**特別編***ジャパネスク雛祭り~Sleeping Beauty~***

『なんて素敵にジャパネスク~二次小説*特別編』




注)このお話は特別編『ジャパネスク・ガールズ・フェスティバル!~桃の節句~』の<番外編>です。
時は平安、今日は雛祭り・・・・
はちゃめちゃな設定がお好きでない方は読むのをお控えください。
どんな妄想もウェルカム!の方は、どうぞご覧くださいませ。





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ジャパネスク雛祭り~Sleeping Beauty~










「松乃や、明日はわたくしは温子さまとお食事会で出かけますけどね、忘れずにお雛人形を仕舞うのですよ。いいこと?忘れずに、ですよ」

右大臣邸の母屋で盛大に開催された「雛祭り会」も終わり、招かれた客が三々五々帰って行き始めた頃、母上が古参女房の松乃に言い付ける声が聞こえてきた。

「かしこまりました、北の方さま」

母上が部屋を出て行き、テーブルの片付けを始めた松乃にぼくは話しかけた。

「どうしてそんなに急いで人形を仕舞わなけばいけないの?こんなに綺麗な人形なんだから、もう少し飾っておけばいいのに」

松乃はちょっと驚いたような顔になって、それから(ふふふ)と笑いだした。

「賢い高彬さまにも、ご存知ないことがあるんですのねぇ」

「え、何」

「お雛人形は雛祭りが終わったらすぐに片付けないと、その家の女の子がお嫁に行き遅れてしまうと言われているのですよ」

「へぇ・・」

「だから、大抵のおうちではすぐに仕舞うものなんです」

「・・・・」

「将来、お嫁さんになれなかったら困りますでしょう?・・・あ、高彬さま、どちらへ」

急いで車宿りに向かうと

「三条邸に行って」

ぼくは牛車に乗り込んだ。

「若君、どちらへ」

ぼくの後を追ってきた守弥の声が聞こえたので

「融と約束があったことを思い出したんだ。三条邸に行ってくる」

簾を巻き上げて言い、そのまま(ふぅ)と息を吐きながら座り込んだ。

───人形が片付けられる前に瑠璃さんのとこに行かないと。

逸る気持ちを抑えるため、外の景色でも見て少し落ち着こうと物見窓を開けると、暮れかかる赤みのある陽が車内に入ってきた。

風はまだ冷たかったけど、でも、少しだけ春の匂いがする。



******



「あれ、高彬、どうしたの?」

突然のぼくの来訪に、驚いたような声を融は上げ、それでもニコニコと出迎えてくれた。

「う、うん・・。えぇと、急に融と遊びたくなってさ」

「うん」

融の部屋への向かう渡殿を歩きながら、ぼくは気付かれないようにキョロキョロと辺りを見回した。

瑠璃さんはどこにいるんだろう?

瑠璃さんも「雛祭り会」をやったのかな?

雛人形はどこに飾ってあるんだろう?

気になることはたくさんあったけど、融の部屋に着くまでの間に、それに関する情報は何も得られなかった。

「融んちでは『雛祭り会』やったの?誰か呼んだりして」

「雛祭り会?あぁ、今日は雛祭りだもんね。うちは特別なことはやらなかったよ。姉さんがめんどくさいからいいって」

「ふぅん。・・・でも、ちらし寿司とかケーキくらいは食べたよね」

ほっとしつつも、少し瑠璃さんが可哀想な気持ちがあってそう聞くと

「昼にステーキ食べたよ」

「ステーキ?」

雛祭りにステーキ?

「うん、姉さんがさ、ちらし寿司なんかよりどうせならお肉がいいって言いだしてさ。近江牛のA5ランクのステーキだよ。姉さんらしいよね」

融が笑い、ぼくもちょっとだけ笑った。

「融んちはさ、どこに雛人形飾ってあるの?うちは母屋だよ」

変なこと聞くと思われないようにさりげなさを装って聞いてみると、融は怪しむ様子もなく

「姉さんの部屋だよ」

ぼくが一番知りたかった情報をあっさりと話してくれた。

融の部屋であれこれ遊ぶうちにすぐ夜になり

「こんな時間に帰るのは危ないから」

と言う理由で、首尾よく泊まらせてもらえることになる。

よし!第一関門突破だ。

布団を並べて横になり

(後は融が早く寝てくれることを祈るだけだな)

と思っていたら、祈る間もなく融はすぐに寝てしまった。

規則正しい寝息をしばらく聞いてから、そっと布団を抜け出す。

目指すは瑠璃さんの部屋だ。

誰にも会わないように細心の注意を払って渡殿を進み、東の対屋の瑠璃さんの部屋の前に辿り着く。

──ふぅ・・

ひとつ大きく息を吐いてから、そっと妻戸を押してみると───

開いた!

ギギギ・・と木のこすれる音がして、慌てて「しぃ」と指を立てる。

静かに身体を滑り込ませると、格子から入る月明かりで室内は案外に明るく、すぐに立派な7段飾りの雛人形が目に入った。

「・・ごめんなさい」

謝りながら一体の人形を手に取り、部屋を出ようとしたところで、ふいにあらぬ思いが頭に浮かぶ。

「・・・・」

奥で瑠璃さんが寝てるんだ・・・

静かな部屋の中、ごくり、と唾を飲み込む音がやけに大きく聞こえ、ぼくは慌てて頭を振った。

だめだ、だめだ。

───いや、ちょっとくらいなら・・・

ぎゅっと目を瞑り

(ごめんなさい)

心の中で謝りながら、ぼくはそっと几帳の向こうに足を踏み入れた。

瑠璃さんの部屋に通してもらったことはある。

だけど、奥の部屋まで入れてもらったことはなくて、ぼくはそっとレースのカーテンで区切られた寝室スペースを覗き込んだ。

瑠璃さんは───

いた。

白い天蓋付きベッドの上、胸元で指を組みスヤスヤと眠っている。

白い木枠の大きな姿見があったり猫脚のイスがあったりで、そのあまりに女の子らしいインテリアに、いつもお転婆で勇ましい瑠璃さんの違う一面を見た気がしてドキドキしてしまった。

息を殺して瑠璃さんを覗き込む。

眠る瑠璃さんは、いつだったか由良にせがまれて一緒に見た、ディズニー映画の主人公みたいだった。

「・・・・ん・・」

瑠璃さんが寝返りを打ち、ぼくは慌てて部屋を後にした。



******



「高彬、来てるんですって?」

翌朝、融の部屋で朝ごはんを食べのんびりしていると、ひょっこりと瑠璃さんが現れた。

「ちょうど良かったわ、一緒に観ない?」

瑠璃さんの手にはビデオケースが握られており、それを見た融は

「えー、また『眠れる森の美女』?もう何度も観たからぼく飽きちゃったよ。姉さん、一人で観てよ」

「いいから、いいから。名作は何度見ても心洗われるものなのよ」

融の抗議もむなしく、数分後にはぼくと融は、大納言さまご自慢のシアタールームに座っていた。

「やっぱり映画鑑賞にはこれよね」

とのことで瑠璃さんの手にはポップコーンがあり、瑠璃さんを挟んでぼくと融は座った。

「さぁ、始まるわよ」

映画の上映が始まって少しすると融のいびきが聞こえてきて、瑠璃さんは融の脚を蹴っ飛ばしつつも、夢中になって見ている。

映画はまさに最高潮、眠るプリンセスに王子がキスをする場面になると、隣から(スン)と鼻をすする音が聞こえてきた。

そっと横目で様子を窺うと、前のめりで口を薄く開いたまま、瑠璃さんは泣いていた。

瑠璃さんの顔にはスクリーンの動きに合わせたライトが当たり、手の平で涙なんか拭っている。

(あのさ、瑠璃さん・・)

ぼくは心の中で瑠璃さんに話しかけた。

スクリーンの中のプリンセスたちのハッピーエンドに感動してる暇があったら、ぼくとの約束を思い出してよ。

ぼくとの結婚の約束を忘れてるなんて、ぼくからしてみたら、まさしく瑠璃さんは<眠るプリンセス>だ。

約束を思い出せないのなら、誰かと結婚してしまうのなら、だったら思い出すその時まで───

ずっと眠り姫でいてよ。

そうして、ぼくが瑠璃さんをキスで起こすから。

ぼくのキスで思い出してよ。

スクリーンには幸せそうに微笑みあうプリンセスと王子が映っており、隣に座るぼくのプリンセスは、またしても感動の涙を流したのではあった。





<Fin>


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**特別編***ジャパネスク・ガールズ・フェスティバル!~桃の節句~***

『なんて素敵にジャパネスク~二次小説*特別編』




注)このお話は特別編です。
時は平安、今日は雛祭り・・・・
「妄想もここに極まれり」のスペシャル・バージョン第八弾です。
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ジャパネスク・ガールズ・フェスティバル!~桃の節句~










「やっぱりこうして飾ってみると壮観よねぇ」

緋毛氈で覆われた7段の壇上に飾られた雛人形を前に、あたしは(うーん)と腕組みをした。

「姫さま。小萩は何やら恐ろしゅうございますわ」

あたしの後ろに隠れるようにしながら小萩はおっかなびっくりと言う感じで雛人形を眺めており

「もう、小萩は怖がりなんだから」

そのあまりの腰の引けた感じに思わず吹き出してしまう。

こんなに可愛いお雛人形なんだけど、実は奇譚と言うのか怪異譚と言うのか、我が三条邸に脈々と語り継がれている身の毛もよだつような・・・

何て言うのは大げさだけど、ちょっとした不思議な話があるのだ。

曰く、朝になるとお雛人形の位置が入れ替わっていただの、一体の人形が忽然と姿を消したと思ったら、翌日には部屋の隅から出てきたとか、しかもその人形のお衣裳には血が付いていただの、嘘か本当か判らないけど、そんな言い伝えがある。

どれも女房の証言だし、きっと寝ぼけて見間違えたとかそんなもんじゃないかとあたしは思ってるんだけど。

だけど、女房たちは勝手に怪異と決めつけて、どこから聞いたんだか、どうやら志半ばで無念の死を遂げた人形師の怨念らしい・・、と言う事で話が収まっているのだ。

収まってる、なんて言うのも、おかしな言い方だとは思うけど。

だから、女房たちはこのお雛人形を飾りたがらないし、それどころか陰陽師に頼んで処分してもらおう、なんて言っていて、あたしがそれを一人で阻止してる、と言う感じなのだ。

自室に飾ってあるから、当然、夜もこの人形たちと寝てるわけで、女房の中には

「やっぱり、物の怪と呼ばれる姫さまだけあって物の怪が怖くないのですわね」

とか

「類は友を呼ぶ、物の怪は物の怪を呼ぶ、ですわ。私、お勤め先、変えようかしら」

なんて言ってる者もいるらしく

(もう、好きにしてよ)

と言う感じ。

物の怪は物の怪を呼ぶ、だなんて失礼しちゃうわ。

あたしはこのお雛人形たちから、そういう霊気みたいなものを感じないし、何よりもこんなに可愛い人形を処分するなんて絶対にイヤ。

陰陽師に頼むなんて言ったら、絶対に変なお札ベタベタ貼られて、その上で護摩でも焚かれながら妙ちくりんなお経唱えられて、それで挙句に焼かれるに違いないんだから。

物の怪にも人権はあるっての。

あたしが物の怪だったら、もしそんな焼かれ方されたら、成仏どころか更に祟ってやるわよ・・

「あ、姫さま、どうやら少将さまがお着きになられたようですわ」

物の怪のアイデンティティーについてこもごも思いを巡らせていると、小萩に声を掛けられた。

「姫さまも車宿りに急がれて」

「わかったわ」

サテンの薔薇をあしらったパーティーバッグを手に取り、最後に姿見で全身をチェックする。

レースの裳は綺麗に波打ってるし、ハーフアップにした髪も崩れることなく決まってる。

───いいんじゃないかしら?

あたしは小萩を連れて車宿りに向かった。



*******



車の中には高彬がいて、あたしを見るとちょっと目を細め

「おしゃれしてるね、瑠璃さん」

笑い掛けてきた。

「そりゃあね」

簾を下ろし、高彬の向かいに座りながら、ツンと顎をあげる。

「宮中でのパーティーだもの。右近少将の妻ここにあり!と思ってもらいたいし、あたしだっておしゃれくらいするわよ」

そう言うと高彬は

「そうか、それは嬉しいね」

と忍び笑いを漏らした。

そう。

今日、3月3日は───

宮中主催のお雛祭りパーティーがあるのだ。

女性であれば、子どもからおばあちゃんまで、とにかく誰でも参加出来ると言うもので、ここのところの京はこの話題で持ち切りだったのだ。

「太っ腹よねぇ、宮廷も。飲食代も全部、無料な上に、しかも帰りにはお土産までくれるんでしょ?大丈夫なのかしらね?予算の方は」

一応、夫が官人である身としては、そこの辺りが心配でもあるわけで、そう言ってみると

「ちゃんと特別予算枠が設けてあるから大丈夫だよ、瑠璃さん。今の帝はね、本当に賢帝であられるんだ」

「へぇ・・」

「今回のパーティーも、帝のご英断なんだ。やっぱりこういう大がかりなパーティーは警護、安全面の確保の観点から、問題視する声があったのも事実でね」

「そうでしょうね」

「でも帝は『官衙の平安は市井の人々の平安に繋がり、それが太平の世に繋がっていく。桃の節句と言うひとつの行事を大いに利用し、官人は女官に、夫は妻に、情夫は情婦に日頃の感謝を伝える、これが世の平安を作っていくのだ』と仰られてね」

「・・・・・」

「ぼくはそこまで下々のことを考えて下さる帝のお心のうちを思い、もったいなさに涙がこぼれたよ」

「ふぅん・・」

雛祭りパーティーが世の平安ねぇ。

とか何とか言いながら、案外、帝、自分が奥さんの機嫌取りたいだけなんじゃないの?なんて思ったけど、盛り上がってる高彬の手前、黙っていた。

こうしておしゃれしてパーティーに行けるわけだし、あたしとしては何の文句もないんだから、高彬には勝手に涙こぼしててもらいましょ。

あたしたちの車の後には、煌姫や小萩たちの乗る車も続き、朱雀大路に入ると、さらにたくさんの車が内裏を目指しており渋滞が起きていた。

ちょっと気の利いた車には、簾や屋根に桃の花が飾られてたりしてあるのが目にも楽しく、渋滞も気にならずに内裏に着くことが出来た。

パーティ会場は豊楽院の中にあり、受付を済ませ大広間に入った途端、あたしは歓声を上げてしまった。

渋滞のせいで、すでに開会されていたパーティーは賑やかで、会場には溢れんばかりの桃の花が飾られており、菜の花との色の対比は、これぞ春爛漫、桃の節句の名に恥じない設えとなっている。

高い天井からはシャンデリアが下がり、良く見るとそこにも桃の花びらが散りばめられている。

会場の隅にはビッフェ形式の食べ物があり、どれもこれも美味しそうな上、デザートはイチゴづくしで、一番端にはストロベリーチョコと思われるフォンデュのタワーがある。

さっそくフォンデュに飛びついてる人がいるかと思ったら、何てことはない煌姫と小萩であたしはびっくりしてしまった。

もうっ、来て早々、食べ物に飛びつくなんて。。。

うちでロクなもの食べさせてないと思われるから止めてよ。

・・・と思ったら、大江や何と由良姫まで一緒になって食べていて、高彬と目が合い、肩をすくめあってしまった。

ま、あたしも後で本腰入れて食べるんだけど。

雛祭りパーティーと言う事で、今日の主役は徹底的に「女の子」なわけで、男性は皆、エスコート役に徹している。

パートナーがいる人は、パートナー専属になるし、いない人は裏方やったり給仕をやったりして、高彬は当然、今日一日、あたし専属のお世話掛かりなんである。

それも帝からのお達し、いわゆる<世の平安>のため、と言う事らしくて、こんな<お達し>なら大歓迎だわ。

どうやったら妻が喜ぶか、なかなか女心を押さえた帝ではあるってわけね。

果たして高彬は

「瑠璃さん、何飲む?何か持ってくるよ」

「何か食べたいものある?」

「少し座る?」

と、何くれとなくあたしの世話を焼き、あたしは心の底から

(女に生まれて良かったー、来世も女で生まれて来るぞー)

なんて思ってしまった。

おしゃれして、男の人に気を使ってもらってさ、もうもう、女冥利に尽きるって感じだわよ。

そうこうするうちに、会場の照明が一段落とされ、急にムードたっぷりな雰囲気になった。

「それではこれからダンスタイムに入ります」

壇上で男の人がマイクを持って話し始め

「あの方は秋篠中将どのと言われてね。ぼくの上司なんだ」

「ふぅん」

高彬の上司か。

秋篠中将は、スラリとした体躯のなかなかのイケメンだった。

中将って言ったら花形ポストだものね。

直に高彬も中将に昇格するんだろうし、そうなったら藤原高彬中将かぁ・・、うふふ。

一人でニヤニヤしてたら、いつの間にか音楽が流れだし、会場の中央ではカップルが踊り出していた。

一際、目立つカップルがいるかと思ったら

「あちらは今上帝と承香殿女御、我が姉上だ」

とのことで、ほんと、美男美女と言う感じでお似合いだった。

2人はダンスの腕前も相当あるらしく、息の合った華麗なステップを披露している。

ターンするたび、女御さまの長い髪がふわりと揺れ、息を飲むような美しさだった。

思い思いに踊りだすカップルが増えてきて、何となく高彬と目が合うと

「ご、ごめん、瑠璃さん。ぼくはダンスは不得手で・・・」

慌てて言ってきた。

「わかってるわよ、そんなことくらい。あたしだって公衆の面前で裳裾を踏んづけられて転びたくないもの」

「ほんと、面目ない・・」

「いいわよ。それより何か飲み物持って来てもらえる?喉乾いちゃった」

「いいよ」

高彬が席を外すと、まるでその隙を狙うかのようにきらびやかな公達が次々やってきては

「一緒にダンスを踊っていただけませんか?」

なんて言ってきて、そのたび

「夫を待ってるもので」

なんて気取って答えるのも楽しかった。

後で聞いたら、これも演出の一つだったみたいで、(なーんだ)と思う半面、お堅い宮廷にこんな遊び心があるって言うのは、何だか面白くて好感が持てた。

やがてチークタイムになり、会場内をミラーボールが作り出す流れ星みたいなライトが溢れだした。

抱き合って音楽に身を任せるカップルや、盛り上がり過ぎてキスしてるカップルまでいて、あたしたちはと言うと、こっそりと指先だけを絡め合っていた。

ダンスなんか踊れなくたっていいの。

だって指先だけで、こんなにあたしたちは会話が出来るんだもの───



******



三条邸のあたしの部屋に着いたのは、もう日付の変わった夜更けだった。

「あ、飾ったんだね」

部屋に入るなりお雛人形に気付いた高彬が声をあげ

「飾らないと可哀想でしょう?あたしが出してあげないと、誰も飾りたがらないのよ」

「へぇ、なんで?」

不思議そうに聞いてくる高彬に我が三条邸に伝わる怪異譚を話すと、真剣な顔で聞いていたはずの高彬は最後の辺りで笑いだしてしまった。

「な、何よ、どうしたのよ、急に笑いだしたりして」

ひょっとしたら本当の祟りか何かで、高彬、憑りつかれたんじゃ・・・なんてギョッとしていると

「それ、ぼくの仕業だよ」

思ってもみないことを言いだした。

「え?仕業って・・・、どういうこと?」

「瑠璃さんさ、ぼくとの結婚の約束、忘れてただろ?」

「うん・・」

「だからだよ」

「え」

「結婚されたら困るからさ、瑠璃さんが嫁に行き遅れるように、雛祭りが終わってすぐに人形が仕舞われないように、妨害工作をしたんだよ」

「妨害工作・・・」

「そうさ。融のとこに遊びに来て、そのまま泊まることも多かっただろ?そう言う時、瑠璃さんの部屋に忍びこんでさ、人形を一体、隠したりして、そうしたらその人形がないままに片づけるわけにいかないと思ったんだ」

「・・・普通はお嫁に行き遅れないようにすぐに仕舞うものだから・・・」

「そう。それを逆手に取ったんだ」

「・・・」

「いつだったかは、戻しに行こうと思った時に足を滑らせて転んじゃって、手だか指だか怪我して人形の衣裳を汚したことがあってさ、あの時は焦ったよなぁ」

「・・・・」

「そうか、そんな怪異譚になってたんだ」

「・・なってたんだ、って、あんた・・・」

開いた口が塞がらないとはこのことだわ。

まさか脈々と伝わる怪異譚の正体が高彬だったなんて・・・

「まぁ、多少、姑息な手段だとは思ったけどね。でも、瑠璃さんにさっさと結婚されたら困るし」

「・・・・」

「何だよ、変な顔して。瑠璃さん、他の人と早くに結婚したかったの?」

「そんなんじゃないけど。ただ・・」

「ただ?」

「ちょっと・・・」

「うん」

「・・嬉しかっただけよ」

ぼそぼそと言うと、高彬は一瞬、目を見開いてから小さく笑い、そうしてあたしを抱きしめてきて───

そのまま接吻をされそうになったところで

「待って」

あたしは唇の前に指を立てた。

「ダンスの練習、しましょ」

「は?ダンス?なんで今さら・・」

「やっぱり高彬と踊りたいもの。帝と女御さまみたいに」

「・・・・」

「今から練習すれば来年の雛祭りには間に合うわ」

「いや、来年もパーティーがあるかどうかは・・・」

「あるわよ。賢帝なんでしょ?予算枠だってバッチリ押さえてるはずよ」

「・・・」

「雛祭りパーティーが世の平安に繋がるなら、ダンスは夫婦の平安に繋がるはずよ。違う?」

「・・・」

「ほーんと、さすが賢帝だわ。もったいなさに涙がこぼれちゃう」

「・・・」

「やる?ダンスの練習」

「・・・わかった・・」

苦しそうに頷く高彬には悪いけど、あたしはさっそく高彬の手を取った。

「いい?あたしが足を前に出したら、高彬は下げるのよ。いくわよ」

「う、うん」

「はい、アン・ドゥ・トロワ、アン・ドゥ・トロワ・・、違うわよ。右じゃなくて左」

「ごめん」

「はい、もう一度、アン・ドゥ・トロワ・・・痛い!もう、足、踏まないで!」

「いや、今のは瑠璃さんの間違えだろ。まずは右足からのはずだ」

「そ、そうだったかしら・・。じゃあ行くわよ」

「よし、呼吸を合わせよう」

「いいわよ」

「違う、違う、瑠璃さん。まずは右だって。センスないなぁ」

「何ですって?!そういう高彬こそ!」

「瑠璃さん、怒ってないで集中、集中」

───楽しくも賑やかなダンスの練習はどんどん熱を帯びてきて、きっと壇上のお雛人形たちも目を丸くしてたんじゃないかしら?

それでも2人とも何とか少しはステップもサマになってきて、高彬に手を取られながらあたしは

(来世も絶対、高彬のお嫁さんになるぞー)

と固く心に誓ったのだった。






<Fin>


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楽しい雛祭りをお過ごしください。


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**特別編***ジャパネスク・バレンタイン~Surprise for you !~***

『なんて素敵にジャパネスク~二次小説*特別編』




注)このお話は特別編です。
時は平安、今日はバレンタインデー・・・・
「妄想もここに極まれり」のスペシャル・バージョン第七弾です。
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ジャパネスク・バレンタイン~Surprise for you !~










「高彬さま、バレンタインはいかがなされますの?」

年が明けてからこっち、ずっと続く激務をこなし、夜遅くようやく帰宅した自邸の部屋で一息ついていると、白湯を持った大江が話しかけてきた。

「バレンタイン?」

「えぇ、そうですわ。四日後はバレンタインですのよ」

「いや、それくらいは知ってるけどさ。いかがなされるも何も、ぼくは何かする方じゃないし」

白湯をごくりと飲みながらそう言うと

「んまぁ・・!高彬さま」

大江は目を見開いた。

「な、なんだよ、大江」

その驚き振りにぼくの方がギョッとしてしまった。

「高彬さま、ご存知ありませんの?女性が好きな殿方にチョコをあげると言うのは、もう古いのですわ」

「古い?」

バレンタインに、古いも新しいもあるのか?

「えぇ、今様のバレンタインは『逆チョコ』と言って殿方が女性にプレゼントを渡すのが主流なんですのよ」

「・・・・・」

「ぜひ、高彬さまも瑠璃姫さまに、何かプレゼントをなさいませな。当日まで内緒にしてサプライズっぽく渡すのが、さらにイマドキですの。わたしも何かお手伝いしますから」

「いや、ぼくはいいかな。プレゼントとか、ましてやサプライズとか、そういうのガラじゃないって言うかさ。瑠璃さんも、そういうのぼくに求めてないだろうし」

もう一口、白湯を飲みながら適当にあしらうと

「そうですか・・」

大江は(ふぅん、つまんないの)とでも言いたげな顔で呟くと

「そういえば、今上帝も女御さまに、サプライズプレゼントを計画なさっているって聞きましたけど」

「え?今上が?」

思っても見なかった言葉に、ぼくは白湯を置くと身を乗り出した。

「えぇ、何でも女御さまに、帝御自ら夜な夜なパールのネックレスを作られていらっしゃるとか」

「パールのネックレス?」

「そうらしいですわよ」

あの豪気あふれる今上が、縫司よろしく、パールに糸をお通ししておられるだって?

まさか!

「・・・どうして大江が、後宮の奥深くのトップシークレットとも言えるようなそんな情報を知ってるんだよ」

まだ信じられない思いで聞くと

「あら、だって女御さまは右大臣家の二の姫さまですもの。女御さま付きの女官から、それくらいのこといくらでも入ってきますわ」

「いくらでも・・・」

あっけらかんと大江は言い、内裏の安全を守る近衛少将として後宮のセキュリティの脆弱性を憂慮しつつ、一方では大江の噂の入手ルートは妙に説得力のある話で、ぼくは(うーむ)と腕組みをした。

では本当に、畏れ多くも今上が、パールのネックレスを姉上に作られていると言うのか。

「いいんですの?帝がプレゼントを女御さまにご用意されていると言うのに、臣下である高彬さまが『サプライズなんてぼくのガラじゃないし』なんて理由で、瑠璃姫さまにプレゼントを用意されなくて」

「・・・・・」

う、うーむ・・・

ぼくは、またしても心の中で唸り声をあげた。



********



「さ。そうと決まれば、さっそく計画を立てましょうよ、高彬さま」

ウキウキと大江は文机を出しながら言い

「うむ」

ぼくは素直に頷いた。

結局、唸ってみたところで、今様のバレンタインはオトコからのサプライズが主流と言われ、更には帝までがそうされていると聞かされたら、ぼくは頷くしかなく、こうしてさっそく大江言うところの

『瑠璃姫サプライズ大作戦』

を考えている、と言う次第なのである。

「瑠璃姫さまは何が一番、喜ばれると思います?」

「瑠璃さんが喜ぶことかぁ」

そりゃあ、あの瑠璃さんのことだ、野山を自由に駆け回させることが一番喜んでくれることかも知れないけど、そこは腐っても深窓の姫君、更には右近少将の妻、牛の仔じゃあるまいし野山に放牧と言うのはさすがに無理な相談というものだろう。

となると・・・

「普段、邸にいることが多いからね。どこか外に連れ出してあげれば喜ぶかも知れないな」

「わかりましたわ。そうと決まれば・・・」

「いや、待てよ。でもなぁ、ぼくもここのことずっと忙しいし、そう簡単に休みを取れるかどうか・・・」

「明日にでも聞いてみたらよろしいじゃありませんか。中将さまだか大将さまに」

「うん、そうだな」

「私の方では瑠璃姫さまが喜びそうなお宿を探してみますわ」

「今頃、空いてるとこなんかあるかな」

「色々、当たってみますから」

「うん、頼む」

瑠璃さんの喜ぶ顔が浮かび、何となく楽しくなってくる。



*******



翌朝、目覚めると大江が部屋の隅に控えていて、起き出したぼくの顔を見るなり

「いいお宿が取れましたわ」

プリントアウトした紙をぼくに差し出してきた。

洛北にある山の中腹に立つ宿で、写真を見ると離れと言うのか、コテージと言うのか、随分とのんびりと出来そうな良い雰囲気ではある。

「こちらは<月野リゾート>と言って、今、若い人や女性に大人気のお宿なんですの。たまたま最後の一室があったので、さっそく予約をいれておきました」

「そうか」

大江があくびを噛み殺していることに気が付いて

「大江、もしかしたら寝てないのか?ずっと宿を探してくれてたのか?」

「いえいえ、大丈夫ですわ。ネットって見始めるとついつい見ちゃうし、それで遅くなっただけです。お宿のせいじゃありません」

「・・・ならいいけど。まぁ・・・とにかくありがとう」

お礼を言うと、大江はにっこりと笑い下がっていった。

人気の宿が取れたなんて、幸先いいな。

新しもの好き、流行りもの好きな瑠璃さんのことだから、きっと喜んでくれるだろう。

楽しい気分で出仕したぼくは、だけど考えを改めざるを得なかった。

やっぱり仕事が立て込んでいて「公休を取りたい」などと言える雰囲気ではなく、バレンタインサプライズは諦めるしかなさそうである。

瑠璃さんの落胆を思えば可哀想だけど、でも、サプライズの良いところは、文字通り、瑠璃さんはこの計画を知らないわけだから、その点では気が楽と言えば楽だった。

多分、瑠璃さんはチョコレートを用意してくれてるだろうから、たとえ遅くなったとしても三条邸に行ってチョコをもらえば、それはそれで悪くない過ごし方ではある。

まぁ、サプライズはいつかの時のために取っておこう・・・

そんなことを思いながら仕事をしていると

「右近少将」

と声を掛けられた。

振り向くと、上司である秋篠中将どのが立っていた。

「はい」

「いや、仕事の話じゃないから楽にしてくれ」

「・・・・」

「バレンタイン、おまえは何をするつもりなんだ」

「は?」

「だからバレンタインだ。最近の流行りは、男からプレゼントを渡すのが主流だそうじゃないか」

「中将どのもご存知でしたか。私もつい最近、知ったものでして」

「少将はそういうことに疎いからな」

「申し訳ございません」

「謝る事ではない。で、何か考えているのか?」

「はい。あ、いえ・・・、まぁ、ひとつだけ」

「何だ」

少し迷ったけど、まあ、聞かれたんだし、計画段階の話なんだからいいだろうと判断して、月野リゾートに宿泊するのはどうかと思っていると言う事を伝えた。

「いいじゃないか、それは喜ばれそうだ。右近少将にしては上出来のプランだ」

秋篠中将どのは笑いを含んだ声で言った。

「いえ。でも最近のこの忙しさですし、私が休めばその分、他の方に負担が・・・」

「気にするな。持ち回りで休みを取ればいいだけだ」

「しかし・・・」

「そういえば少将、その月野リゾートと言うのはどこにあるのだ」

秋篠中将はふと思い出したように言い、洛北であることを告げると

「何と、驚いたな。そこは、次回の帝の行幸の地ではないか・・・」

と独りごち、しばらく考える風に黙りこんでいたかと思ったら

「実はな、少将。まだ宿泊先が決まらず困っていたんだ。そこで、便乗するようで悪いが、下見と言う事で、その月野リゾートとやらを見てきてくれないか。帝がお泊りするのに相応しい宿であると判ったら、そこに決めてしまいたい。どうだ、お願いされてくれるか」

「それはもちろんですが・・・」

「そうか、じゃあ、抜かりなく視察を頼んだぞ。まぁ、右近少将のことだから心配はしていないがな」

秋篠少将はそう言うと立ち去り、ぼくはと言えば、思ってもみない展開に少し呆けてしまった。

何となく仕事をこなすうち、徐々に実感として嬉しさが湧いてくる。

完全なオフじゃないとは言え、瑠璃さんを宿に連れて行ってあげられるんだ。

いや、考えようによっては、仕事の一環として大手を振って行けるわけだから、もしかしたら逆にラッキーだったのかも知れない。

いつ瑠璃さんに告げるべきなのか、その辺りは大江に相談だな・・・

などと思いながら書類をめくっていると、顔見知りの女官がやってきた。

「右近少将どの。帝がお呼びでございます」

急ぎ御前に参ると

「あぁ、右近少将か」

何とも疲れを滲ませた帝の声が聞こえてきた。

まさか体調でも崩されたのでは・・・と案じていると、帝はふと声を潜められ

「高彬。おまえはバレンタイン、どうするのだ」

さっき秋篠中将に聞かれたのと同じご下問があった。

かいつまんでご説明申し上げると、帝は深いため息をつかれ

「そうか。宿に連れて行くというのは楽でいいな。おまえが羨ましい」

「・・・・畏れながら、わたくしが羨ましいとは・・・・?」

「自由な身であるおまえが羨ましい。私は気軽に外出も出来ないからな。かと言って何もしないと言うわけもいかずこうしてパールのネックレスを作っているんだ」

帝の御手には、ビロードの布に包まれた製作途中のネックレスがあり、これを帝が夜な夜なお作りになっておられるのかと思うと、不覚にも涙が出そうになってしまった。

「パールに糸を通すと言うのは難儀なものだ。肩が凝って仕方がない」

「畏れ入ります」

「いや、おまえが畏れ入る必要はない」

「・・・差し出がましいこととは存じ上げますが、畏れながら申し上げます」

「うむ、申せ」

「帝の体調を崩されるような行事は、果たして必要なものなのでしょうか。やはりここは、帝のご英断で・・」

「高彬。バレンタインやクリスマスなどの、一見、オンナ子どもが喜びそうなイベントも、実は大切な潤滑油となっているんだ。官衙の平安は市井の人々の平安に繋がり、それが太平の世に繋がっていく。だから私は世のオトコの手本になるべく、こうして女御のためにサプライズプレゼントを用意しているんだ。だから少将も、これも世の平安のためと思って、率先してバレンタインイベントに参加して欲しい」

「は」

今上はそこまで深く我々のことを考えていて下さったのか・・・

深々と平伏しながら、熱い思いが胸に広がっていく。



******



大江と相談した結果、バレンタイン当日に瑠璃さんに知らせることにした。

よりサプライズ感を出すため、ぼくとは別に行った方がいいと言う事で、ぼくは公務の後に一足先に宿に入り瑠璃さんを待機、何も知らない瑠璃さんが部屋に入ってきて、ぼくと感動のご対面・・・と言う筋書きである。

バレンタイン当日の朝、守弥は風邪をひいたと言う事で朝の見送りに加わらず、内心、ホッとしてしまった。

守弥のことだから、数日、邸を空けるとなると、詮索してきたり嫌味の一つや二つ言うに決まっているのだ。

半分は公務と言う事で、近衛府を出る時には、秋篠中将に

「頼んだぞ」

と声まで掛けていただいてしまった。

車は一路、北に向かい、宿に着いた頃には東の空に宵の明星が輝いており、雲一つない冬の夜空である。

この分なら明日も晴れそうだし、少しなら散策に連れ出してやってもいいかもな・・・

そんなことを考えながら宿に入り、スタッフの丁重な出迎えを受けた後、宿泊する離れの部屋のドアを開けたぼくは、そこで固まってしまった。

「・・・・」

瑠璃さんが───

瑠璃さんがいたのだ。

瑠璃さんは後から来るんじゃなかったのか?・・・手違いか?

すぐには頭が回らずぼんやりしているぼくに、瑠璃さんはニコニコと近づいてきた。

そうして綺麗にセッティングされたテーブルに連れて行くと

「じゃーん」

と両手を広げて見せた。

白い磁器の上に

『高彬へ Happy Valentine's Day! 瑠璃より』

と書かれており、色からしてチョコペンで書いたもののようであり・・・

「瑠璃さん、こ、これは・・・」

「驚いた?」

「・・・・」

「バレンタインサプライズよ」

「え・・・、いや、それは、・・・ぼくの方が・・・」

しどろもどろに言うと、瑠璃さんは笑い声をあげた。

「ぜーんぶ、サプライズのための演出よ」

「演出・・・?・・・え・・・どこから?」

「多分、最初から」

「大江が・・」

「グルよ」

「秋篠中将どのが・・」

「グルよ」

「も、守弥はどうなんだ。まさか、あいつの風邪まで・・」

「守弥もグルよ」

「・・・」

「・・・・まさかと思うけど、今上は・・・」

「グルよ」

「・・・・」

き、今上まで・・・

太平の世・・・、世のオトコの手本・・・

それにそうだ。

「パールのネックレスは・・・」

「それは大江が作ったものを届けたの」

「この宿だって、たまたま空いてて・・・」

「もう一月も前から押さえておいたわ」

「・・・・・」

「ねぇ、高彬。座って」

瑠璃さんは混乱するぼくの手を取ると、窓際のラタンのイスに座らせた。

大きなガラス越しに、一段と輝きを増したさっきの宵の明星が見える。

「このサプライズはね、元々は女御さまのご発案なの」

「姉上?」

思ってもみなかった人の名前にびっくりしていると、瑠璃さんは大きく頷き

「女御さまはね、あんたが働ぎすぎるって心配なさっていたの。年が明けてから、ううん、昨年からずっと忙しいじゃない。ろくに休みも取らないで」

「いや、しかし・・・」

「それで、ただ休めって言ったって、あんたのことだから回りに気を使って休まないだろうから、だったら休まざるを得ないように仕向けようってことになって、皆で考えたのよ」

「・・・・」

いやはや・・・

サプライズを仕掛けたつもりが、ぼくがまんまと仕掛けられていたと言う事なのか・・・

「あたしはその話に乗っかっただけ」

瑠璃さんは肩をすくめると、ぼくの膝の上にちょこんと座った。

「高彬。あなた、皆に思われてるのよ」

「・・・・」

「回りに心配かける程、がんばり過ぎるのは考えものよ」

「・・・・」

「あたしだって、少しは心配するし・・・」

すっと目を脇にそらしそう言うと、ガラスのテーブルにある銀紙に包まれたキスチョコに手を伸ばした。

包みを解いて、ぼくの口の中に入れる。

「身体壊されちゃ困るし・・・」

ぶつぶつ言いながら、もう一つキスチョコを口に入れてくる。

「高彬に会えなければやっぱり寂しいし・・・」

3個目のキスチョコを入れられそうになり、ぼくは慌てて瑠璃さんの手を止めた。

瑠璃さんのことだ。

<話しに乗っただけ>なんて言ってるけど、きっと率先してあれこれ考えたり、手を打ったりしたに違いないのだ。

案外、瑠璃さんの方から姉上に水を向けたって可能性だってある。

仕事に追われ、三条邸に顔を出せない日も多かったし、瑠璃さんも色々とぼくの身を案じていてくれてたんだろう。

「瑠璃さん。チョコじゃなく、・・・本物のキスの方がいいかな」

そう言うと、瑠璃さんは少しぼくの目を見た後、チュッと何とも可愛いキスをしてくれた。

「もう少し、ちゃんと」

リクエストすると、瑠璃さんは頭を横に振り

「後で、ね」

と、何とも意味深な言葉を呟いた。

誰もいない離れに瑠璃さんと2人きり───

「あ」

「どうしたの?」

「中将が仰っていた、行幸の視察と言うのは・・・」

「それもウソ。完全、プライベートよ」

「・・・・」

そうか。

じゃあ、瑠璃さんだけに集中していいと言うことか───

「『高彬サプライズ大作戦』の計画は成功だった?驚いた?」

「大成功だよ。すっかり騙された」

膝の上で屈託なく笑う瑠璃さんに返事をしながら、ぼくは、今この瞬間から始まる

『瑠璃さん集中大作戦』

とも呼べる計画の算段を、すばやく頭の中で組立てていったのではあった。






<Fin>


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楽しいバレンタインをお過ごしください。


(←お礼画像&SS付きです)

**特別編*** <続>麗しの君 ***

『なんて素敵にジャパネスク~二次小説*特別編』




注)このお話は特別編「麗しの君」の続編です。
           

未読の方は「星降る夜に~Summer Festival~」「麗しの君」 の順番でお読みいただくと判りやすいと思います。

また、このお話は宮廷女房と言うオリキャラ目線のモノローグとなります。  
苦手な方は閲覧ご注意ください。
どんな妄想もウェルカム!の方は、どうぞご覧くださいませ。





          ***********************************************




<続>麗しの君










「私、右近少将さまにお文でも差し上げてみようかしら」

「あら、あなた、前にもそんなことを言ってたじゃない。しばらく言わなくなったからてっきり諦めたとばかり思っていたんだけど。また恋心が再燃してしまったというわけ?」

「一昨日の夏祭りでのお姿をご覧になって?陣頭指揮を取られる少将さまの素敵なことと言ったら!」

「それはもちろん素敵だったけど・・・・、でも無理よ、無理無理。少将さまは絶対に靡いてなんて下さらないわよ」

「そこが私の腕の見せ所よ」

その言葉に女房部屋がどっと湧き、話の中心となっていた相模と言う女房は、回りから肩を押されたりしている。

私はその場から浮かない程度の曖昧な笑みを浮かべていた。

女房部屋では良く見る光景だ。

公達の誰それからお文をもらっただの、誰にモーションを掛けてみただの・・・どこまでが本音か判らないままに繰り出される女たちの戯言。

よく御名の上がる公達はやはり高彬さまだ。

何といっても承香殿女御さまの弟君であらせられるし、それに高彬さまの貴公子としては稀有な性格がそうさせているのだと思う。

真面目で誠実なお人柄で、決して内裏の女房たちと懇ろな関係になったりしない。

かと言って居丈高な振る舞いをするわけでもない。

いつも礼儀正しく、時に親しみを見せてくれながら、それでいて毅然と一線を引いてくる。

つまりは、恋の駆け引きを楽しむ女房たちに取って高彬さまは魅了してやまない存在なのだ。

だけど───

皆に気付かれないように、そっと女房部屋を後にする。

だけど、私はそんな浮わついた気持ちとは違う。

もうずっと長いこと、それこそ高彬さまが右近少将さまと称される前からお慕い申し上げているのだもの。

局に戻りかけ、ふと女御さまの御前に伺候しようと思い付く。

女童として公子姫に仕えていたせいなのか、お呼びがない時に私が伺うことを公子姫はお喜び下さるのだ。

簀子縁に腰を下ろし、そっと室内の様子を伺うと、驚いたことに高彬さまが同席されていた。

女御さまと二人、小声で何事かをお話されており、よほど内密の話でもされているのか話してる内容は全く聞き取れない。

どうやら私の出る幕ではないと引き返そうと立ち上がったところで、その気配に気が付いたのか、女御さまと高彬さまが同時に振り返った。

「初梅・・・」

「何かあったのですか?」

お二人に言われ、私は慌てて平伏した。

「お語らいの邪魔立てをしてしまい申し訳ございません」

すぐに立ち去ろうとすると

「ちょうど良かったわ、おまえを呼ぼうと思っていたのよ。中にお入り」

女御さまが扇をお振りになられ、膝行し入室していくと

「実はね、小式部。一人、新しい女房が来るの」

「女房ですか・・・」

特に誰かが抜けたわけでもないのに・・・、と不思議に思っていると、それが顔に出たのか女御さまはふっと笑まれた。

「ほんの短い期間よ。ずっと後宮に仕えるわけではないの。右大臣家所有の荘園の姫君で、後宮を見てみたいと言うので行儀作法を兼ねて少しの間、置いてあげるのよ」

「そうでございますか」

なるほど、そういうことならば納得が行くと頷くと

「それでね、その姫の面倒を、小式部、おまえに見てもらうことは出来ないかしら」

重ねて女御さまがおっしゃった。

荘園を管理するくらいならば、おそらくは下級貴族。

それくらいの出自の姫ならば自分とさして違わないから私も気楽に面倒を見ることが出来る。

「わかりましたわ、女御さま」

「初梅、大変だったら断っていいんだよ」

高彬さまのお声がふいに私の声に被さり、思わず高彬さまを見ると、いつになく険しい顔をされている。

「いえ、大変と言うほどのことでは・・・」

どうしてここで高彬さまが険しいお顔をされるのかが判らず、あやふやに言うと

「良いではありませんか、高彬。こうして小式部が引き受けてくれたのですから。まったく、おまえと言う人は」

すぐに女御さまが取りなし、そうして高彬さまを軽く睨まれている。

高彬さまと言えば苦りきった顔をなさっており、どうにも不可解なお二人のやりとりもさることながら、私はふいに一昨日の夜の光景が浮かんできてしまい、一人で狼狽してしまった。

夏祭りの夜、瑠璃姫さまと花火を見るために右近衛府に入った高彬さまは───

瑠璃姫さまを優しく抱き寄せ、そうして高彬さまの手が瑠璃姫さまの頬に掛かり・・・・

お優しい普段の高彬さまの、男の顔。

指、唇、力強い腕、その全てが瑠璃姫さまに向かい───

その時の光景がまざまざと甦り、私は顔を伏せた。




********



新しい女房がやってきたのは、その二日後のことだった。

局にいたところ女御さまがお呼びだとの連絡が入り、急ぎ伺候すると、御前には唐衣裳姿の見慣れない女官と、そしてどういうわけだか高彬さまもいらっしゃった。

「小式部、こちらが先日話した新しい女房よ。名は・・・・常陸よ。常陸、こちらは小式部。後宮にいる間、あなたの面倒を見てくれる方よ」

そういえば、右大臣家は常陸の方に荘園を所有していた。

確か、染めの技術が素晴らしく、毎年、たくさんの反物を染めに出していたはずで、今も女御さまのお召し物はその荘園で染めた絹で誂えていたはず・・・

そうか、そこの荘園の姫なのか、と女房を見ると、女房──常陸は私に向かい

「常陸です。よろしくお願いします」

と頭を下げてきた。

飾らない言い方で、こう言っては何だが、良く言えば素朴さを、悪く言えば洗練されていないような感じを受ける。

だけど、後宮女房にありがちな、気取った感じや嫌味なプライドなどはなさそうで、その点だけでも私は常陸に好感を持った。

たとえ短期間と言えども、仲良く過ごせた方がいい。

ふいに高彬さまが口を開いた。

「・・・常陸。くれぐれも後宮内で粗相のないように。むやみに歩き回ったりしては駄目だ。初梅の言う事を聞くように」

その強い口調にびっくりしてしまう。

良く見たら、常陸を睨みつけているようにさえ見える。

何だって高彬さまは、この常陸にそんなにきつく当たるのだろう。

不思議に思っていると、さらに不思議なことが起こった。

普通なら主家の子息に睨まれたら萎縮してしまいそうなものなのに、常陸は全く意に介していないようで、それどころか

「初梅?誰、それ・・」

と小声で呟き首を捻っている。

「右大臣家にいた頃の、小式部の女房名だ。とにかく、る、・・・常陸、気を付けて過ごすように」

ムッとしたように高彬さまがおっしゃったかと思えば、常陸は常陸で

「わかりました」

顔を背けるようにしてボソっと返事をし、そんなやり取りを女御さまは笑いを堪えたような顔でご覧になっており───

何が何だか判らないながら、私は常陸を連れて御前を後にした。



*******



常陸が性格の良さそうな女房だと言う私の読みは当たった。

歳も一つ違いと言う事もあって、数日を一緒に過ごす頃には私と常陸はすっかり打ち解けていた。

常陸が心底、後宮での生活を楽しんでいると言うのが伝わってきたし、人懐こくあれこれと質問をしてきては驚いたり感心したりする姿が私には新鮮で、そんな常陸を妹のようで可愛いと思う自分もいる。

後宮では心を許せるような友だちがいなかったから、余計にそう思ったのかも知れない。

最初の日の様子から、常陸は案外、私が思っているよりも高貴な貴族の姫君なのではないか、と思ったりもしたけれど、それは深くは考えないことにした。

後宮で女房勤めをしている限り、女房同士は取りあえずは上も下もなく平等なのだ。

時々、常陸の姿が見えなくなることがあり、そんな時、後になって

「常陸、一人で歩き回ってはだめよ。高彬さまもそうおっしゃっていたでしょう」

私がそう言うと、常陸は

「歩き回ってなんかいないわ」

「でも・・・」

「走り回ってただけよ」

そう言って舌を出すので、私たちは顔を見合わせて笑ったりするのだった。

夜になり、局の戸を開け放ち、思い思いに涼んでいると

「あ、蛍・・・・」

庭を見ていた常陸がふいに声を上げた。

常陸の目線の先に、点滅を繰り返すぼんやりとした青緑の光がいくつかある。

どこからか虫の音も聞こえ、どうやら季節は確実に移ろいつつあるようで、もしかしたら、この夏最後の蛍の姿であろうか。

ぼんやりと並んで蛍を見ながら、私は常陸に話しかける。

「常陸は、この間の夏祭りには行った?」

何という事はない。蛍から花火が連想され、それで聞いたまでのことだった。

なのに常陸はひどくうろたえたように

「え、えぇ・・、えーと、・・・そうね、行ったわ」

と、つかえながら返事をした。

「ふふ、何よ、そんなに慌てて。私、そんなに変なこと聞いた?」

顔を覗き込むと、常陸は慌てて首を横に振り、そうしてまた蛍に視線を戻している。

「ねぇ、常陸。・・・常陸には好きな殿方がいて?」

常陸の横顔を見てるうち、気が付いたらそんな言葉が口を付いて出ていた。

「え」

ぎょっとしたように常陸は振り返り、瞬きもせずに私の顔を見たのち

「い、いる・・わね。うん、いるわ」

「どんな殿方なの?京の方?それとも国の人?」

「・・・・・」

常陸は黙り込み、私は虫の音に耳を傾けた。

常陸の沈黙は気にならなかった。

もとより、常陸の想い人が知りたかったわけではない。

後宮ではついぞしたことのない女同士の<戯言>を、私もふいにしてみたくなっただけなのだ。

私だって、恋の話が嫌いなわけではない。

ただ、女房達とは少しばかり温度の違いを感じて出来ないだけで───

「私ねぇ、常陸。もうずっと長いこと好きな方がいるの」

まるで蛍に誘われたかのように、するするとそんな言葉が出てきた。

常陸が少ししたら後宮からいなくなると言う事実が、私の口を軽くしていたのかも知れない。

「好きな人・・」

「そうよ。だけど叶わない御方。うんと身分違いなの。常陸、あなたも会っている人よ」

「・・・・・」

「聞きたい?」

「あ、・・・いえ・・・」

「右近少将高彬さま」

常陸の言葉を無視して私は告白する。

思えば、言葉に出したのは初めてのことだった。

「・・・・・」

「私、女童として公子姫にお仕えしていたの。その頃から、ずぅっとね」

「・・・・・・」

「ふふふ、驚いたでしょ。内緒よ。・・・さぁ、そろそろ休みましょう。明日も早いわ」

立ち上がり、褥を敷こうとしてるのに、常陸は動かなかった。

「ほらほら、邪魔よ。あなたも敷くの手伝って」

笑いながら常陸を追い立てると

「小式部・・・」

名前を呼ばれ振り向くと、ひどく真剣な、見ようによっては青ざめた常陸の顔があった。

「まぁ、どうしたの。あなた、顔色が・・・・」

「驚かないで聞いて欲しいんだけど」

「なぁに、そんな真面目な顔で」

「高彬は・・・、右近少将は・・・、あたしの夫なの」

「・・・・・・」

「信じてもらえないかも知れないけど、あたし、常陸じゃなくて、本当は瑠璃で・・・、それで、女御さまが後宮に遊びにいらっしゃいと言って下さって、それで、女房の振りをして、後宮に来て・・・」

言うほどに口ごもり、最後には口をつぐんでしまった。

「・・・・・・」

あぁ、そういう事だったのか・・・

私はぎゅうっと目を瞑った。

驚愕しながらも、納得している自分がいる。

全ての辻褄が合う。

あの時のあの台詞も、あのお振る舞いも・・・・

常陸が瑠璃姫さまだと言うのなら、全て納得が行く。

そっと目を開け、そうして、私はひとつのことに思い当たり、知らずに自嘲の笑いが口の端に浮かんだ。

そうだ、この背中だ。小柄な後姿。

右近衛府で高彬さまと並び腰掛けていたのは、確かにこの背中だった・・・

あぁ。

私は一番言ってはいけない相手に、自分の秘めた恋心を打ち明けてしまったのだ。

何という愚かなことを・・・

その場を立ち去ろうと踵を返したところで

「お願い、行かないで」

腕を掴まれてしまった。

強い力だった。

そのまま二人、狭い室内で対峙する。

長いこと黙りこくり、最初に口を開いたのは常陸──いや、瑠璃姫さまだった。

「何て言っていいのかわからないんだけど・・・」

そう言って、唇を噛みしめている。

視線が定まらず、動揺しているのは明らかだった。

「こんなこと初めてで、本当にどうしていいのか判らなくて・・・」

本当に困っているようで、私と目が合うと気弱そうな笑みを浮かべ、そうして途方にくれたような顔をしている。

何だか私に救いを求めているようにも見えて、ふっと、笑いが漏れてしまった。

───可愛い常陸。

今の今まで、好意を持っていた相手なのだ。

途端に好戦的になんかなれるはずもなかった。

そうして私は密かに安堵もしていた。

もしここで済まなそうな顔で謝られでもしていたら、私は舌を噛み切って死にたくなっていたかも知れない。

困り果てていてくれるのが救いだった。

最初の衝撃が去り、私はだんだんと落ち着きを取り戻しつつあった。

同時に、不思議な感覚がひたひたと胸に広がってくる。

良い方だった・・・

瑠璃姫さまのこと、身分に恵まれた我儘放大で鼻持ちならない姫君なのかと、どこかで思っていたのかも知れない。

勝手に敵愾心を燃やしていた私は、何と言う無知で愚か者だったのだろう。

「あ」

ふいに瑠璃姫さまの表情が動いた。

「夏祭りと聞いて思いだしたわ。ねぇ、小式部、・・・ううん、初梅。あなた、夏祭りの日に高彬の連絡係りをしていなかった?」

「・・え・・・」

「そうよ。ねぇ、そうでしょう?あたし、目はいいのよ」

「え、えぇ。確かにあの日、私は高彬さまに後宮で何かあったら伝えて欲しいと言われて・・・」

瑠璃姫さまは大きく頷き、そうして、じっと私の顔をご覧になった。

長いこと黙っていたかと思ったら、ふいにため息のような笑いを漏らした。

「ねぇ、初梅。あたしも聞いて欲しいことがあるの。・・・いい?」

瑠璃姫さまが私に聞いて欲しいこと。

小さく頷くと

「あたしね、あの日、高彬に耳打ちしてるあなたを見て、ヤキモチ焼いてたの」

「え」

瑠璃姫さまが私にヤキモチ・・・?

思っても見ない言葉だった。

「そうよ。だって、あたしは仕事中の高彬を知らないもの。あの場で話しかけられるのはあなただけじゃない」

「・・・・・」

確かに私はあの時、どこかで見ているであろう瑠璃姫さまに見せつけてやりたいと言う気持ちがあった。

──どう?私はこんなに親しいのよ。

優越感だった。

だけど、それは決して真実には成り得ない優越感だとどこかで判っていた。

要はただの負け惜しみだ。負け犬の遠吠えだ。

まさか本当に瑠璃姫さまが私にヤキモチを焼いていたとは・・・・

私はまじまじと瑠璃姫さまの顔を見てしまう。

「まさか、女房ごときに大貴族の姫君さまがヤキモチを焼くなんて・・・」

「何よぅ、あたしだってヤキモチくらい焼くわよ」

瑠璃姫さまはぷぅと頬を膨らませ、その顔がとてものこと大貴族の姫君には見えなくて、私は吹きだしてしまった。

「もう、笑わないでよ」

ますます瑠璃姫さまは頬を膨らませ、私に笑われているのが恥ずかしいのか、薄っすらと顔を赤らめている。

あぁ、本当に可愛い方。

好きな方のお相手が、こんなにも良い方で良かった。

目を閉じ静かに息を吸う。

心底、そう思えている自分を、私は少しだけ誇らしく思っても良いのではなかろうか───

少しの間、私はジタバタとみっともなく苦しむかも知れない。

キリキリと胸の痛むこともあるだろう。

だけど───

瑠璃姫さまと過ごした数日は、とても楽しい毎日だった。

瑠璃姫さまは本当に可愛い御方だった。

麗しの君、麗しの人、麗しの刻───

世の中は麗しいことで溢れている。

私はこの先、たくさんの麗しい出来事に巡り会い、この夏の日のことをきっと懐かしく思い出すのだろう。

そうして誇らしく胸を張るに違いないのだ。

私にはとても好きな方がいたの。

そしてその方には本当に素敵なお相手がいたのよ。

どう?私の人を見る目は大したものでしょう、と。



*******



瑠璃姫さまが後宮を去られた数日後、高彬さまが女御さまの元をお訪ねになられた。

「初梅、忙しいところすまないね」

御簾の向こうからいつものように言葉を掛けられ静かに御簾を巻き上げると、すっかり秋の気配を纏った空気が室内に流れ込んできた。

手を付き、私は申し上げる。

「お待ち申しておりましたわ、右近少将さま──」





<終>



(←お礼画像&SS付きです)

**特別編***ジャパネスク・ブライダル~6月の花嫁~***

『なんて素敵にジャパネスク~二次小説*特別編』



注)このお話は特別編です。
時は平安、今宵は結婚披露宴・・・・
「妄想もここに極まれり」のスペシャル・バージョン第六弾です。
はちゃめちゃな設定がお好きでない方は読むのをお控えください。
どんな妄想もウェルカム!の方は、どうぞご覧くださいませ。





          ***********************************************




ジャパネスク・ブライダル~6月の花嫁~










高彬が帰って来たのは、もうじき亥の刻にもなろうかと言う時刻だった。

円座に腰を下ろし、ふぅと大きく息を付きながら襟元を緩めて、そのまま脇息にもたれかかると、ふわりのお酒の匂いが漂ってくる。

「お疲れのようね」

白湯を差し出しながら言うと

「さすがにこう続くとね」

ごくりと一口、白湯を飲み

「何もこう、判で押したように、皆、6月に結婚しなくても・・・。5月でも7月でも、1年は12か月あるんだからさ」

出掛けにも言ったようなことを繰り返し言う。

「だから言ったでしょ。ヨーロッパでは6月の花嫁は幸せになるって言い伝えが・・・」

「それは聞いたよ、だけどここはヨーロッパじゃなく京じゃないか。言い伝えも何もないと思うんだけど」

高彬はうんざりしたように呟き、もう一口、白湯を飲んで、疲れたように首を回している。

まぁね、高彬のお疲れも判らなくはないのよ。

6月に入ってから、宮中では結婚ラッシュが続いていて、新婦である女官も、新郎である公達も、つまりは高彬の同僚なわけだから、高彬は結婚式及び披露宴に呼ばれまくっているのだ。

ひどい時なんかは一日に3組の結婚式に掛け持ちで出席した時もある。

平日は激務で、やっときた週末は披露宴続きともなれば、疲れもたまろうってものよね。

どうして梅雨のこの時期にこんなにも結婚式を挙げるカップルが多いのかと言えば、それは数年前に、ある雑誌が「ジューンブライド」なるものを取りあげたからなのだ。

いわく、6月に結婚した花嫁は幸せになれる───

この言葉に、流行に敏感な女官たちが飛びついた。

ちょうど宮中の年中行事も一段落つく時期だったことも重なって、こぞって6月に式を挙げはじめたのだ。

おかげで披露宴会場となる豊楽院は半年以上も前から予約がいっぱいだそうで、中にはまだお相手も決まってないうちから取りあえず予約だけはしておく・・・なんて強者もいるらしい。

半年のうちに誰かめぼしい公達を引っ掛けるってことらしいんだけど・・・

こういう風潮に眉をひそめる年長者も当然いて、確かにあたしもさすがにそれはやり過ぎだと思うけど、でも、6月に結婚したいと思う女官たちの気持ちは良く判る。

「ジューンブライドって語感からして素敵じゃない。ヨーロッパに古くからある言い伝え、なんて言うのもおしゃれだし。こういうのってムードが大切なのよ」

「ムード・・・」

「そう。ムードよ。6月に結婚したからって必ず幸せになれるなんて誰も思っちゃいないはずよ。だけど、こう、何ていうか・・・夢があるじゃない」

「夢ねぇ・・・」

どこまでも、納得しかねると言う感じで高彬は呟き

「女の人ってほんと、そういうの好きだよね。ムードだとか、夢とかさ」

「・・・・」

あたしは肩をすくめた。

「まぁ、女はごちそうで、後朝の歌はそのお礼状と思ってるような人には、こういう気持ち、判らないでしょうけどね」

怒った素振りでわざとツンと言ってやると

「いや、それは・・」

なんて途端に気まずそうに口ごもっている。

なーにが、女の人ってムードが好きだよね、よ。

高彬がムードとかに一切、気を配んないだけじゃない。あんたが特別なのよ。

自分を基準に世の中を測らないで欲しいわ・・・

果たして、あたしの機嫌が下降線をたどっているのを見抜いたのか

「それはそうとさ、瑠璃さん。姉上付きの女官の伊勢って覚えているだろう?ほら、吉野で会った。その伊勢も結婚することになってね。来週の結婚式にはぜひ瑠璃姫もって誘われてるんだけど、行くかい?」

とっておきの隠し玉を投げ込んできた。

「伊勢が結婚?もちろんよ!」

結婚披露宴なんて、考えただけでワクワクする。

あの五つ衣に、春先に誂えたばかりの襲の色目の唐衣を合わせて───

確か、高彬も同じような色目の直衣を持っていたはずだし・・・

檜扇はどれを持とうかしら?

頭の中で、早や何を着て行くかを考えてしまう。



*********



一週間後は梅雨の晴れ間の晴天で、まずは宴の松原の一角に作られたチャペルで式が行われた。

伊勢が、下級役人である父親と腕を組みながらバージンロードに現れると周りから拍手が沸き上がる。

「綺麗ね」

「うん」

隣の高彬に耳打ちをする。

実際、正装をした伊勢は綺麗だった。

白いレースのベールが裳裾の上を波打っており、伊勢が歩くたび、初夏を思わせる風にふわりとレースが膨らむ。

伊勢のお相手は従六位の衛門大尉で、そんなに高い位階ではないけれど、だけど、とても優しそうな人だった。

「健やかなるときも、病めるときも、悲しみのときも、富めるときも、貧しいときも・・・」

神父さまの声が柔らかく語りかける。

「これを愛し、これを敬い、これを慰め、これを助け。その命ある限り真心を尽くすことを誓いますか?」

新郎新婦が誓いの言葉を口にして指輪の交換をした時は、何だかあたしまで緊張してしまった。

ベールを上げて、新郎がそっとキスをすると───

伊勢の目に光るものがあるのが遠目にも判ったし、最前列にいらっしゃる女御さまも涙ぐんでいるのか、そっと目を押さえている。

豊楽院に場所を移しての披露宴も、伊勢の人柄を現すかのように、温かみのあるものだった。

中でも伊勢の友人である女官たちがアイドルグループの衣装を身にまとって登場してきた時の盛り上がりようと言ったらなかった。

音楽に合わせて歌ったり踊ったりで会場を沸かせている。

女官のことを、男と肩を並べて仕事をするなんてはしたないとか、色々と悪く言う人もいるけれど、だけど、こんな風に場を盛り上げることが出来るなんてすごいなぁ、と思う。

友だちである伊勢のためっていうのがもちろん一番なんだろうけど、でも、自分たちも楽しんでるって言うのが伝わってきて、見てるこっちまで楽しくなってくる。

伊勢もいい友人に囲まれているのね・・・

と思っていたら、よく見たら大江もいるではないの。

しかもセンターでノリノリで踊っている。

そっか、右大臣邸繋がりってわけね。

ちらりと高彬を見ると、とうに気付いていたのか苦笑いを浮かべている。

「大江、なかなかやるわね」

そっと言うと

「やり過ぎだよ」

同じようにそっと言い返してきて、2人でこっそりと笑い合う。

キャンドルサービス、花束贈呈と続き、やがて披露宴はお開きとなった。

豊楽院を後にしようと、高彬と連れ立って歩いていると

「高彬さま、瑠璃姫さま」

と後ろから声を掛けられた。

振り返ると立っていたのは伊勢で、走って来たのか頬が上気している。

「今日はわたくしどものために足をお運びいただきましてありがとうございました」

「こちらこそお招きありがとう。幸せのお裾分けをいただいちゃったわ。お幸せにね」

隣の高彬も大きく頷く。

「瑠璃姫さまに、これを受け取っていただきたくて・・・」

そう言ってウエディングベールを差し出してくる。

「これをあたしに?こんな大切なもの・・・」

「お礼の気持ちなんです。本当はブーケをお渡ししようかと思ってたんですけど、瑠璃姫さまはもうご結婚されているし、それにさっきのブーケトスで大江ちゃんの手に渡ってしまったし」

「お礼って何の?あたしは別に伊勢には何も・・」

「実は・・・、ずっと長いこと、結婚を迷っていたんです。仕事も面白くなってきたところだし、同僚からは結婚生活の愚痴もたくさん聞かされていましたし。でも、高彬さまが勧めて下さったんです。好きな人がいるのなら結婚したらいいよ、って。自分は結婚をして本当に幸せだって。それで踏ん切りがついたんです」

「・・・・」

伊勢が何を言いだすのか察したのか、高彬は離れた場所で(何も聞こえていませんよ)なんて感じで景色を見てる振りを装っているけれど、でも耳のあたりがほんのりと赤くなっている。

「だから、これ、瑠璃姫さまに受け取っていただきたくて」

差し出されたブーケを受け取る。

「判ったわ。いただくわ。大切にする」

伊勢は嬉しそうに笑うと深々と頭を下げ、また来た時と同じように走って行った。

牛車の中で、あたしは何とはなしに無口だった。

そっかー、高彬、結婚して幸せだ、なんて言ってくれてたんだ・・・

そんなこと、あたしの前では一言も言わないくせに。

三条邸の東門をくぐった辺りで

「瑠璃さん。そのベール冠ってごらんよ」

ふいに高彬が言った。

「これを?」

「うん」

言われるがままに伊勢がしていたみたいに頭に載せると、高彬は正面からあたしの顔を見てくる。

「へへ、何か、照れくさいわね・・」

カタンと音がして牛車が止まり簾が上がると、先に立ち上がった高彬にふいに抱き上げられてしまった。

「な、何?」

驚くあたしを尻目に、高彬はあたしを抱っこしたままスタスタと渡殿を歩き出し

「ヨーロッパでは、花嫁は花婿に抱き上げられて新居に入るらしいからね」

「・・・・・・」

気のせいか高彬の顔がほんのりと赤い。

「何よ、わざわざ調べたの?」

「・・・うん。少し」

今度こそは、夜目にも判るほどにはっきりと赤くなった。

何よ、ここはヨーロッパじゃなくて京だ、なんて言ってたくせに・・・

あたしを抱き上げたまま、高彬は器用に妻戸を開け室内に入ると、几帳の前のいつもの場所にあたしをそっと下ろした。

向かい合うように高彬も座る。

灯台の明かりがベール越しにチラチラと揺れて、高彬の顔に小さな陰影を作っている。

「健やかなるときも、病めるときも・・・・」

そこまで言って、困ったように高彬は笑った。

「ごめん、その先は覚えてないや。瑠璃さんのことばかり考えていたから・・」

「うん・・・」

高彬の手でウエディングベールが上げられ、二人見つめ合って、誓いのキスを───

こうしてあたしは<6月の花嫁>になったのだった。






<Fin>


前回の記事で「次回は高彬の考察です」と書きましたが、ふいにこの話が浮かんできて、どうせなら6月中に!と思い先にアップしました。

次回は、高彬の考察(の予定)です。

「ジャパネスク・ブライダル」の、ほんの短い「おまけの話」、下の拍手お礼に置いてあります。


(←お礼画像&SS付きです)
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