***原作シリーズ*** うるわしの夜に ***

『なんて素敵にジャパネスク〜二次小説』




        注)このお話は一話完結です。
          原作の「その後」を書いていますのでネタバレとなっています。
          原作未読の方はご注意ください。
          
          作中、多少の性的描写が出てきます。
          読む読まないの判断はご自身でなさってください。          
          読後のクレームはお受けできません。          
       





***原作シリーズ*** うるわしの夜に ***








夜の帳の降りた鴛鴦殿の庭から、時折り吹く強い風に煽られた落ち葉の触れ合う音が聞こえてくる。

強い風は格子を揺らし、カタカタと小さな音を響かせている。

灯台の火をしぼり、しんと静まりかえった部屋の中で、あたしと高彬は聞くともなしに風の音を聞いていた。

「少し風が出てきたね」

あたしを横たえながら言う高彬の言葉に頷きながら

「ほんとに大丈夫なの・・?」

思わず声を潜めて聞いてしまった。

だって、軽く羽織った単から見える高彬の身体には、生々しい火傷の跡があり、ずいぶんと乾いてはきているみたいだけれど、その分、肌が攣れて痛そうだったから。

昼間、あたしたちは思いがけずにいい雰囲気になっちゃって、高彬に誘われるままに、こうして寝所にやってきたのだけど。

いくらお医師から「もう日常生活に戻って良いでしょう」と言われているとはいえ、まだ無理なんじゃないかしら。

病気でもなんでも、治りかけが大事っていうし。

「大丈夫だよ」

あたしの心配を知ってか知らずか、高彬は笑って見せた。

あたしの髪を撫ぜると優しく接吻をし、そっと単を開くと小さなため息をついた。

あらわになったあたしの肌をしばらくじっと見ていたかと思うと、自分の単を脱ぎ、その瞬間、あたしは心の中で(あっ)と声をあげてしまった。

だって、肩にも腕にも思ってた以上のたくさんの火傷の跡があったから─────。

手当ての時、あたしは必ず部屋から出されてしまっていたから、高彬の火傷の跡を全部見たことってなかった。

今でもこんなにひどいということは、最初の時は一体、どれくらいの火傷の状態だったの・・・。

「そんな顔しない」

声をかけられて目が合うと、高彬はメっと顔を作って見せた。

「でも、こんなにひどいなんて・・・。あたしのせいで・・」

「瑠璃さんのせいじゃないって、前に言ったろう。火傷をしたのは、ぼくが油断したせいなんだから」

「でも」

接吻をしようとする高彬をかわして言い募ろうとすると

「・・瑠璃さん。この状態でのお預けは、正直、火傷の痛みより堪えるんだけど・・・」

おどけたように言った。

「あ、ごめん」

素直に謝ると、高彬は小さく笑い、あたしの額に接吻をした。

額から頬、そして唇に・・・。

目を閉じ高彬の接吻を受けながら、それでもさっき見た高彬の火傷の跡が頭から離れなかった。

高彬は本当に死ぬような目に合ったんだ・・・。

わかっていたことなのに、こうして火傷の跡を間近で見ると、その思いが一層強くなる。

何度もした後悔や反省が、また押し寄せてくる。

あたしさえ、あんなことをしなければ、起こり得なかったたくさんのことがあった。

挙句に高彬を巻き込んで、死ぬような目に合わせて・・・。

キリキリと胸の奥が絞られるような痛みが襲ってきそうになった次の瞬間

「・・・いてっ」

ふいに声が聞こえて目を開けると、辛そうに眉を寄せる高彬の顔があった。

「大丈夫?!痛むの?」

びっくりして反射的に上体を起こそうとすると、そのはずみで高彬の身体のどこかと触れたみたいで

「いてっ・・」

と、またしても高彬が顔をしかめた。

「やだ、平気?どこが痛むの?お医師、呼ぶ?」

気が動転して言うと、高彬は顔を歪めながらも

「・・呼ばない」

とうめくように言った。

「でも」

「大丈夫。と言うか、ここで呼ばれたら色々、困る・・」

「・・・そ、そうなの?」

何となくデリケートなことを言われた気がしてモゴモゴと言うと、高彬は気を取り直したように少し動き、そのくせすぐに「いてっ、いてっ・・・」と言っては顔をしかめている。

「ねぇ、本当に大丈夫なの?とりあえず、今日はやめる?」

あたしとしては、高彬の火傷のことが気になってしまって、もうもうそれどころじゃないから言ってみたんだけど、高彬は頭を振っただけでやめる気はさらさらないみたいだった。

接吻をしてきては「いてっ」、髪を撫ぜては「いてっ」、身じろぎをしては「いてっ」と声をあげる高彬に、あたしはとうとう吹き出してしまった。

────そこまでして、続けること?!

火傷の跡を見たショックや心配の反動なのか、今度はなんだかクスクス笑いが止まらなくなってしまった。

「・・・やっと笑った」

安心したように高彬が言い、びっくりして見ると

「瑠璃さん。ぼくが「鴛鴦殿に」と言ったのは、死ぬんだったら最後に瑠璃さんに会っておこうと思ったからだと言ったろう。その時に浮かんだ瑠璃さんの顔は、今みたいに笑ってる顔だったよ」

「・・・・」

「だからぼくの火傷のことで悲しそうな顔をするのはやめて。ぼくは大丈夫なんだから」

「・・・・」

「瑠璃さんの笑ってる顔が好きだから、さ」

そう言って額をコツンと合わせる。

「・・・高彬・・」

高彬の顔がそのまま近づいてきて、あたしは目を閉じた。

繰り返される接吻に、心がほどけていくのがわかる。

高彬の手が優しく肌を這い、吐息が耳にかかり、感覚が研ぎ澄まされて行く。

少し痩せてしまった高彬の身体。

あたしは高彬の頬を両手でそっとはさんだ。

高彬の身体の重みが愛おしい。命の重さだわ。

高彬は生きている。

やがて高彬が身体を進めてきた時、あたしは涙が溢れてしまった。

「・・・痛むの?」

心配そうに聞かれ、あたしは頭を振った。

こんな時にまであたしの心配をするなんて、どうしてそんなに優しいの。

「痛いんじゃないわ」

「じゃあ、どうして。何かぼく変なことした?」

「・・・バカね。嬉しいからじゃない。また、こうして高彬と・・・」

涙で声が詰まると、高彬はあたしの涙を拭いながら小さく笑い

「瑠璃さんに泣いてもらえるなんて、ぼくも偉くなったもんだね」

からかうように言って片目を瞑ってみせた。

「こんな時に・・・ふざけないでよ」

小さくしゃくりあげながら言うと、高彬は少し困ったような顔になり

「こんな時だからこそ、少しはかっこつけさせてよ。でないとぼくも・・・」

そう言ってあたしの首に顔をうずめたかと思うと

「・・・泣きそうなんだから」

呟くように言った。

肩に──────温かいものが伝ってくる。

高彬が声を殺して泣いているのがわかる。

あぁ、高彬。

あたしはそっと、高彬の背中に手を回した。

死なないでいてくれてありがとう。

あたしを好きになってくれてありがとう。

他の誰よりもあなたのことが好きよ、高彬。

やがて動き出した高彬を、あたしは心で感じながら上り詰めていき、その瞬間、大好きな人の名をあたしは呼んだ─────。






********************************************************








相変わらず外では風が吹いているのか、さっきよりも格子がカタカタと揺れている。

高彬の胸に顔を寄せ風の音を聞きながら、あたしはまどろみの中にいた。

時折り何かの合図のように肩が撫ぜられるたび、あたしは小さく頷き、ただそれだけのやり取りがたまらなく嬉しい。

「昼間の話だけどさ・・」

肩を撫ぜる手が止まったと思ったら、高彬が話しかけてきた。

「うん・・」

返事をしつつも、昼間の話って何だっけ?とまどろみの中で考える。

「その・・瑠璃さんは、欲しいの?」

「何を」

目を閉じたまま答えると

「何って、つまり・・・やや、をさ」

「・・・!」

びっくりしていっぺんに目が覚めてしまう。

そろりと上を見上げると、高彬と目が合った。

「高彬は・・・?」

聞き返すと

「質問に質問で答えるのはずるいな」

高彬は不満そうに言った。

ま、まぁ、そうかも知れないけど。

でも、そんなことに答えるのは恥ずかしいじゃない。

奇妙な沈黙が流れ、と思ったら

「じゃあ、欲しいか欲しくないか、せーので一緒に言おう」

高彬が提案してきた。

「いいわよ」

あたしは頷いた。

「ずるはなしよ」

「瑠璃さんもね」

指切りをして、2人して深呼吸をする。

せーの、と声と目を合わせて合図をし、一拍おいてから一緒に口を開く。

「欲しい!」

またしても言葉が重なり、2人して笑い合った。

見つめた高彬の目にあたしが映っている。

優しくて力強い光を宿す真っ直ぐな目。

「大好きよ、高彬」

たまらず抱きつくと

「いてっ!」

高彬は、ふざけた口調で大げさにうめいて見せ、また、あたしを笑わせたのだった。








           <終>





新しい年が始まりましたね。

改めまして、皆さま、本年もよろしくお願いいたします。

ささやかなブログではありますが、これからもジャパネスクを<大好き>と言う気持ちで、丁寧に書いていきたいと思っています。

いつもコメントを下さる方、初めましてでコメントを下さる方、訪問して読んでくださる方、いつもありがとうございます。

年齢のせいなのか、それとも性格的なものなのか、超がつくほどのアナログ人間ではあるのですが、こうしてブログをやっていて

(デジタルでも楽しくて素敵な出会いってあるんだ!)

と思えました。

大げさに言えば、人生の楽しみ方の幅が広がった気がしています。

実生活ではおそらくは絶対に出会ってなかった、ジャパネスク好きな方と<出会え>たのですから、ネットはありがたいツールですね。

訪問してくださる皆さまには感謝の気持ちでいっぱいです。

今年最初の話を何にしようか考えた末、以前から書いてみたいと思っていた原作「うるわしの夜」のその後のシーンにしました。

原作シリーズの「悲恋炎上編」は鷹男の話で完結しましたが、他にも書いてみたいシーンがありそうですので、原作シリーズはもう少し続くかも知れません。

昨年、現代編でやった短期集中連載みたいなのも今年も出来たらいいなぁ・・・と考えています。

まだまだ具体的な案があるわけではないのですが、その時はお付き合いください。

細々とではありますが更新して行きたいと思っています。

今年も「ジャパネスクあれこれ」ブログをよろしくお願いいたします。

皆さまにとって、今年が実り多き素晴らしい一年でありますように。




瑞月


(←お礼画像&SS付きです)

***原作シリーズ***<おまけの番外編>***

『なんて素敵にジャパネスク〜二次小説』



         先日「原作シリーズ、ここに完結いたします!」と高らかに宣言したばかりですが、
         忘れていました、あの人の事を。
         原作シリーズ<おまけの番外編>です。


        注)このお話は一話完結です。
          原作の行間を埋めるような小説ですのでネタバレとなっています。
          原作未読の方はご注意ください。
          

       




***原作シリーズ*** <おまけの番外編> ***






「・・・それが・・・何を聞いても『姫さまに会わせろ』の一点張りでございまして・・・」

里帰りをしている小萩に代わり、年若い女房が簀子縁にひかえ手を付きながらほとほと参ったと言うような口調で言った。

「あたしに会わせろって?」

「えぇ。身元も判らない鄙びた者ですし、門衛に言って追い払わせましょうか」

「そうねぇ・・」

あたしは脇息に寄りかかって扇を綴じたり開いたりしながら、ふぅむと唸った。

身元が判らないっていうのは気になるけど、どうせ暇してたんだし、口うるさいことを言う小萩もいないし、会ってやってもいいかな。

話しくらいは聞いてやろう。

「いいわよ。庭の方から回してちょうだい」

扇を閉じ、ピシリと言うと、女房は一礼しするするとさがって行った。

やがて、庭先の方から下草を踏みしだく足音が聞こえ、何者かが座って控える気配が伝わってきた。

御簾越しに目を凝らすと、男はそれでも礼儀正しく頭を下げており、あたしが声を掛けるのを待っているようだった。

見た目ほど鄙びた者ってわけではなさそうね。

扇を鳴らすと、廂に控えていた女房が男に声を掛けた。

顔をあげた男は、御簾越しとは言え、あたしの姿を認めたのか

「姫さん!」

と声を張り上げた。

陽にやけた若々しい顔、にこにこと笑う人懐こそうな笑顔。

その顔はどこか見覚えがあって・・・・

「・・・・於兎丸!」

びっくりして、女房が止めるのも無視して御簾をからげ、思わず簀子縁に飛び出してしまった。

そうよ、於兎丸よ。

一年以上前のあの事件で、実直に働き、ずいぶんと助けられたっけ。

あの後、承香殿女御さまも無事、皇子さまをご出産され、都は以前のような活気を取り戻してきている。

皆、事件のことは、もう忘れ去ったかのように口にしないでいる。

もしかしたら思い出さないようにしてるのかも知れない。

あたしも於兎丸には、もう京に来ないでいいと伝えてあったし、今までずっと音沙汰なかったのに、一体どうしたんだろう。

「姫さん、お元気そうで何よりでございまする」

丁寧に頭を下げると、そのままにこにこと笑ってあたしを見ている。

「おまえも元気そうね」

懐かしさもあって親しみを込めて返事をすると、於兎丸はにこにこと笑う笑顔そのままに

「姫さん。いつになったら早苗どのとの仲を取り持ってもらえますんでしょうか、はい」

「・・・・は?仲を取り持つ?」

「はい。ずっと楽しみにしておりましたです」

裏心なく素直に言う。

早苗との仲を取り持つ・・・?

一体、何のことよ・・・と言いかけて、ふと何かが引っかかった。

記憶をプレイバックさせてみれば・・・・かすかに、何やら・・・。

どうしても帥の宮邸の情報が欲しかったあたしは、はしっこい於兎丸にお願いして、色々探らせたんだっけ。

それでその時に「うまくやってくれたら、いずれ、早苗との仲をとりもってあげるわ。早苗の両親も説得してあげるから」とか何とか言ったような気も・・・する・・わねぇ・・。

うん、する。言ったわよ。

「あらー」

あたしは気が抜けたようにつぶやいた。

その後の高彬の大火傷や事件のゴタゴタのせいですっかり忘れていたわ。

早苗はあの後、三条邸に呼び戻したし、今じゃいっぱし一人前の女房として局も与えてはいるけど・・・。

早苗から於兎丸の話なんてついぞ聞いたことがないし、相変わらず早苗は名のある公達に見初められたいとか夢みたいなこと考えてるみたいだし。

自分の言ったこととは言え、どうやって二人の仲を取り持てと言うのよ。

だけど・・・。

期待に満ち溢れた於兎丸の顔を見ると、今さら「あれはその場の勢いで言ったことだったのよ」とも言えないしねぇ。

「姫さん」

にこにこと笑う、信じて疑わない於兎丸の視線が痛いわ。

「そ、その・・・」

「はい」

「あ、明日、また来て頂戴。今日はね、ちょっと都合が悪いのよ」

「はぁ・・・。明日、でございまするか」

「ほ、ほら。北の方ともなると何かと忙しいのよ。ね」

引きつった笑顔を浮かべると、於兎丸は合点がいったと言う様に頷き、一礼して帰って行った。

その後姿を見送ったあたしは、於兎丸の姿が見えなくなったのを確認すると

「すぐに文の用意をして!」

控えていた女房に言いつけた。

文机に向かい、筆に墨をしたため書き始める。

『高彬。一生のお願いがあります・・・・』







********************************************************







「まったく瑠璃さんは・・・」

仕事から戻り、一通りの話をあたしから聞いた高彬の第一声がこれだった。

「一生のお願いがある、なんて書いてあるから何事かと思ったら・・・」

家に帰ってきたんだから、脇息にでも寄りかかって寛いでくれればいいものを、背筋をスっと伸ばし円座に座っている。

こういう時の高彬は要注意よ。

絶対、お説教されるに決まってるんだから。

だけど、身に覚えがあるから、あたしだけ寛ぐってわけにはいかない。

「一体、瑠璃さんの一生は何回あるんだよ」

対面する形で座っているあたしに向かい、高彬は呆れたような口調で言った。

「やぁねぇ、一回に決まってるじゃない・・・・」

あはは、と笑いかけたところで、高彬に睨まれて首をすくめた。

とりあえずここは少し反省しているところを見せておいたほうがいいと判断したあたしは、しょんぼりした顔で俯いてみせた。

伏し目がちなまま、ひぃ、ふぅ、みぃ、よぉ・・・と数え、きっちり、とぉ数えたところでおずおずと顔を上げると高彬と目が合った。

高彬は意味ありげに眉を上げると

「とぉ、数えたくらいで反省してるとは言えないよ、瑠璃さん」

めっと顔をしかめて見せた。

あらら・・・お見通しだったのね。

「あの・・ね、高彬。その・・・怒ってる?」

「怒ってはいないよ。・・・ただね、瑠璃さん」

高彬は小さく息を吐くと

「人の気持ちなんて、他人がどうこう出来るものじゃないだろ。それが恋愛なら尚更だ。立ち入るものじゃないし、立ち入れるものでもない。前にもこんなこと、瑠璃さんに話したことあったよね。結婚する前だったと思うけど」

「・・・・・・」

「大体さ、瑠璃さん。瑠璃さんは何か考えがあって、取り持ってあげるなんて言ったの?そんな方法があるなら、ぜひ聞かせてもらいたいよ」

そう言って意地悪そうな目であたしを見た。

「あ、あるわよ。・・・たとえば・・・」

「たとえば?」

「たとえば、よ。あんたの従者にしてもらうって言うのはどうかしら」

「ぼくの従者に?」

「そうすれば官位を授けてもらえるじゃない。そうしたら早苗の両親だって納得するわ」

そうよ、思いつきで言ったわりにはいい考えじゃない。

自分のアイデアに内心ほくそ笑んでいたら

「なるほどね」

高彬はさして驚いたふうもなく肩をすくめてみせた。

「確かに早苗の両親は喜ぶかもしれないね。でも早苗はどうかな」

「そりゃ、早苗だって於兎丸に官位があれば見直すだろうし、それに・・」

あたしが言いかけた言葉を高彬は遮った。

「瑠璃さんは官位があったり、身分が上だったりしたら、それだけで人を好きになるの?」

「え」

思ってもみなかった高彬の言葉に、一瞬、言葉が詰まり、そうしてゆっくりと反芻してみた。

官位があったり、身分が上だったりしたら、それだけで好きになるの・・・?

・・・・そっか・・・。

あたし、最高権力者の鷹男より高彬を選んだんだっけ。

それは官位とか身分とかに関係なく、ただ高彬を好きだったから・・・。

ちらりと高彬を見ると、あたしの思ってることなんてまたしてもお見通しなのか

「だろ?」

満足気に頷く。

「・・・・・うん」

「ぼくの従者にしてやることは別に構わないよ。於兎丸さえ良ければ」

気落ちしてるあたしを可哀相とでも思ったのか、高彬はいくぶん口調を和らげて言った。

「でも、それで早苗の気持ちがどうこうってことにはならないんじゃないかな」

今度こそあたしは、演技ではなく本当にしょんぼりと肩を落とした。

「・・・うん、そうよね。高彬の言う通りよ。明日、於兎丸が来たら謝るわ。いい加減なこと言って悪かったって。・・・・仕事忙しいのに、馬鹿なお願いしちゃってごめんね」

謝ると、しばらくあたしを見ていた高彬は、やれやれと言うように首をすくめ

「明日、於兎丸が来たら、ぼくのところに来るように言って」

そう言って、小さく笑った。






*************************************************







一週間ほど、高彬からは何の連絡もなく、かと言ってこっちから聞くのも気が引けて、あたしはヤキモキした気分で毎日を過ごしていた。

あの日の翌日、やってきた於兎丸に、高彬のところに行くよう伝えると

「はぁ、今度は若殿さんのところでございまするか・・」

首をひねりながら出て行ったのだけれど、首をひねりたいのはあたしの方よ。

いったい、高彬は於兎丸に何を言うつもりなのかしら?

恋愛なんて、他人がどうこう口出し出来るものじゃない、なんて言ってたくせに。

脇息に寄りかかりながらぼんやりと庭を眺めていると、里帰りから戻った小萩がやってきて

「姫さま。たった今、少将さまがおいでになられ、大臣さまとご歓談中ですわ。じきに参られますわよ」

言いながら、手早く室内を整えて行く。

何となく気が急いて、小萩の目を盗み渡殿あたりまで行って見ると、まだ高彬が渡ってくる気配はなく、部屋に戻ろうと振り向きかけたあたしは、ふと何かが目に入り動きをとめた。

小庭の向う、こんもりとした茂みの辺りに、何か・・・人影のようなものが見えた気がしたのだ。

よぉく目を凝らして見ると、その人影は於兎丸で、隣にいるのは・・・・早苗?!

こんな人の目の届かないところで、二人で会ってるなんて・・・。

もっとよく見ようと身体を伸ばしたところで

「こら」

ふいに声を掛けられ、ぎょっとして振り向くと、笑いながら高彬が立っていた。

「覗き見なんていけないな。さ、部屋に戻るよ」

「ねぇ、今の見た?於兎丸と早苗よ。いったい、どうして・・」

「いいから、いいから。さ、行くよ」

あたしの言葉を遮って、突っ立っているあたしの背中を押して歩き出した。

「ねぇねぇ、いったい、どうしたの。あの二人」

部屋に戻って二人きりになったところで、あたしは、今見た光景を思い出しながら、高彬に聞いてみた。

遠目にも二人が楽しそうなのは見て取れたし、何と言うか、早苗からは匂いたつような晴れがましさと言うのか艶やかさと言うのか、そんなものが伝わってきたのだ。

あの独特の雰囲気は、ずばり、恋の始まりよ。

「於兎丸に何を言ったの?」

矢継ぎ早に聞くあたしの言葉を聞き流し、高彬は寛いだ様子でゆったりと脇息を引き寄せた。

「ねぇったら」

高彬のそばに座り袖を引っ張っると、高彬は

「ちょっとした恋の秘策を授けてやったのさ」

なんて言ってとぼけている。

「恋の秘策?!あんたが?」

都で一番、堅物でウブな人が、恋の秘策?!

「何を言ったのよ」

「・・・・」

「教えなさいよ」

にじり寄ると、観念したのか

「たいしたことじゃないさ。好きな人がいるなら、人をアテにせずに当たって砕けろって言ったんだよ」

「へ・・・?それだけ?」

「それだけって・・・。男ならそれしかないだろ」

「でも、当たって砕けろ、なんて。そんなの秘策でもなんでもないじゃない」

なまじ期待していただけに失望も大きく、ぶつぶつと言うと

「そうでもないさ。うまくすれば・・・」

いったん言葉を切り、ちらりとあたしを見た。

「はねっかえりで我儘な権門の姫を手に入れることも出来る」

「え」

それって・・・あたしのこと?

でも、待って。

「あたしは高彬に、当たられた覚えなんかないわよ。父さま主催の管弦の宴で、たまたまあぁ言う流れになっただけじゃない」

そうよ。あの宴の日、権少将に夜這いをされそうになり、そこに高彬が居合わせてさ。

「ふぅん」

高彬は意味ありげに鼻を鳴らした。

「瑠璃さんは、たまたまぼくがあの場にいて、たまたま権少将の醜聞を知っていたとでも思っているの?」

「・・・って、違うの?」

聞き返すと、高彬はまじまじとあたしの顔を見て、そうして

「ほんと、女の人って気楽だよね」

ため息混じりに言い、ふいに立ち上がったと思うと直衣の襟元を緩め、几帳の向うにしつらえてあった夜具にゴロンと横になった。

あれは、たまたまじゃなかったの?

恋が始まったのは、偶然じゃなかったの・・・?

・・・やだ、気になっちゃうじゃない。

突然とも言える高彬の告白に、呆然としていると

「瑠璃さん。こっちにおいで」

あたしを呼ぶ、高彬の声がした。

振り向くと高彬が見ていて、でも動かないでいると

「おいで」

また、あたしを呼んだ。

あたしはまるで吸い寄せられるみたいに高彬のそばに行ってしまう。

横になっている高彬の隣に座ると、少し開いた襟元からふわりと高彬の匂いがした。

「瑠璃さん。恋にはもうひとつ秘策があるんだよ。聞きたい?」

あたしの手と取りながら楽しそうに言う。

「なによ」

「人のことよりまずは自分のこと、だ」

そのまま抱き寄せられて、鼻先を高彬の匂いがかすめる。

「・・・ねぇ、高彬。あたしに、当たってくれたの?あたしを手に入れようと必死になってくれたの?」

顔をあげて聞いてみると、高彬は一瞬だけ、目を見開いて、それでも

「さぁ、どうだろうね」

とおどけて見せた。

「教えてよ。知りたい」

「いつかね」

「ずるい」

唇を尖らすと、すかさず接吻をされ、髪をなでられた。

そのまま髪をなで続けている。

・・・何だか上手くはぐらかされたしまった気がするわ。

でも。

人のことより、まずは自分のこと、かぁ・・・。

うん。・・・そうよね。

願わくば、於兎丸の恋も成就して欲しいけど。

背中に回された高彬の手には、さらに力が入ってきたことだし・・・。

今は。

自分のことよね。

目が合い、にっこりと笑い合う。

嗚呼、恋ってなんて素敵なんだろう。

あたしは高彬の胸に頬をあて、そっと目を閉じたのだった。





        
            <終>


(←お礼画像&SS付きです)

***原作シリーズ***悲恋炎上、そしてここから***

『なんて素敵にジャパネスク〜二次小説』




        注)このお話は一話完結です。
          原作の行間を埋めるような小説ですのでネタバレとなっています。
          原作未読の方はご注意ください。
          

       




***原作シリーズ*** 悲恋炎上、そしてここから ***







承香殿女御が皇子を無事出産したことを受けて、都は以前の活気を取り戻している。

誰もが皇子の誕生を喜び祝い、名だたる貴族たちは連日連夜の宴を開き、世の中はお祝いムード一色である。

一日の政務を終え、清涼殿に戻ったわたしは、ふと、外の気配に耳をそばだてた。

初秋の夜空には望月が浮かび、その月光が庭の呉竹の葉を照らし出している。

ふいに風が吹き、呉竹の葉を揺らした。

暑かった夏も終わり、季節は確実に移ろっているようだ。

実りの秋、収穫の秋、宮中では新嘗祭、豊明節会と続き、五節の舞が宮廷を華やかに彩ることだろう。

文字通り、慶事続きとなる。

だが・・・。

「ふぅ・・・」

わたしはため息をついた。

どうにも気分がすぐれない。

原因はわかっている。

わかってはいるが、晴らすことができないでいる。

仮にわたしがもっと気軽な身分であったなら、あるいは晴らすことができたかも知れない。

誰かに聞いてもらうと言う手もあるだろう。

酒に逃げるか、女に溺れるか、あるいは・・・・出家か・・。

だが、帝と言うわたしの立場では現実的に無理である。

「主上、右近少将が参られましたが」

ふいに声を掛けられて振り向くと、大納言典侍が庇に控えていた。

高彬か。

頼んであった書類を、早々に仕上げたと見える。

「ここへ」

短く答えると、典侍は立ち上がりかけ、ふと動きを止めた。

「秋風は身体に障りますゆえ、格子を下ろさせましょう」

大納言典侍は五十をとうに過ぎた古参女房であり、わたしが幼い頃より仕えていたこともあり、時々は母のような口調になる。

「もう少し・・・月を愛でていたい」

大納言典侍は小さく頷き、ふと声を落とし

「主上、あまりお悩みなされますな。すべてが過ぎたことでございますよ」

呟くようなひそやかな声で言った。

「・・・・・」

さすがは古参女房だ。

平常通りに振舞っていても、わたしの心の闇を見破っていたらしい。

目で頷いて見せると、大納言典侍は一礼し、するすると下がっていった。

入れ替わるように高彬が現れ、簀子縁に腰を下ろすと平伏し、わたしが声を掛けるのを待っている。

「もう仕上げたのか。仕事が早いな」

「は」

深々と頭を下げる高彬は、おそらくはわたしが良しと言うまで頭を上げないだろうと思われ、ふと微笑を誘われた。

相変わらずの堅物ぶりだな。高彬。

・・・だが、もしかしたらわたしは失っていたかもしれないのだ。

この臣下を。義弟を。

『高彬が若死にでもすれば、瑠璃姫を尚侍として出仕を・・・』

以前、そんなことを言ったことがあったが、今、思えばとんでもない言葉であったと思う。

そんなことがないと思えばこその戯言、軽口であった。

扇を鳴らすと、高彬は深々と頭を下げ、立ち上がるために顔をあげ、月明かりがあたった横顔を見た時、ふいにその思いが湧きあがった。

あるいは、高彬なら。

「・・・時間はあるか。高彬」

気付いたらそんな言葉を口にしていた。

腰を浮かしかけた高彬は、一瞬、視線をあげ、すぐに

「ございます」

短く答え、座り直した。

「今宵は月が美しい。・・・少しばかり、おまえと話がしたい。いや、話と言うほどのものでもない。独り言だ。そこで聞いてくれるだけで良い。返事は不要だ」

一気に言うと、高彬は平伏しながら

「は」

どこまでも礼を失わずに言う。

「そう畏まるな、高彬。臣下としてではなく、義弟としてだ。顔を上げろ」

ゆっくりと高彬が顔をあげ、わたしは、ふと夜空に目をやった。

澄み切った秋の空に浮かぶ月は、いっそ不吉なほどに美しい。

「・・・あの日から、心の休まる日はなかった・・・」

はっとしたようにわたしを見る高彬の気配があったが、目をそらしたまま続ける。

「皆がわたしを気遣う。女御を亡くし、幼い東宮をも亡くし、そして信頼していた臣下に裏切られた悲劇の帝として。さっきの女房もそうだ。皆の気遣いは嬉しく思う。・・・・だが」

いったん言葉を飲み込み、わたしは心の澱を吐き出した。

「わたしの真の苦しみはそこではない」

ゆっくりと目を閉じる。闇が広がる。

「わたしは・・・幼い東宮を・・・愛していなかったようだ・・」

秋の風が、また呉竹を揺らしている。

「承香殿が皇子を生んだとき、それがはっきりとわかった。白梅院で初めて対面したとき、皇子の姿に心が震えた。抱き上げたとき、嘘ではなく身体が震えた。だが・・・東宮のとき、これほどの思いは湧かなかった・・・」

わたしは小さくため息をついた。

「父の愛情を知らないままに、東宮を死なせてしまった。桐壺にも・・・気の毒なことをした。後宮での生活は不安な日々だったと思う。2人に済まないことをした・・・・」

ずっと棘となっていた思い。

「死なれたことはもちろん辛く悲しい。だが、それよりも愛してやれなかったことが悔やまれるのだ。その思いがわたしを責め続ける・・・」

わたしは二人に何をしてやった?

「高彬。どうやらわたしは愚帝のようだ。とてものこと人の上にたつような器ではない。一人の妻も、一人の我が子も守ってやれなかったのだよ・・・」

秋の空の闇は深くどこまでも吸い込まれていきそうになる。

どれほどの時間がたっただろう。

ふいに虫の音が聞こえ、わたしは我に返った。

「高彬。引き止めて悪かったな。今の話は忘れてくれ」

声を掛けると高彬は平伏したまま、返事もなくその場を動こうとしない。

「どうした。下がっていいぞ。瑠璃姫がおまえの帰りを首を長くして待っているのだろう。おまえたちの夫婦仲の良さは、殿上でももっぱらの評判だと聞いておるぞ」

聞こえているのかいないのか、高彬は微動だにしなかった。

「あまり引き止めると瑠璃姫に・・・・」

「恐れながら申し上げます」

高彬がわたしの話を遮り、珍しいこともあるものだと内心思っていると

「月の美しさに誘われたのか、わたくしも独り言をつぶやいてみとうなりました。畏れ多いことながら、義弟の独り言に、少しばかりのお時間を頂戴できますでしょうか」

「ほぅ」

高彬が独り言とは。

仕事の愚痴か、はたまた婚家での鬱憤か。

わたしはふと興味を引かれ軽く身を乗り出した。

「よし、わたしはここで月を眺めているとしよう。今宵の月の美しさは格別だ。返事はせぬ。その独り言、申してみよ」

「は」

高彬の顔はなぜだか強ばっているように見えた。

居住まいを正し小さく息を整えると、高彬は静かに語りだした。

そこから始まる義弟の独り言は、わたしの想像をはるかに超えた、衝撃の内容のものだった・・・。






*************************************************






夜も更けた頃、わたしはひっそりとした網代車に乗り、一路、白梅院を目指していた。

月明かりが網代車の影をくっきりと作っている。

最初は、お忍びなどとんでもないことだと目をむいていた大納言典侍も、わたしのただならぬ様子に何か感ずるものがあったのか、すべてを良き様に取り計らってくれた。

それでも出掛けには

「主上、二刻だけでございますよ。それ以上は、わたくしには押さえが利きませぬゆえ」

と念を押されてしまった。

車に揺られながら、思い出していた。

遠い昔、まだ東宮だった頃、こんなふうにお忍びで宮廷を抜け出したことがあった。

その時、わたしの身代わりとなって部屋にいたのは・・・・。

白梅院に着くと、承香殿のいる対の屋の庭先にまで車を付けさせ、慌てふためく白梅院の女房らや従者を尻目に、わたしはものも言わずに室内に飛び込んだ。

「・・まぁ、主上・・・!」

突然のわたしの登場にすっかり驚いた様子の承香殿の顔を見た途端、わたしは女御を、公子を抱きしめていた。

「主上・・!どうなさいましたの・・・」

驚きつつも、柔らかな笑いを含んだ公子の声は、わたしの顔を見ると一変した。

「何かございましたの?主上」

心配げに見つめる公子の顔は、出産のためか幾分、面やつれはしていたが、それでも母となった自信がそうさせるのか、以前よりもさらに美しく慈悲に溢れているように思われた。

「公子・・・」

わたしは縋るような思いで公子の手を取った。








*****************************************************







「高彬が・・・そのような話を・・・」

わたしの話を聞くと、公子はそう言ったきり絶句してしまった。

「そうだ。この耳で聞いた・・・」

「にわかには信じがたいお話ですが・・・・でも・・・高彬が言うのであれば真の話なのでしょう・・・」

わたしは大きく頷いた。

そう。あれが嘘をつくはずがない。

「・・・では・・・・皆・・・生きておられるのですね・・・」

公子は声を詰まらせ、わたしは何度も頷いた。

「良かった・・・。生きておられるのならば・・・・良かった・・・」

袖口で顔を覆い流れる涙をぬぐっている。

「わたくし、東宮さまのことを思うと胸がつぶれる思いがしておりましたの・・・。死は痛ましいものですが、とりわけ幼い子の死はむごく痛ましいものですわ・・・。自分が皇子をお生み申し上げてからは、桐壺女御さまのお気持ちはいかばかりだったかと・・・・」

公子が小さく合図をすると、隣室から乳母に抱かれた皇子が入ってきた。

乳母から公子へ、そしてわたしへと渡される。

「・・・少し見ないうちに・・・大きくなったようだな」

幼い皇子はわたしに向かい、その小さな手を伸ばしてきた。

「父が・・・わかるのか・・・」

公子もそっと寄り添うように皇子を覗き込んだ。

産着を通して伝わる柔らかな身体が、無心に光を宿すその瞳が、命の温かさを伝えている。

「命とは・・・まばゆいものだな・・・」

呟くと

「えぇ・・・」

公子は新たな涙を誘われたように声を詰まらせた。

「我が子とは・・・可愛いものだな・・・」

声がかすれ、わたしの頬にも一筋の涙が伝う。

「えぇ・・・そうでございますわね・・・主上・・」

公子が隣で何度も頷き、そうしてわたしたちは寄り添い、飽きることなく皇子を見つめ続けた。







***********************************************







朝の政務の前、高彬を呼びつけた。

すぐにやってきた高彬は、昨夜と同じように簀子縁に腰を下ろすと平伏した。

緊張しているように見えるのは、多分、気のせいではないだろう。

「・・・・礼を言うぞ、高彬」

声をかけると、はっと顔を上げ、すぐに深々と頭をさげた。

「瑠璃姫も、おまえも・・・危うい目に合わせた。許せ」

「もったいないお言葉でございます」

実直な声で高彬が答え、そのまま平伏している。

「実は・・・折り入って頼みたいことがある。鳥辺山に投げうったままの焼死体だが・・・どうかねんごろに弔ってやって欲しい。そして、帥の宮の縁者で探し出せるものは都に呼び戻し、なにがしかの仕事を与えてやってもらいたい。難儀な仕事だが引き受けてくれるか。おまえにしか頼めない」

高彬は顔をあげると

「もったいないお言葉でございます。誠心誠意つとめる所存でございます」

深々と頭を下げ、その声はほんの少しだけ震え、高彬の隠しきれない感情が伝わってくるようだった。

高彬。

おまえが義弟で嬉しく思うぞ。

目の前には清々しい朝の秋の空が広がっている。

遠野宮よ、おまえもこの空をどこかで見上げているのか。

今、どんな暮らしをしている。

宮育ちのおまえには辛いことも多かろう。

だが、生き抜け。

愛する妻と子のために命を賭けられたおまえだ。

命ある限り、生き抜いて欲しい。

そして、いつかまた会おう。

昔のように戯言を言い合って笑い合おう。

「・・・この空は和泉まで続いているのであろうか」

呟くと、はっと高彬が顔を上げた気配があった。

少しの沈黙のあと

「御意に」

深々と頭を下げ高彬は答えた。低く力強い声だった。

見上げた空はどこまでも青く、闇ははるか彼方へと遠ざけられているようだった。

風が吹き、また呉竹の葉を揺らした。







                    <終>




原作シリーズ、ここに完結いたします!お付き合いありがとうございました。

彼らの未来に幸あれ!




原作シリーズ、楽しんでいただけたら「楽しかったよ!」の拍手をお願いします♪
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***原作シリーズ***悲恋炎上、そして<番外編2>***

『なんて素敵にジャパネスク〜二次小説』




        注)このお話は一話完結です。
          原作の行間を埋めるような小説ですのでネタバレとなっています。
          原作未読の方はご注意ください。
          

       




***原作シリーズ*** 悲恋炎上、そして<番外編2> ***







「やぁ、高彬。調子はどう?」

報告書を書こうかと、家の者に文机の用意をさせているところに、融がひょっこりと顔を出した。

調子はどう、と聞いたわりには、ぼくの顔などろくすっぽ見もせずに、円座に座ったあともなんだかソワソワとしている。

「調子は大分いいよ」

「そっか、良かった」

上の空でそう言ったきり、足を組み替えたりもぞもぞと落ち着かない。

ピンと来るものはあるのだが

「何だよ、今日は。瑠璃さんなら留守だぞ」

ちょっとした意地悪心で言ってやると

「知ってるよ、藤宮さまのとこだろ。姉さんがいないから、来たんだよ」

融は肩をすくめてみせた。

「高彬、あのさ・・・その・・・」

「何だ」

「つまり・・・その・・・」

「・・・・由良なら、部屋だぞ」

赤い顔でゴニョゴニョと口ごもる融を見かねて、ずばりと言ってやると、融はさらに顔を赤らめて

「な、なんだよ、ち、違うよ。そんなんじゃないよ、やだなぁ、もう」

大袈裟に手を振ったりしている。

「隠すなよ。お前が頻繁に由良に文を送ってることくらい、とっくに気付いてるさ」

おごそかに言ってやると、融はぎょっとしたようにぼくを見つめ、やがてがっくりと肩を落とした。

「そっか・・・」

さすがは高彬だな、なんて呟いたかと思うと、ふいに思いつめたような顔でぼくを見て

「高彬。女の人に振り向いてもらうにはどうしたらいい?」

すがるような口調で聞いてきた。

「・・・・・」

ぼくに恋愛指南を請う公達なんて、都中さがしても、きっとお前くらいだぞ、融。

「お前、何年、ぼくの親友やってるんだよ。そういう質問はぼくがもっとも苦手とする分野だってことくらい、わかってるだろう」

呆れて言うと

「うん・・・。だけどさ、高彬は思いつづけた初恋の人と結婚出来たわけだし、まぁ、それが姉さんだってのは、いまだに不思議なんだけどさ、でも、恋を成就させたことには違いないじゃないか。それに、由良姫は高彬の妹なんだし・・・・」

「ふむ」

「それに、高彬しか相談する人なんていないしさぁ」

そう言って、上目遣いでぼくを見る。

前世でどんな因縁があるのか、この姉弟の上目遣いには弱いんだよなぁ。

ぼくは腕組みをして考えてみることにした。

「そうだなぁ。やっぱりまずは文を送り続けるしかないんじゃないか」

「文かぁ。文は何度も送ってるんだけど、返事がないんだよね・・・」

「仮にも右大臣家の姫だ。由良自身はともかく、回りのガードは固いぞ。そう簡単に返事はこないだろ」

「そっか・・・。それに、ぼくは不利だよなぁ。姉さん、右大臣家で評判悪いだろ。きっと、その弟ってだけで良い印象持たれてないだろうし。あーあ、とんだとばっちりだよ」

不服そうに唇を尖らせる融を、ぼくは呆れて見た。

「人のせいにするなんて、お前、それでも男か。情けない事言うなよ」

右大臣家で評判悪い事くらい何だ、ぼくは世間で評判の悪い瑠璃さんをものにしたんだぞ・・・と言おうとして、やめた。

ぼくの場合は内大臣さまはじめ、お母上さまや小萩など、瑠璃さんの身近な人が、すごく良くしてくれて、その分では本当に恵まれていたしな。

ぼくの強い口調にも気を悪くした風もなく

「あとさ、前から聞きたかったんだけど、高彬はどうやって姉さんに振り向いてもらえたの?ずっと高彬の片思いだったんだろ?」

身を乗り出して聞いてきた。

「う~ん、やっぱり誠意ってやつかな。それに勝る秘策はないだろ」

恋愛なんて、ごくプライベートなことで、こういう話をあからさまにするのは好まないのだが、融の必死な様子に心打たれるものがあり、ぼくは真面目に答えた。

「誠意かぁ」

「あとは手順、だな。女の人は、手順が大事みたいだぞ」

「手順・・・」

「うむ。そこに至るまでの過程が大事なんだ。結果オーライと思ってる男とは、そこが違う」

「うん」

「手順を大事にしないと、思わぬところで枕箱を投げつけられたりすることもある」

「うわっ、痛そうだな」

融は痛そうに顔を歪めてみせた。

「痛いなんてもんじゃない。下手したら死ぬぞ」

「だよね。手順かぁ・・・。やっぱり高彬は頼りになるな、ありがとう。さっそく家に帰って文を書くことにするよ。あ、高彬。またね」

そういうと、振り返りもせずにさっさと部屋を出て言った。

やれやれ。相変わらず落ち着きのない奴だな。

ぼくは渡殿をあたふたと歩く融の後ろ姿を見送ると、文机を引き寄せた。

さて、報告書になんと書いたものか・・・。

別当どのからそれとなく催促されたし、そろそろ書かなければと思うのだが、どうにも筆が進まない。

あの夜に起こったことを、ありのままに書くことなどもちろん出来ないし、かと言って、丸く収まるようなうまい妙案など思いついていない。

こういうとき、恐ろしいほど頭の回転が良くなる守弥にでも相談すれば、何か知恵を出すかも知れないが、話しが話だけに、たとえ守弥といえども話すわけにはいかない。

筆を置いて、瞑目する。

あの日のことをもう一度、思い返してみる。

あの日、あの夜・・・

煌姫から帥の宮の陰謀の真相を聞かされたぼくは、にわかには信じることが出来なかった。

だけど、目の前で大弐が喉を突き、由良が髪を切った事実を思えば、信じないわけにはいかなかった。

東宮が帝の御子でないなど、ありうべからざることで、ぼくはすぐに、何としても隠さなければ、と思った。

あまりに帝がおいたわしいではないか。

三年間、ご自分の御子だと愛しんでこられた東宮が、本当は帥の宮の子だったなんて。

あんなに帝に目をかけていただいていた帥の宮が、そんな大きな裏切りをしていたなんて。

臣下として、いや、男として最低だ。

何も知らずにいた帝が、あまりにお気の毒だ・・・。

・・・・そこまで考えて、ぼくはため息をついた。

あの時、一瞬だけ、よぎった苦い思いがよみがえる。

ぼくはあの時。

帥の宮と桐壺女御を・・・・唯恵と瑠璃さんに置き換えてしまったのだ。ほんの一瞬だけ。

もしも瑠璃さんが、ぼくに内緒で唯恵に会っていたら。

瑠璃さんに御ややが出来たら、ぼくは当然、喜ぶだろう。

でも、もしも、それが、ぼくとの間の子ではなかったとしたら・・・?

慈光寺に馬を走らせながら、そんなことが頭をかすめていた。

今にして思えば、馬鹿げた考えだったと思う。

事実、あの時、ぼくは少しおかしくなっていたのかもしれない。

いや、ぼくだけじゃない。

大弐も由良も、そして瑠璃さんも、おそらくは帥の宮の狂気とも呼べるほどの愛執にあてられて、少しおかしくなっていたんだと思う。

皆が、何かが、少し狂っていたあの夜、それでも、ぼくは最後の理性でやるべきことを判断し、やり終えた。

燃え上がる慈光寺を見ながら思ったことは、やはり唯恵のことだったように思う。

繰り返し夢に見る、唯恵を斬りつけた場面。

何かに囚われている自分の心。

帥の宮の罪、今上の御哀しみ、自分の囚われの心。

燃え盛る炎を見ながら、すべて焼き尽くされてしまえ、と願った。

その一瞬の心の隙が判断を鈍らせた。

気が付いたら、ぼくは燃える木の下敷きになっていて、身動きが取れなくなっていた。

マズい・・・そう思ったとき、ばらばらと駆け寄る足音と人の声が聞こえ、ぼくは遠くなる意識を手繰り寄せながら

「鴛鴦殿へ・・・」

と言い残し、そのまま気を失ってしまったらしい。

鴛鴦殿には瑠璃さんがいるはずだし、やはり、もし死ぬのなら瑠璃さんに会いたかったからだ。

最後だとしたら、瑠璃さんに言いたかった。

唯恵を斬ってすまなかった・・・瑠璃さんの大事な人を斬ってすまなかった、と。

次にぼくが気が付いたのは、誰かの泣き声でだった。

自分が死んだのか生きているのかさえもわからない、ぼんやりとした意識の中で、ずっと聞こえ続ける誰かの泣き声。

どこかで聞いたことがある・・・と思ったら、それは瑠璃さんの声だった。

瑠璃さんの声だとわかったとたん、焼けつくような熱さと、引きちぎられるような痛みが襲ってきて、ぼくは生きてることに気が付いた。

でも、身体はぴくりとも動かせないし、声も出ない。

瑠璃さんは相変わらずずっと泣いていて、その泣き声を聞いているうちに、ぼくはだんだん腹が立ってきた。

いったい、誰が瑠璃さんをこんなに泣かせているんだ。

ぼくが起きられないのをいいことに・・・・。

動かない身体に、出せない声に苛立っていたら

「高彬・・・」

と言う瑠璃さんの声が聞こえた。

「高彬、お願い。目を開けて・・・」

そういって泣きじゃくっている。

それで、ぼくは気が付いた。

そうか、瑠璃さんはぼくのために泣いているのか。

ぼくが火傷を負って、目を覚まさないでいるから泣いているんだ・・・。

そう思ったら、泣いてる瑠璃さんには悪いけど、なんだかぼくは温かい気持ちになった。

死線をさまよってるのに、温かい気持ちになるって言うのも、変な話だけど。

瑠璃さんがぼくのために泣いている。

ぼくが死ぬかもしれないと思って、泣いてくれている。

なんだか嬉しかった。

そういえば瑠璃さんは、こうも言ってくれたっけ。

「あんたが右近少将でなくてもいいのよ」

って。

そうか。

ぼくはぼくで、いいのか。

ずっと何かに囚われていた心が、少しだけ軽くなった気がした。

だから、それから完全に意識が戻るまでの数日間、身体は辛かったけど、心は穏やかだった。

もちろん、今上の御心や亡くなった大弐のことを思えば、心が痛んだけれど。

本当のことを書けない以上、少しでも、今上がお悩みにならないような報告書を作成しなければ・・・

筆を取りかけると、カタンと妻戸の揺れる音がして、由良が入ってきた。

「お兄さま、お加減はいかがですの」

少し恥ずかしそうにうつむきながらぼくの近くに静かに座る。

「あぁ、大丈夫だよ」

肩のあたりで切り揃えられた髪が、幼い頃の由良の面影を彷彿とさせて、ぼくは小さく笑った。

「あの・・・お兄さま。実はご相談したいことがあるんです」

「どうした」

兄の貫禄を見せて鷹揚に言うと

「それが・・・」

由良の頬がうっすらと赤くなった。

「最近、お文を・・・頂くんです。その・・・・融さまから」

「ほう」

しらばっくれて相槌をうつ。

「それで、信濃はまだ放っておきなさいって言うのですが、でも、煌姫さまは、返事を書けとおっしゃって・・・。わたくし、どうしたらいいか迷ってしまって・・」

信濃とは、由良付きの女房の名だ。

右大臣家でも古参の女房で、おそらくは恋の手管もそれなりにはわきまえているのだろう。

「由良はどうしたいんだ」

「融さまは、瑠璃ねえさまの弟君ですし・・・・・お優しい方だと思います」

「うむ。融はいいやつだぞ。それは保証する」

そう言ってやると、由良は小さく頷いた。

「返事くらい、書いてみればいいじゃないか」

ハッとしたように顔を上げた由良は、はにかむような笑顔を浮かべて頷くと、小さく頭を下げて部屋を出て行った。

男の友情だ、感謝しろよ、融。

さて、報告書だ。

再び筆を取り、書き始める。

数行、書き進めたところで

「若君」

と呼ばれ、気が付くと、いつから控えていたのか、すました顔をした守弥がいた。

千客万来とはこのことだな。

「なんだ。呼んでないぞ」

思考を中断された悔しさもあって、そっけなく言うと

「さきほど、融君がおいでのようでしたが」

表情を変えずに言う。

「それがどうした。お前も会いたかったか」

「いえ、そういうわけでは・・」

「じゃあ、なんだ」

「融君は最近、由良姫にお文を頻繁に送られているようですね」

ぼくは肩をすくめた。

まぁ、ぼくが気付くくらいなんだから、守弥が知ってて当然だろうな。

「失礼ながら、融君が由良姫にお文を送りつけていることを北の方さまがお知りになったら、また一悶着あるのでは・・・。北の方さまは内大臣家とこれ以上の関わりを持つのを好まれないと思うのですが」

ぼくは守弥を横目で見た。

「お前、気付いてないのか」

「は?」

「田嶋をはじめ、この鴛鴦殿のものは、皆、瑠璃さんを好きになってるぞ」

「・・・・」

融はあんなことを言っていたが、右大臣家での瑠璃さんの評判は、そう悪いものでもなくなってきているのだ。

「由良もそうだし、あと姉君もだ」

我が右大臣家の一の姫である聡子姫は、どういうわけだか瑠璃さんを好いていて、先日もここ鴛鴦殿に来た。

名目はあくまでぼくのお見舞いだったのだけど、実際は瑠璃さんと部屋にこもって、ずっとおしゃべりをしていたらしい。

それに、どういう風の吹き回しか、夕方には涼中将までもが小姫を連れてやってきて、その晩は鴛鴦殿で親子三人水入らずで過ごし、翌朝は三人で同じ牛車に乗って帰っていった。

簾を巻き上げて手を振る小姫に、瑠璃さんも手を振り続けていた。

瑠璃さんが、何かしたのか、言ったのか、それはわからない。

でも、瑠璃さんは嬉しそうだった。

そう、瑠璃さんはいい人だ。

人の幸せを、自分のことのように喜べる人だ。

瑠璃さんは自分の気持ちに正直で、それはつまりは自分の気持ちを大切にしているということなんだけど、それだけじゃなく、瑠璃さんはちゃんと人の気持ちも大切にする。

いい人ぶったりしてないから、メッキがはがれるなんてことがない。

裏表がないから、笑顔に曇りがない。

だから、瑠璃さんを知った人は、瑠璃さんをどんどん好きになっていく。

「母上も瑠璃さんのことを知れば、そのうち好きになるさ」

「はぁ・・・」

「あんなに瑠璃さんを嫌っていた守弥が、ぼくに隠れて瑠璃さんと探偵ごっこするほどに好きになったんだしな」

からかうように言ってやると、なんとも複雑な表情を浮かべながら守弥は退出していった。

少しの間、書くことに集中していると、誰かが渡殿をこちらにやってくる足音が聞こえてきた。

あぁ、あの足音は。

ぼくは気付かない振りをして、筆を走らせ続けた。

秋の風とともに、ふわりといい香りがしたと思ったら

「なにやってるのよ。だめよ、ちゃんと寝てなきゃ」

そういって、その人はぼくの手から筆を取り上げて、隣に座った。

ちらりと見ると、何か良いことでもあったのか、どことなく上気した顔をしている。

童の頃からよく見知った顔。

筒井筒の女の子で、今はぼくの妻となった女性。

そうだ、今度、融に教えてやろう。

妻の話をきちんと聞くのも、男としての大切な心得のひとつだぞ。

「藤宮さまのところはどうだった?何かおっしゃっていたかい?」

文机を押しやり、ぼくは瑠璃さんに向き直った。







                           <終>



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***原作シリーズ***悲恋炎上、そして<番外編>***

『なんて素敵にジャパネスク〜二次小説』




        注)このお話は一話完結です。
          原作の行間を埋めるような小説ですのでネタバレとなっています。
          原作未読の方はご注意ください。
          

       




***原作シリーズ*** 悲恋炎上、そして<番外編> ***









打てる手はすべて打った、と思う。

階に腰掛け、わたしは少しずつ色づきはじめている鴛鴦殿の庭を眺めた。

むろん、ぼんやりと眺めているわけではない。

他に出来ることはないかと思案しているのだ。

若君が大火傷を負い、この鴛鴦殿に運び込まれたのが十日ほど前の未明。

その頃、わたしは白梅院にいて宮廷からの使者の対応に追われていた。

使者は兵衛佐・源敦資どので、蔵人頭の名代として、つまり実質は帝からの使いである。

「右近少将と連絡が取れない。いずこへ」と聞かれたのだが、かなり切迫した状態であった。

その少し前に右大臣も慌しく宮廷に呼ばれていたので、宮中で何か起きたな、とは思っていたのだが、兵衛佐の来訪でそれが確信に変わっていた。

わたしは若君のご信頼を失っている最中だったので「いずこへ」と聞かれても、答えることができず、それについての少々の歯痒さと、しかしながら、やはり何かあったら帝はすぐに若君を召されるのだという大いなる満足感にひたっていたのである。

鴛鴦殿からの早馬が着いたのは、使者が帰ったすぐあとだった。

顔見知りの使者の話を聞くなり、わたしは度を失い、そのまま奪うように馬を駆って鴛鴦殿に駆けつけた。

慣れない馬ゆえ、途中、何度も落ちそうになったが、それでもわたしは速度を落とさずに走り続けた。

鴛鴦殿に着き、文字通り、馬から転げ落ちるように降り、そのまま若君の病室へと走った。

若君はおられた。

大火傷を負われ、瀕死の状態で。

「若君・・・」

そうお呼びしたのか、しなかったのか、今となっては定かではないが、わたしは一瞬だけ、本当に一瞬だけ、意識が遠のいたのかもしれなかった。

だがすぐに正気を取り戻し、病室を後にした。

大きく息を吸い込み、気合を入れるために両の手で自らの頬を叩く。

落ち着け。落ち着いて考えるのだ。

「守弥。おまえは頭脳専門なんだろ」

いつぞや若君にもそう言われたではないか。

今、出来ること、必要なことはなんだ。

しばしの瞑目ののち、わたしは思いつくすべての手配をした。

伝来の妙薬を所有しているという寺や貴族に使いを出す。

同時に、医師という医師、とりわけ優秀といわれている医師を呼び集める。

すべての情報は把握済みである。もちろん帳面など引っ張り出すまでもない。

わたし自身が、データベースなのだから。

宮廷にも、若君が大火傷を負い重体である旨の急使を走らせた。

わたしの目論見通り、すぐに典薬頭と権侍医が鴛鴦殿につき、同時に禁裏の薬園から練り薬や薬草が送られてきた。

若君はとりわけ帝のご信任が篤い。

そう思うのは、何もわたしの身贔屓などではない証拠である。

数日間、あやうい生死の境をさまよっていた若君は、一昨日あたりから少しずつだが容態が安定してきていらっしゃる。

もちろん、まだまだ予断は許されないということで複数の医師らが看病していることには変わりがない。

わたしは手すりにもたれかかり深いため息をついた。

この十日間、生きた心地がしなかった。

正直、時間の感覚がない毎日であった。

横たわる若君を見たときのあの衝撃。

情けない話だが、思い出すと今でも身体が震える。

若君がどうにかヤマを超えられたのは、国でも有数の医師らの手あつい看護のおかげももちろんあるが、やはり若君ご自身の力も大きいのではないだろうか。

御運のお強さ、日頃の武術の鍛錬による御体力。

そして帝さえも動かしたお人柄。

やはり若君はなくてはならないお人なのだ。

神仏も簡単には召されないということなのだろう。

とにかく、少しずつでも回復していただき、また、いつもの若君に・・・

そこまで考えて、ふと人の気配を感じた。

みると、渡殿をこちらにやってくる人影があり、いくつかの角を曲がったかと思うと、あっと言う間に近づいてきた。

小萩どのである。

若君が運び込まれた翌日から、鴛鴦殿に来ているのだ。

小萩どのは瑠璃姫の一の女房であり、当然といえば当然なのだが・・・。

どうにもやりにくい。

小萩に恨みがあるわけではない。これは誓って言える。

だが、こうして邸内で顔を合わせたときの気まずさを何と言おうか。

「あら、守弥ではないですか。こんなところで何を」

わたしに気付いた小萩が足を止めた。

「はぁ」

わたしは視線を落としたまま曖昧に返事をした。

「姫さまがお部屋にいらっしゃらないのよ。今朝の朝餉もあまりお召しあがってないようだったし・・・」

遠目に辺りを探しながら心配そうに言う小萩に

「わがままな姫に仕えるのは大変でしょうね」

わたしは少々の皮肉をこめて言った。

その途端、小萩はわたしに目を当て、じろりと睨んだ。

「わがまま、などと、瑠璃さまに失礼な言い方はやめてくださいな。仮にも姫さまはあなたの命の恩人じゃありませんか」

突っかかるように言う。

「わたしの命の恩人ではあっても、若君のお命を危険にさらしたお方でもあります」

我ながら辛辣な言い方だとは思う。

・・・ここ数日、会うとこうなのだ。

最初のうちはこんなことはなかった。

若君が生きるか死ぬかの瀬戸際で、それどころではなかったというのが正しい。

だが、少しずつ容態が落ち着いてきて、こちらにも余裕が出来てきたあたりから雲行きがあやしくなった。

口を聞くと、険悪なムードになってしまうのだ。

小萩は瑠璃姫が心配で、もちろんわたしは若君が心配で、お互い、心配が高じて要はピリピリしているのだろう。

小萩の心配もわかる。

ここのところの瑠璃姫の傷心ぶりはひどいものがあり、着膨れた衣裳ごしにも痩せたとわかるほどだ。

はつらつとした笑顔は消え、いつもどこかうつろで怯えたような顔をしている。

吉野での瑠璃姫も元気がないとは思ったが、これほどではなかったように思う。

さすがの瑠璃姫も、若君が大火傷を負ったことに自責の念を感じているようなのだ。

当然であろう。

わたしは故あって瑠璃姫と吉野で出会い、その後、いろいろあったが、結局は瑠璃姫は良いお方だと思い直した。

物の怪つきなんかではもちろんなかったし、裏表のない性格、何よりも女性としては並み外れた行動力の持ち主で若君にはこういう人こそが妻としてふさわしいのだとすら思った。

その思いは基本的には変わらない。

変わらないのだが・・・・。

しかし、若君の命まで危うくするようでは困るのだ。

今回の事件、わたしは途中から蚊帳の外で、真相はわからないのだが、だが瑠璃姫が関わっていたことだけは確かだ。

ありていに言えば、若君は瑠璃姫のせいでお命を危険にさらされたのだ。

瑠璃姫付きの小萩に、きつい物言いをしてしまうのも無理からぬことでだろう。

案の定、小萩はうっと言葉につまり、だが、次の瞬間、猛然と反撃をしてきた。

「あなたと言う人は!命を危険にさらしたなどと、なんという言い草でしょう。姫さまがどんなお気持ちで毎日を過ごされているか知りもしないで!あの姫さまが、食事も摂らずにずっと泣いていらっしゃるのですよ」

「それはお気の毒だと思いますが。ですが小萩どの。我が若君もまた、食事はおろか、意識をお戻しにならずにいられるのですよ。もしかしたら心で泣いておられるかも知れませんね。とんでもない妻を娶ってしまったと」

言い過ぎだと自分でも思ったが、止まらなかった。

小萩は口元をわなわなと震わせ、ぎっとわたしを睨みつけ

「お黙りなさい!あなたに何がわかると言うのです」

「では小萩どのには、何がわかっていると言うのですか」

こうなると、売り言葉に買い言葉だ。

「わたしはね、守弥。あなたよりは瑠璃姫と高彬さまのことはわかっているつもりですわ」

「ほう」

「あなたはお二人でいるところをご覧になったことがあって?」

「・・・・・・」

ある、といえばあるのだが、だが、あれは若君が小太刀を持って乗り込んできた時で・・・あれはカウントは出来ないであろう。

「ほら、ごらんなさいな。高彬さまはね、そりゃあ姫さまの前ではお寛いでいらっしゃいますわ。お優しくて仲がよろしくて。お二人がお語らいの時には誰にも入っていけないような密な空気が流れているのですわ。高彬さまが姫さまのことを、妻にしたことを後悔しているだなんて、そんなこと、ありっこないですわ」

小萩は大きくかぶりを振った。

目は少し潤んでいるようにも見える。

小萩も辛いのであろう。

わたしも・・・辛い。

辛いから、誰かに、何かに、ぶつけたくなる。

判っている。わたしは小萩に当たっているだけなのだ。

もしかしたら小萩との口争いで、わたしはたまっているストレスを吐き出せているのかもしれない。

わたしが正気を保てているのは小萩のおかげかもしれないと言うのに、それなのに当たるとは・・・!

「・・・口が過ぎたようですね。お許しを」

小さく頭を下げると、小萩は目をそらし、そのしぐさが見ようによっては、頭をさげているようにも見えた。

しばらく黙っていた小萩は、ふと庭に目をやり

「わたしが姫さまとはじめてお会いしたのは、わたしが父と母を亡くしたすぐ後、十二の頃でしたわ」

「そうですか、小萩どのは幼い頃に両親を・・・」

「えぇ。泣いてばかりの毎日でしたけど、でも、もう一度、元気にやってみようと思えたのは姫さまと出会ったからです。三条邸に仕えるようになってからは、毎日、笑ったり怒ったり、大騒ぎで。姫さまは突拍子もないことをなさったり、少し変わったことろがおありですから、わたしは肝を冷やしてばかりです。姫さまには振り回されてばかりなのに・・・なのに、わたし、姫さまが好きなのです。・・・大好きなのですわ。おかしいでしょう、守弥」

おかしいでしょう、と振り向いた小萩に瞬間、目を奪われ、わたしはそんな自分にうろたえた。








****************************************

<後編>








若君の意識が戻られたのは、翌日のことだった。

医師からも「もう大丈夫」との太鼓判が押され、それを確認してから、恥ずかしながらわたしはぶっ倒れるように眠ってしまった。

思えば、きちんとした寝所で寝るのは十日ぶりである。

どれくらいの時間がたったのか、わたしはパチリと目が覚めた。

何はさておき若君のお顔を、と急ぎ、若君の病室へ向かうと、中から話し声が聞こえてきた。

そっと中を伺うと、横たわる若君と・・・・瑠璃姫である。

夫婦なのだから当然なのだが、どこか釈然としない気持ちがあった。

瑠璃姫憎し、の気持ちではないのだが、どうにも心が晴れない。

聞くともなしに二人の会話が聞こえてきた。(いや、本当は聞こうと思って聞いていたのだが)

少し掠れ気味の若君のお声がとぎれとぎれにする。

「・・・瑠璃さんは、ずっと、ぼくのそばにいて・・・」

瑠璃姫は向こうを向いているので、声も聞こえないしその表情もわからないが、どうやら若君の手をとって何かを言っているようだ。

どうやらお二人の絆は事件前と変わらず、いや、尚いっそう強いものになっているように見えた。

やはり若君は、瑠璃姫のことを・・・。

「瑠璃さんにそこまで心配してもらえるなんて・・・・・」

若君が少しお笑いになった気配があり、次いで瑠璃姫が立ち上がりかけた。

「大丈夫?!痛むの?お医師を呼んでくる!」

すわ、若君に一大事か、と慌てたが、どうやら何事もなかったようだ。

またも若君のお声が聞こえてきた。

「・・・・この先、どんな人生になるかわからないけど、できれば穏やかな老後が希望だ。住むところは邸でも寺でも、どこでもいいけど」

お優しい、思いのこもった穏やかなお声で、不覚にも涙が出そうになってしまった。

いや、わたしが言われたわけではないのだが。

小萩の言った通りだ。

若君と瑠璃姫の語らいには誰も入っていけないような濃密さがある。

若君はこんなお声で話される方だったろうか。

わたしは若君のすべてを知っているつもりでいたが、若君はとうにわたしの知らない一面を身に付けていらっしゃたのか・・・。

瑠璃姫は何と答えるのだろうと聞き耳を立てると

「高彬がいれば・・・どこでもいいわ。本当よ」

小さな、だけど心のこもった声だった。

声が震えているのは泣いているのかも知れない。

やがて若君が何事かをおっしゃり、と思ったら、瑠璃姫の顔が若君に近づき・・・・

わたしは慌てて背を向け、その場を離れた。

さすがにのぞきは趣味ではない。(のぞいていたのだが)

そのまま渡殿を行きかけると、角を曲がったところで、なんと、またもや小萩に遭遇した。

もしや小萩も・・・?と思い、ちらりと見ると、同じことを考えていたのか、小萩も意味ありげに目をのぞきこんできた。

口ではああ言いながらも、やはり二人の仲が心配で様子を窺っていたのだろう。

どちらからともなく一緒に歩き出し、横顔を盗み見すると、昨日とは打って変わって、晴れ晴れとした嬉しそうな顔をしていた。

「言ったとおりでしょう。お二人の仲は絶対ですわ。ええ、そうですとも。お二人が離れるなんて、そんなこと・・・」

ぶつぶつ言ったかと思うと、くすくすと笑い出し

「良かった・・・本当に良かったですわ・・・」

一人で感激し、泣き笑いしている。

「守弥も何か言いなさいな」

黙り込んでいるわたしに不服そうに言う。

「何かと言われましても・・・。ただ・・・」

「なんですの」

「ただ・・・良かったと、思います」

「えぇ、そうですわね。これでお互い少しだけ肩の荷が下りましたわね」

「えぇ、小萩どのも、さぞやお疲れのことでしょう」

「そうねぇ。でも守弥ほどでは・・・」

そこまで言って、ふと言葉を切り、くるりとわたしに向き直った。

「小萩、で良いですわ」

「は?」

「ですから、わたしが守弥と呼んでいるのに、あなたが『小萩どの』じゃ変じゃありませんか」

「・・・・・」

な、な、なんということを言うのだ。

自慢じゃないが、わたしは女人を呼び捨てにするのは、妹の大江しかいない。

「守弥」

「小萩」

と呼び合うと言うのか!

そ、そ、それではまるで、こ、こ、こ、恋人のようではないか!

内心、慌てふためくわたしをよそに、小萩はどこまでものんびりと

「わたしねぇ、守弥には謝らなければならないと思っているのよ。ずいぶんときついことを言ってしまって」

「はぁ・・・」

いや、それはお互いさまであろう。

「なんだかあなたにはね、他の誰にも言えないようなことまで話せてしまえてね。この十日間、なんとか乗り切れたのは、守弥のおかげじゃないかと思っているのよ。ズケズケ思ったことを言えて、気持ちがすっきりしたもの」

それも・・・お互いさまだ。

主人の一大事を心配する同じ立場同士、小萩の辛さはよくわかっていた。

わかっていたのに、いや、わかっていたからこそ、わたしも安心して小萩に言いたいことを言っていたのかも知れない。

この辛さを味わっているのは、わたしだけじゃないと思えたから。

・・・・な、なんだ。わたしは何を言っているのだ。

これではまるで、わたしが小萩に甘えているようではないか。

「何をぶつぶつ言っているのです。おかしな人」

小萩は呆れたように呟き

「さ、もう部屋に戻りますわ。じきに姫さまもお戻りでしょうから、何か精のつくものを召し上がっていただかなくては。姫さまのお好きな小芋を煮て、甘葛でもおかけして・・・」

どこか嬉しそうに言いながら、さっさと歩いていってしまった。

なんだか、どっと疲れた気がして、わたしはその場にしゃがみこんだ。

この疲れは何なのだろう。

十日間の緊張とはまったく違う、この疲れ。

わたしは小さく吐息した。








**********************************************









夜になり、わたしは再度、若君の病室を訪れた。

あのあと、妙な疲れを感じたわたしは、自室に戻り、知らぬ間にまた眠っていたのである。

妻戸をあけ、そっと中に入る。

若君は眠っておられるようである。

弱々しい灯台のもと、静かに眠る若君のお顔は、お小さい頃を彷彿とさせた。

わたしが若君と出会ったのは、若君が御年五歳の頃であった。

お優しくてお利発な若君は、その日から、将来の希望を持たないペシミストであったわたしの、唯一の希望となった。

わたしは、長い時間を若君と過ごさせていただき、若君をお育てしたのは、お支えしているのは自分だと自負していた。

だが、今回のことでよくわかった。

支えられているのは、わたしのほうだったのだ。

若君がいなくなってしまうのではないかと感じた時の、あの恐怖。

今、こうして若君が無事にいられることを、柄にもなく神仏に手を合わせたくなってくる。

「これ、おんじゃね。これでさぶくないでしょ」

幼い若君のお声が、もみじのような小さい手が思い出される。

「若君・・・よくぞ、ご無事で・・・」

思わずこぼれた声が震え、気が付いたら涙が流れていた。

涙など流すのは、二十年ぶりくらいかも知れない。

自分でびっくりしていると

「・・・枕元で男に泣かれるっていうのは、気分のいいもんじゃないな」

笑いを含んだ若君のお声が聞こえた。

「若君!起こしてしまいましたか・・・」

「いいさ。ウトウトしていただけだから」

「若君。ご気分は・・・」

「うん、大分いい」

若君は頷かれ、そしてゆっくりとわたしをご覧になられた。

「おまえにもずいぶん心配をかけたな。いろいろやってくれたそうだね。ぼくが助かったのは守弥のおかげだって、瑠璃さんに言われたよ」

「わたしは当然のことをしたまでです」

「ありがとう」

「もったいない・・・お言葉です」

しばらく沈黙が流れた。

ぼんやりと天井を眺めていた若君は、おもむろに話し始めた。

「守弥、先に言っとくけど、今回のことはぼくの判断でしたことだからな。誰のせいでもない」

「・・・・・」

「『今後の若君のために瑠璃姫は無用なのです』なんて言うなよ」

「・・ですが、若君」

「おまえとは長い付き合いだからな。おまえの考えそうなことくらいわかる」

真面目な顔でそう言い、次いで何かを話されかけ、と思ったら、ふいに小さくお笑いになった。

片眉をあげて、からかうようにわたしをご覧になる。

「おまえ、今までに惚れたオンナっていないのか」

「・・・なっ!」

「守弥も誰かいいひと見つけろよ」

「・・・・・・」

「いいもんだぞ、想う人に想われるっていうのは。無条件で頑張れる」

ご自分で言って、ふむふむと頷かれている。

想う人に想われる、か・・・。

その途端、ふいに小萩の顔が浮かんできた。

こ、これはどうしたことか・・・!

またも急激な疲れを感じ

「御前、失礼」

なんとかそれだけ言い、部屋をあとにした。

闇に沈んだ鴛鴦殿の庭を眺める。

払っても払っても、小萩の顔がちらつく。

夜風にのってどこからか、菊の香が漂っている。

無性に小萩に会いたいと思っている自分に気付き、わたしは頭を抱えた。

まずい、これは非常にまずいぞ・・・。





                      <終>

     

                    



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