた。

高彬が好き。

高彬と同じところに行きたい。

あたしも一緒に連れて行って───。



***********



ふと気が付いたら、部屋はさっきよりも暗くなっていた。

裸のまま高彬の腕の中にいて、少しの間、眠ってしまったみたいだった。

「あ、瑠璃さん。起きた?」

もぞもぞと身体を動かすと、高彬はずっと起きていたのか、顔を覗き込んできた。

「もう起きておこうか、そろそろ食事が運ばれてくる時間だ」

「うん・・・」

返事をしてみたものの、何だか身体が動かない。

高彬もまだ起きる気はないのか、あたしの身体を撫ぜたりしている。

「スイッチが・・」

見つかったかも知れないの・・・。

そう言い掛けて、あたしは言葉を飲み込んだ。

言わなくてもいいわ、そんなこと。

有能な人だもの、きっともうとっくに気付いてる。

「なに?」

聞き返されて

「ううん、何でもない」

目を閉じたまま、あたしはそう答えたのだった。






*** fin ***


現代編の瑠璃と高彬も大好きです。

お読みいただきありがとうございました。

おまけの短いお話、下の緑の拍手ボタンにおいてあります。


(←お礼画像&SS付きです)

My Girl  ~the future of us two~

『なんて素敵にジャパネスク~二次小説*現代編』




注)このお話は現代編・特別バージョンです。
            
少し先の未来、2人の間には子どもがいる設定です。
そういう設定が苦手な方は閲覧をお控えください。
読後のクレームは一切お受けできません。
「妄想もここに極まれり」のスペシャル・バージョンです。
どんな妄想もウェルカム!な方は、スクロールしてどうぞご覧ください。  
             




          ***********************************************








 My Girl  ~the future of us two~









「ただい・・・」

「おかえりぃ!」

カチャリと玄関を開けて「ただいま」と言おうとしたら、大きな声が被ってきた。

「あかり」

リビングのドアの前に立っていた小さなシルエットはあかりで、どうやら玄関が開くのを今か今かと待ち構えていたらしく、ぼくの顔を見ると、たったったと一目散に廊下を走ってきた。

そうして至近距離まで来てぴたりと止まると

「パパ、おかえりぃ!」

両手をメガホンのようにして、身体全体を使って大きな声で言った。

「ただいま、あかり」

しゃがみこんで、手を頭に乗せると、あかりははちきれんばかりの笑顔を浮かべた。

「お出迎えは嬉しいけど、もう寝てなきゃいけない時間だろう」

廊下の時計は9時半を回っていて、普段のあかりだったら、とうに就寝している時間だ。

「ママがね、いいって!クリスマスだから特別よって!ケーキもね、たぁくさん食べた!ご飯より食べた!」

「ご飯より?それはいけないな」

「だってママがいいって言ったもん!」

「あかり。パパには内緒ねって言ったでしょう」

リビングから瑠璃さんが現れて、あかりに向かって笑いながら「しっ」と指を立てて見せた。

「おかえりなさい。随分がんばって早く帰ってきたのね。また午前様かと思ってたのに」

「何とか奇跡的に帰れたよ」

ここのところ帰宅が12時を回ることが多かったし、ひどいときは泊り込みになることもあった。

年末は特に忙しくなる時期なので、まぁ仕方がないのだけれど。

「抱っこ!抱っこ!」

両手を広げて抱っこをせがむあかりを片手で抱き上げ、空いてる方の手でネクタイを緩める。 

リビングに入ると、テーブルの上には食べかけのケーキやたくさんの食器が散乱していた。

7年前、入籍して初めて迎えたクリスマスに、瑠璃さんたっての希望で購入した天井まで届きそうな大きなツリーには色とりどりのライトが点滅している。

「皆はもう帰ったんだ」

「少し前・・・30分くらい前かしら。皆、高彬によろしくって言ってたわよ」

「・・誰が来てたんだっけ」

「もう。朝も言ったじゃない。亜実と奈々恵と理恵子と恭子よ。そのうち奈々恵と恭子は子連れ。奈々恵のところは2歳の男の子で、恭子のところはうちと一緒、3歳の女の子。覚えた?」

「覚えた。完璧」

「どうだか」

瑠璃さんはふふんと笑うと、ぼくが座ったテーブルの前を手早く片付けた。

「はい、どーじょ。召し上がれ!」

あかりがすかさずお皿に取り分けたクリスマスケーキを出してきて、そのませたしぐさと言い草に、思わず瑠璃さんと目が合い笑いあう。

「ありがと。パパは後で食べるから、あかりはもう寝なさい。早く寝ない子のところには、サンタさんは来ないんだぞ」

あかりの顔を覗きこんで言うと、あかりは頬をぷぅっと膨らませ

「来るもん!あかり、いい子だもん!」

顔を真っ赤にして抗議してきた。

こういう展開には慣れてるんだよなぁ。

「もちろん、あかりがいい子なのはパパはわかっているよ。だけど、サンタさんはどうかな?世界中の子の毎日の様子を見るのは大変だと思うよ。やっぱりちゃんと寝てる子にプレゼントをあげようって思うんじゃないかな」

そう言うと、あかりは黙り込み目をぱちくりとさせた。

思案すること数秒、どうやらここは寝た方が良いと判断したのか

「あかり、寝る」

短く言い、イスを滑り降りるとそのままスタスタとリビングを出て行ってしまった。

「あ。あかり、待ちなさい。歯、磨かなきゃ」

慌てて瑠璃さんが席を立ちかけると、出て行ったあかりが戻ってきてぼくの側にやってきた。

「パパ。チューしてあげる」

屈めと言うしぐさに身体を曲げ、あかりのチューを頬に受ける。

「パパ。あかりにチューしてもらって嬉しい?」

「うん、嬉しいよ。ありがとう」

「うん!どういたしまして!」

満足したのか、あかりは手を振りながらリビングを出て行った。

その後を追いながら

「寝かしつけてくるわ。先にお風呂に入ったら?お風呂、出来てるわよ」

ぼくに声を掛け、瑠璃さんもリビングを出て行った。







*********************************************************







風呂から上がり、冷蔵庫からビールを取り出しソファに座ったところで、瑠璃さんがリビングに戻ってきた。

「あかり、今日のクリスマス会がよっぽど楽しかったのね。興奮しちゃってなかなか寝ないの。絵本3冊読んでやっと夢の中よ」

そう言って、アイスティーをコップにつぎ、ぼくの隣に座った。

「プレゼントは置いた?」

「枕元の靴下にちゃんと入れてきたわよ。それより、相変わらずあかりを説得するのが上手ねぇ」

感心したように言う瑠璃さんに

「ああいう抗議の対応には、子どもの頃から慣れてるから。誰かさんのお陰で、ね」

意味ありげに答えると、瑠璃さんは横目でぼくを軽く睨んで、アイスティーを一口飲んだ。

「そういえば、今日ね」

「うん」

「クリスマス会で子どもたちが歌を歌ったのよ。ジングルベルの歌」

「・・・・・」

「知らない?ジングルベール、ジングルベール、鈴が鳴る~って歌。クリスマスの定番なんだけど」

「・・・知ってる」

くそー、何だかイヤな話の流れだな。

「それがねぇ・・・あかり、ひとりだけ音程がずれてるのよ。そのくせ、あの子、声が大きいでしょう?何て言うか・・・」

瑠璃さんはいったん言葉を切り、ちらりとぼくを見た。

「あの子、音痴みたいなのよねぇ・・・」

「・・・そうか。まぁ、それもひとつの個性だな」

しらばくれて、ビールを喉に流し込む。

「・・・・」

「・・・・」

奇妙な沈黙の後、目が合い2人して吹きだした。

「子どもって、似て欲しくないとこばかり似るものなのね」

瑠璃さんが言い、ぼくも大きく頷いた。

「だけど、あかりはいい子に育っているよ。明るくて優しい」

「うん、そうよね」

瑠璃さんは何事かに思いを馳せるような顔つきで口をつぐみ、ふと、ぼくはその横顔に見惚れた。

ずっと変わらない肩を覆うふわりとした髪、華奢な首元、少しだけシャープになった頬のライン・・・・

まだ瑠璃さんを手に入れてなかったあの頃、ぼくは何度、この横顔を盗み見たことだろう。

欲しくて欲しくてたまらなかった瑠璃さんの心と身体・・・。

「そういえばね」

思い出したように瑠璃さんが急に振り向き、内心、ドキッとする。

「あかりがね、今度パパと2人で水族館に行きたいって言ってたわよ」

「2人で?なんで」

「さぁ・・。パパを独り占めしたいんじゃないの」

ごくりとアイスティーを飲みながら答える声に、微妙な変化があった気がして、ぼくは思わず瑠璃さんの顔を覗きこんだ。

「もしかして・・・妬いてる?」

「まさか!冗談でしょ」

早すぎるほど早い瑠璃さんの反応に、思わずにやりとすると

「娘に妬きもちなんて焼くわけないじゃない」

瑠璃さんはぷいっと顔をそむけて見せた。

その横顔がほんのりと赤い。

「ふぅん」

「ふぅんて、何よ。ふぅんて。いやな高彬」

「いや、ぼくならもし息子がいて、あんまりママ、ママ言ったら、妬きもち焼くと思うからさ。てっきり瑠璃さんもそうなのかと思って。ちょっと期待した」

にっこり言うと

「ば、ばっかじゃないの」

瑠璃さんはますます顔を赤くした。

あぁ、やっぱり瑠璃さんは可愛いなぁ。

半ば強引にこちらを向かせてキスをすると

「苦い。ビールの味」

瑠璃さんは顔をしかめたけれど、かまわずにキスを続ける。

「・・・寝室、行こうか」

「・・・・・シャワー、まだだけど」

「じゃあ、早く浴びておいで」

立ちあがった瑠璃さんに

「3分でね」

覚えているかと思い、言ってみると、瑠璃さんは驚いたような顔でぼくを見て、そして、何を思ったかもう一度ストンとソファに腰を下ろした。

少しの沈黙が流れ、アイスティーの氷がカランと綺麗な音をたてた。

「あの日・・・あたしが着ていたもの覚えてる?」

瑠璃さんが着ていたもの・・・・?

あの日は瑠璃さんの20歳の誕生日で、ケーキを買いに出かけたぼくが帰って来た時に瑠璃さんは着替えていたはずだ。

そして、その時着ていたのは・・確か・・・白い・・・・ブラウス・・・・。

うん、そうだ。色の白い瑠璃さんに似合っていたから、よく覚えている。

「白いブラウスだったと思うけど」

答えると瑠璃さんは少し目を開いて、嬉しそうに

「うん、そう」

と呟いた。

「あのブラウスね、ほんとは入籍する日に着ようと思って買ったの。花嫁さんみたいでいいかな、なんて思って。高彬のお嫁さんになるの嬉しかったから」

前を向いたまま小さな声で一気に言い

「・・・黙ってるつもりだったけど、言っちゃった」

さらに小さな、聞き取れないほどの声で呟いた。

「さ、シャワー浴びてこよっと」

照れ隠しなのか、わざとおどけたような口調で言いながら瑠璃さんは勢いをつけてソファから立ち上がった。

「・・・2分で出ておいで、瑠璃さん。理由は・・・わかるよね」

立ち上がった瑠璃さんの手を取って言うと、瑠璃さんは一瞬ぽかんとした顔になり、次いで物言いたげ目でぼくを見ると小さく頷いて見せた。

シャワーに向かう後姿を見送り、手元のビールを一気にあおる。

喉がごくりと音を立てた。

イブの夜、ビールと妻にしたたかに酔ったぼくは、後で瑠璃さんに呆れられてしまうほどに、瑠璃さんを抱いた。

夜中に目を覚ますと腕の中には瑠璃さんがいて、ぼくはそっと腕を外してベットを抜け出すと、用意してあったネックレスを瑠璃さんに付けた。

───── らしくないと笑われるかな。

ふと心配になったけど、まぁ、仕方ない。甘んじて受けよう。

腹をくくって、ぼくは目を閉じた。








********************************************************







「サンタさん、来たー!プレゼントくれたー!」

翌朝、リビングに飛び込んできたあかりは、意気揚々とテーブルにプレゼントを並べ、ふと、手を止めると瑠璃さんの首元に目が釘付けになった。

「ママのキラキラ、きれい」

近くに行き、じっと見ている。

「どうしたの」

ネックレスを指さされ聞かれた瑠璃さんは

「ママにもね、サンタさんが来たみたいなの」

内緒話をするように、あかりに向かって言った。

「・・・・ふぅん」

一瞬、腑に落ちないような顔をしたあかりは、それでもすぐに

「良かったね!ママ、いい子だもんね!」

と笑った。

ちらりとぼくを見て、はにかむように笑う瑠璃さんの顔に、朝日が当たっていた。








*** fin ***







<現代編>の少し先の未来、藤原家のクリスマスのお話です。

パパとママになっても、やっぱり2人はお互いに恋をしてるんですね。

子どもの名前は「藤原あかり」。

高彬は「朱璃」と付けたかったようですが、瑠璃が

「あたし、難しい漢字で子どもの頃、ほんとに大変だったんだから。ひらがなにしましょ」

と言うことで「あかり」になったみたいです。

あかりちゃんはどんな子に育っていくのでしょうか。

いずれ誰かと恋に落ち、そしてその人を家に連れて来たとき、瑠璃の反応は?

高彬は、父親として、どんな対応をするのでしょう?

考えただけでワクワクしてきます。

でも、それはまだまだ先の話ですね。

現代編はこれからも更新するつもりですが、また<今>の2人に戻ります。

もうすぐクリスマス。

皆さん、楽しいクリスマスをお過ごしくださいね!

~Merry Christmas!




瑞月



(←お礼画像&SS付きです)

**現代編***  You Can't Hurry Love !<番外編> ***

『なんて素敵にジャパネスク~二次小説*現代編』




注)このお話は現代編です。
時は現代、二人は大学生!
「妄想もここに極まれり」のスペシャル・バージョンです。
どんな妄想もウェルカム!な方は、スクロールしてどうぞご覧ください。  
             




          ***********************************************








You Can't Hurry Love !<番外編>







「お名前はなんてお入れいたしましょうか?」

やたらと愛想の良い店員に甲高い声で聞かれて、口を開きかけたぼくは、思わず言葉を飲み込んだ。

店内にあるカフェコーナーに座っている女性2人組みがこっちを見ている、ような気がする。

ベビーカーを押しながらケーキを物色している若い母親もぼくを見ている、ような気がする。

「瑠璃さん、で」と答えるのは、何とも気恥ずかしい。

いや、しかし「瑠璃さん」以外に書く名前はないわけで、ぼくは覚悟を決めた。

「る・・・る・・・」

「・・・・」

口ごもるぼくを店員が怪訝そうに見ている。

「る・・・る・・・」

「る・・・?」

店員の顔から愛想笑いが消え、代わりに困惑したような表情が浮かんだ。

「・・・いや、やっぱり、いいです。何も書かなくて。そのままで」

ため息まじりに言うと、店員の顔に再び愛想笑いが浮かび、そのままの顔で手際よくケーキを箱にしまった。

支払いを済ませ店を出たぼくは、停めてあったクルマに乗り込み大きく吐息し、ハンドルに突っ伏した。

どっと疲れが襲う。

ホールケーキを買うなんて、人生初ではないだろうか。

いや、しかし緊張したな。

店に入ってショーケースを見出した途端「お決まりでしたらお伺いいたしますが」と、良く通る声でいきなり言われて、度を失ってしまった。

今、入ってきたばかりで「お決まり」なわけがないじゃないか。

お決まりだったら、言われなくても声を掛けているさ。

そもそも、少し放っておいてもらいたいんだよな。

こっちはケーキ屋初心者なんだから。

なんとか瑠璃さんが喜んでくれそうなケーキに目星をつけ、店員に告げると

「ご自宅用でしょうか?お届けもの用でしょうか?」と聞いてきた。

そんなことまで聞いてくるのか?!

ご自宅用とお届けもの用で、何がどう違ってくるというのだろう。

そんな疑問が頭の中でグルグル回ったけれど「自宅用で・・・」とぼそぼそと答えると、今度は

「お誕生日用のプレートはお付けしますか?」

と聞いてきた。

なんで瑠璃さんが誕生日だと言う事を知っているんだ?!とびっくりしたけれど、そうか、ホールケーキを買うのは誕生日が多いのだろうと・・・と納得して、ぼくは頷いた。

すると今度は「お名前はなんてお入れいたしましょうか?」と聞いてきて・・・・

はぁ・・・。

もう一度、大きく吐息してから、ぼくは顔を上げた。

助手席の瑠璃さんがいつも座る場所には、ケーキの入った四角い白い箱が置いてある。

何はどうあれ、目的は達成したんだ。

ぼくは小さく頷くと、エンジンをかけた。

瑠璃さんが待つ家に早く帰ろう。帰って2人だけの誕生会だ。

そう。

今日は瑠璃さんの20歳の誕生日なのだ。








*********************************************************








「おかえり」

ドアを開けると瑠璃さんが立っていた。

連絡したわけじゃないのに、よく帰ってくる時間がわかったな、と思っていると

「テラスから、高彬のクルマが駐車場に入っていくのが見えたから」

瑠璃さんは言い訳するように言って、そのままスタスタとリビングに入っていった。

見れば瑠璃さんは、ぼくが出ている間に着替えたのか、見慣れない服を着ている。

程よく襟ぐりの開いた柔らかそうな白いブラウスは、色白の瑠璃さんに良く似合っていた。

瑠璃さんの心弾みを見たようで、ぼくは嬉しくなってしまった。

「すごいでしょ。全部、あたしの好きなものばかり。さすが志乃さんだわ」

テーブルに並んだ料理を指し示しながら、瑠璃さんは楽しそうに言い

「さ、高彬も座って。温かいうちにいただいちゃいましょうよ」

ぼくに座るように促した。

「いただきます」

2人で声を合わせてそう言い、目が合いにっこりと笑いあう。

昨年の今頃は、正真正銘の<幼馴染>だったわけで、こんな風に2人きりで誕生日を祝うのは初めてのことだった。

いや、そもそもきちんと瑠璃さんの誕生日のお祝いをしたのも、これが初めてかもしれない。

もちろん瑠璃さんの誕生日は知っていたけれど、プレゼントはもとより、「おめでとう」の言葉さえ恥ずかしさが先にたって言ったことはなかった。

朝夕の通学時に「今日は誕生日だね」くらいは、言ったことはあったけど。

「で、瑠璃さん、プレゼントは何が欲しいの?」

食事もおおかた終えた頃、ぼくは気になっていたことを切り出した。

瑠璃さんにはかなり前から、何が欲しいかを聞いていたのだけど、そのたび瑠璃さんは

「当日になったら言うから」

とだけ答え

「それじゃその日に渡せないだろう」

と言うぼくに、意味ありげに

「準備の必要なものじゃないから」

と笑って見せるのだった。

あれこれ考えてみると、どうにも自分に都合の良いことばかりが浮かんでしまったのだけど、だけど瑠璃さんが

「誕生日には、高彬が欲しいの」

などと言うことがあるはずもなく、ぼくは過剰な期待はしないようにしていた。

期待はしてないのだけど、だけど気になってしょうがなく、ぼくはそういう意味でも今日と言う日を心待ちにしていたのだ。

「何が欲しいの?」

重ねて聞くと、瑠璃さんはぼくをじっと見て、ふいにいたずらそうな目をした。

「高彬にね、歌って欲しいの」

「は?」

「歌よ、歌。ハッピーバースデーの歌」

「・・・・・」

「知らない?ローソク消す前に歌う歌。ハッピバースデー、トゥーユーって歌」

「知ってる」

「それをね、歌って欲しいの」

にっこりと言う瑠璃さんを軽く睨みつける。

「・・・瑠璃さんも知ってるだろ」

「何を?」

「ぼくが・・・音痴なこと」

ぶすっとして言うと

「音痴らしいってことは聞いてるけど、考えてみたら高彬の歌って聞いたことないんだもの。聞いてみたい」

「いいよ、聞かないで」

ぼくは物心ついたころから音痴だったらしい。

らしい、と言うのは自分に自覚がなかったというわけで、どうやらぼくは人に比べて音痴なんだと気が付いたのは、小学2年生の音楽の時間だった。

音楽の授業では最初に必ず校歌を歌うのが決まりで、その日も皆で合唱していたのだけど、歌い終わったときにクラスメートの1人が

「藤原くんは、人と違うようにふざけて歌っています!」

と先生に進言し、ぼくは1人で歌わされるはめになった。

ぼくはもちろん真面目に歌っていたのだけど、歌うほどに先生の顔は険しくなるし、クラスメートは笑い出すしで、ぼくはクラス中から「音痴」の烙印を押されてしまったのだ。(そういえば、ぼくがふざけて歌っていると先生に進言したやつは代田だった!)

「ね、いいでしょ。お願い。あたしも一緒に歌うから」

瑠璃さんに手を合わせてお願いされて、さらには一緒に歌うからとまで言われたら、もう断ることはできなかった。

しぶしぶ頷くと、瑠璃さんはいそいそとローソクに火をつけ

「ハッピーバースデー、トゥーユー・・・」

と小さく手を叩きながら歌いだした。

ほら、高彬も一緒に、と目で促されて、ぼくは仕方なく小声で歌いだした。

瑠璃さんは心持ち身体を前に乗り出して、ぼくの声を聞き取ろうと耳に意識を集中しているのがわかる。

何となく瑠璃さんの口元に笑いが浮かんでいるのも気になる。

「・・・ディア、瑠璃さーん」

のところで、とうとう瑠璃さんは声をあげて笑った。

くっそー、何だか敗北感だな。

何とか歌い終わると、瑠璃さんはふぅーっとローソクの火を吹き消し、自分で手なんて叩いている。

ぼくも付き合いで手を叩きながら、それでも恥ずかしさからそっぽを向いてしまった。

「高彬、ありがと」

上機嫌で言う瑠璃さんの声がふいに近くに聞こえ、気が付くといつのまに来たのか瑠璃さんが隣にいた。

「高彬の歌、聞いちゃった」

嬉しそうに肩をすくめる瑠璃さんに心が和みながらも

「・・・下手くそだっただろ」

ムスッと言うと

「聞きたかったら、嬉しい」

「・・・・」

「怒ってる?」

「・・・・別に・・」

「からかったわけじゃないのよ。ほんとに聞きたかったの。聞いたことなかったから」

「・・・うん」

「じゃあ、こっち向いてよ」

ゆっくりと体ごと瑠璃さんに向き合うと、瑠璃さんは

「ありがと、高彬」

そう言って指を絡めてきた。

目が合い、見つめ合う。

「誕生日、おめでとう」

「・・・うん。ありがとう」

「瑠璃さんの方がふたつも年上になっちゃったね」

「やあね、おばさんって言いたいの」

唇をとがらす瑠璃さんが可愛くて、そっと引き寄せる。

「そんなんじゃないさ」

「ふふ」

「ねぇ、瑠璃さん。秋にはぼくの誕生日が来る」

「うん」

「プレゼント、今からリクエストしてもいいかな」

「いいわよ。早めに準備しておけるし」

「準備の必要なものじゃないんだ」

「・・・・・」

そっと瑠璃さんの身体を離して、顔をのぞきこむ。

「何だかわかる?」

瑠璃さんの目がくるりと回った。

「芝刈り?」

「こら」

鼻をつまむと、瑠璃さんは笑い、ぼくも笑った。

そっとキスをすると、黙って瑠璃さんもされるがままになっている。

「ぼくが欲しいプレゼントは瑠璃さんだ」

唇を離して心をこめて言うと、瑠璃さんの頬がさっと赤く染まり、一度、ケーキに目をやってからぼくを見て小さく頷いたのだった。





***fin***




(←お礼画像&SS付きです)
プロフィール

瑞月

Author:瑞月
瑞月(みずき)です。

ランキングバナー

にほんブログ村

ランキングに参加しています。
楽しんでいただけましたら
クリックで応援をお願い致します。
1日1クリック有効です。
初めにお読みください
**当ブログの簡単な説明です**
当ブログは「なんて素敵にジャパネスク」の二次小説を掲載しております。 二次小説と言う言葉を知らない方や苦手な方は閲覧ご注意ください。 また読後のクレームはお受けできません。 「ごあいさつ<最初にお読みください>」も合わせてご一読下さい。
カテゴリ
別館
乳姉妹ブログ
日記ブログ
掲示板
なんて素敵にサイト様 
最新記事
ご訪問ありがとう(H23.11.28-)
**オンラインカウンター**
現在の閲覧者数:
コメントありがとうございます
お礼SSや「他己紹介」があります。
web拍手 by FC2
** あれこれ投票所 **
お好きなジャンルをお選びください。 投票は何度でも可能です。
*** あれこれ投票所2 ***
メールフォーム(ご用の方はこちらから)

名前:
メール:
件名:
本文:

カレンダー
10 | 2017/11 | 12
- - - 1 2 3 4
5 6 7 8 9 10 11
12 13 14 15 16 17 18
19 20 21 22 23 24 25
26 27 28 29 30 - -
月別アーカイブ