***第三十四話 秋の宵夢***

『なんて素敵にジャパネスク〜二次小説』




          注)このお話は連続ものです。
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*** 第三十四話 秋の宵夢***






八月になり、すっかり季節は秋らしくなってきた。

昼の間、すみきった青空がどこまでも広がっていた秋の空は、夕刻になり、驚くほど早く陽が傾き、酉の刻(午後六時)となった今、あたりはすっかり夕闇に包まれている。

どこからともなく虫の鳴き声が聞こえて、それがかえって秋の静けさを際立たせている。

灯台には火が入り、部屋はうっすらと明るく、灯台のまわりのやわやわとした光の輪が、時おり風に吹かれてゆらめく。

あたしは脇息によりかかり、ぼんやりと灯台の明かりを眺めていた。

今日、というか、今夜、高彬と結婚するのだ。

思えば長い道のりだったわ・・・。

最初に高彬に求婚されたのが、去年の春。

高彬が服喪に入ったり、御世が変わったり、あたしが記憶を失ったりして、なんだかんだしてるうちに、もう秋だもの。

その間、なんども初夜が流れちゃったりもしたし・・・。

「姫さま、いよいよ、ですわね」

小萩が声をかけてきた。

なんだか朝から小萩は妙に張り切っていて、そのくせ緊張してるみたいで、そうなると、あたしの方が落ち着いてきちゃうから不思議よぉ。

小萩にもいろんな心配をさせたものね。

今日の結婚を心待ちにしていたのは、父さまでも母上でもなく、案外、この小萩かも知れない。

そんなことをつれづれに考えてるうちに、ゆるやかに夜がきて、気が付くと、東門あたりがざわついてきた。

小萩は部屋を飛び出していき、やがて、二藍の直衣姿の高彬が妻戸から入ってきた。

扇で御簾を少し持ち上げてやると、するりと音もなく入ってきて、少し照れくさそうに目で合図した。

あたしの前に座り、小さく深呼吸したかと思うと、にこっと笑う。

さっきまでは落ち着いていたはずなのに、高彬の顔を見たら、なんだか急にどきどきしてきちゃった。

こういうとき、どういう顔をしていたらいいのかしら・・・。

恥ずかしくって下を向いて扇をもてあそんでいたら、高彬が近寄ってきて、あたしの手を取った。

「瑠璃さん」

「・・・高彬」

顔を見合わせてにっこりと笑う。

なんだか高彬も感無量という感じみたいで、あたしも気持ちが昂ぶってしまう。

なんたって、今日はふたりして待ちかねた結婚の日だもの。大切な日になるんだもの。

「ねぇ、高彬」

「なんだい」

「吉野で言ってくれたこと・・・もう一度、聞きたいわ」

「え?」

「・・・好きだって言ってくれたじゃない。もう一度、聞かせてよ」

見上げて言うと、高彬は動揺したみたいに、うっと詰まった。

「あ、あの時は、瑠璃さんが記憶を失っていたから・・・言えたことで・・・」

「なによぉ。記憶が戻ったら、言ってくれないの」

「い、いや、その、そういうわけじゃないんだけど・・・。男たるもの、そういうことをあまり軽々しく言うのは、ちょっと・・・」

なんぞと、もごもごと言う。

馬鹿。朴念仁。

なーにが男たるもの、よ。

男だからこそ、そういう甘い言葉や睦言をささやいて、女を気分良くさせなきゃいけないんじゃないの。

女の子は、いつでもそういう言葉を待ってるんだから。

この間は、高彬に男の色気を感じちゃったけど、やっぱり気のせいだったみたいだわ。

人間、そうそう簡単に変わるもんじゃないのね。

「じゃあ、もういいわよ」

ふくれて言うと、一瞬の間があき、次の瞬間、高彬に抱き上げられていた。

何も言わずにすたすたと部屋を横切ると、夜具の上にあたしをそっと下ろし、シュッと音をたて自分の直衣や単を脱いで小袖姿になった。

突然のことに、どきまぎしているあたしの上に、高彬がゆっくりと覆いかぶさってきた。

しばらくあたしの目を見つめてから接吻をし、何度も何度も髪をなぜては指にからませる。

「瑠璃さん・・・」

頭を抱えるように抱きしめ、そのまま、また接吻をしてきた。

それは長い長い接吻で、ようやく唇を離した高彬と、あたしの視線がからみあった。

「瑠璃さん・・・」

なぁに、と目で返事をすると

「好きだよ」

「・・・・」

「好きだ」

高彬らしい、真面目な、心のこもった声だった。

「・・・・・」

自分で言って欲しいといったはずの言葉なのに、何も言えなくなってしまう。

「瑠璃さんは?・・・瑠璃さんは・・・どう?」

まっすぐな、それでいてうるんだ目で見られて、あたしは小さな声で言った。

「・・好き・・・よ・・・」

言い終わらないうちに、かみつくような接吻をされていた。

深く深く唇を合わせては、痛いほどに抱きしめてくる。

やがて、高彬の手が動いて、あたしの単の合わせがゆっくりと開かれた。

腰紐も解かれ、恥ずかしさに身をすくめると、高彬は優しく抱きしめてくれた。

「・・・瑠璃さん・・」

首すじに顔をうずめ、唇を這わせる。

単がすっかりすべりおち、むき出しになった肩に、高彬は吸いつくように接吻をした。

肩から喉もとに次々と接吻をしては、やがて少しずつ胸元を下りていき、そっと口に含んだ。

初めてのことに、身体を強ばらせるあたしに気が付くと、高彬は顔をあげ

「まだ胸が・・・痛む?」

と聞いてきた。

崖から落ちたときの怪我を心配してくれているようだった。

「ううん・・・そうじゃないの。ただ・・・恥ずかしくて・・・」

それだけ言うのが精一杯で、とてもじゃないけど高彬と目を合わせられない。

高彬が少し笑ったような気配があり

「大丈夫だよ・・」

唇を合わせてきた。

また大丈夫なんて言って!もう信じないって言ったでしょう・・・・

心のどこかでそう思うのに、さすがにいつものような軽口が出てこない。

高彬の手が、腰のあたりにおりていき、あたしは固く固く目をつむった。

確かめるように手が分け入り、なぞるように指が動き、高彬は小さな吐息をもらした。

「・・・好きだよ・・・瑠璃さん」

そのまま耳元でささやかれ、唇をふさがれ、あたしはくらくらしてしまった。

しばらくののち、高彬がふいに身体をずらし、あたしの上に覆いかぶさってきた。

高彬の足があたしの膝を開くように入り込み、そのまま身体を近づけてくる。

されるがままにしていたあたしは、高彬がしようとしていることに気が付いて、びっくりしてしまった。

「ちょ、ちょっと!何する気よ」

がばと起き上がり、高彬を突き飛ばす。

「何する気って・・・」

突然に突き飛ばされた高彬は呆然とつぶやき、しばらくの間、変な沈黙が続いた。

沈黙を破ったのは高彬だった。

そばに脱ぎ捨ててあった単を肩にひっかけて、ずりずりとあたしに近寄りながら

「瑠璃さん。その・・・まさかと思うけど・・・・瑠璃さんは、結婚するってどういうことだと思っていたの」

と聞いてきた。

「え、どういうって・・・いや、その、・・・面と向かって聞かれると・・・困っちゃうんだけど・・な・・・はは・・」

うろたえて答えると

「まさか・・・瑠璃さん・・・知らないの?」

探るようにさらに聞いてきた。

「く、詳しくは・・・・知ら・・・ない・・・かも・・・」

口ごもりつつ答えると、高彬はあっけにとられたように長いことあたしを見つめ、やれやれと言うように肩をすくめた。

普通、そういう情報はお付きの女房から仕入れるものなんだけど、あたしは長いこと吉野に行っていたし、京に戻ってからは駆け回って遊んでばかりだったし、第一、腹心の女房が独り者の小萩だもの。

詳しく知り得る機会がなかったのだ。

高彬は隣に座り、あたしの肩にも単をかけた後、天井を向き、少しの間、瞑目していた。

どう説明しようか思案しているみたい。

やがて、考えがまとまったのか、あたしのほうを向き直った。

「あのさ、瑠璃さん。瑠璃さんは、御ややってどうして出来るかを知ってるかい」

「はぁ・・御やや・・」

突然、御ややと言われて面食らっていると、高彬は続けた。

「そう、御ややだ。もしかして、出雲の神さまが授けて下さる・・・と思ってる?」

「そんなことは思ってないわ。馬鹿にしないでよ」

「じゃあ、どう思ってるの」

「だから・・・女の人の身体には御ややの卵があって、男の人の身体にも御ややの卵があるのよ」

「うん、そうだね。それで?」

「それで・・・だから、その卵が合わさって、御ややに・・・なるのよ」

「うん、そうだ。じゃあ、その卵はどうやって合わさるの?」

「だから、何かの方法で女の人の身体に入るの・・・よ・・・」

・・・・え?・・入る?・・・え?えぇ?入るって・・・・?入れ・・る?えぇぇぇぇー?!

「い、入れるのー?!」

大声で叫ぶと

「そう、入れるんだよ」

高彬は重々しく頷いた。

「入れるって、入れるって・・・そんなの無理よ・・・だって、だって・・・」

あまりのことに言葉が続かない。

「それが大丈夫なんだよ」

どこまでも高彬は重々しくいい、まだあわあわしているあたしの手を取ると

「とにかく瑠璃さん、ぼくにまかせて」

きっぱりと言う。

今はもう「大丈夫」だと言う高彬に任せるしかなく、あたしはコクンと頷いた。






          *****************************************






高彬がそっと身体を進めてきた。

あたしの身体は知らずにずり上がってしまう。

もう、何度目かの攻防だった。

いやなわけじゃないんだけど、逃げるつもりはないんだけど、なぜだか身体が勝手に動いてしまうのよ。

いい加減、じれたのか、高彬が肩を抱きかかえるように押さえ込んできた。

そのままの格好で、再度、身体を進めてくる。

逃げようにも動きようにも、がっしりと抱きすくめられているので、どうにもならない。

高彬が思いきったように身体を進めると、ふいに疼痛が走った。

少しずつ高彬が身体を進めるたびに、痛みが増してくる。

「・・・いや・・・高彬・・・痛い・・・」

首を振りながら言うと、高彬は一瞬止まり、だけど

「ごめん、瑠璃さん・・・。少しだけ、我慢して」

そう言って、また身体を進めてきた。

ようやく高彬が止まり、そのまま、あたしを強く抱きしめた。

「瑠璃さん・・」

接吻をし、頭ごと抱きかかえ、また接吻を繰り返す。

高彬の盛り上がりとは裏腹に、あたしはなんだか放心状態だった。

でも、とにかく終わったんだ・・・無事、結婚できたんだ・・・これで人妻だ・・・

そんなことをぼんやりと思っていたら

「瑠璃さん、動くよ・・・」

と言う高彬の言葉が耳に入ってきた。

動く?動くって?

「え?どこに?」

動くと言うからには、場所を移るとか、そういうことだと思ったのだ。

高彬はあたしの問いには答えずに、ゆっくりと身体を動かし始めた。

「・・・・・!」

高彬が動くと、おさまっていた痛みがまたおそってくる。

思わず顔をゆがめると、高彬が動きをとめ

「・・・痛い?」

心配そうに聞いてきた。

「・・・ううん・・・・平気よ・・・」

本当はすごぉく痛くて、全然、平気じゃなかったんだけど、高彬のせっぱつまったような顔を見たら、痛いって言えなくなっちゃった。

高彬は安心したように小さく頷き、また動き始めた。

だんだん、動きが早くなり、それにつれて痛みと圧迫感が増していき、もうだめ、限界っ、高彬に言ってやめてもらおう・・・と思ったその時

「・・・瑠璃さんっ」

かすれたような声で高彬があたしの名を呼び、そのまま、倒れこんできた。

何がなんだかわからずに呆然としているあたしの胸と、高彬の胸が合わさり、早鐘のような鼓動がじかに伝わってきた。

高彬の息は荒く、しばらくそのままの姿勢で、あたしを抱きしめていた。

ようやく呼吸を整え、顔を上げると

「瑠璃さん」

あたしの名を呼んだ。

その声は、今まで聞いた中で一番優しくて、あたしはどうしてだか、じわじわと感激してしまい、そっと高彬の背に手を回した。

秋だと言うのに、高彬の背中は少し汗ばんでいた。

「高彬・・・」

ぎゅっと抱きつくと、少しだけ汗の匂いがした。





           ********************************************






高彬はそっと身体を離すと、改めてあたしの肩を抱いた。

何も言わず、時おり、ぎゅっぎゅっと腕に力を入れる。

さっきまで聞こえなかった虫の音が、また聞こえてきた。

ふたりして、しばらく黙って虫の音を聞いていたんだけど、ふと高彬が顔をのぞきこんできた。

恥ずかしくって目をそらすと

「瑠璃さん」

「・・・・・」

「どうしたのさ、瑠璃さん」

「結婚って・・・結婚するって・・・・大変なのね」

思わず言うと、高彬は吹き出した。

「そうかな」

「そうよ。あんなこと・・・するなんて」

ぼそぼそ言うと、高彬はくっくと笑って、回した腕にさらに力をこめた。

そうして、あたしの肩をぽんぽんと叩くと

「とりあえず、少し休むといいよ」

なんて言って、単をかけてくれる。

「・・・うん」

単をかけられると、今まで裸だったことが急に恥ずかしくなってしまい、あたしは単を引き寄せた。

その時、ふと赤いシミのようなものが目に入り、よく見ると、それは・・・血・・・・?

ぎょっとして手繰り寄せると、それは間違いなく血で、あたしは狼狽してしまった。

「やだっ、怪我・・・?」

慌てて言うと、あたしが怪我したかも知れないって言うのに、高彬は妙に落ち着いている。

「怪我じゃ・・・ないと思う」

「だって血が・・・」

むきになって言うと、高彬はこほんと小さく咳払いをし

「その・・・初めての時、女の人は・・・そうなる・・・らしいから・・・」

恥ずかしいのか、言いにくいのか、歯切れ悪く言う。

そっか・・・怪我じゃなかったんだ・・・。だけど、どおりで痛かったはずだわ・・・血が出るくらいだもの・・・

でも、怪我じゃなくて良かった・・・。

怪我ではなかったと言う安堵感と、同時にさっきの痛みと驚きが思い出され、気が付いたらあたしはポロポロと涙を流していた。

「る、瑠璃さん!どうしたの、瑠璃さん」

慌てながらも、物慣れたしぐさであたしを抱き寄せる。

あたしは頭を振り、しゃくりあげた。

「・・・・すごく痛かったんだから・・・びっくりしたんだから・・・・」

ポロポロと涙がこぼれる。

「瑠璃さん・・・・。ごめん。ごめんよ」

高彬はおろおろしたような声で言った。

「・・・高彬のせいなんだからね。高彬が、いけないんだからね・・」

高彬の胸でしゃくりあげると、高彬は強く強く抱きしめながら

「痛い思いをさせてしまったね。ごめんよ」

あたしの背をさすった。

「いやよ・・・許さないんだから・・・」

イヤイヤをしながら尚も泣き続けると、高彬は、ごめん、瑠璃さん、ごめんよ、と言いながら髪をなで、額に頬に接吻を繰り返した。

「ずっと大切にするから。ずっと瑠璃さんを守るから・・・」

だから、泣かないで。ね、・・・と、あたしの顔をのぞきこみ、やさしく背をさする。

ほんとはちっとも怒ってなかったんだけど、でも、高彬をもっと困らせたくて、もっと甘やかして欲しくて、あたしは、高彬の裸の胸にすっぽりと収まりながら、いつまでもいつまでも、ベソベソと泣き続けたのだった。


           


                        <終>


〜あとがき〜

堅物で、だけどどこまでも優しい高彬と、はねっかえりだけど、どこかウブな瑠璃の「初夜」、いかがだったでしょうか。

初めての夜なので、めくるめくような(笑)ことにはならなかったみたいですね。

ふたりがめくりめくっちゃうのは、もう少し先のことでしょう(笑)

書いてる間、とても楽しくて、パソコンの前で、ひとりでニヤニヤしたりデレデレしたり、すっかり怪しい人になっておりました。

ふたりのらぶらぶ&甘甘をたくさん読みたい・・・・だったら、自分で書いちゃおう、と思って書き始めた二次小説ですが、無事ふたりの初夜を書くことができて大満足です!

こんな楽しみを味わえたのも、氷室先生のおかげです。

表現方法に迷った時、氷室先生ならどう書くのかなぁ・・・なんて考えながら書いていました。

氷室先生のジャパネスクの雰囲気を、少しでも再現できていたら良いのですが・・・。

ジャパネスクファンの皆さまに「こんなのジャパじゃない!」とお叱りをうけないことを、願うばかりです。

長らくのお付き合い、ありがとうございました。

それにしても高彬、最後であんな風に瑠璃に泣かれたら、可愛くって可愛くって、またソノ気になっちゃわないですかね。

なんたって若いし(笑)

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                            瑞 月

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***第三十三話 後宮にて<Part2>***

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*** 第三十三話 後宮にて<Part2>***





ひとり盛りあがっていたあたしは、ふいに肩を叩かれた。

なに?と振り返ると、黒いかたまりが目に入った。

なんだろう・・・あたしの目の前でそれはゆらゆらと揺れて・・・・

「ひゃあぁぁぁぁぁ!」

それが何かがわかった瞬間、あたしは大声で叫びながら、飛びのいていた。

それは、なんと野ネズミで、童がネズミのしっぽを持って、あたしの目の前にかざしていたのだ。

水干姿の童は、ネズミを庭に放り投げると

「おたあさま!」

と言いながら、たったと駆けていき、女御さまの膝にとびついていった。

おたあさま・・・?

ってことは、今の童は御歳三歳の東宮さま・・・

そう、東宮さまだったの・・・

ぼんやりとしていたんだけど、異様な雰囲気と痛いほどの視線を感じて、ふと我に返った。

部屋を見回すと、帝のそばには脇息がすっ転がっており、その帝はと言えば、瞬きもせずに呆然としているし、高彬にいたっては、簀子縁で腰を抜かしたようにすわりこみ、目を見開きぽかんと口をあけて、あたしを眺めている。

その中で女御さまだけは落ち着かれていたのだけど、あたしの突然の出現にさすがにびっくりされたようで

「瑠璃姫さまは本当に楽しい方ですのねぇ・・・」

と、しみじみとつぶやかれている。

帝は女御さまがおっしゃった「瑠璃姫」という言葉をまるで復唱するかのように

「瑠璃姫・・・?」

と呻くように言った。

「・・・少将・・・、あの姫はまことに瑠璃姫なのか・・・内大臣家の・・・」

呆然とつぶやき、すると、それまでフヌケたように腰を抜かしていた高彬は我に返ったのか

「恐れ入ります。面目もございません」

がば、とひれ伏した。

帝はまだ信じられないと言った顔つきであたしをまじまじと見ていたかと思ったら

「このような姫を妻にとは、右近少将も奇特な・・・」

とぶつぶつ呟いた。





         ******************************************





「えーと、あのね、高彬・・・・」

局でふたりきりになったところで、あたしは切りだした。

切りだしたんだけど、高彬に睨まれて口をつぐんじゃった。

高彬が怒っているのは、火を見るよりも明らかで、さすがにあたしもシュンとなってしまう。

「えーと、その・・・」

「瑠璃さん、ここがどこだがわかっているの」

高彬は厳しい声で言った。

「後宮・・・です」

「そうだ、後宮だ。遊びにくるようなところじゃないって前に言ったろ」

「・・・だって、記憶が戻ったことを早く高彬に知らせたかったんだもん・・・」

「それは女御さまから伺ったよ。ぼくをびっくりさせるために、瑠璃さんが後宮に来たいと言って、女御さまもそれをご承知したと」

「そうなのよ、ただ、それだけの気持ちで、つい・・・」

「つい、後宮にきたってわけだね」

「白梅院に行こうかとも思ったんだけど、いつも同じじゃ芸がないかな、なんてさ。あは、は・・・」

「芸、がね」

高彬はにこりともせずに言い、相変わらずあたしを睨んでいる。

「まさか・・その・・帝に、会うなんて・・・思ってもいなくて、まして、あんな風に転がり出るなんて・・・その・・・・」

言葉がつながらなくなり、あたしはしょんぼりと下を向いた。

あぁ、情けなくって涙が出そう。

本当にちょっとだけ高彬を驚ろかして、ふたりで笑いたかっただけなのに・・。

「高彬に、恥かかせちゃって・・・ほんとう、ごめんな・・・さい」

しばらくすると、ふぅ、と小さなため息が聞こえ、そっと顔を上げると、困ったような、笑いをこらえているような複雑な表情を浮かべる高彬の顔があった。

「高彬・・・?」

「記憶が戻ってよかったね、瑠璃さん」

いつもの高彬の声になっている。

「・・・怒ってないの?」

おそるおそる聞くと

「もういいさ。帝が承香殿に来られたのは、本当に偶然だったんだろうし」

高彬は肩をすくめた。

「ほんとにほんとに、もう怒ってない?」

「怒ってないさ。考えてみたら、瑠璃さんらしいと言えば、こんなに瑠璃さんらしいことはないからね。女御が瑠璃さんを後宮に誘ったときに、こうなることまで想像しておけばよかったんだ。それが出来なかったぼくの判断ミスだね」

わざと厳めしい顔で言って、片目をつむってみせた。

「高彬」

嬉しくなって、高彬の手を取ると、ふいに抱き寄せられてしまった。

「記憶が戻って、本当によかった」

あたしの髪をなぜながらつぶやく。

「うん」

高彬の胸に頭をつけながら頷くと、高彬が接吻しようと顔を近づけてきた。

「だめよ、人が来るわ」

阻止しながら言うと

「大丈夫だよ」

さらに腕に力をこめてきた。

「高彬の『大丈夫』は信じないんだから!この前だって・・・」

怒ってみせると、高彬も思い出したのか、ぽっと赤くなった。

それでも諦めきれないのか、あたしの手を取り、局の奥に引っ張っていくと

「ここなら大丈夫・・・」

なんていって、腕を回してくる。

「もう、高彬ったら!ここがどこだかわかっているの」

厳しい声で言ってやると

「後宮・・・です」

しおらしい声で高彬が答え、あたしたちはふたり、声をひそめて笑いあった。




     

         ***************************************






数日後、三条邸に戻ると小萩はやきもきしながら待っていた。

よほど、あたしが後宮で何かをしでかすかと心配していたみたい。

「帝に瑠璃姫だってばれちゃった」

と言うと、目をむいて驚き

「あぁ、高彬さまにお叱りを・・・あぁ、どうしたら・・・」

とうわ言のようにつぶやいて、部屋を出て行ってしまった。

「瑠璃さんを自由にさせてはいけない」と頼まれていたことを、重く受け止めていたみたいで、高彬に叱られることを心配しているんだ。

高彬も真面目だけど、小萩も妙に真面目なことろがあるもんね。

高彬は確かに真面目だけど、でも、ふたりの時は・・・・

とそこまで考えて、あたしは頬がかぁ〜と熱くなるのがわかった。

あの日、承香殿の局の奥で話していた時、あの後、高彬はすぅと笑うのをやめ、と思ったら、強引に接吻をしてきたのだ。

「もう!」

何とか唇を離して睨むと、高彬はいたずらっ子のように顔で笑って見せた。

その笑顔がなんだか色っぽくて、ちょっとどきどきしちゃった。

高彬ってば、いつのまにこんな色気がでてきたのかしら・・・

「早く・・・結婚したいね」

なんて耳元でささやいて、あたしの髪をかきあげるようにとく。

「・・・うん」

恥ずかしくって小声で頷くと

「あと一月で、瑠璃さんと・・・」

そう言って、ぎゅっとあたしを抱きしめてきたのだ。

帝にも女御さまにも「堅物」の太鼓判を押されてる人だけど、でも、ふたりのときには優しいの。

こういうのって、悪かないのよねぇ、うふふ。

でも、人にはこういう気持ちって説明しずらい。

当事者にしかわからないと言うか、これこそが恋の醍醐味なのかもしれないから。

あと一月で高彬と結婚かぁ・・・。

あたしは頬を両手で押さえ、目を閉じ、高彬の面影を想い浮かべたのだった。


         

             <第三十四話に続く>


〜あとがき〜

こんにちは、瑞月です。

次回はいよいよ、ズバリ、「初夜」です(笑)

男・高彬が決めてくれます!

今日も読んでいただきありがとうございました。

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***第三十二話 後宮にて***

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*** 第三十二話 後宮にて***





几帳の陰から息をひそめて、あたしはそっと帝を見た。

長身ですっきりとした身のこなし、整った目鼻立ちの精悍そうな顔。

あまりの美男子ぶりに、正直、びっくりしてしまった。

帝なんて言うと、もっとじじむさい人を想像していたんだけど、そういえば、去年、前帝は譲位されたんだっけ。

長く記憶を失っていたせいか、どうも、その前のことがうろ覚えなのだ。

「清涼殿の方にまで、笑い声が聞こえていましたよ。何か楽しいことでもありましたか」

笑いながら女御さまに話しかける声も優しく穏やかで、でもどこか凛々しくて、女御さまへの愛おしさが溢れてるような感じがする。

「えぇ、ちょっとばかり、楽しいことがあったのですわ、主上」

答える女御さまの声も恥じらうように艶っぽく、さすが子を生んだ、ただいま現役の人妻と言う感じで、聞いてるこっちが思わず赤くなってしまうのは何故かしら。

「そうですか。その楽しいことを少しばかりわたしにも分けていただきたいですね」

楽しそうに女御さまにおっしゃり、にっこりと笑まれた。

その笑顔がまた、色っぽいと言うか艶やかと言うか、なんとも魅力的で、ほんと、画に描いたようないい男じゃないの。

ふぅん、高彬は普段、こういう帝に仕えているのか。

仕事熱心のお役目大事、帝の信任も厚い右近少将・・・と若手の公達の中では一、二を争う出世頭らしいけど、こういう男の色気とかも帝から学んでほしいもんだわ。

なんと言っても高彬は堅物の朴念仁だから、こういう男の色気はない。

そこが硬派で高彬の良いところと言えば言えなくもないけど、現代の美意識では、男も優美さも兼ね備えていてこそ、という風潮だからね。

あたしも色気なんかないから、とやかくいえた義理じゃないんだけどさ。

女御さまはなんてお答えになるのかしら、あたしのことを言われちゃ困るんだけどな・・・なんて内心ひやひやしていたら

「じつは主上・・・。高彬の結婚が決まったのですわ」

またしても、笑いを含んだ艶っぽい女御さまのお声が聞こえた。

あたしのことじゃなかったのは良かったんだけど、もう、女御さまったら!

「ほう。右近少将が。それは初耳ですね。今日も少将には会いましたが、ついぞそんな話はしていなかったが」

帝が驚いたように言い

「いや、あの堅物の少将が結婚とは・・・。確かに楽しい話ではありますね」

と笑いながら付け加えた。

高彬は承香殿女御の弟だし、と言うことは帝にとっては義弟にもなるわけで、しかも愛妃との語らいということで、かなり帝も口軽くなっているみたい。

「で、少将のお相手の姫はどちらの姫なのですか?あの少将の心を射抜いたのであれば、それはそれは心映えも豊かなお美しい姫なのでしょう」

どうもその口ぶりからは、高彬の結婚相手としてと言うよりは、姫そのものに興味を持っているように感じられる。

いい男だけど、いやさ、いい男だけに、やっぱり女好きなのね。

「それが主上。内大臣家の瑠璃姫さまなのですわ。東宮さまを助けて下すった姫なのです」

そんなことには慣れっこなのか、女御さまは平然とお答えになっている。

ま、帝が何人もの愛人を持つのは世のならいだもんね。

「東宮を。それは奇遇ですね。しかし・・・内大臣家の瑠璃姫・・・。そういえば、以前にも、どこかでちらりとその名を聞いたような・・・」

どうせ、はねっかえりだとか、物の怪憑きだとか、ろくな噂じゃないんだろうけど。

と、思っていると、帝が膝をうち

「思い出しましたよ。以前、内大臣が姫のことで、手に負えないじゃじゃ馬だ・・・などとお漏らしになったことがあったのです。そのじゃじゃ馬な姫を、あの高彬が手なずけて我が者にしたなど・・・うーむ、高彬も隅に置けませんね」

あまりに感心したように言うのがおかしかったのか、女御さまがお笑いになった。

「今度、少将に手練手管を教えてもらわなければいけないな・・・」

などと、呟いたかと思うと

「何よりめでたい話には違いない。本人を呼びましょう。あなたも久しぶりに弟に会いたいのではないですか」

「まぁ、主上。高彬を?」

ぎょっとしているあたしをよそに、女御さまは嬉しそうに声を上げられた。

「右近少将を参らせよ」

帝が女房に命じ、女房はするすると音もなく下っていった。

うっそー。なんでこうなっちゃうわけー。





           *******************************************






「お召しにより、参りました」

さわさわという衣擦れの音がしたかと思うと、一瞬の間があり、高彬の声がした。

几帳のかげからそっとのぞくと、うすい蘇芳を裏にした白の冠直衣姿の高彬が見える。

表情をひきしめて簀子縁に控えているその姿は、なかなかに立派な公達ぶりで、一瞬、見惚れてしまった。

あぁいう殿方と結婚するのかと思うと、ついついにんまりとしてしまうわ。ふふふ。

いやいや、そんなことを言ってる場合じゃないのよ。

一応、几帳に隠れているとは言え、こういう状況は心臓によくないわ。

「右近少将、なにかわたしに報告することはないのか」

帝が高彬に向かって意味ありげに言う。

その言い方には、臣下に向かって言う言葉とは違う親しみのようなものが感じられるのは、やはり義弟という気安さがあるせいかしら。

「は」

帝の言ってる意味が分からないのか、高彬があいまいに、だけど礼を失わずに答え、そのまま考えこんでいるみたいに固まっている。

「では質問を変えましょう。少将、わたしに何か隠していることはないかね」

笑いを含んだような声で高彬に向かってさらに言う。

「は・・・。隠し事と申されますと・・・」

ますます混乱したように高彬が返事をすると、帝はしびれを切らしたのか

「結婚すると聞き及んでいるが」

単刀直入に切り出した。

その途端、高彬の顔がぱぱぱっと赤くなるのが、几帳越しにも見て取れた。

それでも、さすがはくさっても臣下。

「恐れ入ります」

高彬は、がばとひれ伏した。

「頭を上げよ。どんな姫なのだ」

「どんなと申されましても・・・。その、ごく普通の姫でございます」

相変わらず赤い顔のまま高彬が答えると

「普通の姫か。内大臣家の瑠璃姫はかなりのじゃじゃ馬な姫だと聞き及んでいるが」

「恐れ入りますっ」

またしても高彬はひれ伏した。

「いったい、少将はどんな手を使って、そんなじゃじゃ馬な姫を手なづけたのか」

そういうと、こらえきれなくなったのか、帝はくすくすと笑い始めた。

高彬はうっと詰まり、顔は今にも火がつきそうなくらいに赤くなっている。

そこに助け舟を出したのが女御さまだった。

「まぁ、主上。これ以上、高彬をいじめるのはおやめくださいませ。瑠璃姫さまは、大層お可愛いらしく優しい姫君ですわ。じゃじゃ馬などといっては、高彬や瑠璃姫に失礼ではありませんか」

几帳の裏にあたしがいることをご存知だからか、やんわりと帝を制せられる。

「ほう。瑠璃姫はお可愛いらしく、お優しいのですか。さらに右近少将の意中の人というのであれば、なんだか興味がわいてきますね」

「まぁ、主上ったら」

肝が座ってらっしゃるのか、東宮の生母というお自信からなのか、女御さまはまるで子どもをあやすような口ぶりで帝に言う。

「瑠璃姫さまは、もう高彬と結婚が決まっておりますのよ。主上がご興味を持たれるには、ちょっと遅うございましたわね」

「うーむ、そうですか。なんだか悔しいですね。でも、まだ結婚されてるわけではないのでしょう。少しはチャンスはあるのではないですかね」

帝は本気半分、冗談半分といった感じで笑ったのだけど、高彬はと見ると、さっきまでの赤い顔はどこへやら、今度は一変、真っ青な顔になったかと思うと

「いえ、恐れながら、すでに結婚の日取りも決まっておりまして・・・」

と、どこまでも真面目に答えている。

確かに父さまと右大臣の間で話がなされ、結婚は一月後と決まったけれど。

もう、高彬ったら。からかわれてるだけなんだから、そんなにムキになって言うことないのに。

そういうところが、堅物だと言われるんだって、わからないのかしら。

それにしても、愛妃を前に、他の姫の話を悪びれもせずにしているってところがすごいわ。

後宮って、こういうとこなわけ?

でも、不思議と帝が言うと、嫌味じゃないから、そこも不思議。

こういうのを、正真正銘の色男っていうんじゃないかしら。

でも、あたしは無粋で堅物でも、高彬のほうがいいけどさぁ。

だって、何人もの中のひとりなんてやだもん。

高彬は「妻は生涯、瑠璃姫だけ」って言ってくれてるもーん、んふふ。

なんて几帳の後ろでひとり盛り上がっていたら、ふと、肩を叩かれた・・・。





               <第三十三話へ続く>     


〜あとがき〜

こんにちは、瑞月です。

個人的に、お仕事モードの高彬が大好きなんです。

鷹男&高彬のやりとりももっと見てみたかったなぁ・・・・

読んでいただきありがとうございました。

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***第三十一話 瑠璃の復活***

『なんて素敵にジャパネスク〜二次小説』




          注)このお話は連続ものです。
            カテゴリー「二次小説」よりお入りいただき
            第一話からお読みくださいませ。



          ***********************************************




*** 第三十一話 瑠璃の復活***





あたしの記憶が戻って、三条邸は大騒ぎになった。

父さまと母上は泣いて喜ぶし、融はまだ信じられないのか、自分の頬をつねったりしていた。

小萩はあたしに抱きついて泣き崩れ、しばらくは言葉も出ずに、涙、涙だった。

記憶を失っているときは、もし戻らなくてもしょうがないかなぁ・・・なんて思ったりもしたけど、こうして記憶が戻ってみると、やっぱり戻って良かったわ。

こんなに喜んでくれてるってことは、それだけ心を痛めていたことの裏返しなわけで、あたしもこれからは父さまや母上に心配かけないような、まっとうな姫になろう、なんて柄にもなく思ったもんね。

小萩にだって、言葉では言えないような心配や苦労をかけたし、今まで以上に大切にしなきゃ。

そういうと、小萩は

「それは少将さまに言ってくださいまし」

「高彬に?」

「はい。少将さまは今回のことで、どれだけお心を痛められたか。姫さまが吉野で怪我をされたとのご一報を受けた時、たいそう取り乱されて、しばらくは何も口にすることも出来なかったそうですわ。大江さんからの文にそう書いてありました」

「大江から?」

「えぇ、姫さまがお怪我をなさった時、大江さんが高彬さまの仲介役となって、わたしといろいろな連絡を取り合っていたのですわ。それ以来、親しくさせていただいておりますの」

大江は、あたしの顔も見知っているし、何よりも母親である按察使を瑠璃姫が助けたって言うんで、右大臣家の中では数少ないあたしのことをよく思ってくれてる女房だもんね。

高彬も気軽にいろいろなことを頼みやすかったんだろう。

まぁ、今ではあたしも右大臣家で評判が上がったらしいけど。

「すぐにも吉野に向かいたいけれど、どうしてもお仕事があって行けずに、その間の高彬さまのお悩みは、それはもう傍で見ていて辛いものがあった、とも書いてありましたわ」

「ふぅん・・」

そっか、そういえば、高彬は父さまたちよりは少し遅れて吉野にきたけど、忙しい公務を縫って、駆けつけてくれたのか。

当分、高彬に頭が上がりそうにないわ・・くすん。

「ですから、姫さま。ご結婚されたあかつきには、お心を入れ替えて、高彬さまの良き妻、良き伴侶として、どうかお慎み遊ばされてお過ごしくださいませね」

心を入れ替えて良き妻、良き伴侶、だなんて失礼しちゃう。

それじゃまるで、今までのあたしだったら悪妻、悪伴侶になる、みたいな言い草じゃないのさ。

まぁ、いいけど。

「それより、小萩。その高彬なんだけどね」

「なんですの、姫さま」

「しばらくうちに来れないらしいし、あたしの記憶が戻ったことを、どうやって知らせたらいいと思う?」

「どうやってって・・・。それはお文か何かで・・・」

「それじゃ、面白くないじゃない」

「そんなことに面白さを求める必要など、ないではございませんか」

小萩がもっともらしいことを言う。

「でもねぇ、高彬にもたくさん心配かけたんだしさ。なんて言うか、ちょっと劇的というか、感動的な知らせ方をしたいのよ」

「ですから、お文で・・・」

「まさかの後宮で、びっくり感動のご対面〜、なんてどうかしら」

「ひ、姫さま!」

小萩はぎょっとしたように目をむいた。

「驚くと思うんだけど」

「そ、それは驚かれますでしょうけど。でも、驚くことと喜ぶことは違いますわ。小萩は反対です。高彬さまから、後宮に行ってはならないと、あれだけ強く言われていたではありませんか。お遊びで行くような場所ではないと」

小萩は、高彬から重々言い含められているので、必死になって反対してくる。

「あいつは真面目すぎるのよぉ。承香殿女御さまも遊びにいらっしゃいって言って下さってるんだし」

「ですが、姫さま・・・」

「とりあえず、女御さまにお文だけは書いてみるわ。小萩、文机と書きもの、用意して」

ぴしゃりと言うと、小萩はがっくりと肩を落とし

「ご記憶がお戻りになったとたん、これですもの・・・・」

あきらめ顔で吐息した。






        ****************************************






陽射しの強さは相変わらずなのだけど、七月に入り、少しだけ風に秋の気配が感じられるようになってきた。

その風に吹かれ、さやさやと庭の木々の葉ずれの音がしている。

顔を上げると、いくつもの檜皮葺きの屋根の連なりがまるで山々のように見える。

そう。あたしはとうとう後宮に来ちゃったのだ。

あの後、承香殿女御さまのお付きの女房である伊勢から、女御さまも是非にとおっしゃって下さっていると言うお文が届き、あっという間にあたしが後宮に忍びこむ手筈が整えられた。

表向きは、女御さま付きの女房数名が急に休暇願いを出し、急遽、臨時の新しい女房が必要になった・・・と言う名目で、あたしは右大臣家の女房として潜り込んできたのだ。

ここは承香殿の正殿。

後宮には昨日来たのだけれど、昨日はそのまま女房部屋でゆっくりと過ごし、今日になり女御さまと対面することになったのだ。

唐衣をつけた正装をしているので、肩は凝るし、さすがに初めての後宮の荘厳な感じに圧倒されて、緊張していると、やがて女御さまが現れた。

久しぶりにお会いした女御さまは、やはり気品がありお美しかった。

あたしの記憶が戻ったことを、心から喜んで下さり

「高彬がどんな顔をするか、今から楽しみですわね」

と扇を開かれて楽しそうにおっしゃる。

後宮に急に現れ、そこであたしの記憶が戻ったことを知らせて、高彬をびっくりさせたい・・・と言うあたしの企みは、すでにご存じでらっしゃるのだ。

あたしの記憶が戻ったことを喜ぶ気持ちとはまた別に、弟の驚く様を見てみたい、と言う姉としてのいたずら心もあるみたい。

なかなか、茶目っ気のあおりになる方で、あのお堅い高彬の姉上とは思えないくらいよ。

あたしもついつい楽しくなっちゃって、右大臣家に女房として忍びこんだことなんかを、おもしろおかしく話してしまった。

女御さまは声をあげてお笑いになり

「瑠璃さまが羨ましいですわ。わたくしはこたびのことで、主上からお忍びをきつく止められてしまったのですもの。瑠璃さまのように楽しい方が義妹になって下さるなんて、本当に嬉しゅうございますわ。高彬も、良い姉孝行をしてくれましたこと」

そう言うと、あたしの手を取り

「瑠璃さま、たびたび後宮に遊びにいらして下さいませね」

熱心におっしゃる。

「でも、高彬がきっと許してくれませんわ。本当は、後宮になど行ってはいけないと、言われてたんですもの。きっと今回のことだって、後でこってりと叱られるに決まってるんです」

あたしが肩をすくめて言うと

「放っておけばよろしいのよ。高彬は誰に似たのか、堅苦しくていけません。人間、少しは遊び心も必要ですことよ」

と、なんとも楽しいことをおっしゃるではないの。

ふと、人の気配を感じて振りかえると、いつの間にいたのか、部屋の隅で女房が手をついていた。

「女御さま、主上が参られるとのことでございます」

ゆるゆると口上を述べる。

「まぁ、主上が」

女御さまは嬉しそうにおっしゃったけど、あたしは内心、あせっちゃった。

確か高彬は前に「一貴族の姫を今上に会わせるなどと・・・・」とかなんとか言ってなかったっけ。

後宮に来たことだけでも叱られそうなのに、その上、帝と会ったなんてことになったら、どれだけくどくどと小言を言われるかわかったもんじゃないわ。

ほんと、女御さまの言葉じゃないけど、高彬は堅苦しいのよ。

「瑠璃さま、どうなさいます?主上に瑠璃姫とご紹介しましょうか?それともお隠れ遊ばします?」

さすがは女御さまだわ、ありがたいご配慮をしてくださる。

「帝に対面したなんてことになったら、高彬に大目玉を食らっちゃいそうですから、しばらく隠れておりますわ」

女御さまは頷き、あたしはするりと几帳の後ろに回り込んだ。

そうこうするうちに先導の女房がやってきた。

女御さまはゆったりと構えられ、回りの女房たちは、皆、居ずまいを正している。

しばらくして、さわさわと言う衣擦れの音が聞こえ、いい匂いがしたと思ったら、帝がおでましになった・・・。


               <第三十二話に続く>



〜あとがき〜

「高彬は誰に似たのか、堅苦しくていけません」

女御さま、それは守弥という者です(笑)

楽しみに読んで下さっているというコメントをいただき、ありがとうございます!

もう少し話しを読みたいので初夜はもう少し先伸ばしでも・・・と書いてくださった方がおり、そんな風に言っていただけるのは、とても嬉しいです。

ですが、これ以上、初夜を伸ばすと高彬の身体が・・・(笑)

ですので、とりあえず初夜はむかえてもらうことにします(笑)

原作の裏話的な話も読んでみたい・・・と書いて下さった方もおりますので(ありがとうございます)これから、この二次小説を続けるかどうかは、少し考えてみたいと思っています。

今日も読んでいただきありがとうございました。

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***第三十話  三条邸の夜***

『なんて素敵にジャパネスク〜二次小説』




          注)このお話は連続ものです。
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*** 第三十話 三条邸の夜***




「わたしをお忘れですか?瑠璃姫」

男はなおも言い募ってくる。

お忘れに決まってるじゃない!あたしは記憶を失っているんだから!

でも、でも。

どんないきさつのある男か知らないけど、この男は、あたしへの恋慕の想いを募らせて夜這いしてきたとは思えないわ。

いくら記憶を失っているとはいえ、それはもうわかる。

だって手荒だし、とてものこと、恋しい姫に会うために忍びこんできたって感じじゃないもの。

あたしは思いっきり、もがいたんだけど、男はびくともせずに、顔を近づけてくる気配がした。

接吻だけは防ごうと、思いっきり顔をそむけ、少し自由になる足をばたつかせた。

男の吐く息が首にかかる。

もしかしたらお酒でも飲んでいるんじゃないかしら。吐く息が妙に熱くて変な匂いがする。

あぁ、気持ち悪いっ。

男は強引にあたしの単を脱がせにかかった。

冗談じゃないわよっ!

あたしは全身の力をこめて、男を突き飛ばした。

男は少しよろけ、あたしはそのすきに部屋の隅に逃げたのだけど、すぐに男に捕まってしまい、また組み敷かれてしまった。

「誰か!助け・・」

言いかけた口をふさがれ、はずみで倒れた几帳の音に、あたしの声はかき消されてしまった。

男はまたもや、単に手をかけた。

もうだめだ・・・。

ふいに涙が浮かんだ。

こんなことになるのなら、昼間、高彬に身をまかせておけば良かった・・。

こんな奴に、こんな奴に、無理やりされるくらいなら。

あぁ、あぁ、あたしのばか!

あんなに優しい高彬なのに。

お預け喰らった、なんて言ってたけど、きっと、あたしの我儘を聞いてくれたのに違いないんだから。

佳き日を選んで、ちゃんとした手順で結婚しよう、って言ってくれる優しい人がいるのに。

どうして、こんな奴に貞操を奪われなきゃいけないのよ!

高彬、ごめんね・・・

高彬への申し訳なさと、悔しさで、涙が溢れた。

男の手が単に入りかけ、あたしがせめてもの抵抗をしようと身体をよじった次の瞬間

「瑠璃姫っ」

すごい勢いで妻戸が開いた。



       
          ************************************





「瑠璃姫っ!どうなさいましたのっ」

そう言いながら、ずかずかと部屋を横切ってきたのは・・・・煌姫だった。

開いた妻戸から差し込む月の明かりで部屋が浮かび上がる。

組み敷かれているあたしを見た煌姫は、瞬時に状況を理解したみたいだった。

「痴れ者っ!瑠璃姫から離れなさいっ」

それでも、なおも離れようとしない男の様子を見て取ると、煌姫はすばやく部屋を見まわし、二階厨子をむんずと持ち上げ、男めがけて投げつけた!

とっさに逃げようと立ち上がりかけた男の身体に、二階厨子が命中し、男がもんどりうって倒れ、逃げ出そうと立ち上がったあたしに倒れこんできた。

男に全体重で倒れかかられ、重みであたしも当然、倒れ込み、その拍子に近くにあった脇息の角にしたたか頭をぶつけてしまった。

目の玉が飛び出そうなほどの痛みが走り、その瞬間、頭の中で何かがかちっと音をたてた。

徐々に靄が晴れるように、頭の中がすっきりとしてきて、やがて、全てがクリアになった。

・・・・思い出した!思い出したわ!

あたしは瑠璃。瑠璃姫よ!

足元で唸っている男はと見ると・・・

「権少将!」

なんてこと。男は権少将ではないの!

権少将と言えば、忘れもしない、去年の管弦の宴が流れたときに、あたしに夜這いをかけてきた男じゃないの。

あの時は、すんでのところで高彬に助けてもらったんだった。

一年以上もたった今頃になって、またやってくるなんて、どういうことよ。

あたしへの恋心やみがたく・・・ではなくて、きっと、あの時の恨みをはらすために、てごめにしようとしたんだわ。

「る、瑠璃姫・・・」

唸りながら、なおもあたしの足首をつかんでくるのが腹立だしくもおぞましい。

思いっきり蹴りあげてやると、権少将はよろよろと立ちあがり、それでも煌姫の姿を見ると、舌打ちしながら部屋を出て行った。

さすがに二対一では勝ち目がないと思ったらしい。

あたしは妻戸に駆けよると

「おととい来やがれっ!」

と怒鳴りつけた。




           *********************************





「まぁまぁ、瑠璃姫。ひょっとしたらご記憶がお戻りになったのではなくて?」

今しがた二階厨子をぶん投げた人とは思えないような、あでやかな声で煌姫が聞いてきた。

「え、どうしてわかるの」

驚きつつ答えると

「どうしてって・・・。『おととい来やがれ』だなんておっしゃる姫君は、都中探したって瑠璃姫だけですもの。口の悪さは、正真正銘の瑠璃姫だと言うまぎれもない証拠ですわ。良かったですわねぇ・・・ご記憶が戻られて」

袖で口元を押さえつつ、にっこりと言う。

なんか褒められてるんだかけなされてるんだかわからないけど、でも、記憶が戻ったのは煌姫のおかげだわ。

「煌姫のお陰で助かったわ。それに色々心配してくれたみたいで悪かったわね。吉野にまできてくれたみたいでさ」

一応、お礼だけは言っておかなきゃと思って、そう言うと

「あ〜ら。瑠璃姫はあたくしのパトロンですもの。お元気でいていただけなければ困りますわ。瑠璃姫がいなかったら、明日のご飯にも事欠く儚い身ですもの。瑠璃姫は、あたくしのご飯の素。瑠璃姫の一大事は、あたくしの一大事ですわ」

あたしはがっくりと肩を落とした。

こういう姫だったわよね・・・確か、この人。

ご飯の素って・・。仮にも宮家の姫がさぁ。

でも、色んな意味での恩人だから、まぁいいか。細かいことは気にしないでおこう。

「ところで、どうして煌姫はここにいたの?」

ふと気になったので聞いてみると、煌姫は

「あたくし、小腹がすいたもので、台盤所でお粥などいただいておりましたのよ。すっかりお腹もくちて、部屋に戻ろうとした時に、瑠璃姫の部屋の近くで人影が見えたのですわ。少将さまは昼にいらっしゃってるし、おかしいと思い様子を見ていたのですのよ」

「心配してくれたってわけね」

「いえ、違いますわ。瑠璃姫ごときに、そうそう何人も懸想する人がいらしたら、あたくしのプライドが許しませんもの。もし、そうなら少将さまにご報告して、少将さまにお目を覚まして頂こうと思ったのですわ。そうすれば、あたしの愛人の道も開かれるというものですもの」

「まだ、愛人の座を狙ってるってわけ・・・ね」

「ま、瑠璃姫ったら、怖いお顔ですこと。そういう可能性があれば、のお話ですわ。今のパトロンは瑠璃姫ひとりですわ」

「はぁ・・」

なんか疲れる姫だなー。

せっかく記憶が戻ったって言うのに、いきなりこれだもの。

どうせなら、高彬といるときに、記憶が戻りたかったな。

高彬・・・。

吉野でも、記憶を失ったあたしに、あんなに優しくしてくれて。

なんか高彬の誠実さを見せてもらった気がするわ。

あたしは高彬が童の頃からあたしを想っていてくれて、だから高彬が好きなんだろうって思っていたけど、でも、あたしはどんな風に出会ったとしても高彬を好きになるのかも知れないなぁ・・・なんて思っちゃった。

高彬のいろんな思いも聞けたしさ。

「好きだ」なんて言ってくれたりもしたしさぁ・・・・

思えば、きちんと高彬の口から「好き」という言葉を言われたことってなかったのよね。

なんだか、高彬ともう一度、出会って、一から恋をし直したような気分だわ。

記憶を失ったり、大怪我をしたりしたのは、大変なことだったけど、でも、良いこともたくさんあった。

東宮さまにもお怪我がなかったんだし。

人生で起こることって全てが必要なことなのよ、きっと。うん。

・・・・こんな風にして、あたしの記憶は戻ったのだった・・・。



               <第三十一話に続く>


〜あとがき〜

こんにちは、瑞月です。

瑠璃の記憶も戻り、いよいよ初夜に向けてのカウントダウンです(の、予定です)

長い話になってしまいましたが、もうしばらくお付き合いください。

読んでいただきありがとうございました。

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